「いいが、どうしたんだ?」
「エマナが産気づいたの。ビーズに色を塗っていたら、急に腹が痛くなったのですって。手伝いにいかなくちゃならないの」
「ほう? 今頃に生まれるのは、歌垣の子じゃないな」
「そんなの珍しくないよ。エマナはお産が重い方だから、今夜は帰れないかもしれない」
「いいよ。大変だな。よくしてやれ」
そういうと、アシメックはソミナを送り出した。
カシワナ族では、死者を扱うのは男の仕事だったが、出産をとりしきるのは女の仕事だった。男はこういうとき、ほとんど何もできない。巫医のミコルだけが、出産に立ち会い、魔が出産の邪魔をしないように、お祈りをするだけだ。
ソミナは家を出ると、まず広場に向かい、そこに積んである村共有の榾を一束とってから、エマナの家に向かった。エマナの家のところまで来ると、ミコルが家の周りに色砂で陣を描いているのが見えた。まじないの陣だ。あの陣を家の周りに描くと、魔が家に入ってこれないという。
ソミナはミコルにあいさつすると、その陣をまたいで、家に入った。すると早速、誰かが声をかけてきた。