(青弓社刊。)
1970年代に温泉地を中心として「秘宝館」なるものがいくつも建てられました。
展示品は雑多で、女性ヌードの等身大模型、交尾をしている動物の剥製、ペニス信仰のご神体、妊娠子宮の医学模型、観音像、春画などでした。一言で言って猥雑でキッチュな展示品です。俗悪と言ってもよいでしょう。
私が思うに、「秘宝館」が温泉地に建てられたのは、温泉地の性風俗と無関係ではないでしょう。いまでこそ家族連れで賑わう温泉地ですが、私が青年のころは男性客だけなら売春の「御用聞き」が部屋まで来たし、小グループで「お座敷ストリップ」の注文ができ、海辺の船では「本番ショウ」をやっていました。(船上でやったのは官憲が入れないようにするためだといいます。)
温泉地とは以上のような属性をもっていたので、そこに「秘宝館」ができるのは私にはなんの不思議もありませんでした。
そこで上掲の本ですが、著者は1977年生まれの女性研究者で、「秘宝館」を世界に類を見ない「変わった博物館」だと位置づけ、文化的、歴史的な考察を行っています。著者は「秘宝館」をニュートラルに研究しています。そのため、俗悪、猥雑という価値判断を避けています。
むかしの温泉地の風俗を知っている私にとって、俗悪、猥雑というキーワード抜きで「秘宝館」を語ることはできません。それらを抜きにして「秘宝館」を考察している本書は、だから「そうだそうだ」と膝を打てない面があるのでしょう。ですが、こういうところにまで目を付ける女性研究者が出現してきたことに、隔世の感を感じます。
ひとむかし前なら、毒にも薬にもならないような研究に、ひとりの女性が没頭することはありえませんでした。以前にこのブログに書いた東南アジアの民族音楽研究者も女性でした。そのときにも述べましたが、こういう研究者が出てくるのは日本が豊かになった明らかな証拠なので、私は喜びをどうしても隠せないのです。