電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『龍天ノ門~居眠り磐音江戸双紙(5)』を読む

2008年11月03日 06時47分53秒 | -佐伯泰英
双葉文庫で、佐伯泰英著『龍天ノ門~居眠り磐音江戸双紙(5)』を読みました。前巻では、悲劇のヒロイン奈緒さんが余儀なく身売りをし、あちこち転売されるうちに値千両を超えるという、手の届かぬ遊女となるお話でした。本巻では、ようやく江戸に戻った正月から始まります。
第1章「初春市谷八幡」。正月早々、縁起でもない首縊り事件が勃発。ですが、どうも怪しい。犯罪が匂います。磐音は、南町奉行所の知恵者与力である笹塚孫一に協力させられます。この大頭の与力さん、藤沢周平の『彫師伊之助シリーズ』で、伊之助が頼りと言葉ではいいますが遠慮なく探索に従事させる、南町奉行所同心の石塚さんを連想します。ただし、笹塚氏の方が、陽気で闊達な性格のようで、憎めません。磐音さん、もと許嫁の奈緒さんの件については、身は離ればなれでも自分が独身を通すことで思いを遂げようと決心します。磐音さん、そりゃ無理ですね。だって、すぐ身近におこんさんという女性がいるという想定ですもの、もうその時点で、作者の意図は明白、見え見えです。
第2章「名残雪衣紋坂」。豊後関前藩の中居半蔵が、父からの手紙を磐音に渡し、藩主が国元に帰参する費用として、今津屋に2500両の借金を仲立ちするよう依頼します。そして本題は、奈緒さん改め白鶴の吉原入りを邪魔する奴がいる、という事件です。おかしいな、どさくさに紛れて奈緒さんを救いだし、手に手をとって逃亡の旅に出る絶好のチャンスなはずなのに、前巻は前編それを諦めることを合理化するための無駄足だったわけですね。ふ~ん(納得はせず)。たぶん、作者は奈緒+磐音の組み合わせでは、物語を重層的な構造で展開できない、と読みきったのでしょう。悲劇のヒロインを見捨ててさっさと乗り換えるヒーローは、所詮浮気者にすぎませんから。やや強引な展開ではあります。
第3章「本所仇討模様」。豊後関前藩の借金依頼は、今津屋が承諾したことで一歩前進しますが、担保の決め手になったものが、明らかにされません。たぶん、磐音の身柄あたりかな、と想像はできますが、一応、不明のままに物語は進みます。磐音自身は、生活のために用心棒稼業に。依頼主の婆さんは、実はもっと若いようです。得をしたのは南町奉行所だけかも(^o^)/
第4章「危難海辺新田」。竹村武左衛門が、夜も戻らないといいます。酒に弱い欠点はあるものの、実は家族思いのマイホーム・パパが本質である武左衛門が無断外泊とは、前例のないことです。どうも、用心棒に雇われた悪徳医者の巻き添えになっているようです。磐音は、朋輩の品川柳次郎と探索に走ります。またまた得をしたのが南町奉行所。作者は、大頭の知恵者与力の出番を作るのが、面白くてしょうがないようです。
第5章「両国春風一陣」。長屋に色っぽい女が住むようになり、一波乱が起こりますが、それよりも豊後関前藩の江戸家老が、奈緒改め白鶴太夫を叱責するとかなんとか理由をつけて、吉原へくりこもうとします。まったくしょうもないアホ家老ですが、磐音の父上はあまり人を見る目はないようです。このままでは、藩の財政再建も前途多難ですね。豊後関前藩、さらに波乱が起こると見ました。
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