職場の知り合いが、ライブをやるので、
これからも仲良くできそうな友人と一緒に、観に行く事にした。
私は、1時間遅れで勤務を終える彼女を、休憩室で待っていた。
開演までに会場に着くには、それほど時間の余裕は無かったが、
彼女には、「お腹が空くだろうから」と、食事をとるよう勧めた。
彼女は買いに行くのも、食べるのも、のんびりしていた。
あげく、トイレでは、「これから、つけまつ毛をつける。」と言い出した。
なぜ、朝からつけてこないのだ?
私はだんだん、彼女との感覚のズレを感じ始めていた。
八方美人
電車の中で、それは更に増した。
私の好きな人の情報はありがたいが、
以前「○○さんのどこがいいの?」と言っていたくせに、
「あの人は頭いいよ。○○さんのお嫁さんになる人は幸せよ。」と、
まるで逆の事を言う。
彼の「元彼女」についても、褒めてばかり。
私だって「元彼女」が悪い人だとは思っていない。
でも彼を間に挟めば、敵なのだ。
私は「元彼女」の口からもれる、私への敵意の言葉を、何度か聞いている。
だから、いくら「元彼女」の良さを聞かされようと、仲良くはできないのだ。
最寄り駅に着いた。
「中で2杯目のドリンク買うと高いから、買ってかない?」
彼女がそう言うのは、これで何度目だろう。
今まで曖昧に返事していたが、
大通りの向かいにある100円ショップに行こうと言うので、
しかたなくつきあった。
案の定、お酒など置いてはいなかった。
近くの自販機にも無かった。
開演時間は過ぎていた。
もう、気が済んだかと思い、私は地下への階段を、先にどんどん降りて行った。
感性の違い
最初のバンドの演奏が終わり、客のノリがイマイチなのを見て、
「みんな、ただつっ立ってるだけなんだね。」と私が言うと、
「大人だから、タテノリしないんじゃない。」と彼女が答えた。
私はその瞬間、カチンときた。
少し前に私は、「○○さんが出る時、前に行って踊らない?」と、
提案していたのだ。
彼女にとっては、「冗談じゃない」事だったろう。
私は知り合いを盛り上げたいし、自分も楽しみたい。
「大人がノッてたらおかしい」とでも言うのか。
その後のバンドの演奏は何も楽しめず、
私はバカにされた感覚で頭が一杯で、憮然としてつっ立っていた。
知り合いが出る1つ前のバンドの演奏が始まる時、
私は彼女には声をかけず、1人で最前列に行き、
ベースの彼が立つであろう位置の、目の前に陣取った。
彼女にはそばに、会場で合流したご主人もついているし、いいだろう。
声をかけなかったのは、わざとだ。
最前列ならリズムをとる人もいるから、私だけ目立つ事もない。
私は久しぶりのライブを楽しみたかった。
彼女のそばでは、それはありえない。
もう、一緒に外出する気も失せた。
リズムをとる私を、少し離れた場所からチラ見していた彼女が、
何を思ったかは知らない。
知り合いのバンドの演奏が終わった後、彼女は私のそばに来て、
「明日、仕事だから。」と、ご主人と一緒に帰って行った。
一緒に帰りたくもなかった。
大人になってから他人と仲良くしようと思っても、
「合わない」と感じると、もうダメだ。
お互いに「合わせよう」とも思わないのだ。
感性が合う人とでないと、一緒には過ごせない。
でも好きな人とは、感性は同じなのに、似すぎていて合わない。
職場では、もう誰とも話したくない。