ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

林道の事故

2024-09-27 09:16:27 | 社会・政治・一般

静岡県深南部の山々を登った人は案外と少ないと思う。

通称南アルプスと云われる赤石山脈を南下すると最終的には太平洋に出るのだが、静岡県側の山々は標高が低く、また藪も濃いためあまり人気がある山域ではない。

ところが私の母校のWV部は、この地味な山域の藪山を好んで登っていた。標高が低いわりに難易度が高い山が多いため、二年生を次期リーダーに育成するための合宿に適切であったからである。おかげで私はこの山域で散々な目に遭っている。

上級生のいじわるな監視のもとリーダーを務めるわけだが、緊張するせいかまともに判断ができない。連日連夜ほぼ徹夜に近い反省会もあり、肉体よりも頭が疲れ切ってミスを連発してしまう。初冬の山は水が少なく、一人最低4リットルは持つ。リーダーともなれば、更に上積みされるので、背負う重さは40キロを軽く超える。

上級生になってからは、監視する側に回ったのだが、多分私は山の中ではあまり厳しく出来なかった。その分、大学構内での講習や会議で厳しくしたつもりだが、危険性の高い山の中で必要以上に下級生を追い込むやり方は、あまり好きになれない。

実はこの静岡県深南部の山々は、たとえ麓といえども救急車が入ってこれない場所が幾つかある。なにせ単に山深いだけでなく、林道が未整備の場合が少なくないからだ。そのため半官半民で運営されている僻地患者輸送車なるものが40年前には配置してあった。ちらっと見ただけだが、四輪駆動の軽自動車だったと思う。どうも国の定める緊急救急車両の要件を満たさないため、臨時的に設けられた車両らしい。

そのことを久々に思い出したのが、この夏の椹島ロッジ周辺の林道崩壊事故であった。椹島ロッジは南アルプス南部の山々へのベースキャンプ的役割を持つ山小屋なのだが、久々にTV映像で見たらえらく瀟洒な山小屋に変貌していたので驚いた。私が現役で登っていた頃は、もっとオンボロというか、如何にも山小屋風の風格があったと記憶している。

かつては林業の盛んな地であり、林道もかなり整備されていたが南アルプスは、日本最大の山岳地帯であるだけに山深く、不便な山域である。林業が廃れた現在では、国も県もそうそう林道整備の予算はかけられないのだろうと思う。

結局、椹島ロッジに避難していた人々で、緊急性の高い傷病者などはヘリコプターで下山させた様子。元気な登山者ならば、一山峠を越せば無事な林道を使って下山できると思う。でも、あの地域はあまりお勧めできない。

なにせ、沢沿いの道はけっこうな数のヒルが出没する。ズボンや靴下のほんのわずかな隙間から入り込んできて、血を吸う厄介者である。おまけに夏から秋の時期は日本オオスズメバチが狂暴化する。私の後輩も襲われたことがあるが、あれは逃げるしかない。しかも刺されれば痛いし、アナフィラキシーショックの可能性もある恐怖の襲撃者だ。

なまじ登山者が少ない山域ゆえに、けっこう危険性が高いのが特徴だ。

なんだか不快な情報ばかり書いているが、実はけっこう好きな山域でもある。温暖な静岡の気候のせいで積雪は少なく、冬の時期でも安心して登れる。稜線まで上がれば、一面黄色のススキが枯れた光景が目を奪う。夕焼けの時刻ともなれば、黄色から赤色に変り、やがて夜の闇に包まれる。空気の綺麗な冬ならば、遠く駿河湾を渡る船の灯が見える。

心穏やかに過ごすには、絶好の山域であった。もう山に登れない身体となったが、あの美しい光景は今も私の脳裏に刻まれております。

コメント (2)
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