噛みつき評論 ブログ版

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メルケル会見を歪曲報道

2015-03-30 09:14:13 | マスメディア
 存在しないことを事実のように報道する、つまり捏造を疑われるような報道は効果的だけどバレたときのリスクが大きい。昨年の朝日の騒動に見られた通りです。これに対して恣意的に特定部分を伏せる報道は効果の点では捏造に劣るもののバレにくく、万一バレたとしても大きな批判を浴びるリスクは少ないと考えられます。具体例を、またまた「事例豊富」な朝日新聞から拝借させていただきます。

 3月9日、メルケル独首相は来日し安倍首相と会談し、その後、記者会見に応じました。翌10日、朝日の一面トップを飾ったのは「過去の総括 和解の前提」「歴史問題に言及」の文字。この記事だけを読むと日本は過去の総括を行っていないから近隣諸国と和解できないのだ、とメルケル首相が述べたように受けとってしまいます。中国や韓国の立場を優先する朝日らしい記事です。

 しかし同日の講演でメルケル首相は不倶戴天の敵であったドイツとフランスの関係が和解から友情に発展した理由を二つ挙げています。それはフランスの寛容と、ドイツの過去を直視する姿勢です。しかし朝日の一面トップ記事からは「フランスの寛容」は見事に抜けています。10面全部を使った講演全文の中に載っていますが、読む人はほとんどいないでしょう。「フランス(隣国)の寛容」という言葉は中韓を批判することになるので朝日は使うことが出来ないというわけです。

 日中あるいは日韓の関係悪化の原因はなんとしても日本側にあるという思いがこの記事からにじみ出ているようです。それは従軍慰安婦報道に表れた朝日の体質とも通じるものです。どちらも事実を正確に伝えるという報道機関の職業倫理の点で落第です。

 韓国の有力紙、朝鮮日報はこのメルケル発言を受け、社説で(日本が)過去を直視する必要性と共に「寛容」を韓国が示さなければならない日が来ると述べたそうです。むしろ朝日よりこの韓国紙の方が公正で信頼に値します。

 朝日は昨年の慰安婦報道、吉田調書報道で強い批判を受け、何度も反省の言葉を口にしましたが、体質はあまり変わってないようです。変われないならば、正義面を返上し「我々はまあこんなものです。記事はたいてい曲げてあります」と公言されてはどうでしょう。読者もそのつもりで読むので、あまり誤解も生じないと思うのですが。

 一般に中高年のアタマは硬化が進んでいるので簡単には変わりません。従って中高年が支配する組織は容易に変わらないということが教訓となるでしょう。

世論調査のでたらめ報道

2015-03-23 09:12:22 | マスメディア
 毎年実施されている内閣府世論調査の結果が21日付で発表されました。これを伝える朝日、産経、毎日の各記事は元ネタが同じとは思えないほど「個性的」であります。単なる発表ものを記事にするのにこれほどまで「加工」するのか、と呆れます。また購読する新聞によっていかに認識が違ってくるかを示す好例です。以下に各紙の記事を紹介します(引用のために長文になってしまいました。ご容赦を)。

[朝日]
『地域格差「悪化している」29.6% 内閣府世論調査、6年ぶりの高水準』
という見出しに続いて「地域格差」が悪い方向に向かっていると答えた人の割合の推移を表すグラフを掲げています。以下、記事本文の主要部分です。

『景気悪化を感じる人の割合も1年前より大幅に増えた。アベノミクスによる景気回復の実感が広がらず、格差の拡大を感じる人が増えている実情が浮かび上がった。
 「悪い方向に向かっている分野」(複数回答)との質問では、「景気」を挙げる人の割合が30.3%と昨年同期の調査より11.3ポイント増えた。「地域格差」は29.6%と5.9ポイント増で、2009年の調査の31.3%に次ぐ6年ぶりの高い水準となった。これに「国の財政」(39.0%)、「物価」(31.3%)、「雇用・労働条件」(27.8%)を加えた経済関連が、上位5分野を占めた。昨年の調査でトップだった「外交」は、13.2ポイント減って25.2%となった。
 一方、「社会で満足していない点」(複数回答)では、「経済的なゆとりと見通しが持てない」を挙げた割合が昨年より9.8ポイント増の46.9%でトップ。「若者が社会での自立を目指しにくい」が4.5ポイント増の40.1%で、安倍政権が社会保障改革で重視してきた「家庭の子育て」が「しにくい」とする回答は、2.2ポイント増の28.8%。看板政策に掲げる「女性の社会での活躍」が「志向しにくい」との回答が3.3ポイント増の25.5%で続いた』

 朝日は「悪い方向に向かっている分野」「社会で満足していない点」というネガティブな項目だけを取り上げ、悪化する暗い社会というイメージを作り上げました。よくもここまでできるものだ、と感心します。

[産経]
『内閣府世論調査 75%が「愛国心を育てる必要あり」…否定的な回答を大きく上回る』という見出しにつづく本文の主要部は以下の通り。

『「国民の間に『国を愛する』気持ちをもっと育てる必要があるかどうか」を尋ねたところ、75.8%が「そう思う」と回答した。教育現場などで愛国心を養う機会を増やすべきだという意見が大勢を占めた格好だ。
 国民が「個人の利益」と「国民全体の利益」のどちらを大切にすべきかを尋ねた質問では、「国民全体の利益」が50.6%と、20年の調査から8年連続で半数を超えた。「個人の利益」との回答は31.4%だった。
 日本が良い方向に向かっていると思う分野を複数回答で聞いたところ、「科学技術」(30.1%)、「医療・福祉」(26.7%)、「防災」(21.3%)が上位を占めた。悪い方向に向かっていると思うのは「国の財政」(39.0%)、「物価」(31.3%)、「景気」(30.3%)と続き、いずれも前回調査を上回った』

 愛国心や公益を取り上げるなど、自らの主張に都合のよいものを取り上げる点は朝日と同様ですが、「悪い方向に向かっている分野」「良い方向に向かっている分野」を共に取り上げている点は朝日よりマシと言えるでしょう。

[毎日]
『内閣府世論調査:「社会に満足」60% 外交「悪い方向へ」38%』
の見出しに続く記事の主要部は以下の通り。

『全体として今の社会に満足しているかどうかを尋ねたところ、「満足している」が7・7%、「やや満足している」が53・1%と、ともに昨年2月の前回調査から増え、計60・8%(前回53・4%)だった。良い方向に向かっている分野(複数回答)を聞いたところ、「景気」が前回の11%から22%に倍増。悪い方向に向かっている分野(同)では「外交」を選んだ人が最も多く、38・4%(前回35・9%)だった。
 良い方向に向かっている分野では、「医療・福祉」が27・6%で最も多く、「科学技術」が25・1%で続いた。「景気」は前回から伸びが目立つようになり、内閣府は「景気回復や雇用状況の改善が浸透してきた」と分析している。
 一方、社会に「あまり満足していない」は31・8%、「満足していない」は6・9%で計38・7%。前回の46・1%から7・4ポイント減少した。
 悪い方向に向かっている分野は「外交」に次いで「国の財政」32・8%▽「雇用・労働条件」28%--などの順。「財政」と「雇用」への不安が前回より減ったのに対し「外交」は増え、1998年に同じ設問にしてから初めてトップになった。中国や韓国との関係悪化などが影響したとみられる。
 調査では「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」「個人生活の充実をもっと重視すべきだ」のどちらの意見に近いかも質問。「国や社会」が49・5%で、「個人生活」の39・1%を上回った』

 毎日は比較的バランスの取れた記事になっています。ただ「悪い方向に向かっている分野」で外交がトップとなったとしていますが、他社の記事では逆に前年の38.4%から25.2%にまで減少となっており、恐らく誤りだと思います(初歩的かつ重大な誤りですね)。直接内閣府のHPで確認できればよいのですが現在掲載されていません。これは同時発表するとメディアの存在理由が減少するので、メディアに配慮してわざと遅らせているのだという話があります。記者クラブの圧力なのか知りませんが理不尽なことです。

 発表内容と記事内容との乖離という点で、やはり朝日は突出しています。事実をそのまま伝えるのがメディアのモラルなら、朝日のモラルの低さは最高というわけであります。さすが、というべきでしょうか。やはりというべきでしょうか。昨年の謝罪騒ぎなどまったく意に介しないような傲慢ぶりはお見事です。

 朝日はもちろん突出ですが、産経もけっこう恣意的で、客観的報道とはとても思えません。また毎日は比較的客観性があるものの重大な誤りを犯すお粗末さ。一体どれを信じればよいのでしょう。単に発表を伝えるだけで、それほど難しい報道ではないと思うのですが。

鳩山元首相の生みの親

2015-03-15 23:24:31 | マスメディア
 "あの"鳩山元首相が政府の反対を押し切ってクリミアへ出かけて行き、ロシアによる編入を肯定するようなあきれた発言が話題になっています。この人のあきれるような行動は今に始まったことではありませんが、このような国益を損なう行動を止める方法はないようです。

 "あの"人が国際的な影響力を持つのは元首相という肩書きのおかげですが、困ったことにこの肩書きは過去のことを表しているだけなので取り消すわけにはいきません。1000円札を拾ってネコババするだけで罪になりますが、国益を大きく損なった場合は何の罪にも問われません。某新聞による虚偽の慰安婦報道と同じです。このような事態は予想困難であり、法治主義の弱点と言えるでしょう。お近くの国のように人治主義なら簡単に対応可能ですけれど。

 元首相という看板が重みを持つのは首相に選ばれたほどの人物なのだから、見識や能力も一流に違いないという常識があるからでしょう。鳩山氏はその世界の常識を見事にひっくり返した人物ということになります。短期間とはいえ、このような人物がかつて首相として君臨した事実は日本の恥辱であり、世界には知られたくないことです。

 非常識な人物を首相に選んだのは日本国民ですから我々の見識も疑われます。しかしそんな人物を党首にもつ民主党への投票を促したのは左派系のメディアであり、彼らの見識・判断能力が疑われます。

 そしてもっとも見識・判断能力が問われるべきは民主党でありましょう。彼らは間近に"あの人"を観察できる立場にありながら党首に選んだわけですから。つまり「生みの親」である民主党とそれを持ち上げたメディアは"あの人"の行動に責任を感じなければならない立場であります。

 左派メディアも共犯と言えるでしょうが、民主党は元首相という看板を"あの人"に与えた張本人です。「関知せず」と言って逃げるのは卑怯というものです。せめて「あれは間違って首相に選んでしまった人です」と声明を出されてはどうでしょうか。そして共犯者のメディアはそれを世界に大きく報道するのが筋というものです。

増幅装置

2015-03-07 22:21:25 | マスメディア


 上図はNHKニュースのアクセスランキングです。3月2日までの1週間分の集計ですが、なんと7位までが中1生徒殺害事件で占められ、かなりの期間、この事件へ世間の関心が集中したことを示しています。NHKはとりわけこのニュースに熱心で、テレビ・ラジオとも連日のようにトップで報道していた印象があります。そして続報の多くは瑣末なことと思われます。

 この事件がたいへん衝撃的であったことは確かですが、それにしてもこの報道とその結果としての世の関心は大きすぎるように感じます。報道が関心を呼び起こし、関心が高まることによって関連する報道が勢いづき、さらに強い関心を呼ぶ、という循環が起きているように思います。

 演説会の会場などで拡声器のボリュームを上げすぎると、ピーという大きな発振音が出ることがあります。これはハウリングと呼ばれ、スピーカーから出た音をマイクが拾い、それがアンプで増幅されてスピーカーから発せられ、再びマイクが拾うという循環が拡大していき、ついに発振する現象です。フィードバックとも呼ばれますが、報道機関と視聴者による循環によって生じる過熱報道はこれとよく似ています。

 循環拡大を起こす大きな要素は視聴率でしょう。視聴者の関心に迎合する姿勢です。1週間も7位まで独占といった極端な状態では、他の重要ニュースが片隅に追いやられているわけです。この時期は国会の開会中でもあり、必要なものを知らせるというメディア本来の役割が十分果たされないことを意味します。またそれほど視聴率を気にする必要がないNHKが民放よりも熱くなるようではその存在理由すら怪しくなります。世間がカッカしていても冷静さを保つのがその役割だと思いますが。

 集中報道はたいてい正邪を強調したわかりやすい形をとります。つまり正の側の悪い点や邪の側の良い点はまず報道されません。その結果、世論が極端な方向に流れてしまうことが起こります。少年法は衝撃的な事件が起きるたびに改正が行われてきましたが、今回の事件でも少年法の改正が取り沙汰されています。法改正のきっかけになるのはよいのですが、軽率な報道に流されない、冷静な議論を望みたいものです。

 ついでながら、奥野修二著「心にナイフをしのばせて」は1969年、同じ川崎市で起きた同級生による15歳の少年惨殺事件について書かれた本です。被害者の遺族に焦点を当てたもので、家族を失った遺族が癒されることのない傷を負う一方、謝罪をも拒否する加害者が弁護士として成功する事実が描かれています。少年法によって保護される加害少年に対し、援助もなく放置される被害者の問題を提起した本です。

ベストセラー

2015-03-01 23:24:55 | マスメディア
 一冊の本が世の中を変えるほどの力を持つことがあります。例えばダーウィンの「種の起源」はキリスト教の世界観を根底からひっくり返すほどのインパクトがありました。またマルクスの「資本論」は政治体制の革命を引き起こしました(功も罪も巨大でしたが)。最近のベストセラー、トマ・ピケティ教授の「21世紀の資本」はそれらに近い影響力を持つものかも知れません。

 1月から2月にかけNHK-Eテレで「パリ白熱教室 トマ・ピケティ講義」が6回放送されました。とてもわかりやすく興味深い内容で、私が学生の頃、こんな講義をしてくれる先生がいたらもっと授業に出ていたのになぁ、なんて感慨深く考えてしまいました(不勉強の言い訳とも言えますが)。放送は終了しましたが、ユーチューブで「パリ白熱教室」と検索すれば見ることができます。

 一言でいえば、彼は格差が拡大するという資本主義の性格を過去の事実から実証したわけですが、同時に資産と所得が大きく偏って分布していることに光を当てることになりました。とりわけ米国では上位10%の人たちが資産の70%を所有するなど、資産の極端な偏在は今まであまり知られていなかったと思われます。

 彼は「あまりにも長きにわたり、経済学者たちは富の分配を無視してきた」「最初の結論は、富と所得の格差についてのあらゆる経済的決定論に対し、眉にツバをつけるべきだというものとなる」と序文で述べています。

 今だから素人の私にも言えるのですが、なぜ経済学が富の分布状態に目を向けてこなかったのか、不思議です。社会を経済的な側面から研究しようとするのが経済学ならば、富の分布状態を明らかにするのは基本的なことだと思うからです。少なくとも、ごまんといる経済学者の数が足りなかったわけではないでしょう。「20世紀の資本」がベストセラーになり、賞賛されたのは従来の経済学の方向性が大きくずれていたからだと考えてもよいでしょう。

 データの収集などに15年も費やした「21世紀の資本」は日本で13万部、世界では150万部も売れたと言われています。この種の本としてはベストセラーだそうです。一方、口述したものを短時間で本にした「バカの壁」は朝日・毎日・読売が絶賛し400万部以上の大ベストセラーになりました。比べるのも失礼な気がしますが、部数と価値は全く比例しないという好例です。