7 ファンタンが消えた
翌年の春に、ファンタンのことを書いた、ベックの最新作の本が出た。村長は大喜び。本を大量に買いこんで村人に配った。人気作家の書いた話だけにおもしろい。本は瞬く間に売れた。ファンタンの名前は国中に知られることになった。
ヨーミス君も読んだが、なんだかあまりおもしろくなかった。話の中のファンタンは、ヨーミス君が感じているファンタンと全然違ったからだ。ファンタンはもっとやさしい。こんなにいたずらばっかりする、小悪魔みたいなものじゃない。
本の影響で、村に来る観光客が多くなった。けれども、その秋くらいから、変なことが起こり始めた。
果樹園のりんごが、ちっとも大きくならない。湖からとれる魚が、急に臭くなって食べられなくなった。今まで、湖からとれる魚は、澄んだ森の匂いがして、とてもおいしかったのに、なんだか腐ったようなにおいがする魚ばかりになってしまって、湖の漁で暮らしている村人が困った。もちろん果樹園のエシカさんもとっても困っていた。
クリステラが倒れたのは、そんな騒ぎのさなかのことだ。グスタフが、いつものようにクリステラの小屋をたずねていくと、クリステラが死んだように青くなって床に倒れていた。グスタフは大慌てで、クリステラを背負って医者のティペンスさんのところに運んだ。
それから間もなく、村人はようやく気づいた。クリステラのお守りの期限が過ぎても、どんぐりがお茶に入らないのだ。ヨーミス君の自転車にも、ファンタンはどんぐりをぶつけない。お守りの期限がすぎたら、てきめんに、ファンタンのいたずらが起こったのに。
ティペンスさんの病院に入院したクリステラが言った。
「あのうそつきのせいよ。あいつのせいで、ファンタンがいなくなったのよ」
ほんとうにそうだった。ファンタンがいなかった。村を覆う空が暗い。山から吹く風が冷たい。花が咲くのが少なくなった。果樹園の林檎の木が一本、枯れ始めた。湖の魚がどんどん臭くなってくる。
村人たちは青くなった。
(つづく)
翌年の春に、ファンタンのことを書いた、ベックの最新作の本が出た。村長は大喜び。本を大量に買いこんで村人に配った。人気作家の書いた話だけにおもしろい。本は瞬く間に売れた。ファンタンの名前は国中に知られることになった。
ヨーミス君も読んだが、なんだかあまりおもしろくなかった。話の中のファンタンは、ヨーミス君が感じているファンタンと全然違ったからだ。ファンタンはもっとやさしい。こんなにいたずらばっかりする、小悪魔みたいなものじゃない。
本の影響で、村に来る観光客が多くなった。けれども、その秋くらいから、変なことが起こり始めた。
果樹園のりんごが、ちっとも大きくならない。湖からとれる魚が、急に臭くなって食べられなくなった。今まで、湖からとれる魚は、澄んだ森の匂いがして、とてもおいしかったのに、なんだか腐ったようなにおいがする魚ばかりになってしまって、湖の漁で暮らしている村人が困った。もちろん果樹園のエシカさんもとっても困っていた。
クリステラが倒れたのは、そんな騒ぎのさなかのことだ。グスタフが、いつものようにクリステラの小屋をたずねていくと、クリステラが死んだように青くなって床に倒れていた。グスタフは大慌てで、クリステラを背負って医者のティペンスさんのところに運んだ。
それから間もなく、村人はようやく気づいた。クリステラのお守りの期限が過ぎても、どんぐりがお茶に入らないのだ。ヨーミス君の自転車にも、ファンタンはどんぐりをぶつけない。お守りの期限がすぎたら、てきめんに、ファンタンのいたずらが起こったのに。
ティペンスさんの病院に入院したクリステラが言った。
「あのうそつきのせいよ。あいつのせいで、ファンタンがいなくなったのよ」
ほんとうにそうだった。ファンタンがいなかった。村を覆う空が暗い。山から吹く風が冷たい。花が咲くのが少なくなった。果樹園の林檎の木が一本、枯れ始めた。湖の魚がどんどん臭くなってくる。
村人たちは青くなった。
(つづく)