電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

シューベルトの時代の冬の旅は

2008年11月24日 20時29分49秒 | -オペラ・声楽
シューベルトの歌曲集「冬の旅」は、恋に破れた若者が、失意のうちに冬の荒野をさすらう話ですが、親しみやすく苦さの中にほんのり甘さもある音楽に、つい温暖な地の放浪を連想してしまいがちです。でも、シューベルトの時代の冬の旅は、実際はどんな風だったのでしょう。

手がかりとしては、(1)歌詞の内容、(2)地理や気候のデータ、などがあると考えられます。以下、いかにも理系的な無粋レポートであることは自覚しつつ、手元にあった古い平成四年版の『理科年表』で、興味関心のおもむくままに調査決行!



うーむ、どうやら日本で言えば山形や信州松本あたりの気候と似ているようです。それならば、冬の旅について、体験的にリアリティを持って語れそう。要するに、詩人ミュラーが放浪し、シューベルトもまた共感した「冬の旅」とは、実はクロスカントリー・スキーの世界を徒歩で歩き回るようなものなのかも!

シューベルトの「冬の旅」は、現在当方の手元にある録音は、(1)ヘルマン・プライの旧録音のLP、(2)ヘルマン・プライの新録音のCD(*1)、(3)エルンスト・ヘフリガーの晩年の録音のCD、の3種類です。最近は、廉価盤には歌詞が付いていないものが多くなりましたが、幸いなことにネット上で歌詞を探すことができます。たとえば「シューベルト 冬の旅 歌詞」で google 検索すると、かなりの数のサイトがヒットします(*2)が、これらの翻訳を参考にすると、

第1曲「おやすみ」より

Der Weg gehüllt in Schnee. 道は雪で覆われてしまっている。

Und auf den weißen Matten そしてこの一面真っ白の中で


第3曲「凍った涙」より
Gefrorne Tropfen fallen 凍ったしずくが
Von meinem Wangen ab: 僕の頬から落ちる。


第4曲「凍結」より

Durchdringen Eis und Schnee 氷も雪も


第6曲「涙の河」より

Ist gefallen in den Schnee; 雪の上に落ちていった。
Seine kalten Flocken saugen 雪面の冷たい粉が吸い込んでいく、


第8曲「かえりみ」
Es brennt unter beiden Sohlen 両足の底が焼け付くように痛む、
Tret' ich auch schon auf Eis und Schnee, 僕は氷と雪の上を進んでいるというのに。


第20曲「道しるべ」より

Suche mir versteckte Stege 雪に覆われた岩山を通り
Durch verschneite Felsenhöhn? 隠れた小道を探すんだろう?


第22曲「勇気」
Fliegt der Schnee mir ins Gesicht, 雪が顔に吹きつけても


昔、まだ庄内在住の頃に、地吹雪で車に閉じ込められそうになったことがありました。幸い、なんとか脱出できましたが、この夜に同じ場所で、雪に閉じ込められて亡くなった方もいらしたはずです。冬の吹雪の中を歩くことは、装備や条件が悪ければ、常に命の危険と隣り合わせだと感じます。

シューベルトの「冬の旅」も、ご覧のとおり凍傷の一歩手前でさまよい歩く内容です。当時は、オオカミなども出たかもしれません。決して暖地の冬ではない、今よりもずっと厳しい冬の放浪。死へ誘う絶望の深さを思い、厳粛な気分になります。

(*1):ヘルマン・プライの「冬の旅」を聞く~「電網郊外散歩道」より
(*2):シューベルト歌曲対訳集
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