1966年
西鉄の攻撃は延長十二回無死満塁。城戸がボックスにはいったときベンチのすみで与田は「もう見ておれない」とソワソワ。やっと決勝点がはいると「フーッ!」と大きなため息をついた。三回から清をリリーフして四安打の散発に押えていた。それも阪急のクリーンアップが出てくると「ソラ」とか「ヨイショ」と一球ごとにかけ声をかけて投げ、まるで自分自身に気合いを入れているようだった。「打たれる気がしない」と試合後は強気。昨年までだったら一本安打されるとマウンド上で弱気が出て、キョロキョロと落ちつかなくなって、ピッチングが単調になる、打ち込まれていたことなどすっかりかげをひそめてしまった。「チビって投げて打たれても、伸び伸びと投げて打たれても、打たれるのは同じ。どうせ打たれるなら気持ちよう打たれてやれと思った」さいきんは八方疲れの構えだ。これが好結果を生んでいるようだ。これで3勝をマーク。目下のところ二十五イニング無失点だ。すっかりクソ度胸がついたのは十九日の対阪急六回戦(西京極)に四安打の散発で完封勝ちしたことも大きかった。重松コーチは「きょうの調子は西京極の延長だった。リリーフだが、十回投げたし、内容は完封勝ちと全く同じだ。西京極のときのピッチングですっかり自信をつけてしまい、もう心配するところはない」と満点をつけた。与田は「これで防御率一位(0.77)になったはずだが」と胸を張って見せた。だがすぐ反省をはじめた。「これからがほんとうの勝負ですよ。最後梶本に打たれたが、あそこで気を抜いて、同じ球をつづけた。やはり間違っていた。中田に二度もいい当たりをされたことなど、考えることがいっぱいある」という。故若林ピッチング・コーチが与田のめっぽう速い球と切れのよいカーブを見て「与田は投手としての第一条件をそなえている。人は気が弱いというが、自信さえつけばきっと大物になれる」としょっちゅういっていたが、五年目にこの予言が当たりそうだ。
与田の投球内容は安定してきた。小手先だけの変化球を投げるのをやめあくまでも速球主体のピッチングに変わっている。昨年まではカーブを投げ、スライダーを投げ、シンカーを投げ、速球にはお目にかかれなかった。それらの変化球にはまだ自分のものになっていないためにどうしてもコントロールがなく、自然ボールが多くなり、しかたなく直球でカウントをとりにいったものを打たれていた。今シーズンは練習でもスピード一点ばり。だから自然、与田の特徴であるスピードボールにコントロールがついてきた。
河村英文
西鉄の攻撃は延長十二回無死満塁。城戸がボックスにはいったときベンチのすみで与田は「もう見ておれない」とソワソワ。やっと決勝点がはいると「フーッ!」と大きなため息をついた。三回から清をリリーフして四安打の散発に押えていた。それも阪急のクリーンアップが出てくると「ソラ」とか「ヨイショ」と一球ごとにかけ声をかけて投げ、まるで自分自身に気合いを入れているようだった。「打たれる気がしない」と試合後は強気。昨年までだったら一本安打されるとマウンド上で弱気が出て、キョロキョロと落ちつかなくなって、ピッチングが単調になる、打ち込まれていたことなどすっかりかげをひそめてしまった。「チビって投げて打たれても、伸び伸びと投げて打たれても、打たれるのは同じ。どうせ打たれるなら気持ちよう打たれてやれと思った」さいきんは八方疲れの構えだ。これが好結果を生んでいるようだ。これで3勝をマーク。目下のところ二十五イニング無失点だ。すっかりクソ度胸がついたのは十九日の対阪急六回戦(西京極)に四安打の散発で完封勝ちしたことも大きかった。重松コーチは「きょうの調子は西京極の延長だった。リリーフだが、十回投げたし、内容は完封勝ちと全く同じだ。西京極のときのピッチングですっかり自信をつけてしまい、もう心配するところはない」と満点をつけた。与田は「これで防御率一位(0.77)になったはずだが」と胸を張って見せた。だがすぐ反省をはじめた。「これからがほんとうの勝負ですよ。最後梶本に打たれたが、あそこで気を抜いて、同じ球をつづけた。やはり間違っていた。中田に二度もいい当たりをされたことなど、考えることがいっぱいある」という。故若林ピッチング・コーチが与田のめっぽう速い球と切れのよいカーブを見て「与田は投手としての第一条件をそなえている。人は気が弱いというが、自信さえつけばきっと大物になれる」としょっちゅういっていたが、五年目にこの予言が当たりそうだ。
与田の投球内容は安定してきた。小手先だけの変化球を投げるのをやめあくまでも速球主体のピッチングに変わっている。昨年まではカーブを投げ、スライダーを投げ、シンカーを投げ、速球にはお目にかかれなかった。それらの変化球にはまだ自分のものになっていないためにどうしてもコントロールがなく、自然ボールが多くなり、しかたなく直球でカウントをとりにいったものを打たれていた。今シーズンは練習でもスピード一点ばり。だから自然、与田の特徴であるスピードボールにコントロールがついてきた。
河村英文