世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ティルチェレ物語 5

2013-10-17 04:25:26 | 薔薇のオルゴール
4 めそめそアメット

 ある日ヨーミス君は、村にあるたった一つの小学校に、郵便を届けにいった。校門から入って行くと、その近くにある木の陰で、女の人が泣いているのに出くわした。
 ヨーミス君はびっくりしたが、女の人があまりつらそうなので、おずおずと、「どうしたのですか?」と声をかけた。すると女の人は顔をあげて、ヨーミス君を見た。ヨーミス君はびっくりした。茶色の巻き毛の彼女が、とってもかわいかったからだ。

 彼女は、小学校の新米教師、アメットだった。アメットはヨーミス君の前であわてて涙をふくと、立ち上がって挨拶をした。
「なんでもありませんの。木の根元に虫がいたので、少し観察していただけですの」
 でもアメットときたら、そう言いながらもまた、新しい涙が出てくるのである。
 ヨーミス君は、ハンカチを差し出しながら、わけを聞いた。そうすると、アメットはまるで小さい女の子のように、泣きながら言うのだ。
「コムがわたしをいじめるんですもの」

 聞くと、コムというのは、彼女が担任しているクラスの子どもで、村一番のガキ大将だという。いたずら者のコムは新米教師のアメットを毎日いじめるのだ。今日も今日とて、アメットが算数の時間に教室に入って、教卓の前に立つと、チョークの箱にトカゲが入っていたと言うのだ。驚いたアメットは、授業を放り出して泣きながら逃げてきたのである。

 子供のように泣きながら訳をいうアメットに、ヨーミス君はなんとなく、彼女がいじめられるわけがわかったような気がした。アメットが、教室に行くのが怖いというので、ヨーミス君は、アメットについて教室に行くことになってしまった。

 そうやって、行きがかり上、ヨーミス君はアメットを助けて、体育の授業をすることになった。ヨーミス君は、運動場で、クラスの子どもたちに棒のぼりを教えた。曲芸師の息子だけあって、ヨーミス君は身が軽い。猿のようにあっという間に棒のてっぺんまで登って、そこでさまざまなポーズをとるヨーミス君の技に、子どもたちは拍手喝采した。
 ほかにも、自転車でいろんな芸を見せて、ヨーミス君はすっかり子どもたちの人気者になった。ガキ大将のコムも彼に一目おいたようだ。ヨーミス君が、あまりアメット先生をいじめないようにと頼むと、コムもいじめないと約束してくれた。

 それから数日後のことだ。ヨーミス君は仕事を終わって、郵便局に帰る途中、学校の近くでアメットと出会った。あれから、子どもたちにいじめられなくなり、コムともなかよくなることができたと、アメットはヨーミス君にお礼を言った。ヨーミス君は、かわいいアメット先生と、しばらく並んで道を歩いた。すると、胸がどきどきしてきて、顔が熱くなってくる。ヨーミス君は、アメットの前で饒舌に、自分のことを話した。道端に、ツユクサの青い花を見つけて、ヨーミス君は言った。

「ぼくの夢はね、お金をかせいで、小さな家を買って、屋根をツユクサ色に塗ることなんですよ」
「ツユクサ色?」
「ええ、ぼくのおかあさんが好きだった色なんです。おかあさんはぼくが六つのときに死んだんだけど。とうさんが生きているときによく言ったんだ。家を買ったら、屋根をツユクサ色に塗ろう。そうしたら、天のおかあさんが、ぼくたちの家を見つけてくれる。おかあさんはそれを見つけたら、ぼくたちが元気でやっているとわかって、うれしいだろうって」

 アメット先生は笑って聞いてくれた。
「いつか夢がかなうと、いいですね」と、優しい声で言ってくれた。

(つづく)

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