噛みつき評論 ブログ版

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米国の内部変化に注目

2016-03-28 09:15:03 | マスメディア
 新自由主義の旗手であった米国の変化に注目したいと思います。民主党の大統領候補で、社会主義者を自称するサンダース氏はアラスカ州では約8割、ワシントン州でも7割を超える得票を得ました。とりわけ若年層から圧倒的な支持を受けているそうです。サンダース氏がもっと若く、風采の上がる人物ならばさらに支持を集めたことでしょう。この背景には格差の拡大もたらした新自由主義への反動という面があると思われます。この兆候は2011年の「ウォール街を占拠せよ」運動の広がりに見られます。

 サンダース氏の公約は最低賃金を2倍にする、公立の小・中・高・大学の授業料を無料にする、そのため金融取引に課税して7500億ドルを拠出する、所得税では累進度を大幅に強める、キャピタルゲインに対する課税を約3倍の64.2%にするなど、その過激さでは暴言王トランプ様に劣りません。トランプ氏はまさに逆方向で、全階層に対する所得減税を実施、約40%の最高税率を25%に下げ、また法人税率も35%から15%へ軽減することを主張しているそうです。

 両極端の候補が多数の支持を得ている現状は観戦者にとっては面白いのですが、二極分化は政治的不安定を招くことが多く、面白いからといって決して歓迎すべきことではありません。トランプ氏の暴言は面白いためか、日本でもしばしば報道されますが、サンダースの主張はあまり報道されません。

 しかしサンダース氏の主張が大きい支持を集めているという事実は、米国の政治動向を知るために極めて重要です。格差拡大の反作用としての現象という面があるでしょうが、レーガン以来の新自由主義政策が大きな転換点を迎えているという時代潮流の変化と捉えることができると思います。日本の野党がこれに乗らない手はないと思うのですが、どこも関心が弱いようで、安保法制ばかり気になるようです。時代の変化に鈍感で、保守的な方が揃っているようです。

 戦後、米国政治思潮は世界に強い影響を与えてきました。その米国の変化に対して日本のメディアもまた鈍感すぎるように思います。トランプ氏の面白さにばかり気を取られ、左派のメディアですらより重要な現象を見落としている感があります。野党の保守性や鈍感さに符合しているように見えますが、単なる偶然でしょうか。

 トランプ氏はポピュリズムの色合いが濃厚で、背景には米国民の政治的見識の劣化があるのではないかと危惧されます。トランプ人気の理由は様々に説明されるのですが、支持の多さを考えると納得できません。民主主義が成熟していない国ならわかるのですが、米国は長い歴史をもつ成熟した民主主義国家とされているだけに理解に苦しみます。これが民主主義体制の大きい弱点、衆愚政治かもしれません。

 左傾化と右傾化が同時に進行するという米国の二極分化、世界をリードしてきた国で、日本の同盟国に起きていることであり、興味をそそられます。

福島原発事故 7つの謎(書評)

2016-03-21 09:01:53 | マスメディア
 NHKが3月13日に放送した「原発メルトダウン 危機の88時間」はなかなか見ごたえのあるものでした。興味をそそられ、同じ取材班による新書「福島第一原発事故 7つの謎」を読みました。こちらも面白く、数時間で一気に読むことが出来ました。よくもこれだけ調べたと思える内容で、事故の概観ができた気になります。工学に興味をお持ちの方にはスリリングな状況がよく伝わることと思います。技術的な誤りも見られず、よく吟味された内容です。

 この本の背景には事故に対する適切な問題意識が感じられ、原発の怖さを煽るエピソードを積み上げるような記事に見られる不純な動機がありません。また現在までの報道では疑問であった多くのことにも言及され、納得できます。原発事故の問題点を知る上で、さらには原発の是非を考える上で、とても参考になる本だと思われます。

 地震直後、制御棒が自動的に入り、原発は停止しました。あとは燃料から生じる崩壊熱を逃がすために、原子炉の圧力を抜き、水を入れて冷やすだけですが、これがうまく行かず、運転中の3基の原発すべてがメルトダウンしました。一見、簡単なことに思われますが、なぜ失敗したのでしょうか。以下、一部を紹介します。

 地震の翌日に起きた1号機の爆発事故は2・3号機への対策を困難にし、それらのメルトダウンにつながったと言われています。1号機への対応のまずさが事故の拡大を招いたという見方です。逆にここで失敗しなければ大事故は起きなかったかもしれず、痛恨の失策というわけです。本書ではまず1号機の非常用冷却装置がなぜ機能しなかったのかという問題に迫ります。

 1号機には電源がなくても機能するIC(イソコン)と呼ばれる冷却装置がありましたが、知見の不足や判断の誤りのために一旦起動に成功したものの、すぐに停止させていたことが明らかにされます。その結果、原子炉内の水位は急激に下がり、午後5時15分、免震棟と本店を結ぶテレビ会議で、マイクをとった技術班の担当者は「1号機の水位低下、現在のまま低下していくとTAF(燃料先端)まで1時間」と発言しますが、この情報は無視され、急速にメルトダウンへと進むことになります。

 現場が混乱を極めていたであろうことは想像できますが、あと1時間で燃料が水面から露出するという極めて重大な情報が無視されたわけです。またそれを報告した担当者もなぜ繰り返し言わなかったのか不明です。免震棟はICが動いていると認識していたようですが、その誤りに気づく機会は他にも3回あったがいづれも見逃されたと、述べています。

 ICに対する知見の不足は事態を悪化させた大きな要因です。米国の同型炉では数年に一度、実際にICを起動していますが、日本では40年間動かしたことがないそうです。そのためにICが起動しているか、判断できなかったというわけです。日本でICを動かさなかったのかという理由について、「本来ICから出る蒸気には放射性物質は含まれていないが、原発内部のどこかの配管に微細な穴があくと、微量の放射性物質が混じる恐れがある。このことが外部に蒸気を出すことを慎重にさせた」と関係者は説明します。確かに、無害なごく微量の放射性物質が漏れても日本のマスコミは大騒ぎします。

 また、1~3号機すべてで問題となったのは格納容器のベント弁が容易に操作できなかったことです。これは非常に重要で、圧力が上りすぎた時に容器の破壊を防ぐために必要な操作です。これが容易に動かないのは設計に問題があるといえるでしょう。2号機では最後まで開かず、吉田所長は死を覚悟したとされていますが、幸いにも圧力によってどこかが自然に破損し、圧力は低下しました。素人考えですが、そんなに重要なものなら初めから圧力が一定以上になれば自動的に開く「逃がし安全弁」を何故つけておかなかったのでしょうか(圧力容器にはついていますが、これの作動にも困難を極めたようです)。一般に圧力容器には安全弁をつけるのが普通です。

 2号機の格納容器が破裂すれば東日本が壊滅する議論は菅元首相が作らせた最悪シナリオにもありましたが、破裂は小規模ながら実際に起こりました。放射性物質がばら撒かれましたが、東日本が壊滅するにはほど遠いものでした。東日本壊滅は杞憂でありました。

 もうひとつ興味ある事実があります。燃料プールに対する自衛隊ヘリなどからの放水です。当時の海江田経産大臣が中心になって進められたこの計画によって3月17日から19日にかけて実施されましたが、たいした効果もなく(必要性がないことは事前に東電が把握)、電源復旧工事を大きく遅らせることになりました。3月17日夕方までの復旧予定は20日(1・2号機)、22日(3・4号機)まで遅れることになります。一方、3月15日午後以降の放出量が事故発生から3月末までの75%を占めるという解析結果が2014年に発表されました。電源復旧の遅れは冷却の遅れであり、放射性物質の放出の増加を招いた可能性があると述べています。

 政府・官邸の対応は後に批判されたように、わけのわからない人たちが強引に進め、事態を悪化させた面があったようです。「あんな人(菅直人)を総理にしたから天罰が当たったのではないかと、運命論を考えるようになっている」という班目春樹元委員長の発言は不適切ですが、まあ一部の真実は含まれているようです。

 以上、私が特に興味を惹かれた点を簡単に取りあけました。事故は想定外の津波によって引き起こされました。しかし事故の拡大を防げなかったのはプラントへの知見不足や管理組織の欠点、設計の甘さ、など様々の要因が重なったためだと思われますが、それらを具体的に知ることは原発に対する正しい認識を得るために必要なことです。 誰かの主張を信じて、原発反対を主張する方々にはぜひお読みいただき、ご自分で判断されるのがよいと思います。原発を安全に制御することは可能か、という問題にきっと役立つことでしょう。

暴走裁判官、原発差し止め

2016-03-14 09:06:30 | マスメディア
 3月10日の朝日新聞朝刊は「高浜原発差し止め」関連記事を1、2,3面と38、39面の大部分を使い、大歓迎しています。中でも申立人の一人を取り上げた記事はこの事件の性格を表しているようです。

「天にものぼる気持ち。これが本当の判断だと思う」とおっしゃる青田勝彦氏です。東日本大震災の後、福島から滋賀県に移住したが、『比良山の向こうに福井県の原発があることを思い出し、「この近くにも原発がある」。眠れない夜がまた、増えた。(中略)妻と30~40代の娘3人との5人暮らし。娘は内部被爆のことを考えると結婚や出産も不安だと話す』

 朝日がこの人物を取り上げたのは、これが多くの人の賛同が得られる、つまり普遍性があると考えたからだと思われます。おそらく取材した記者も共感したのでしょう。しかし私にはとても普遍的なケースとは思えません。失礼ながらこの方は放射線に対する神経症(不安障害とも呼ばれます)の疑いがあるように思います。記者も、そして朝日新聞も同様の傾向があるように見えます。

 眠れないほどの恐怖は、原発の苛酷事故発生確率を冷静に判断した結果とは思えないからです。年間死者4千人、負傷者70万人を生み出す交通システムの危険性の方がずっと大きいわけですが、反対運動は起きません。交通システムに改善方法がないわけではありません。例えば最高速度を30km/hにすれば輸送効率は犠牲になりますが、多分3千人以上の命は助かるでしょう。車の歩行者に対する衝突では30km/hでは死亡率は7%ですが、50km/hでは70%といわれています。要するに利便性と危険性のバランスの問題であり、我々は死者4千人を許容しているわけです。

 原発がどれくらい危険かの評価は大変困難です。地震や津波などの外部要因の大きさやその確率、それらにどれくらい耐えるか、耐えられない場合の事故回避機能の信頼性、などを総合的に評価しなければなりません。その上で、原発を停止することの不利益、つまり化石燃料を使うことによるCO2の増加、輸入額の増加、電気代の増加、エネルギー安全保障の脆弱化、エネルギーコストの増加による工業製品の競争力低下、などを考慮する必要があります。

 当然、私にもわかりませんが、反対派、賛成派の主張を見るとある程度の判断が可能です。主張に誤りや誇張があれば信頼性は下がります。論理的な整合性に問題があったり、主張がステレオタイプであれば意図的に流された情報である疑いがあります。視野が狭ければ認識に問題があるかも知れません。

 原発を稼動するかどうかは事故の危険性と利益の双方から決めなければなりませんが、それには多くの専門家の綿密な議論が必要です。その合意の上で、運転の方針がきまったわけですが、それを一人の裁判官が覆したというわけです。もしそれが間違っていても責任を問われません。選挙で選ばれたわけでもない人物がこれほどの重大な決定してよいのでしょうか。山本善彦裁判長は離婚や交通事故など数多の小さな事件を扱われてきたのでしょうが、いかにお偉い方であっても、原発の安全性をひとりで評価できるだけの知識・能力をお持ちだとは思えません。

 テレ朝の古館氏は「こうやって今回の差し止めのように今、おっしゃるようにごくごく真っ当なことをおっしゃっている裁判長の方はぜひ人事異動しないでほしいと思います」と述べたそうです。山本善彦氏は左派にとっては英雄ですが、関電と電気購買者にとっては有害人物です。定年間近の山本裁判長は将来、左派の有名弁護士として高額の収入を得ることができるかもしれませんが、その代償は1千億円になるかもしれない巨額の損失と司法の信頼失墜です。司法体制が無責任な決定を可能にしているわけです。

 決定文には「福島第一の事故原因究明は建屋内での調査が進んでおらず、今なお道半ばの状態であり、津波を主たる原因として特定し得たとしてよいかも不明である」という記述がありますが、この認識は一般的とは言えず、原発反対派の影響がうかがえます。つまりこの決定は結論ありきのものであった可能性が強い。

 原発稼動のような複雑、かつ重大な問題をたった一人の素人が判断できる仕組みそのものが問題です。3、4号機が停止すれば燃料を買うために毎月100~150億円のコストがかかるそうです。再稼動まで1年かかれば1千億円を超えます。これは実損ですから算定は可能です。被害を蒙るのは関電と一般の消費者ですから、もし関電の異議申し立てが認められれば、申立人に対し損害を請求できるのではないでしょうか。そうすれば今後、同種の仮処分申立人を絶滅させることができると思いますが。

米国の民主主義

2016-03-07 09:06:00 | マスメディア
 期待に反し「暴言王」トランプ氏の人気が止りません。あきれるばかりの暴言は世界の人々を楽しませる一方、本当に大統領になったらという不安をもたらしています。マスコミや著名人などから多くの批判を受けながらも全く意に介さない様子です。

 しかし、日本のメディアが伝える話はかなり歪められたものである可能性があります。過激な、あきれるような発言ほど米国のメディアでは面白おかしく取り上げられ、日本メディアはその中からさらに過激なものを報道していると考えられるからです。つまり極大化のフィルターが二重になっているようなものです。しかし共和党トップの支持を得ている以上、報道されないものの、まともな発言も多くあることでしょう。

 しかし、たとえその点を割り引いたとしても、あのような暴言王をトップに持ち上げる共和党の支持者の気持ちは理解できません。共和党2位のクルーズ氏も過激な人物のようで、熱心なキリスト教信者であり、進化論を否定し、地球温暖化を否定し、人工妊娠中絶に反対、中東では戦闘員も非戦闘員も皆殺しにする絨毯爆撃を主張するなど、過激さはトランプ氏に劣りません。そして宗教を政治に取り入れる立場はイスラム諸国と似ています。より警戒すべきはクルーズ氏かも知れません。

 トランプ氏からもクルーズ氏からも教養や品格、知性を感じることは出来ません。過激な両者が1位と2位ということならば、共和党自体が統治能力を失って、おかしくなっているような印象があります。いやもしかすると共和党の支持者全体が変質したのかもしれません。

 米国は長い歴史をもつ民主主義体制の国であり、国民の政治的な成熟度も低くない筈です。そのような国が民主的な正規の手続きを経て、とんでもない人を大統領に選ぶ可能性がある、というわけです。民主的なワイマール体制がヒトラーを生み出した例が思い出されます。

「民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが」・・・このチャーチルの言葉は民主主義への盲信を戒めたものと受けとれます。民主主義には民衆の判断は信頼できるという前提がありますが、そうとは限らないことを認識すべきでしょう。民主的だといわれたら反論できないような風潮は困ったことです。非民主的な方法がよい場合だってあるわけですから。

 大統領選挙の結果はわかりませんが、約半数を占める共和党の支持者の多くがトランプ氏やクルーズ氏を選んでいるという事実はアメリカ国民の変質と理解すべきなのでしょうか。西欧諸国の中ではアメリカだけが宗教の力が増している、と生物学者のリチャード・ドーキンスは述べていますが、そのような勢力がクルーズ氏を持ち上げているのならいっそう不気味です。宗教が政治の主要な要素になっているのはイスラム諸国だけではないようです。宗教は民主主義より強し・・・困ったことですが。