噛みつき評論 ブログ版

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二項対立の愚かしさ

2021-11-21 22:34:47 | マスメディア
 立憲民主党など左派野党は、これからは是々非々でいくと公言しているようである。是々非々とはよいことは認め、悪いことは否定する、と言った意味だがこれは当たり前のことである。それをわざわざ今後の姿勢として表明しなければならないのは、いままでその当たり前のことができていなかった事実を物語る。つまり「なんでも反対党」と揶揄されたように、よいことも悪いことも反対、つまり物事の可否を考える前にまず反対してきた長年の実績がある。これには思考能力つまり頭が要らないという利点もある。

 彼らの狙いのひとつは与党との対立を作ることであったと思われる。対立構造そのものが世間の注意を引き、党の存在感を高める効果があると考えたのだろう。小説や映画でもその中に対立構造を組み入れることはほぼ必須のことと言っていい。読者・鑑賞者はどちらが勝つか負けるかとハラハラしながら興味をかき立てられる。極端な例はスポーツで、勝敗が興味の中心であり、対立構造は不可欠となる。コンクールや様々なランキングも同様である。対立は娯楽でもある。

 スポーツや小説・映画の類での対立にたいした害はない。しかし政治の左右対立などは有害である。例えば経済政策において積極財政派と緊縮財政派は長年対立している。積極財政派は国債をどんどん発行し成長を促すというもので、財政規律には寛容である。逆に緊縮財政派は成長より財政の健全化を重視する。経済成長と財政の健全性はトレードオフの関係と言える部分があり、最適点を求めることこそが重要である。両者の主張する両極端の考え方は非現実的で、両者の主張の中間に最適点がある。国際の発行額で言えばこの程度の発行額までなら信用不安やインフレを起こさない、と示すことが有用で、それこそが経済学者に求められる。しかし現実の議論は両極端の論争ばかりで、あまり意味がない。議論の対立を楽しんでいるようにも見える。そして永遠に議論を続けていれば飯が食えるのである。優れた学説が出現して議論が収束することを誰も望まない。

 政治に於いては左右の対立が長年続いてきた。共産主義は一見、実に魅力的に見えることも事実で、多くの若者を魅了してきた。しかし社会システムとして現実的ではなく、情報統制などを含む強力な支配がなければ成立しないことが明らかになった。にもかかわらず、その影響を受けた左派勢力は現在も野党やメディアに広く存在する。彼らとの政治的な対立構造はかなりの害を生み出した。例えば無意味な政治的対立のために国会の機能の多くが浪費されてきた。しかし対立は彼らの糧でもある。いささか迷惑であるが。

 我々の心には平穏を望む気持ちと同時に対立を望む気持ちがあるようだ。どちらが優勢になるかは状況によるのだろう。また、平和主義の人がいる一方、すぐにカッカして喧嘩をしたがる人がいるように生来の性格にも関係するのかもしれない。

 対立は、当初は純粋な考えの相違であったかもしれないが、やがて感情的な対立に進むことが多い。そうなると議論の正しさの追求より、対立相手を屈服させようという動機が大きくなってくる。この段階になると両者の中間にあるはずの最適点を見つけるといった努力は忘れられ、対立だけに焦点があてられる。かくして学会や国会で効率の悪い議論が延々と続くことになる。時間の浪費であると同時に娯楽でもある。