若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

揺らぐ二元代表制の意義 ~修正案をめぐるあれこれ~

2019年07月20日 | 地方議会・地方政治

【議会における賛成・反対の基本的考え方】

事業A、事業Bが盛り込まれた補正予算案に対し、議決権を持つ議員が採るべき立場は次のようになります。

・事業A、Bのいずれも賛成の人:原案賛成

・事業Aには賛成だが事業Bに反対の人(Aの成立を重視):原案賛成

・事業Aには賛成だが事業Bに反対の人(Bを問題視):原案反対

・事業A、Bのいずれも反対の人:原案反対


次に。

補正予算案から事業Aだけを残し、事業Bを削る案を議員側で作成し提出することがあります。
これを修正案と呼びます。
修正案が提出されると、議員の採るべき選択肢は変わってきます。

・事業A、Bのいずれも賛成の人:原案賛成

・事業Aには賛成だが事業Bに反対の人(Aの成立を重視):修正案賛成

・事業Aには賛成だが事業Bに反対の人(Bをより問題視):修正案賛成

・事業A、Bのいずれも反対の人:原案反対・修正案反対


【議決と討論の対応関係】

議員が、議決に際し自分が採る立場を明らかにしつつ意見を述べることを、討論といいます。
事業Aを残し事業Bを削る修正案が提出された場合、討論も上記3つに対応した内容になるのが本来の姿です。

原案賛成の立場から討論を行うのであれば、その討論は「AもBも良いから原案に賛成」という内容になります。
修正案賛成の立場から討論を行うのであれば、その討論は「Aは良いがBが悪いから修正案に賛成だ」という内容になります。
修正案反対・原案反対の立場から討論を行うのであれば、「AもBも悪いから修正案にも原案にも賛成しない」という内容になります。

さてここで。

修正案賛成の人は「事業Aは良いけど事業Bはダメ」なスタンスです。このため、修正案賛成の立場を表明すると同時に、修正案に対する賛成討論で事業Bのみならず事業Aも非難する意見を述べるのは理屈に合いません。修正案の提出は、事業Aについては肯定し容認するということだからです。

他方、討論の中で「事業Aは必要だが事業Bは問題がある」と意見を述べるのであれば、原案賛成でなく修正案賛成の立場をとるのが理屈に合ったものとなります。修正案ではなく原案に対し賛成をするのであれば、「事業Aだけでなく事業Bも良いのだ」という討論内容にすべきです。

仮に、賛否の対象が原案のみであれば、

「事業Bは問題があるが事業Aの成立を考えれば原案賛成とせざるを得ない」

と主張することは理解できます。
しかし、事業Bを削る修正案が新たに加わった段階でなお

「事業Bは問題があるが事業Aの成立を考えれば原案賛成とせざるを得ない」

と述べるのは理屈に合いません。
これでは修正案賛成の理屈になってしまうからです。

以上を踏まえ、次の動画をご覧ください。



・・・いろいろとねじれています。

【緊張感の欠如】

さてさて。

議案の内容に誤りがあれば、提出した側から訂正の申し出があるか、議案の取り下げをするのが本来あるべき丁寧な対応です。ところが、この議会では議案を提出した市長は訂正を行わず、補正予算案は指摘されたミスを残したまま可決されました。
市長以下幹部職員らは
「議案書や説明資料に計数誤りがあっても、多数派を固めているから議案を押し通せる」
という票読みと驕りがあり、それで議案を上程したままにしたのでしょう。

市長以下幹部職員の中で
「市長提出議案の内容面について議会多数派の賛同を得ているとしても、その中に誤りがあれば修正や否決に賛同する議員が出てきて多数派が崩れるかもしれない」
と危機感を持つ者が、果たしていたのでしょうか。

【二元代表制の意義は】

アメリカでは過去何度か、予算案が議会で否決され、職員への給料や光熱費の支払いができず政府機関が閉鎖する事態が生じています。

(例 「米政府機関の一部閉鎖 予算失効で異例の今年3回目 2018.12.22」)

ここに二元代表制を採用している意義があります。議会が予算を否決すれば予算執行できません。この当然の理屈が、予算案を提出する行政側と審査する議会側の緊張感を生んでいます。

ところが、同じ二元代表制を採っていても、日本の地方公共団体はまるで違います。
仮に予算案が否決になっても、地方自治法によって義務的経費が執行できる等、抜け道がいくつか用意されています。
また、行政側が議会の多数派を握った地方議会では、議案における問題が表面化しても、ミスが指摘されても、議案は可決されてしまいます。補正予算案のミスを取り除く程度の、部分的な修正案すら退けられます。

アメリカの二元代表制と日本の二元代表制、緊張感の差は歴然です。
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