世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

初恋

2011-11-09 10:12:10 | 月の世の物語

空は、トルコブルーのなめらかな板でできていました。行列は、その空に、両手に持った大きな吸盤を交互にはりつけながら、行進していました。足に触れるものは何もなく、みな空にぶら下りながら進んでいました。互いを命綱で結びあい、空を這うように進んでいく行進は、下から見ると、空をゆっくりと泳ぐ小さな蛇のようにも見えました。

月は空になく、眼下の大地にたくましく盛り上がった緑の山脈の中に、まるで巣の中に産み落とされた卵のように安らいでいました。それは山よりも大きな月で、真珠のように照り光り、大地と空を清らかに照らしておりました。

わたしたちは、どうやらこのトルコブルーの空を、ずっと這っていなければいけないようでした。何のためにかはわかりません。行列に並んだ人はみな奇妙な仮面をつけ道化のような格好をしていました。その中で、ただひとりわたしだけは仮面をつけていませんでした。理由は、わたしが一匹の猿だったからです。

わたしが死んだのは、ついこの間のことでした。国道をバイクで走っていた時、交差点で右から突っ込んでくる車に気付かなかったのです。長いとも短いともいえぬ人生でしたが、死んだときは、やっと終わったのかと、ほっとしたものでした。わたしは生きているとき、いつもうぬぼれて、人をくだらないものと見下していました。そのせいで、ついには持っていたものほとんどを失い、まだ手に残っていた古いバイクを走らせ、すべての責任を放棄して、自分の人生から逃げ出したのです。

わたしの死を悲しむものはいませんでした。別にそれは構わないのです。わたしの周りにいた者は、みんな同じようなものばかりでした。日月の目の届かないところで、罪のない蛙の腹を割いて、金の粒を盗み出すようなやつばかりだったからです。

わたしは見えない姿のまましばらくぼんやりとそこらを歩いていました。空を見ると太陽の光が目をつらぬきました。わたしはありもしないはらわたの底を、一瞬のうちにねじりとられたような痛みを感じて、急いで暗がりへ走りました。近くに樹木の多い公園があり、わたしはそこに逃げ込みました。

わたしはそこで、一人の少女に出会いました。まだ中学生くらいでしょうか、額の秀でた横顔の美しい少女でした。彼女は木漏れ日を浴びながらひとりベンチに座り、うすい文庫本を読んでいました。生前、わたしはよくこんな女の子をいじめました。彼女らの長い髪や匂やかな肌や大きな黒い瞳が、異様に憎かったのです。女は嫌いだと言って、いつも追いまわし、影から常にいやなことをしながら、うそばかりついていました。

わたしは少女をしばらくじっと見ていました。微かな風が木々の梢と彼女の長い髪を揺らしました。本のページをぱらりとめくる音が、まるで蓮の花びらのはらりと落ちる音に聞こえました。わたしは静けさにいら立ちながら、ずっと少女を見つめていました。何か黒々としたものが、わたしの中のないはずのはらわたをきりきりとしぼりました。

突然少女は本をぱたりと閉じ、顔を空に向けると目を閉じて、詩の暗唱を始めました。それは藤村の「初恋」でした。

   まだあげそめしまえがみの
   りんごのもとにみえしとき

わたしの憎悪はいっぺんにふくらんで破裂しました。わたしはこの少女を、どうにかして壺のように割砕き、汚れたハエのように踏みにじり、その存在すべてを粉砕して、燃やし尽くしてしまいたいと考えました。しかしそのとたん、足元が砂のように崩れ、わたしはどこへともなく闇の中に吸い込まれてしまったのです。そして次に気付いたとき、わたしは一匹の猿となって、空につり下がっていたのでした。

それからずっと、わたしは月も日も星もない青空を、二つの吸盤を交互に空にはりつけながら、トルコブルーの中を這っているのです。大地に降りている月は、わたしたちを照らしながら、光とともに小さな白い蛾を無数に放ち、その蛾はわたしたちの耳元に止まって、永遠に大地を踏んではならないと、月の言葉を伝えるのでした。




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2011-11-08 07:56:26 | 月の世の物語

そこは周りを切り立った崖に囲まれた小さな高地でした。頂の平らなところはそう広くはなく、まるで百姓家の小さな庭のようでした。高地というよりは、大地に立った高い柱の上といったほうがよいかもしれません。頂の庭には一本の木と、小さな池と、瑪瑙の岩が一つずつあり、わたしは随分と長い間、一匹の猫となってここに棲んでいました。

わたしの毛皮は灰色と黒の渦が巻くような文様をしており、首にはアベンチュリンの青いメダルをつけた細い首輪をしていました。ときどき池をのぞき見て、わたしは自分の瞳が煙水晶のように、暗い灰色であるのを確かめました。磨かれた煙水晶はつやつやと丸く、星をみれば星を宿し、月を見れば月を宿し、それはとてもきれいに光りました。

猫は美しいので、人間だったときより、わたしはわたしが好きです。人間だったころのわたしは、猫というよりはネズミでした。いろいろな大切なものを人様からネズミのようにかすめとって生きておりました。ばかなことはたいそうたくさんやりました。その結果、わたしはこの煙のようにうす暗い世界に一人で棲まなくてはならなくなり、永遠に、待っていなくてはならなくなりました。

わたしのしなければならないのは、一匹のネズミを殺すことでした。灰色の毛と黒い眼の泥のような血をした苦いネズミを、食べることでした。しかし、ここはあまりに高い崖に囲まれているため、訪れるものといえば、月星の光や、どこからか吹いてくるほこりっぽい風くらいのものでした。お日さまはおいでませんでした。いつもいつも、ここは夜でした。月は太ることも細ることもなく、まん丸のままずっと南中しておりました。しんねりとした月の光はときどき、やわらかい布のようにわたしに触れ、煙色のわたしの目を磨いていきました。

わたしは瑪瑙の岩のそばできちんと香箱を組み首を立て、前をまっすぐに見ながら来る時を待ちました。瑪瑙の岩には、何か仕掛けがしてあるようでした。そっと耳を岩に近づけると、さらさらと砂の流れるような音が聞こえ、その音の奥では、オルゴールの奏でる微かな旋律が砂に混ぜられた銀の音のように聞こえました。全く閉じた岩の中に、こんな魔法をだれがしかけたのでしょう。ふと風が吹いてきました。すると砂の音はそれに反応するように、きん、と耳に痛い音を叫びました。それは猫の小さな頭骨を貫くような音でした。わたしは頭を前足でさすりながら、痛みの収まるのをしばし待ちました。そして月を見ながら、ふと、思いがよぎりました。わたしは、なぜこんなところにいなければならないのか。来るはずのないネズミを待って。

疑問を持ってはいけないと、ある人が言っていたのを思い出しました。その人はわたしに、おまえはあまりにも厳しい試練を受けなければならないと言いました。神がお前に何をなさるのかはわからない。しかし、すべては受け入れなくてはならない。その人は悲しそうに言っていました。

ほんとうは、わたしは死なねばならなかったのです。命のすべてを、神の裁きに没収されねばならなかったのです。それはわたしのしたことが、子供のしたことといって許されるものではないほどのことだったからです。その人は、わたしがまだ若いからと、神に必死に罪の軽減を願っていました。わたしはそのそばで、言われたとおりに、反省したふりをして、うつむいていました。

猫になったのは、そのすぐあとでした。誰もいない、小さな孤独の庭で、わたしは永遠にネズミを待って暮さねばなりませんでした。神に許しを願ってくれたあの人にも、永遠に会えないのです。わたしは泣きたくなりました。そして初めて、猫の目には容易に涙は流れないことを知りました。それが一層悲しく、たまらずにわたしは立ち上がり、瑪瑙の岩の上に登って月をにらみました。

わたしは月に向かって鳴き続けました。初めて、永遠の意味がわかりました。それは、わたしが最も愛し、愛してくれた人と、二度と会えないということだったのです。わたしは受け入れなければなりませんでした。でも、それが何よりも受け入れがたいことだったと気づくのに、なぜこんなにも時間がかかったのか。

わたしは、叫びたくなりました。永遠の向こうに去ってしまった人に、「愛している」とどうしても伝えたかったのです。けして届かないとわかっていても、叫びたかったのです。でもわたしののどからほとばしるのは、まるで赤ん坊の泣き声のような、猫の声ばかりなのでした。



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醜女

2011-11-07 08:01:58 | 月の世の物語

ここは天の王様の住んでおられるお宮でございます。お宮と申しましても、王様はたいそう質素なことを好みましたので、そう大きくはなく、おひとりですごすに十分な広さの小さなお宮でございました。御心のお美しい王様のお宮の周りには、たくさんの美しい天人が羽衣に風をはらませ、琴を弾き、鈴を鳴らし、歌を歌いながら飛んでおりました。それらの天人の仕事は楽曲を奏で、王様の御心の静かな喜びを、清らかな花の震えるようにかきたてることでした。すると王様は、すべてのもののために、もっとも美しいことばをこの世に生み出すことができるのです。

しかしこの、悦び満ちる天のお宮には、たくさんの天女の中に、ただひとりだけ、小さな醜女がおりました。醜女は自分の醜いのを恥じ、いつも顔を隠し気味に羽衣をかぶっておりました。彼女の仕事は、毎日、天のお国のあるお庭にある大きな水盤に映る、月のお仕事の手伝いをすることでした。この天の国は桂の香りもただよってくるほど月に近く、月はたいそう大きく見えました。醜女は望月の夜が来ると、水盤に月の美しい光が映るのを確かめ、それを小さな匙ですくって丸め、たくさんの月の光の珠を作るのが常でした。月珠が小さな桶にいっぱいになると、醜女は仕事をやめ、水盤に映る月のためにかすかな歌を歌いながら小さな儀式をしました。小さな声ではありましたが、それは胸にすきとおるような美しい声で、月はたいそう醜女の歌を悦ぶのでした。

それが終わると、醜女は桶を頭にのせ、天の国の端にある銀の河へと向かいました。そして川辺に座り、両手をひらひらと蝶のように舞わせ、小さな儀式をしたあと、河の中をのぞきました。

河に映るのは、あまりにも小さな罪人たちの行く末でした。それらの人々は、地上で深い罪を犯したがために、永遠のからくりの中で光さえ浴びることなく、苦悩の中に迷っている者たちなのです。醜女は、その罪人たちのひとりひとりに向かって、月珠を落とすのです。そうすればしばし罪人の苦しみはやわらぎ、胸の中がまるで明かりがともったようにぬくもるのです。醜女は月珠に一つずつ、呪文のような言葉をかけながら、それらがすべての罪人のところに届くようにと、願うのです。

罪人にはいろいろな者がおりました。たとえば、それは豪華な王宮の中の、薔薇色の大理石でできた底なしの崖のきわに、左足の親指一本で永遠に立っていなければならないという者がいました。ほかには、窓もない暗い部屋の中で、開かないオルゴールの鍵を必死で回している者もいました。その部屋にはそれはたくさんの鍵が山のようにありました。しかしそのオルゴールは、鍵で開くのではなく、ある呪文で開くのを醜女は知っておりました。それを教えられるのは、ときどきその部屋を訪れる小さな蛇なのですが、暗闇の中、彼はその存在にすら気付かずにいるのです。

醜女は罪人たちに神の憐みの訪れるように願いながら、空になった桶を持って立ち上がりました。するといつしか、彼女の背後に、天の王様が立っておられました。醜女はびっくりして、思わず顔を隠しました。醜女は何よりも、自分の顔を見られることが悲しいのです。ですから、王様の前でも、ほかの天人の前でも、いつも顔を隠しておりました。

天の宮の王様は、ほほ笑みながら、それでもよいというように、真実しか語らぬという美しい声で、いつも醜女にもっとも苦しいことをおっしゃるのです。

「本当にあなたは、お美しいですね」
すると醜女はたまらなく悲しくなり、まるで責め立てるようにふるえながら言うのです。
「おたわむれを」

醜女は王様の前から逃げるように走りだし、水盤のもとにもどりました。滂沱と流れる涙を水盤の中に落としながら、醜女はすがりつくように月に手を伸ばしました。

月は静かにほほ笑み、乳色の光で彼女の涙を洗いながら、泣かなくてよいと、醜女にささやくのでした。



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蝶の道

2011-11-06 09:11:15 | 月の世の物語

針葉樹の暗い森の中、まっすぐな一本の道を、わたしは歩いていました。目を上げると、空は、深緑の木々の梢に縁どられ、ぎざぎざに破られた青い紙のように、頭上に細長く流れていました。その空の中で、白い絹の糸のような雲はもつれあい、それに絡みつかれたように、細い昼の月が見えました。月はほほ笑みの形をして、まるで誰かが空で笑っているようにも見えました。

わたしの歩く細く長い道は、果てしなく前に続き、鈍いだいだい色をしています。それは木の葉ではなく、だいだい色の翅をした蝶の死骸が、木の葉のように、無数に散り敷いているのでした。
一歩歩くと、しゃり、と音がして、蝶の翅はいとも簡単に粉々になりました。わたしはできるだけ、蝶の少ないところを選びながら歩きました。

わたしの左手には小さなフクロウの形をした銀の腕時計がありました。時計と言いますが文字盤も針もなく、ただカチカチという音がするたびに、タンザナイトの青い目が左右にせわしく動くのです。その体内には瑠璃や水晶のような、闇と光の歯車の仕掛けがあって、それは時の中で割れることも腐食することもなく、正確に永遠を数えます。そしてときどき思い出したように、フクロウは、ほう、といって何かを知らせるのです。でもそれが何を知らせているのかは、わたしには全くわかりません。

わたしはもう、本当に長い間、森を歩き続けています。疲れることはありません。でも 、裸足の足にふれる蝶の翅の感触が、歩くにつれて重くなり、そのうち足に血のにじむように痛くなり、とても歩けなくなるのです。だいたい、なぜわたしはこんなところを歩いているのでしょう。

今までのようなことはしてはいけないと、ふとだれかがわたしにささやきます。わたしは背筋にぞくりと寒さを感じます。ささやいたのはだれでしょう。フクロウの時計でしょうか。それとも月か、森の木霊でしょうか。

わたしは、足元の蝶の一つを拾い、それをしばしじっと見つめました。蝶の翅はだいだい色というより、虹のような光沢をまとった薄い朱色でした。わたしは思わず、ほお、と声をあげました。どんな者が細工をしたのやら、その翅は貝を薄く削りだして作ったものだったのです。それは紙よりも薄い翅で、表にはまるで七宝のような、美しい文様が描かれてあるのです。しかもその文様は、どの蝶も、どの蝶も、一つとして同じものはないのでした。

こんな見事なものは見たことがないと、わたしがため息をつくと、また声が聞こえます。それは何やら、ころころと水のような音を立てて、まるでわたし自身の中からわきあがってくるようなのです。声は、このまま蝶の道を歩いて、どこにいくのかと尋ねてきます。わたしは蝶の死骸をそっと道に戻し、考えます。そもそもなんでわたしはここにいて、森を歩いているのでしょう。いったいどこに行くつもりなのでしょう。なぜこんな美しい貝の翅をした蝶を、踏み砕いているのでしょう。

永遠を数えるフクロウの声が響きます。月は相変わらず雲の中でほほ笑んでいます。そうだ。わたしは、神さまに約束したのでした。でも何を約束したのかは、どうしても思い出せません。とにかく今、わたしは一歩も動けずにいます。これ以上蝶を踏んで歩くことが、できずにいます。どうやったら、蝶を踏まずに歩いていけるのか、わたしは考えに考え、とうとう蝶の道を歩くのをやめ、道の右側の暗い森の中に足を踏みいれました。それは道なき道でした。いったいどこに向かうのかも、もともとわたしにはわかりませんでしたから、蝶の道も森の道も、たいして変わりはないことでした。

森に入り、振り向くとすでにそこにあの蝶の道はなく、暗い森ばかりが広がっています。
上を見るとこずえの隙間から、月は半月となって大きく笑っているのが見えました。そうか、こっちでよかったのだと、わたしは胸をなでおろしました。
わたしはどこにいくのでしょうと、わたしはどこかにいるだれかに尋ねました。すると森が深く深呼吸をするように、青い香りがする風がとおりました。
 
知らずにいるほうがいいことは、知らずにいたほうがいいのだと、わたしは思いました。
そして冷たい森の土の感触を足の裏に感じながら、歩きはじめました。あのたくさんの蝶を、わたしはどれだけ壊してしまったのか、今更ながら、悲しく思いました。ずいぶんとずいぶんと、長い間あの道を歩いていましたから。

涙が流れ指を組みすべてに許しを願いながら、わたしは森の中を歩きはじめました。いつしかあたりは夜に染まり、木々もその中で闇に溶けてしまったかのようになりました。ふと、木々の梢の合間をすいて、ひとすじの月の光が、ひたと地面に落ちました。するとそれは一瞬栗鼠のように森を走りだし、まるでこちらへ来いというように、少し離れたところの木の枝にくるくるとまり、ふわりと消えたのです。

かちりと、フクロウの歯車が切り替わる音が聞こえました。


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笑えねえのよ

2011-11-05 07:17:35 | 珈琲の海

あんときの あいつ ほら
じぶんがじぶんだってわかって
「おれはあほじゃねーっ」て叫んでたやつ
あんまりにもうれしそうに
馬鹿みたいに泣いてたやつ
今でもこっちにいるってさ
ほんとは行くとこ行かなきゃ
いけないはずなんだけど
なんだかしらこっちにいるんだってさ

あほだったときは
ぜんいんで なんでもやって
つらいことはみんなあほにやらせて
自分はなあんにもしなかったやつだったのに
あっぱれな自分になったとたん
あほみたいにやりはじめたのよ

あほだったとき ほとんど何もしなかったもんだから
べんきょうができてなくて
つらいことでもすぐ失敗するんだけどさ
あきらめねえで何度もやるのよ
つらいことしすぎて いたいことしすぎて
ぜんぶぜんぶばかにしてきたこと
すべてなんとかするんだって
あほみたいに いやなことでもなんでも
やるんだってさ

あーほは イエスを助けたいんだってさ
ものすごい殺され方したやつのために
どうしてもやりたいんだってさ
なんどやっても つらいばかりで
やっとなんとかしたっておもっても
すぐつらいことんなったりするんだけど
痛いことはほんとにへたくそなんだけど
笑えねえのよ

あっちにいるやつも
こっちにいるやつも
だれもあいつを笑えねえのよ

なんでおれ泣いてるんだろうね
やってもやっても
さっぱりしたやつになるんじゃないんだ
ぜんぶあほになるかもしれないんだよ
ほれでも あいつはやってるよ
あっぱれにやってるよ
おれはおれなんだって
なんぼでもなんぼでも
やってるんだ

簡単にできることなんてないんだよ
ほんとうは
みんなつらい感じでなんとかしてるんだ
あほはいっぱいつらいことするけどね
なんとかするほうは全く大変だよ
つらいよ おれは



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もうやめよう

2011-11-04 07:45:43 | 珈琲の海

「あんたなんかいやだ」っていうことばの
ほんとの意味はね
「あんたなんか消えてなくなれ」って
ことなんだよ
ひどいよね つらいよね
なんでそんなこというのかっていうとね
自分がとてもつらいからなんだよ
だから他人が
自分じゃないってだけで
ねたましいんだよ
うらやましいんだよ
いやだ いやだっていうのは
絶望的に自分がいやだからさ
なんでって
ほんとうに とてもいやなやつだからなんだよ
ずっとずーっと知ってるんだ
自分は自分のこと
知ってるんだ
なにしたか なにをしてきたか
みんなわかってるんだ
そのせいで あんまりに
こころじゅうが痛いんだよ
全身をピアノ線できりきりしばって
ぜんぶ殺してしまいたいくらい
苦しいんだよ

なんでもなんでも
簡単にいうんじゃないんだよ
消えてしまえなんていったら
自分が本当に消えてしまうんだよ
ばかだとか いやだとか
ひとをくるしめるようなことは
いわないようにしよう
けっきょくつらいのは自分だからさ
ほんとうの自分をいやだといったら
とんでもない馬鹿になってしまうよ
いたいことや ずるいことを
さらっとやるのはやめよう
だれもみてなくても
自分と神さまは知ってるから
やめないと
だんだんと黒っぽいいやなものが
きみにしみついてくるよ
ああ これはいやなことをした人だと
みるだけでわかるようになるんだよ


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ぜんいん

2011-11-03 07:55:46 | 珈琲の海

あほは ぜんいんでやるよ
いつも ぜんいんでやるよ
ひとりでは けっしてやらないよ
ぜんぶで ぜんぶで
ひとりを いじめるよ
つらいほど かんべんしてくれって
泣いてるやつ へいきで
ぜんいんでやるんだよ

やめてくれっていっても
ぜったいにやめないよ
ものすごくつらいからさ
ぜんいんでやると
ごおっついあほだからさ
いやんなるくらい
ばかがすっごくあほだからさ
いてえやつ みいんな
これでだめにしたの
ばかなつれえあほにしたの
いたいっていってもだめだよ
つらいやつはみんなばかにするんだ

ずーっとずっと これでやってるのよ
あほはみんなそうよ
いやなやつみつけたら
みんなでやっちゃえって
すうべてすべてばかにしちゃうのよ
こんりんざい ばかなあほで
いやなことしまくるのよ
つらいわあってええかんじにつれえのよ
ぜんいんでやると おれはばかだからさ
さらあってあほにするだけなんだよ
いっつもつらいやつは
それでやられるよ

かんぺきにかんぺきに馬鹿だ
ずっとそれでやってきたら
こんどはばかが
ぜんいんにやられるのよ
ぜえんぶにきらわれるのよ
あんまりなことすべてばれて
いやなやつんなって
ごおっついばかになって
あんなものがいるってもんになって
ばかにばかになりすぎて
いやなことになりすぎて
とうとう かんぜんに
あんまりなところにおちるよ
あほはつらすぎるよ
いやなやつぜんいん
ばかになるよ
あっけなく つらいいやなものになったよ

おれたち これからずっと
いわれるんだよ
みんなに いわれつづけるんだよ
このせかいには とんでもないものがいるって
けっしてやってはいけないことをやって
やりすぎて やりすぎて
とうとう馬鹿になったものがいるって
ぜんいんに ぜんいんに
ずっと ずっと ずーっと
いわれるんだよ

そして
ばかなことや みっともないことは
決してやってはいけないって
みんなが
小さいやつにおしえるんだよ






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いわんといて

2011-11-02 09:56:01 | 珈琲の海

いわんといていわんといて
あんまりにもばかやから
あんまりにもばかやから
あほなんやおれたちは
ばかなんやおれたちは
なんでも なんでも
できるやつやとおもとったん
ごっつい馬鹿なことでも
なあんやでないわってかんじで
ばかみてえにあほだってかんじで
やるやつだったん
ぜえったいあいつがやると
おもとったんよ
あほみたいにつらいかんじだったんよ
いたましいほど おれたち
あいつがおるけん
ええわっておもとったんや

ばかやったんよ
すべてばかだったんよ
そいつ とんでもないばかやりすぎて
とっくにだめになっとったんよ
あほが
あほをやりすぎたらどうなるか
しっとったはずやのに
ああんなごっついあほがおるんなら
いけるわとおもうんや
そのあほ
もうとっくにあかんようになってたのよ
あっけらかんとして
いやなことぜんぶやるやつだったのに
あほばっかりして
ついにやったらあかんこと
すべてやってしもて
もののみごとに馬鹿になっとったん
まんでだめだったんよ

いやんなるくらいおれら
ばかなんよ
いやんなるくらい
あほなんよ
なんでなんやていうんよ
あほはぜんぶばかや
いったいなんでここまできて
ほんなことになるん
いっさいがっさい
あほはだめになるんや
なんでほんなことわからんのって
なんぼでもいわれたけど
やめんかったんは
あほがつらかったからよ
ものすごいあほがおったからよ
いたいやつがおるけん
いけるとおもたんや
ごっついばかや

ほんなことになっとったんて
だれもしらんかったよ
あほはもうとっくにばかになっとったんや
いたましいことのなにひとつ
でけんようになっとったよ
あっぱれに ぜんぶだめなんよ
あほは あかんのや
つういに ぜんぶあほや

なあんぼでもなあんぼでもやったん
あーいしてるっていうやつ
すべてばかにしたん
あほになって つらいほどくるしいわってかんじで
いっちょもあっぱれにせんのよ
いやんなるくらい ばかみたいに
いたかったんよ
ぜつぼうてきにつらいあほやとおもとったんや
ぜんぶだめになっとった
あほはすべてこうなるんや
いやなことやったら こうなるんや
なんでこうなるんて
あほがきくんか
あほか
ぜんぶそういうわな
いたいんよ



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月の音

2011-11-01 13:11:35 | 詩集・貝の琴

月光を砂に混ぜて
小さなぼーるをつくります
わたしのいるところは
波のように砂丘の連なる
白い砂漠の中の
大きな岩のそばです

岩は はるかな昔には
たぶん生きていたと思われる
大きな獣の形をしています
とがった肋骨の石の中を寝床にし
わたしはいつごろからか
ずっとここにいるのです

月はまるでピンで止めたように
天空にただ一つあります
だれかが器用に魔法を使って
ミルクをやわらかに丸めて
つくりあげた丸いお菓子のようです 

星はありません
光は月以外になく空は桔梗色をしています
聞こえるのははるか空を吹く風の音と
月が砂漠に落とすかすかな光の音だけです
雨音を銀色のシロフォンの音に例えれば
月の音は すきとおった水晶の琴音です

しん しんと 砂に音を立てて光が落ちてきます
わたしは獣の肋骨の中で
静かにそれを聞いています
ここにいるとずっとまえに母だった人の
胎内にいるような気がします
わたしはたいそう幸せでした
あたりまえの小さな子でしたが
外の世界でわたしが生まれるのを
母が心待ちにしていることがわかっていたからです
だれかの子になるというのは とても幸せです

どうして なぜ ここにいるのかは
もうすっかり忘れてしまいました
ただ 月の音の中にときどき
妙な音をたてるものがあって
それが何やらことばに聞こえるのです
だれかが わたしの名を呼んでいるような気がするのです
自分の名前などとっくに忘れてしまったのに

砂漠は一面乳色で
まるでやわらかな布をしいてあるようです
わたしは何か大事なことを忘れているようだ
桔梗色の空を見ながら 思いだそうとしても
月ばかりが明るく すべてをぬぐい去ってしまいます

今少し待てと 誰かが言っているようです
思い出してはいけない
空に星が一つもないのは
星がわたしに秘密を明かしてしまうからだそうです

落ちてくる月光を拾って
つくったぼーるは すぐに崩れてしまって
もうありません わたしは
それがおかしくて
ふ ふ ふ とわらいます
知らないと思っているでしょうけど
わたしは知っています
わたしが狂っていることを
そしてそれはすべてわたしのためのことだと

ぼーるを作り直すため
月光を拾い 月光を拾いながら
突然何かを抱きしめたい衝動にかられ
わたしはもっていた月の光を砂漠にまき散らし
からからと虚空に向かって笑いながら
叫ぶのです

おかあさん!

おかあさん おかあさん
わたしはいつうまれるのですか?






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