1998年
「大学球界での華々しい実績と甘いマスクをひっさげて、鳴り物入りのプロ入り」といえば、だれもが巨人・高橋を思い浮かべる。だが昨年の今ごろは、間違いなくダイエー・井口を指していた。だがデビュー戦で満塁本塁打を放つ派手なスタートを切ったものの、その後はしりつぼみ。出場76試合で打率2割3厘と期待外れの印象が残る1年だった。今季、周囲の注目度は昨年に比べ、はるかに低い。しかし反比例するように、実力は着実にアップしつつある。この日も成長の一端を見せつけた。まず二回、低めのチェンジアップをすくい上げて左中間へオープン戦第2号のソロ本塁打。打たれたカラーラは「良いコースに決まったと思ったが…脱帽だ」と舌を巻いた。
二十一歳の若武者のひと振りで、ダイエーが開幕3連勝を飾った。七回一死、二塁。カウント1-1からの内角シュートをフルスイングした。打球は高々と舞い上がり、左翼スタンドへ。その行方を見届けるまでもなく、城島はこぶしを突き上げてみせた。六回まで、井口の2安打だけに抑えられていた。適度に荒れたカラーラの投球に翻弄(ほんろう)されたのだ。先発武田も、七回途中で降板。十六年連続負け越し中の苦手を相手に、劣勢は隠せなかった。しかし、城島の見る目は違った。「六回に三振ゲッツーをとったでしょ。あれで流れが来たと思った」ヒーローになるチャンスを待ち望み、集中力を高めていった。そして迎えた七回。初めて、複数の走者が塁を埋め「みんなが一番打って欲しいと思う場面(王監督)だ。前回にも増した拍手が、城島を迎える。重圧は計り知れない。だが、ひるむどころか、感覚は研ぎすまされた。「ホームランを打てる球を意識し、狙っていた。2球目の変化球をファウルして、次は内角のシュート」完ぺきに配球を読み切った、自ら「文句なし」の3点本塁打だった。