ヌマンタの書斎

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「バカの壁」 養老孟司

2008-08-29 13:19:07 | 
馬鹿にするのは簡単だけど、実際問題としてバカの壁があることは安心だと思う。

大変に興味深いことに、人間という生き物は自分の立場が安定していることを求めて止まない。家庭における立場であり、職場における立場でもある。また、世の中への視線も安定していることに、安心を覚える。

「右だ、左だ」であったり「保守だ、革新だ」と区分けして自分の立ち位置を誇示することで安心を覚える。「いけてる、いけてない」とか「明るい、暗い」とか、単純に馬鹿でも分るように区分けするのが大好きだ。

老人は頑固だと決めつけ、若者はチャレンジすべきだと思い込む。世の中、そうあるべきだと固定観念に束縛され、真実から眼を背けてまでして安心を求めて止まない。馬鹿の壁は安心を保証してくれる。

馬鹿は戦争は悪いもので、民主主義は良いものだと決め付ける。本当にそうなのか深く思索することを避け、安易に決め付けることで仮初めの安心に安住する。疑問を呈すると、安定した私の幸せにケチをつけないでと頭ごなしに拒絶する。馬鹿と言われようと、凝り固まったイメージにすがり付き、真実から眼を背け続ける。

知らないほうが幸せなんだからイイでしょ!と開き直られたら、何も言い返せない。

私は真実の伝道師ではないし、義務や義理があるわけでもない。だから無理強いはしない。バカの壁に囲まれて安心しきっている幸せも分らないではない。

でも、私自身はバカの壁を乗り越えたいと思う。かつて、落ちこぼれの劣等生であった時から、真面目な優等生に変貌して気がついた、固定概念のバカらしさ。

マルクス主義の洗礼を浴びて平等思想に憧れを抱きながら、その理想がぐずぐずと崩壊していくのを横目に眺めつつ、足早に立ち去った。少し落ち着いて顧みて、そこで気がついた固定概念に囚われる愚かさ。

好きな女の子にちょっかい出せても、本当の気持ちを伝えられなかった臆病さ。自意識過剰で、相手の気持ちを慮れなかった軽率さ。そのことを率直に認めて、自身を守るバカの壁を乗り越えていたならば、きっと違う展開もあったと思う。

バカの壁は、現実逃避の壁でもあり、自らの愚かな虚栄心を守る壁でもある。でも、傷ついた自尊心を優しく包む壁でもあるから、一概には否定しない。それでも越えてみる価値はあると思う。
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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (kinkacho)
2008-08-31 23:10:48
この本を読んだ時「はいはいわかりましたよ。あんたは東大の先生ですからね~」とすごく反発しました。
養老氏の上から目線と世渡りの上手さが好きではないのかな。
何にせよ、「ゴマメね歯ぎしり」ですね。
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Unknown (ヌマンタ)
2008-09-01 13:34:41
kinkachoさん、こんにちは。養老先生は長年、解剖学といった地味な分野にいたせいか、自身が偉そうに語る性癖があることには無自覚なようですね。「バカの壁」は養老先生の談話をまとめたものだそうですから、上から目線が出ていたのだと思います。本当は「唯脳論」のほうが思想がはっきり出てると思いますが、あまり読みやすい本ではないです。

ところで、「ゴマメね歯ぎしり」といった言い回しは初めて目にしました。関西の言い方なのでしょうか?
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Unknown (三毛ネコ)
2008-09-01 15:15:32
はじめまして。私もこの本、英語で読みましたが、いろいろと考えるきっかけを与えてくれました。私はクリスチャンですが、これはまさにバカの壁を作っていることにほかなりません。もう少し広い視野を持つことが必要なのでしょうね。

私もこの本のレビューを書いています。よかったら読んでみてください。
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Unknown (kinkacho)
2008-09-01 17:34:17
入力ミスです。
正しくは「ゴマメの歯ぎしり」です。
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Unknown (ヌマンタ)
2008-09-02 12:23:18
三毛ネコさん、こんにちは。この本、案外否定的な批評が多いですね。私も初読の時は、なんじゃこれと思っていましたが、思い返し読み直して、それなりに良いことも書いてあると思った次第です。ただ、たしかに喩えのなかにはヘンなものもありましたね。
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Unknown (ヌマンタ)
2008-09-02 12:25:52
kinkachoさん、ご丁寧にありがとうございます。ネットで検索したら、同じタイトルのブログをみつけました。なんとなく意味が分りましたが、私の周囲では聞いたことのない言い回しでした。
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