実際の株式市場の値段をもとにして、株取引のシミュレーションゲームを授業でやっている中学校、高校が1400校もあるそうです。数ヶ月間にわたる授業で、生徒達は『仮想所持金(1,000万円)をもとに、実際の株価に基づいて模擬売買を行い、ゲーム期間終了時の保有株式の時価と所持金残高の多寡により投資成果を競います』と説明されています。
この株売買の教材を提供するのは証券業界の利益代表である日本証券業協会と東京証券取引所グループです。株に関する数冊の解説書などもすべて無料提供で学校側の負担はありません。証券業界は将来、元がとれると踏んでいるのでしょうが、株の持つ負の側面もきちんと説明した中立的な教材なのでしょうか。
これを紹介したのが11月22日のNHK子供ニュースです。子供に見せる以上、NHKは株取引教育によほど肯定的な評価をしているのでしょう・・・私には理解できませんが。
番組で、「株を通して、世の中の動きや経済の仕組みを知るきっかけになったとみんな言っていたよ」とあるように、そのような利点は否定できません。しかし株の売買シミュレーションゲームによって、株を売買する人間を増やすことこそが証券業協会らの目的であり、私にはその副作用が気になります。
株の取引には投資と投機の両面があり、その境界は曖昧です。しかし意識としては、ほとんどが値上り益を狙った投機といえるでしょう。事実上、博打とほとんど変わりません。まして数ヶ月間で売買を繰り返して成果を競うゲームは短期売買の投機そのものです。そして子供に博打部分だけを取り除いて教えることは不可能ですから、ここに二つの問題が生じます。
第一に、株取引に対する心理的な抵抗が低くなることで、将来証券会社と取引する者が増加すると思われます。一部はネットでの取引を選ぶでしょうが、証券会社の窓口へ向かう人も少なくないと思います。彼らが証券会社の営業攻勢に耐えられるでしょうか。恐らく、大半の人は営業の意のままにされることでしょう。生半可の知識で、営業の攻勢に対して意思を貫くのは大変困難です。
第二は生徒の価値観への影響です。勤労を通じて社会に価値を提供し、その対価としての所得を得るのが社会の基本です。モラルの基礎になるものであり、これがないと社会は成り立ちません。投機による所得(キャピタルゲイン)を肯定的に教えることは、勤勉に働く意欲を低下させる危険があり、社会の基盤を揺るがす恐れがあります。この問題については拙論「カネを儲けてなにが悪い?」をご参照下さい。
株や商品の自由な市場は必要です。しかし投機資金の参入は流動性を高めるという利点がある反面、大小のバブルを生み暴騰や暴落を招きます。近頃の株式市場や原油市場、穀物市場が示すとおり、投機には正と負の両側面があります。資本主義経済の仕組みをよく理解した上での株売買ゲームならともかく、知識の乏しい子供に学校で教えるべきものではないと思います。
株価は経済成長と人口増加に沿って上昇傾向を続けてきました。しかし89年のバブル最高値3万8915円を頂点に低落傾向が続き、19年間後の現在は8千円台です。東証一部の時価総額も89年末の590兆円が08年10月末には279兆円になっています。総額が増加していく時代は既に過去のものになりそうです。今後は恐らくゼロサムゲーム、誰かが得をすれば誰かが損をする博打と同様になるでしょう。
リーマン破綻まで「貯蓄から投資へ」という風潮がありました(参考:「貯蓄から投資へ」に騙されないために)。米国中心に起きた信用膨張を金融業の輝かしい成功と思い込み、官民あげてその風潮を支持しました。学校で株取引を教えるというこの企画もその軽薄な風潮に乗ったものだと思います。証券業界の思惑に乗せられ、株売買の実情を十分理解せずして教育に導入した1400校の関係者とNHKの見識こそ問われるべきでしょう。
この株売買授業は各学校の裁量で採用されたものだと思いますが、そうであれば学校が授業内容を自由に選択できるという仕組みにも疑問を感じます。
この株売買の教材を提供するのは証券業界の利益代表である日本証券業協会と東京証券取引所グループです。株に関する数冊の解説書などもすべて無料提供で学校側の負担はありません。証券業界は将来、元がとれると踏んでいるのでしょうが、株の持つ負の側面もきちんと説明した中立的な教材なのでしょうか。
これを紹介したのが11月22日のNHK子供ニュースです。子供に見せる以上、NHKは株取引教育によほど肯定的な評価をしているのでしょう・・・私には理解できませんが。
番組で、「株を通して、世の中の動きや経済の仕組みを知るきっかけになったとみんな言っていたよ」とあるように、そのような利点は否定できません。しかし株の売買シミュレーションゲームによって、株を売買する人間を増やすことこそが証券業協会らの目的であり、私にはその副作用が気になります。
株の取引には投資と投機の両面があり、その境界は曖昧です。しかし意識としては、ほとんどが値上り益を狙った投機といえるでしょう。事実上、博打とほとんど変わりません。まして数ヶ月間で売買を繰り返して成果を競うゲームは短期売買の投機そのものです。そして子供に博打部分だけを取り除いて教えることは不可能ですから、ここに二つの問題が生じます。
第一に、株取引に対する心理的な抵抗が低くなることで、将来証券会社と取引する者が増加すると思われます。一部はネットでの取引を選ぶでしょうが、証券会社の窓口へ向かう人も少なくないと思います。彼らが証券会社の営業攻勢に耐えられるでしょうか。恐らく、大半の人は営業の意のままにされることでしょう。生半可の知識で、営業の攻勢に対して意思を貫くのは大変困難です。
第二は生徒の価値観への影響です。勤労を通じて社会に価値を提供し、その対価としての所得を得るのが社会の基本です。モラルの基礎になるものであり、これがないと社会は成り立ちません。投機による所得(キャピタルゲイン)を肯定的に教えることは、勤勉に働く意欲を低下させる危険があり、社会の基盤を揺るがす恐れがあります。この問題については拙論「カネを儲けてなにが悪い?」をご参照下さい。
株や商品の自由な市場は必要です。しかし投機資金の参入は流動性を高めるという利点がある反面、大小のバブルを生み暴騰や暴落を招きます。近頃の株式市場や原油市場、穀物市場が示すとおり、投機には正と負の両側面があります。資本主義経済の仕組みをよく理解した上での株売買ゲームならともかく、知識の乏しい子供に学校で教えるべきものではないと思います。
株価は経済成長と人口増加に沿って上昇傾向を続けてきました。しかし89年のバブル最高値3万8915円を頂点に低落傾向が続き、19年間後の現在は8千円台です。東証一部の時価総額も89年末の590兆円が08年10月末には279兆円になっています。総額が増加していく時代は既に過去のものになりそうです。今後は恐らくゼロサムゲーム、誰かが得をすれば誰かが損をする博打と同様になるでしょう。
リーマン破綻まで「貯蓄から投資へ」という風潮がありました(参考:「貯蓄から投資へ」に騙されないために)。米国中心に起きた信用膨張を金融業の輝かしい成功と思い込み、官民あげてその風潮を支持しました。学校で株取引を教えるというこの企画もその軽薄な風潮に乗ったものだと思います。証券業界の思惑に乗せられ、株売買の実情を十分理解せずして教育に導入した1400校の関係者とNHKの見識こそ問われるべきでしょう。
この株売買授業は各学校の裁量で採用されたものだと思いますが、そうであれば学校が授業内容を自由に選択できるという仕組みにも疑問を感じます。