新芥川賞作品「共喰い」は一言でいうと充実した読後感を与えて
くれた小説で、ひさかたぶりにほっとする感じでもあった。
小説の筋は血しぶきほとばしる凄まじいものであるのに、終始、
人の温もりがある、人間のものがたりであった。
温もりはあたたかな血であり、血脈であり、人間存在の根本を
ぎゅっと閉じ込めた物語は、受賞会見で物議をかもした作家の
言葉通り「もらっといてやる」にふさわしい作品であると思った。
これに△つけたと偉そうに記者に答えていた老作家は喰うに
足りて鈍ってしまったのだろうなあと、余計なことも思い出した。
本を読んでいる数日、せわしい仕事で日中はおだやかならざる
状態であったので夜、風呂場に新刊本をぬらさぬようにタオル
にくるんで持ち込んで読んだのであった。
温かな湯でからだがほぐれるのより早く、物語世界の情感が、
じんわりとしみるように伝わって、昼間の雑音と気持ち悪さを
消していってくれた。
読み終わっても身体の芯があたたかく、もう数日たつが、
まだ冷めない。好きか嫌いかで問われるとどちらでもないと
答えてしまいそうな小説である。
好き嫌いを超えて、普遍の物語だからぬくもりがあるのか、
そんなことを思ったりした。
純文学というジャンルは売れないと言われるが事故のような
記者会見が評判になって予想以上の予約注文で増刷だった
らしい。なにがきっかけでもこの本を手にとった人が同じような
温みをどこかで感じているかもしれないことを想像すると、
少し救われる気がする。
こんな不信の世の中であっても。
親があって、子がある。親にもまた子の時代があって親がある。
それが人間であるが、人間から人になるには、道を歩まねば
ならない、そういう一見あたりまえなことをほんとうは行われず、
ほとんどの人間が無軌道に道などないシャバで生きていく。
他人を押しのけたり裏切ったりふんづけたり、平気で嘘をつき、
うまくいったと喜んだり、損をしたと八つ当たりしたりしながら、
歳だけとって醜くなっていく。親から子へそれが連鎖する。
しかしそういう醜さにまだ馴れていない心が身体の芯に隠れて
いるのではないか、間に合うのではないか、誰にもそれはある
のではなかろうかと思いながら、時としてうちひしがれるけれど
やはり思いつづけていたい、そう思っている。
くれた小説で、ひさかたぶりにほっとする感じでもあった。
小説の筋は血しぶきほとばしる凄まじいものであるのに、終始、
人の温もりがある、人間のものがたりであった。
温もりはあたたかな血であり、血脈であり、人間存在の根本を
ぎゅっと閉じ込めた物語は、受賞会見で物議をかもした作家の
言葉通り「もらっといてやる」にふさわしい作品であると思った。
これに△つけたと偉そうに記者に答えていた老作家は喰うに
足りて鈍ってしまったのだろうなあと、余計なことも思い出した。
本を読んでいる数日、せわしい仕事で日中はおだやかならざる
状態であったので夜、風呂場に新刊本をぬらさぬようにタオル
にくるんで持ち込んで読んだのであった。
温かな湯でからだがほぐれるのより早く、物語世界の情感が、
じんわりとしみるように伝わって、昼間の雑音と気持ち悪さを
消していってくれた。
読み終わっても身体の芯があたたかく、もう数日たつが、
まだ冷めない。好きか嫌いかで問われるとどちらでもないと
答えてしまいそうな小説である。
好き嫌いを超えて、普遍の物語だからぬくもりがあるのか、
そんなことを思ったりした。
純文学というジャンルは売れないと言われるが事故のような
記者会見が評判になって予想以上の予約注文で増刷だった
らしい。なにがきっかけでもこの本を手にとった人が同じような
温みをどこかで感じているかもしれないことを想像すると、
少し救われる気がする。
こんな不信の世の中であっても。
親があって、子がある。親にもまた子の時代があって親がある。
それが人間であるが、人間から人になるには、道を歩まねば
ならない、そういう一見あたりまえなことをほんとうは行われず、
ほとんどの人間が無軌道に道などないシャバで生きていく。
他人を押しのけたり裏切ったりふんづけたり、平気で嘘をつき、
うまくいったと喜んだり、損をしたと八つ当たりしたりしながら、
歳だけとって醜くなっていく。親から子へそれが連鎖する。
しかしそういう醜さにまだ馴れていない心が身体の芯に隠れて
いるのではないか、間に合うのではないか、誰にもそれはある
のではなかろうかと思いながら、時としてうちひしがれるけれど
やはり思いつづけていたい、そう思っている。