この頃電車に乗ると自然に前の席の人に目が行き、お顔をつらつら眺めてしまう。そして、「この人の人生はいったいどんなふうだったのだろう」とお顔から想像する。83歳になって急に「面の皮」という言葉が脳裡をよぎるようになった。言葉の意味を熟考してみた。まずは人間の顔の皮膚である。「面の皮が厚い」と言えば態度までも意味する。生まれて間もない赤ちゃんから老いて皺だらけの皮膚に至るまで、表情には感情の流れまで表わされている。柔らかくてもちもちした顔から、引き締まった張りのある中年の面に。そして鍛えられ何物にも反発し得る強靭な皮膚へと変わっていく。最後は色あせて皺々、斑点やシミに覆われる。優しさで包み込んでくれそうなお顔、欲の皮まで突っ張ったお顔。出来たら眼前から消えてほしい容貌もあるが、本人は平然として得意に喋っていたりする。 人間、好感をもって迎えられる面の皮って幾年ぐらい続くだろう。幼年、青年、壮年。所詮心の動きが証しとして人生の面の皮に表れるのだと思う。「40歳を過ぎたら自分の顔に責任もたなきゃ」と言われるが、お迎えが来るまで澄んだ笑顔で!そして死に顔も美しい面(つら)でありたいねえ! (自悠人)