私が本を読むのは、ほとんどが通勤の電車のなかになる。
静かな書斎での読書なんて、夢のまた夢である。でも、電車内での読書も悪くないと思っている。税理士試験の受験中、専門学校への行き帰りの電車内で、税法の暗記をしていた時に気が付いた。
話し声、ヘッドフォンから漏れる音楽、そして電車の走行音と、電車の車内はかなりウルサイ。勉強などには不向きと思われがちだが、実は意外なほど集中できる。
周囲の雑音が、却って意識を集中させるきっかけになっているのではないかと思う。以来、勉強だけでなく、読書も電車内が中心となっている。
時たまだが、降りるべき駅を逃すほど、引き込まれてしまう読書もある。また降りるべきと分かっていながら、降りたくない読書もある。このまま読み続けていたいのだ。
幸い、私が使う通勤電車は折り返し運転なので、終点まで読み続け、戻ってきてから下車することも年に数回ほどある。それほど、私を読み続けることに執着させる本との出会いは僥倖と云うべきであろう。
今回、取り上げた作品も、電車を降りるべきと分かっていながら、降りずに読み続け、終点駅から折り返して下車させた強者である。是非一度、ご賞味あれ。