電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ドヴォルザーク「交響曲第7番」を聴く

2008年11月11日 07時09分03秒 | -オーケストラ
このところ霧が出やすく、一時的に晴れ間が出ても、すぐにどんよりと曇った暗鬱なお天気に変わってしまいます。晩秋の郊外路を走る通勤の音楽は、ずっとドヴォルザークの交響曲第7番、あのドヴォルザークらしからぬ暗~い音楽を聴いておりました。グラモフォンの紙箱全集 463 163-2 という型番のCDで、演奏はラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィル。1971年の1月に、ミュンヘンのヘルクレス・ザールで収録された、アナログ録音です。

第1楽章、アレグロ・マエストーソ。チェロとヴィオラでしょうか、始まりからして、不安気な、悲劇の始まりを予感させるような音楽です。途中には木管による穏やかなところも。クーベリックの音楽は、いかにも気宇が大きく、堂々たるものです。
第2楽章、ポコ・アダージョ。木管によるおだやかな印象に始まります。ボヘミアの平原を思わせるのびやかな緩徐楽章かと思うと、しだいに暗~い要素も忍び込みます。最後ははじめの主題がもう一度登場し、ひっそりと終わります。
第3楽章、スケルツォ:ヴィヴァーチェ・メノ・モッソ。このリズムが、なんともいえず魅力的です。ドヴォルザークの魅力が満開の音楽でしょう。中間部はゆっくりとした明るい音楽になります。
第4楽章、フィナーレ:アレグロ。第1主題、これまた暗~い始まり。続く第2主題はチェロによる民謡風のもので、展開部は密度の高い対位法的な処理をしたところでしょうか。再現部を経てコーダへと続きますが、速度を増しつつ第1主題の冒頭が全奏で力強く奏され、壮大に終わります。

楽器構成は、弦五部に Fl(2),Ob(2),Cl(2),Fg(2),Hrn(4),Tp(2),Tb(3),Timp となっており、Fl(1)は第3楽章でピッコロ持ち替えとなっているそうです。

この曲は、1884年に着手され、1885年に完成しています。よく、「ブラームスの第三交響曲に感激して、自分もこういう絶対音楽的な交響曲を作ってみたいと思って完成させた」みたいな話を見聞きすることがありますが、どうも、そんな単純な話ではなさそうです。このあたりのできごとを年号順に拾ってみると、こんなふうになります。

1883年、若い頃に影響を受けたワーグナーが没し、ブラームスの交響曲第3番が発表されました。敬虔なカトリック教徒ドヴォルザークが、なんと公式には異端の人々を取り上げ、劇的序曲「フス教徒」を作曲しています。
1884年、5月12日にスメタナが没します。梅毒による脳障害で、プラハの精神病院にて生涯を終えました。6月、自作の「スターバト・マーテル」をロンドンで演奏し、圧倒的な成功をおさめたドヴォルザークは、フィルハーモニー協会から新作交響曲の依頼を受けます。
1885年、交響曲第7番を完成します。

こうしてみると、スメタナに大きな影響を受けていたドヴォルザークは、彼の悲惨な最期に強く心を動かされたのだろうと想像されます。もちろん、音楽的にはブラームスの第3交響曲の影響があると言われ、緊密な対位法的な処理が特徴的と指摘されますが、緊張感のある充実した構成に、たしかになるほどと思います。と同時に、素材や旋律のところどころに、自作の劇的序曲「フス教徒」や、スメタナの「わが祖国」を思い出させるものがありますし、過去の様々な経緯を越えて、祖国の歴史や先輩を悼み、力の限り努力を傾注した意思的な音楽として完成した、と言って良いのではないでしょうか。クーベリックとベルリン・フィルの演奏は、やや暗めの、緊張感に満ちた音楽が、はじめはやや遅めに始まり、徐々に速度を上げ、終盤に向かって高揚していく、そんな悲劇的な英雄(たち?)の音楽になっていると感じます。それだけに、途中に出てくる、人懐こい親しみやすい旋律が、いかにもドヴォルザークの音楽で、たいへんに魅力的です。

参考までに、演奏データを示します。
■クーベリック指揮ベルリン・フィル
I=11'18" II=9'42" III=7'26" IV=9'18" total=37'44"
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