電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

クラゲが光る話

2008年11月14日 06時55分09秒 | Weblog
藤沢周平の故郷、山形県鶴岡市に、日本海に面して、鶴岡市立加茂水族館(*1)という小さな水族館があります。ここは、大都市の大規模な水族館とは違い、ごくこじんまりとした建物です。内陸に住む私なども、小学校や子供会の遠足などで、何度も見学していますが、一時は閉鎖寸前まで入館者数が落ち込んだ時代がありました。ところが、名物館長の村上龍男さん(*2)をはじめとするスタッフのみなさんの長年の苦労と努力が実り、今やすっかり人気水族館になりました。ここの特色は、クラゲです。なんと、世界一のクラゲ水族館なのです。

もともと、8月ともなるとどこからか庄内浜まで漂って来て人を刺し、海水浴の迷惑にしかならなかったクラゲを、水族館の展示のメインにしようというのですから、当時としてはたしかに破天荒ではあります。でも、実に神秘的で美しい生物でもあります。たとえばオワンクラゲ(*3)。海中でぼうっと光る様は、まことに神秘的なのだとか。ところがこのクラゲ、自然界では光るのに、水族館の水槽の中で飼育を続けると、光らないのだそうです。

ノーベル化学賞を受賞した下中脩さんの業績は、このオワンクラゲの発光のしくみの鍵となる発光タンパク質イクオリン(*4)を発見したことだそうです。報道で下中さんの受賞を知った村上館長、同じクラゲつながりで、下中さんにお祝いの手紙を差し上げたのだとか。その中に、水槽で飼育を続けたオワンクラゲの人工世代は光りません、と書いたために、下中さんからじきじきに電話をいただき、セレンテラジン(*5)という発光基質をエサに加えると良い、とアドバイスされたそうです。下中博士の紹介で、三重大学の研究チームからセレンテラジンの提供を受け、投与したところ、今まで光らなかったオワンクラゲが、ぼうっと光りはじめたそうです!

直接見ていないのに原因がわかる下中博士の、そして発光のしくみを解明した科学の力はすごいものだな、とあらためて感心しました。困難を乗り越えて復活した小さな水族館の明るいニュースに、ちょいと胸が躍りました。

(*1):鶴岡市立加茂水族館
(*2):館長のあいさつ
(*3):オワンクラゲ~Wikipediaより
(*4):発光タンパク質イクオリン~Wikipediaより
(*5):セレンテラジンとは~特徴、価格など
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