1964年
国鉄・半沢投手は最後の打者マーシャルの中飛が高山のグローブにはいるのを見とどけると、マウンド上で目がしらをおさえた。林監督、金田投手らが出迎えにとんできたときはハナの頭あたりまで涙いっぱい。ベンチへ帰ってくると谷田、内藤両コーチがほとんど同時にさけんだ。「士郎、すぐ着替えるんだぞ」報道陣に囲まれるとこんどは豊田がニヤニヤしながらいった。「ウチの大事なたからものやから、あんまりいじめるなよ」イースタンで投げているときから金田二世といわれていただけに、まわりの気のつかいようもたいへんだ。「きょうリリーフに出ることは球場にきたときからいわれていたんですが、あんなに早く出るとは思いませんでした」デビューしたのは2-2の同点の三回裏。無死一、二塁で打者江藤というピンチのときだった。右翼ヘイいっぱいに飛球をあげた江藤はこういう。「カーブがくるだろうとヤマを張っていたんだが、ストレートだったんで当てるだけの感じになった。それほどすごみがあるとは思わんが、思い切って正面から向かってくるところがいい。権藤(中日)以来久しぶりに見たすばらしいルーキーだ」着替えをすませると涙はとまったが、とたんにいうことも勇ましくなった。「イースタンで投げているときと気分はそうかわらなかったですね。根来さんのサインどおり投げましたが、七、八割は直球で押しました。はじめからセット・ポジションで投げることになりましたが、ボクはあれの方がコントロールはあるんです」七回の二死満塁が「一番苦しかった」そうだが、これをきり抜けるともう負ける気がしなかったそうだ。「士郎、早く切りあげるんだよ」林田マネジャーに何度目かの催促をされて半沢はやっとボストンバッグを持ちあげたが、帰りぎわにいった言葉がまたたのもしかった。「これをきっかけにボツボツやりますよ」報道陣から解放されるのをまってベンチを出る前に半沢にコートを着せてやった谷田コーチは、ホッとした表情。「いまウチで一番速い球を投げるのであんな思いきったピンチに出したのだが、最初のうちはどうなることかと思っていた」
国鉄・半沢投手は最後の打者マーシャルの中飛が高山のグローブにはいるのを見とどけると、マウンド上で目がしらをおさえた。林監督、金田投手らが出迎えにとんできたときはハナの頭あたりまで涙いっぱい。ベンチへ帰ってくると谷田、内藤両コーチがほとんど同時にさけんだ。「士郎、すぐ着替えるんだぞ」報道陣に囲まれるとこんどは豊田がニヤニヤしながらいった。「ウチの大事なたからものやから、あんまりいじめるなよ」イースタンで投げているときから金田二世といわれていただけに、まわりの気のつかいようもたいへんだ。「きょうリリーフに出ることは球場にきたときからいわれていたんですが、あんなに早く出るとは思いませんでした」デビューしたのは2-2の同点の三回裏。無死一、二塁で打者江藤というピンチのときだった。右翼ヘイいっぱいに飛球をあげた江藤はこういう。「カーブがくるだろうとヤマを張っていたんだが、ストレートだったんで当てるだけの感じになった。それほどすごみがあるとは思わんが、思い切って正面から向かってくるところがいい。権藤(中日)以来久しぶりに見たすばらしいルーキーだ」着替えをすませると涙はとまったが、とたんにいうことも勇ましくなった。「イースタンで投げているときと気分はそうかわらなかったですね。根来さんのサインどおり投げましたが、七、八割は直球で押しました。はじめからセット・ポジションで投げることになりましたが、ボクはあれの方がコントロールはあるんです」七回の二死満塁が「一番苦しかった」そうだが、これをきり抜けるともう負ける気がしなかったそうだ。「士郎、早く切りあげるんだよ」林田マネジャーに何度目かの催促をされて半沢はやっとボストンバッグを持ちあげたが、帰りぎわにいった言葉がまたたのもしかった。「これをきっかけにボツボツやりますよ」報道陣から解放されるのをまってベンチを出る前に半沢にコートを着せてやった谷田コーチは、ホッとした表情。「いまウチで一番速い球を投げるのであんな思いきったピンチに出したのだが、最初のうちはどうなることかと思っていた」