ディズニーのスティッチを描いているアトリエの作品だとかいう『ヒックとドラゴン』という映画が、数年前に日本でも上映されました。それ以前にもファンタジー映画や絵本でドラゴンが登場するものがあり、時にはドラゴンと中国文化が結びついて描かれていたりします。
調べ尽くしたわけでもありませんが、西洋で「ドラゴン」と呼ばれる空想の生き物と、東洋で「龍」と呼ばれる同じく架空の生き物とは、絵を見る限り、どうしても全然別ものに見えるのですが。
この写真は、横浜の中華街の真ん中にある関帝廟の屋根の龍です。中国らしいカラフルな力強さです。イメージ的には大蛇でしょうか。龍は、一般的にヒゲがいっぱい生えているので伊勢エビとたとえた人もいます。いずれにしても途方もなく長い胴で、空中を移動するのに、体のどの部分を使うのだろうと心配したくなります。羽根がついているわけでもないし… 地球の重力とは無関係に移動しているように思えます。そしていつも「天」にいるイメージです。
一方、ドラゴンのほうは一見恐竜のようで、大きく、四本足で、尻尾が胴から長く伸びています。背中に比翼がついていて、翼竜の一種と言えないでもありません。翼が上手く機能しないと、地面に落下してしまいます。一番の違いは、龍が賢者のイメージであるのに対して、ドラゴンは善にも悪にも荷担する可能性があり、“飼い主”次第のところもあるようです。
日本人作家が描く、ジブリの『ゲド戦記』に出てくるドラゴンもいます。西洋のイメージですね。原作のせいでしょう。
日本や中国の「龍」は西洋語に訳すと「ドラゴン」。しかしそのイメージは大きく異なります。
東西南北、対話が必要と言われることがたくさんあるこの世界ですが、たとえば世界共通語と称されて久しい英語で非西洋の何かを説明しようとしたら、早速こういうズレが生じるということなのでしょう。
文化の深み、人の心のひだなどというものは、龍とドラゴンのはなしとは比較にならないほど、ピタッと伝えられないのでしょうね。これは使う外国語の問題であると同時に、それ以上に、一人ひとりの中にある神秘の部分で、翻訳できない領域なのかも知れません。そんなことを考えながら、これからも龍とドラゴンを眺めます。