てっきり、太ったインド人が出て来ると思っていた。
だが、目の前には、
タトゥーの彫り師みたいな店主がいて、
「1人?」と聞かれた。
その瞳は、グレーに透けていて、
外国人かと思っていたが、
後に、日本人だと知る。
無愛想だと書かれていたが、
テキパキやってるだけで、
放っておかれたい私には、問題無し。
タメ口で辛さの説明も、噂通り。
この店は、日本人に寄せていない。
私は、まず、「マイルド」にした。
豆とシーフードのセットに、ナンをチョイス。
いつもなら、「ドリンクは後で。」と言うのだが、
マンゴーラッシーを飲みながらの方がいいかと、
そのまま任せた。
ランチタイムも、ピークをはずしたので、
客はそこそこで、落ち着ける。
やがて、私1人になった。
とっつきにくい方が、興味がわく。
分かりやすい見た目から、人生を勝手に想像する。
「日本語、上手いね。」「どちらの国の方ですか?」
死ぬほど、言われてきただろう。
今まで、瞳の色など、気にした事がなかったが、
透けたグレーを、初めて美しいと思った。
しかし、それを褒めてはいけない。
「種類がたくさんあるから、又来てくださいね。」
確かに、帰りだけ愛想がいい。
なるほど、他のも食べてみたくなった。
翌月、ドアを押しても開かず、
引き戸だったかと、初めて気づいた。
店主の顔を、全て見ていた気がしたが、
この日は、ベージュのマスクをしていた。
私は、一番高いスペシャルセットに、
マンゴーラッシーのサイズをアップした。
若い男性が、目をキラキラさせて、
元車屋の店主に、話しかけている。
「妻子とスーパーに行くと、派手な車が目立って恥ずかしい。
もう少し、おとなしめのにしようと思うが、何がいいか。
しかし、乗り心地がいいので、本当は変えたくない。」
この男性は、車の話をしたいが為に、
この店に来ているのではないか?
レジで精算しても、なかなか帰ろうとしなかった。
店主は、ほとんどしゃべっていなかったが、
表情は見ていない。
後から、黒いトレンチコートの綺麗な女性が来て、
ナンもライスも抜きで注文していたので、衝撃を受けた。
黒いトレンチコートの女性と、
ジャンパーの年配女性と、
私だけになった。
私の柄Gジャンにドン引きしたのか、
はたまた、女性客だけになったせいか、
シャイな?店主は、奥の席に行ってしまい、
PCを見ながら、マスクをずらした。
遠目に見たそれは、
イメージと、少し違っていた。
リピーターがいるのは、味のせいかと思っていたが、
店主の無愛想と、BARのような店内が、
落ち着くからではないか。
そして、透けたグレーの瞳と。
脳は、思い込みが激しい。
味も顔も、変わる。
先日、食べ物フェスタと酒フェスタを、
ハシゴした。
炎天下、薔薇の公園、
ギャル曽根のような腹だったら、
もっと食べるのにと思った。
酔うと、知らない人とでも、
気さくに話せるのが楽しい。
あの地域だからか。
インポートの、ジャラジャラしたイルカのネックレス、
三度目に行ったら、
「今さっき、売れた。」と言われた。
合金は変色すると、二度目の時に聞き、
止めてしまった私が悪い。
何も考えず、「あら、ステキ。」と買っていった、
その人の勝ちなのだ。
テンション下がって、涙が出た。
身内が、買ってくれると言うので、
嬉しくて、買う気満々だった。
お金も無い。
楽しい事など、何も無い。
でも、美味しい物は食べたい。
人生には、スパイスが必要だ。