若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

労働運動家は正社員特権を擁護したいだけ? ~正社員ホッとぷらす~

2019年05月16日 | 労働組合
経団連会長やトヨタ社長らが、相次いで「終身雇用は限界だ」と発言し話題になっています。これに対する批判コメントにもやもやしたので、そのもやっと感を吐き出してみます。

【必要とされる労働者の数と質は一定でない】

「経済界は解雇規制をなくしたいだけ」 相次ぐ「終身雇用は限界」発言に労働弁護士が批判(弁護士ドットコム)
======【引用ここから】======
そもそも、現在の日本では、パートや派遣などの非正規雇用者の割合が、労働者全体の4割となっています。正社員であっても、決して良好な雇用環境でないことも多く、そもそも「終身雇用」は幻想のようなものにすぎません。

過去を振り返っても「終身雇用」と言われるものは、大企業の男性労働者の一部にはあったといえるものの、労働者みんなが「終身雇用」だった時代など一度もありません。

======【引用ここまで】======

景気の動向や経営方針、季節的なもの、様々な要因によって業務量は増減します。また、その時々によって必要とされる労働者の能力、適正も異なります。

必要な労働者の数や質は常に変化します。雇ってみたものの、会社で求めている能力・適性を有していないことが事後的に分かることもあるでしょう。数年経って、事業規模を大きく縮小せざるを得なくなることもあるでしょう。
このように状況が常に変化する中で、正社員で現時点における必要数全てを揃えようとする経営者はそうそういないはずです。正社員には「会社が続く限り一度雇用したらよほどのことが無い限り定年まで解雇してはならない」という条件が適用されるからです。一度正社員として雇ってしまうと、ちょっと人手余りになった位じゃ裁判所は解雇させてくれません。

たとえば。

ある弁護士事務所において、大きな訴訟案件を受けたとします。
その訴訟案件が継続する間は資料の収集、作成、整理で一時的に多く人手が必要になることが考えられるが、その訴訟が終結してしまえば、そこまでの人手は要らなくなる・・・
・・・という事態が想定される時、この弁護士事務所では、事務員の不足分を正社員として雇用するでしょうか。おそらくしないでしょう。パートや臨時職員として有期で雇い入れるか、既存の事務員の残業を増やして対応することになるでしょう。
(弁護士事務所だから解雇に伴う訴訟リスクを恐れない、というのはナシで)

【終身雇用の問題は身分制の問題】

上記コラムでは、
労働者みんなが『終身雇用』だった時代など一度もありません。
と述べられていますが、それは当たり前のこと。
労働者全員を、身分保障の整備された正社員にすることは不可能なのですから。

全員に保障することのできない権利を、特権と呼びます。この「特権」を労働者全体の6割にだけ与え、そこから生じる弊害や不都合を残り4割の非正規雇用者に押し付けている、というのが現状です。
一方では不祥事を起こさない限りダラダラしていても解雇されない人がいて、他方で期間を区切った短期の繋ぎとして利用される人がいる。解雇規制・終身雇用というのはこういった身分制の根本原因となっています。

「経済界は解雇規制をなくしたいだけ」 相次ぐ「終身雇用は限界」発言に労働弁護士が批判(弁護士ドットコム)
======【引用ここから】======
いずれにしても、現状でも不合理な解雇は多くなされているのですから、これ以上、経営者が自由に解雇ができる社会を作ってしまえば、安定した持続的な社会を作っていくのは難しくなるのではないでしょうか。
======【引用ここまで】======

安定した持続的な社会
とは、
「一度、大企業正社員になれれば安泰かもしれないが、正社員のレールから外れてしまうと不安定で待遇の悪い状態を強いられる」
という、固定的な身分制社会を指します。
固定的な身分制社会は安定した持続的な社会です。非正規雇用を犠牲にし続けることができる限り、ですが。

【終身雇用批判批判は正社員をホッとさせるだけ】

解雇規制の強い国では有期契約の割合が多くなる、という調査があります。

解雇規制の強い国では無期雇用での雇用を控えるために有期雇用が増えるが、解雇規制が緩ければ比較的容易に無期雇用で雇うことができる…というのは当然のこと。
「解雇規制が強いから非正規雇用での対応を求められる場面が増える」
「解雇規制が強化されれば正社員雇用を避ける流れが強くなる」
というのは容易に想像できるところです。
逆に、正社員をある程度簡素な要件・手続きの下で解雇できるようになれば、その空いた正社員ポストに非正規労働者を採用できる機会が増えます。

「よほどのことが無い限り定年までは解雇されない」
という解雇規制・終身雇用慣行が、かえって非正規雇用の割合を増やし、
「正社員を解雇する前に非正規をまず解雇しろ」
といった裁判所公認の非正規差別・身分格差を生んでいます。この問題意識を、上記コラムの労働弁護士のような方々や労働問題に携わる社会運動家・NPOと共有できないものでしょうか。

仮に、労働弁護士の大口顧客に正社員中心の労働組合がいる、とか、社会運動家が頻繁に労組主催シンポジウムに招かれて講演料を受け取っている、としたら、私の主張を受け入れてもらう余地は少ないでしょう。もし理解はしてもらえたとしても、彼らが表立って解雇規制撤廃を主張することはありません。「正社員の地位は非正規雇用を犠牲にすることで成り立っている」ということを言ってしまうと、正社員中心の労組から嫌われてしまいます。仕事を貰えなくなってしまいます。立場上、仕方の無いことです。

労組から仕事を貰う労働弁護士や社会運動家が
「終身雇用を廃止するな!安定した雇用を保障しろ!」
と主張するのは立場上そうなんでしょうけど、彼らがそう主張したところで、正社員枠が増えて、現在非正規雇用で働く人や失業中の人が安定した仕事を得られるようになることはまずありません。既に正社員の地位を得ている人がホッとするだけです。
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