えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・ひもをくくりつけて

2016年03月26日 | コラム
 背が低いので町に紛れ込むと視線は誰かの背中の中ほどにうずもれる。手提げかばんを腕に掛けると重みで下がった腕から伸びるこぶしは大体人の腰から上に当たる寸法となるのでかばんを肩にかけて手ぶらで歩いている時、手を気持ち前へ出してひもを握る要領で空中へ手を丸めて前を歩く人の背中の腰骨に合わせて浮かせると前を歩く人の腰に巻き付いた紐を握って散歩をしているような気分になれる。飼ったことの無い犬の散歩はこのようなものなのだろうかと、たまさか通りかかる犬連れの手元を見るともう少し手は低い。連れている犬が小型か中型のせいもあるだろうか。すると人間の腰骨の辺りで引き綱をひっぱる犬は大型犬にあたるのだろう。

 見えないひもは背中と私の間に空いた空間にたるみ、背中が早足になるとひもは無限に伸びて私はそれを引き締めることもなく背中が歩くままに任せている。私の行き先から背中が外れたらひもも外れ、新しい別の背中へ巻きつけてまた中空へ、少しかしいだこぶしを浮かべて「そうかそうか」と内心でいい加減なことを呼びかけながら目的地まで次々に背中へひもを架けかえながら歩く。犬の散歩もどきと名付けているのだと知人に話すと、知人は「腰に付けた紐を持って後ろから歩くのは監獄の看守ではないか」と的を射た納得を得た。それでもなんとはなしに見えない紐を知らない誰かへ括りつけて背中を眺めながら何食わぬ顔をして歩いていたくなる。
コメント
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