噛みつき評論 ブログ版

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クソ真面目の罪

2013-05-27 09:57:42 | マスメディア
 この3月、北海道湧別町の地吹雪の中で、父親が娘を抱いたまま亡くなるという痛ましい事故が起きました。そのとき救助に向かった消防がすぐ近くまで行きながら、父親の携帯電話の位置情報を携帯電話会社から得ようとしたが得られず、父娘の捜索を中断していたことが、なぜか事故から2ヶ月以上経ってから報じられました。携帯電話会社が直ちに位置情報を提供しなかったのは個人情報保護のためであったそうです。

 福島第一原発の事故ではバッテリーが間に合わなかったために炉心溶融が起きた可能性が指摘されています。バッテリーが緊急に手配されたものの積んだトラックは高速道路の通行許可がなかなか得られず、到着したのは2日以上経った14日の午後8~9時で、すでに炉心溶融、3号機の爆発が起きた後でした。

 どちらも関わった人間が真面目に規則やマニュアルに従った結果です。誰にも咎められることはありません。判断を迫られた担当者が事態の緊急性をどこまで理解していたかが不明なので担当者の機転のなさを責めるわけにもいきません。

 日本の鉄道は運行時間の正確さで世界に例がないほどであるとされています。南米のある国では遅れることが日常茶飯事で、あるとき珍しく定刻に到着したと思ったら前日の列車であったというエピソードがあるほどです。一般にラテン系の民族は日本人と対照的に語られます。また日本の消費者の目の厳しさも世界一といわれます。恐らく2番目はドイツでしょう。

 第2次対戦で日本はひどい負け方をしました。なぜ戦争を始めたかという視点も大切ですが、なぜあれほどの犠牲を払うまで戦争終結を図らなかったのかという視点も重要です。かつて外交問題の解決手段としての戦争はそれほど特別なものではなく、多くの国が採用していました。しかし日本が敗色鮮明となっても降伏しなかった事実はかなり特異なものと思われます。文句を言わず、組織の論理に従うという生真面目さが災いしたとも考えられます。

 たいていの物事には二面性があります。真面目さは美点として肯定的に語られますが、裏面には視野狭窄、思考の硬直性、すぐ必死になる傾向などが存在します。また真面目すぎては本人はもとより周囲も面白くありません。

 どれも規則を重んじた真面目な(硬直的な)対応ぶりが招いた災厄です。ではどうすればよいのでしょうか。5月22日の朝日新聞には「携帯会社もマニュアル化を」と見出しで次のように述べています。
「消防などが情報提供を求める際に的確に状況を伝える必要がある。携帯会社側も具体的ケースを想定し、担当者がすぐ判断できるようにマニュアル化した方が良い」

 これは問題が起きるたびにマニュアルを増補・改訂していく方法で、誰でも考えつくものです。しかしマニュアルでは予想外の事態には対応できません。マニュアルがどんどん複雑になっていくのも問題です。さらにはマニュアルに従うばかりで、自分で考えないロボットのような人間を増やすことにもなります。マニュアルですべてに対応できるなら、人間を置く必要はなく、ロボットで十分です(可能なら)。

 マニュアルに頼るばかりではなく、人命や重大事故ににつながると判断される場合は必要に応じてマニュアルや規則を無視してもよいとする考え方があってよいのではないでしょうか。この一行があれば、杓子定規でない合理的な対応が可能になります。また自分で判断する人間を育てることにも役立つことでしょう。法の支配を崇める人々には嫌われそうですが、条件によっては不法行為を問われない緊急避難という概念が既に存在します。

 法を無視するやり方、つまり超法規措置はダッカ・ハイジャック事件のとき、なんと政府自らが実施しました。人命を救うためとはいえ、犯人グループに加担したことになり、テロリズムを助長するという非難を世界から浴びました。超法規措置でも犯罪に加担すれば問題ですけれど、超法規措置は政府でもやっているということであります。あまり一般的になりすぎても困りますが。

健康食品サプリのウソ・ホント

2013-05-20 09:55:01 | マスメディア
 健康食品というと愛用する人がある一方、何となく胡散臭さを感じる人があります。国に認可された特定保健用食品を除けば、健康食品は効果を裏付けるデータを必要とせず、当然のことながらその効果をうたうこともできません。しかし現実は有名人に効果があるような言葉を言わせ、いかにも効果があるかのようなイメージの広告が溢れています。そこにはたいてい小さな文字で「これは個人の感想です」という「但し書き」がついています。CMに頼る販売が続いていることは健康食品は効果があると思わせることに成功していることを示します。
 週刊ダイヤモンドは昨年の11月24日号で「健康食品サプリのウソ・ホント」という特集記事を載せました。2兆円市場といわれるほど規模の大きい商品であるにもかかわらず、評価するための十分な材料がないと感じていたので、この特集はそのような期待に応えるものでした。

 特集は32ページにわたるもので、以下のように4つ部分から成っています。
Prologue 2兆円市場の真実
Part1  健康食品・サプリの真実
Part2  消費者だましのテクニック
Epilogue 健康食品と正しく付き合う

 この目次からおおよその内容が想像できると思いますが、加工賃を含めた原材料費は販売価格の1割程度であるとか、かなり掘り下げた内容となっています。まあそれはさて措き、メディアとの関係についてこんな一節があります。

「健康食品業界の広告出稿量は自動車、通信、ソーシャルゲームに次ぐ大きな存在。(中略)メーカー側にとっても、新聞やテレビは欠かすことができないメディア。通販が中心のビジネスだから広告をやめるという選択肢はない。(中略)新聞やテレビの営業担当者は日々、メーカー詣でにいそしんでいる」

 大手メディアには健康食品に関するネガティブな情報がほとんど載らない事情がわかるような気がします。メディアと健康食品業界、こういうのをWIN-WINの関係と言うのでしょうね。羨ましいことです。

 健康食品は効果の裏づけがなくても堂々と販売でき、しかも効果の判断が難しいものです。これは宗教とよく似ています。宗教は御利益の裏づけ(あるわけがないですが)もなくてもあるように見せかけて金品を集めます。ネガティブな情報がメディアに載りにくい点も似ています。かつて毎日新聞は創価学会の批判を連載し始めたものの、不買運動の脅しや主力銀行へ圧力かけた学会に屈し、見事に筆を折った事件がありました。以来、宗教はメディアにとってタブーのような存在になっています。

 健康食品や宗教のように消費者にとって判断が難しいものにこそ十分な情報が必要です。メディアは日々膨大な情報を提供してくれますが、評価に役立つ情報はほとんどありません。健康食品や宗教にはまともなものもあれば怪しいものもあるわけですが、信頼できる情報がなければ判断できません。

 余談ですが、感心なことにこの週刊ダイヤモンドの特集は朝日新聞が発行するWEB新書に「健康食品・サプリが危ない」と題名を変えて転載されています。朝日はこの特集の意義を認めたのだと思いますが、それにしてはなぜか値段が高いのです。165ページある週刊ダイヤモンドは690円なのですが、WEB新書は32ページの特集がわざわざ4冊に分割され、一冊が210円、合計840円となります。ページあたりの単価はなんと6.28倍。関西ではこういう商法をボッタクリと称します。

 電子出版のコストは非常に低いにもかかわらず高く設定したのはあまり読んでほしくないためでしょうか、あるいは少しでも多く儲けたいという強いお気持ちの表れなのでしょうか。世に役立つものなら広く読んでもらいたいと考えるのがまともなメディアの筈ですが、どう理解すればよいのでしょうか。

風疹の流行はマスコミのせい?

2013-05-13 10:04:43 | マスメディア
 風疹の大流行に焦点をあてた5月9日のクローズアップ現代は興味深いものでした。妊娠初期の女性がかかると高い率で赤ちゃんに障害が出るという風疹、その感染者数が昨年の30倍に達したというこの現象は決して偶然のものではなく、日本のワクチン行政の不備の結果であるとされます。そして感染症対策が進む先進国の中で、なぜか日本だけが大きく遅れ、感染症の輸出国とまで言われるようになった経緯が説明されます。

 かつてワクチン接種による健康被害が大きな社会問題になったことをご記憶の方も少なくないと思いますが、当時はワクチンとその義務的な接種の仕組みが悪玉扱いされました。ワクチンの被害とデメリットばかりを強調したマスコミ報道が続きました。

 そして80~90年代、ワクチン被害の訴訟において国の敗訴が相次ぎ、96年、義務から勧奨、学校での集団接種から医療機関での個別接種に転換されたことがこの流行の原因とされます。接種率が大きく下がったからです。

 当時の事情を厚労省の担当者は次のように述べていました。
「世論もかなりワクチンに対しネガティブなイメージを持っていました。副反応、あるいは健康被害に対し国民の注目が集まれば行政としてはそれを無視して前へ進めることはできません」

 つまり、ごく少数のワクチンによる健康被害→マスコミによる大々的報道→ワクチンは怖いものという世論の形成→国の敗訴→接種義務の廃止、という流れであったと考えられます。これは民意に従った故の失敗例、あるいは衆愚政治の一例と言えるでしょう。

 たいていのワクチンは僅かな確率ながら被害が発生します。これが100万分の1の確率であっても大きく報道すれば人々は危なく感じます。恐怖心は確率の大小よりも報道の大小によって強く影響されます。大袈裟なマスコミ報道が誤った世論を形成し、ワクチン行政を歪めたわけです。

 ワクチンのデメリットばかりを強調するメディアが天然痘の撲滅など、ワクチンによる膨大な利益に十分な理解をもっていたか、疑わしいものです。また感染を封じ込めることによる社会の利益よりも、個人的利益を重視する傾向も感じられます。

 国の対応も問題ですが、民意に反したことをやればメディアから何を言われるかわかりませんから、ある程度仕方がなかった面があります。なんといっても民意を反映することが最も重要と考えているメディアが多いですから。これが民主的なやり方だ、と言われれば反論できない世の中です。泣く子も黙る民主主義。

 番組によれば、米国ではワクチンは感染症から個人を守るだけでなく社会を守るものとして位置づけ、集団の免疫レベルを高めれば感染を封じ込めることができるとされています。ワクチン接種を徹底し、風疹の感染者はわずか年間10人だそうです。

 日本ではマスメディア、裁判官、行政、いずれも十分な認識を欠いたまま目先の感情に流され、10年後20年後のことなど考慮しなかったのでしょう。感染症の専門家による警告を無視し、感染の広がりを許すという恥ずかしい結果を招きました。米、英、独、仏、伊、いずれの国もこのようなことはありません。この差は何ゆえなのでしょうか。メディア、行政、あるいは国民のレベルの差?

民主党の偉大な功績

2013-05-06 07:45:20 | マスメディア
 昨年まで政権を担った民主党の最近の支持率は4~6%、まことに劇的な変化ですが、この程度の支持率がその実力にふさわしいと思われます。ところが09年8月の総選挙ではこの民主党は圧倒的な支持を受けました。けれどもこの時期の民主党が素晴らしい政党であったとはとても考えられません。従って有権者が民主党を見誤った、つまり民主党に騙されたということになりましょう(騙されるほうが悪いともいえますが)。

 では民主党の騙し方はそれほど巧かったのかというと、そうとも思えません。ただ多くのマスメディアはすっかり騙されました。朝日新聞などのメディアが民主党を持ち上げた結果が09年の選挙でありました。かなりの見識を持った人までも民主党に票を投じたと聞きます(幸運にも私はメディアをあまり信用せず、民主党幹部の顔と言動から判断したため、民主党に騙されることはありませんでした。顔で評価すると間違うこともありますが、数人の幹部の顔による評価なら平均化されるので信頼性は高くなります)。

 我々は商品を買うとき、そのメーカーの宣伝文句はあまり信用しません。悪いことは言わず、良いことばかり並べるのを知っているからです。しかし第三者が良いと言えば客観性があるとして、信用してしまいます。メディアは選挙に関する情報をほぼ独占的に有権者に提供する上、彼らは形の上では第三者として情報を提供するので、有権者は簡単にコントロールされます。

 選挙という民主的な方法によってとんでもない無能政権が誕生したことは民主主義体制の深刻な問題です。民主的なワイマール体制から危険なヒトラー政権が生まれた事実は民主主義の限界を示す例としてしばしば紹介されますが、今回の政権交代は「危険」が「無能」に変わったものの、同様な民主主義の失敗の例、とくにメディアが主因となった失敗例として後世に記憶されることでしょう。ともあれ我々は民主党のおかげで民主主義の危うさとメディアの信用度について新たな知見を得たと言えるでしょう。

 当然、メディアには大きな責任があると思いますが、責任を取るどころか騙した事実さえも認めようとしません。政権を左右するだけの影響力を持ちながら何ら責任を問われない仕組みが変わらない限り、メディアの無責任体質は続くものと思われます。

 民主党のもうひとつの功績は、マニフェストや公約にいくら綺麗事を並べても現実性と実現するだけの能力が備わっていなければダメだ、ということを知らしめたことです。社民党の凋落はおそらくそのせいであり、「なんでも反対」で食ってきた野党にとっては手痛いことでしょう。けれど、これはひとつの進歩です。民主党様に感謝しましょう。