俳句や短歌は好きだが、私はむかしから自由詩が理解できない。高校の教科書に高村光太郎の「ぼろぼろの駝鳥」や萩原朔太郎の「月に吠える」が載っていたが、何の感興も覚えなかった。
西洋の詩人、ヴェルレーヌ、ランボー、リルケ、ボードレール、ヴァレリーなどはわが国でもビッグネームである。だが現在、理解(鑑賞)できる人がどれだけいるのだろうか?これらのビッグネームが明治大正昭和初期のわが国の文学青年たちに与えた影響は絶大だったようだが、むかしの青年たちはどこに衝撃を受けたのだろうか?
ヴァレリーの「若きパルク」(中井久夫訳、みすず書房)を読んでみた。言葉が綺羅星のように並んでいるが論点が何なのか分からない。一部だけ示しても無意味かも知れないが、読者には分かるだろうか?(この記事の文末に引用しておく。)
(みすず書房刊。)
例えば川端康成の小説「雪国」。この小説にはストーリーがない。主人公の島村が芸者の駒子に会いに行って再会する、ただそれだけの話だ。だが、文章だけで読ませるし、何度読んでも面白い。わが国では「雪国」を小説というけれども、西洋から見ればこれは詩ではないのか?(一般に西洋の詩は長い。)西洋では「雪国」のような作品を詩と呼ぶのだったら理解できなくはない。
読売文学賞を受賞したギリシャの詩人の訳詩集「カヴァフィス全詩集」の贈呈本を訳者、中井久夫氏本人からいただいた。やはり理解できないので、正直にその旨を伝えた。氏から声に出して読んでみてはどうか、自分は暗誦していると言われ、努力してやってみたがダメだった。
(みすず書房刊。)
読売文学賞の選考委員には理解できたはずなのだ。「これぞ本物の訳詩だ」という論評もあったから、分かる人には分かるのだろう。
以下は、ヴァレリー「若きパルク」の翻訳の冒頭である。少しでも分かる方がおられるだろうか?そういうかたは、この先がもっと読みたいとお感じになるのだろうか?
---ここから引用---
過ぎ行く一筋の風ならで誰が泣くのか、
いやはての金剛石(ほしぼし)と共に独りある、この一刻(ひととき)に?・・・・
だが誰が泣くのか、その泣く時にかくもわが身に近く?
この手---、手は待つ、わが顔に触れやうと夢みつつ、
深いはからひにわれ知らず従って、
わが弱さから溶け出て一滴(ひとしづく)の涙が零れ落ちるのを、
数々のわがさだめから緩やかに分かれ出て
もっとも浄らかな一筋が砕かれた心を静かに照らしだすのを。
大波は咎めるが如くに我に囁き、
あるいは退いて此方(こなた)の岩間に咽喉(のど)を鳴らす。
欺かれ飲み込んだ苦いえづき、
嘆きと胸締め付けられる思ひの音も・・・・
え、何をしてゐるのか、毛を逆立てて、またこの凍る手は?
消えた木の葉の慄へがこの裸の胸の
双つの小島の間(あいだ)に消えやらぬではないか?・・・・
我は燦(きら)めく、未知の大空に?繋がれて・・・・
巨大な葡萄の房が輝いて、破滅の星への渇きをそそる。
西洋の詩人、ヴェルレーヌ、ランボー、リルケ、ボードレール、ヴァレリーなどはわが国でもビッグネームである。だが現在、理解(鑑賞)できる人がどれだけいるのだろうか?これらのビッグネームが明治大正昭和初期のわが国の文学青年たちに与えた影響は絶大だったようだが、むかしの青年たちはどこに衝撃を受けたのだろうか?
ヴァレリーの「若きパルク」(中井久夫訳、みすず書房)を読んでみた。言葉が綺羅星のように並んでいるが論点が何なのか分からない。一部だけ示しても無意味かも知れないが、読者には分かるだろうか?(この記事の文末に引用しておく。)
(みすず書房刊。)
例えば川端康成の小説「雪国」。この小説にはストーリーがない。主人公の島村が芸者の駒子に会いに行って再会する、ただそれだけの話だ。だが、文章だけで読ませるし、何度読んでも面白い。わが国では「雪国」を小説というけれども、西洋から見ればこれは詩ではないのか?(一般に西洋の詩は長い。)西洋では「雪国」のような作品を詩と呼ぶのだったら理解できなくはない。
読売文学賞を受賞したギリシャの詩人の訳詩集「カヴァフィス全詩集」の贈呈本を訳者、中井久夫氏本人からいただいた。やはり理解できないので、正直にその旨を伝えた。氏から声に出して読んでみてはどうか、自分は暗誦していると言われ、努力してやってみたがダメだった。
(みすず書房刊。)
読売文学賞の選考委員には理解できたはずなのだ。「これぞ本物の訳詩だ」という論評もあったから、分かる人には分かるのだろう。
以下は、ヴァレリー「若きパルク」の翻訳の冒頭である。少しでも分かる方がおられるだろうか?そういうかたは、この先がもっと読みたいとお感じになるのだろうか?
---ここから引用---
過ぎ行く一筋の風ならで誰が泣くのか、
いやはての金剛石(ほしぼし)と共に独りある、この一刻(ひととき)に?・・・・
だが誰が泣くのか、その泣く時にかくもわが身に近く?
この手---、手は待つ、わが顔に触れやうと夢みつつ、
深いはからひにわれ知らず従って、
わが弱さから溶け出て一滴(ひとしづく)の涙が零れ落ちるのを、
数々のわがさだめから緩やかに分かれ出て
もっとも浄らかな一筋が砕かれた心を静かに照らしだすのを。
大波は咎めるが如くに我に囁き、
あるいは退いて此方(こなた)の岩間に咽喉(のど)を鳴らす。
欺かれ飲み込んだ苦いえづき、
嘆きと胸締め付けられる思ひの音も・・・・
え、何をしてゐるのか、毛を逆立てて、またこの凍る手は?
消えた木の葉の慄へがこの裸の胸の
双つの小島の間(あいだ)に消えやらぬではないか?・・・・
我は燦(きら)めく、未知の大空に?繋がれて・・・・
巨大な葡萄の房が輝いて、破滅の星への渇きをそそる。