世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

クローバー

2015-05-30 06:32:36 | ちこりの花束

 不思議な話を一つ。
 うちからほんの5分ほど歩いた所に、保育園があるのですが、その裏口前の道の隅には、昔、小さなクローバーの茂みがありました。そのささやかな茂みを探すと、いつも四つ葉のクローバーが2~3本は見つかったのです。私はひそかに穴場と言って、自分の子供だけに教えていました。そして、四つ葉をとる時は、必ずお礼を言ってからとりなさいと注意しました。生き物を大事に、感謝してほしい、そんな思いで、何げなく言った事でしたが。
 さて、そんなある日、いつものように犬の散歩帰りに保育園の裏の道を通ったとき、例のクローバーの茂みを見ると、すぐに大きな四つ葉が見つかりました。まるでとってと言わんばかりに、茂みの外側にぐんと突き出しています。私は、とろうかなと思いましたが、いつも私がとってばかりだから、今回は他の人にゆずろうと思って、あいさつをしただけで通り過ぎたのです。
 でも、それから数日してまたその茂みに会った時、四つ葉は誰にもとられないで残っていました。三度目に会った時もまだ残っていました。四度目の時、私は、もしかして私にとれと言ってるのかなと思い、茂みに顔を近づけて、いつものように「アリガトウ」と言ってから、四つ葉を折ったのです。
 そして次の日、また同じ道を通った時、私はその茂みが、根こそぎ刈り取られているのを見ました。でも大して心配はしませんでした。今までにも何度か刈り取られていたけれど、いつも強い生命力で盛り返していたからです。しかし今度は、刈り取られた跡に花が植えられて、保育園の人達が世話をするようになり、もうあの小さな緑の茂みとは、二度と会えなくなってしまったのです。
 あの四つ葉は、もしかしたら私へのお別れの贈り物だったのでしょうか? 彼らは知っていたのでしょうか? 自分たちがもう二度と日の光を浴びられないことを。
 これは私の、大切な思い出の一つです。今も、散歩の途中で、バラの木やナンテンの赤い実や、青い笹薮に出会うたび、つい声をかけてしまいます。
「こんにちは、みなさん」
 それだけのことだけど、風にそよぐ外れの音の中に、何か聞こえるような気がするのは、気のせいでしょうか?



(2000年3月ちこり18号、編集後記)




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