現在の金融危機の背景を知るのに好適な本であります(原題はTHE NEW PARADIGM FOR FINANCIAL MARKETS)。ジョージ・ソロス氏は米有力ヘッジファンドの運用者として、1兆3000億円ともいわれる資産を築いた人物で、著書「ソロスの錬金術」「グローバル資本主義の危機」「ブッシュへの宣戦布告」「世界秩序の崩壊」は世界的なベストセラーになりました。
本書はこの春に書かれたものですが、今回の金融危機を予測していることに驚きました。また巻頭には7月下旬に書かれた松藤民輔氏による解説文がありますが、その中に、株価は8月中旬から10月にかけて、再び20~30%の下げの可能性があるとされていますが、これもほぼ的中しています。
ソロス氏は、今回の金融危機は彼が「超バブル」と名づけた巨大バブルの崩壊過程のはじまりと捉えます。超バブルは米国の住宅バブルと区別される、市場原理主義者が育てた巨大かつ複雑な信用膨張であるとし、超バブルの生成の背景が、わかりやすく説かれます。問題の所在を的確に捉えた説得力のある説明です。ここで注目したいのは彼が自由な市場そのものが持つ不安定さを指摘している点です。市場に全幅の信頼を置く、市場原理主義を強く批判します。
自由な市場では、何らかの原因で価格が上がれば、価格上昇が需要を抑制すると共に供給の増加を促すことで価格は下がる方に向かい、やがて均衡値に収斂すると理解されています。つまり価格が需給を調整し、安定化するという前提で市場は成立します。ところが彼は「価格が上昇すれば買い手が集まり、価格が下がれば買い手が逃げ出すのが市場なのだ」と、正反対のことを主張します。それは商品市場、株式市場、通貨市場を少しでも観察すれば価格変動における正のフィードバックの方が一般的な姿であるということは明らかだとします。
最近の原油価格や穀物価格、通貨価格の急激な変動を見ると、ソロス氏の説明にも納得がいきます。また彼は市場の不安定さの理由として独特の「再帰性」理論というものを提示します。簡単に言うと市場参加者の行動が市場に影響を与え、それがまた参加者に影響を与えるというフィードバックがあるため、市場の動向を予測するのは不可能であるということです。
また、次の記述は大変興味深いものです。
「市場原理主義者は有害さにおいてマルクス主義の教義に劣らないというのが私の考えだ。マルクス主義も市場原理主義も、世間に受け入れられようとして科学を装うが、どちらが産み出す理論も現実による検証には堪えないものである」
これに続く記述は少しわかりにくいのですが、ソロス氏は社会科学に自然科学と同じ方法を用いることの危険を指摘しています。社会現象は操作可能であるため、理論に限界があるためとされますが、これは社会科学の理論の不完全性のためであると、より広く理解してもよいと思います。
私見ですが、市場原理主義など、なんとか主義というのが多く存在します。○○主義の根拠になる理論は、複雑な社会現象を扱う限り、自然科学の理論のように精緻なものではあり得ません。したがってそこから得られる解はせいぜい確率的なものであり、適用範囲も限定されるのが普通です。市場原理主義のように、それがひとつのイデオロギーとなると、過大評価され、本来の限界を超えて適用される危険があります。これは市場原理主義だけでなく、他の○○主義についても言えることであり、注意する必要があると思います。
一部の関係者によって今回の危機は100年に一度のものだといわれていますが、それは超バブル説を裏付けているようにも受けとれます。超バブルが存在するなら、それが崩壊する過程で大きな混乱が予想されます。今後の関心は崩壊がソフトランディングできるかどうかになるでしょう。
本書はこの春に書かれたものですが、今回の金融危機を予測していることに驚きました。また巻頭には7月下旬に書かれた松藤民輔氏による解説文がありますが、その中に、株価は8月中旬から10月にかけて、再び20~30%の下げの可能性があるとされていますが、これもほぼ的中しています。
ソロス氏は、今回の金融危機は彼が「超バブル」と名づけた巨大バブルの崩壊過程のはじまりと捉えます。超バブルは米国の住宅バブルと区別される、市場原理主義者が育てた巨大かつ複雑な信用膨張であるとし、超バブルの生成の背景が、わかりやすく説かれます。問題の所在を的確に捉えた説得力のある説明です。ここで注目したいのは彼が自由な市場そのものが持つ不安定さを指摘している点です。市場に全幅の信頼を置く、市場原理主義を強く批判します。
自由な市場では、何らかの原因で価格が上がれば、価格上昇が需要を抑制すると共に供給の増加を促すことで価格は下がる方に向かい、やがて均衡値に収斂すると理解されています。つまり価格が需給を調整し、安定化するという前提で市場は成立します。ところが彼は「価格が上昇すれば買い手が集まり、価格が下がれば買い手が逃げ出すのが市場なのだ」と、正反対のことを主張します。それは商品市場、株式市場、通貨市場を少しでも観察すれば価格変動における正のフィードバックの方が一般的な姿であるということは明らかだとします。
最近の原油価格や穀物価格、通貨価格の急激な変動を見ると、ソロス氏の説明にも納得がいきます。また彼は市場の不安定さの理由として独特の「再帰性」理論というものを提示します。簡単に言うと市場参加者の行動が市場に影響を与え、それがまた参加者に影響を与えるというフィードバックがあるため、市場の動向を予測するのは不可能であるということです。
また、次の記述は大変興味深いものです。
「市場原理主義者は有害さにおいてマルクス主義の教義に劣らないというのが私の考えだ。マルクス主義も市場原理主義も、世間に受け入れられようとして科学を装うが、どちらが産み出す理論も現実による検証には堪えないものである」
これに続く記述は少しわかりにくいのですが、ソロス氏は社会科学に自然科学と同じ方法を用いることの危険を指摘しています。社会現象は操作可能であるため、理論に限界があるためとされますが、これは社会科学の理論の不完全性のためであると、より広く理解してもよいと思います。
私見ですが、市場原理主義など、なんとか主義というのが多く存在します。○○主義の根拠になる理論は、複雑な社会現象を扱う限り、自然科学の理論のように精緻なものではあり得ません。したがってそこから得られる解はせいぜい確率的なものであり、適用範囲も限定されるのが普通です。市場原理主義のように、それがひとつのイデオロギーとなると、過大評価され、本来の限界を超えて適用される危険があります。これは市場原理主義だけでなく、他の○○主義についても言えることであり、注意する必要があると思います。
一部の関係者によって今回の危機は100年に一度のものだといわれていますが、それは超バブル説を裏付けているようにも受けとれます。超バブルが存在するなら、それが崩壊する過程で大きな混乱が予想されます。今後の関心は崩壊がソフトランディングできるかどうかになるでしょう。
考えたらわかりますが
今までの通説は基盤を失いそうですね
やっぱソロスが言うから説得力あります
おっしゃる通り従来の前提条件とされていたものに疑問を突きつけたものです。
実務家としての長い経験の裏づけがあるためでしょうか。理論先行ではない新しい視点があります。
「再帰性理論」に関しては評価されるものなのか、それともあたりまえのことなのか、よくわかりません。
とにかく興味深い本です。