若年寄の遺言

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別居における連れ去りと連れ戻し ~未成年者略取・誘拐罪の運用と啓発の在り方~

2020年08月13日 | 政治
○刑法
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(未成年者略取及び誘拐)
第二百二十四条 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

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略取し、又は誘拐した」というのは、どういう行為を指すのでしょうか。

○未成年の略取と誘拐罪(刑法)本人や保護者の同意があっても有罪? | 弁護士法人泉総合法律事務所
======【引用ここから】======
【略取、誘拐の定義】
 「略取」も「誘拐」も、共に、他人を従来の生活環境から離脱させて自己又は第三者の実力的支配下に移すことです。そして、「略取」は暴行・脅迫を手段とするのに対し、「誘拐」は欺罔・誘惑を手段とするものです。
 これらの手段は、必ずしも未成年者自身に対して加えられる必要はなく、その保護監督者に対して加えられてもよいとされています(大判大13.6.19刑集3・502)。

======【引用ここまで】======

物理的に無理矢理連れていくのが「略取」、騙して連れていくのが「誘拐」です。そして、連れていくときに未成年者を無理矢理、あるいは騙して連れていくだけでなく、保護者の元から無理矢理、あるいは保護者を騙して連れていく行為も、この「未成年者略取及び誘拐罪」に当てはまるとされています。

【「連れ去り」と「連れ戻し」の差】

さてここで。

夫婦が別居を始める時、住居を移す一方の親が子供を無理矢理、あるいは他方の親を騙して子供を連れ去る行為は、法律上問題とされる事がまずありません。ところが、別居・連れ去りがあった後に他方の親が子供を元の住居へ連れ戻す行為は犯罪と扱われます。

法律の原則として「自力救済の禁止」というものがあります。個人で実力行使して紛争解決を図ることを認めず、裁判手続きを通すべきとする法原則です。
別居後、連れ去られた子供を実力行使で連れ戻す行為も「自力救済の禁止」に当たるとされており、交渉や裁判手続きを通して解決を図るべきと言われています。連れ戻しについては、実際に逮捕、有罪となったケースもあります。

ところが、最初の、別居開始する際の連れ去りについては、運用上、民事・刑事ともにあまり問題視されていません。

「同居→別居」の際の「連れ去り」はなぜか逮捕されず。
「別居→元住居」への「連れ戻し」は逮捕、起訴される。

子供を無理矢理、あるいは騙して実力的支配下に移すという、外形的に同じ行為であるにも関わらず扱いが違うのです。
加えて、離婚協議、調停等にでの親権者の指定に際し、裁判所は「継続性の原則」という考え方を重視していることから、最初に連れ去りをした側の親が親権取得に際して優位に立つことができます。

○子の「連れ去り」規制を 引き離された親ら、国を集団提訴  - 産経ニュース
======【引用ここから】======
家事手続き上の親権争いでは、子供にとって育成環境が変わるのは不利益との考えから、同居する親を優先する「監護の継続性」に重きが置かれるとされる。一方で、無断で連れ去ったこと自体にペナルティーはなく、原告代理人の作花知志(さっか・ともし)弁護士は「完全な無法地帯で、連れ去った者勝ちの状態だ」と話した。
======【引用ここまで】======

最初の実力行使は不問とされ、次からの実力行使は法律で処罰されるのであれば、最初の実力行使をした者勝ちとなるわけです。
こうした法運用の下では、当然ながら、別居時の子供の連れ去りが横行します。

刑法が禁止する未成年者略取・誘拐罪の構成要件に該当する行為であるにもかかわらず、
「別居後最初の連れ去りは目をつむります。その状況が継続すれば連れ去り親を親権者とします」
という運用を裁判所が採っていることで、結果として、裁判所が犯罪を推奨している形になっています。

【別居の際の連れ去りは国際問題に】

日本政府・裁判所の運用が未成年者略取・誘拐罪を(結果として)推奨していることは、国際的にも問題になっています。

第200回国会 法務委員会 第12号(令和元年11月27日(水曜日))
======【引用ここから】======
○串田委員 原則は、連れ去ったら違法だという前提から始まらないと、世界は通用しないですよ。
 この六十年記念誌には、「子の連れ去り天国であるとの国際的非難を受けている」となっています。大臣、こういう非難を受けているという認識はあるんでしょうか。

======【引用ここまで】======

自力救済を禁止しているのは他の国でも同様です。そのため、別居開始時の実力行使を容認、追認するという考え方をとっていません。

これだけは知っておきたい ハーグ条約 基本のキホン - Onlineジャーニー
======【引用ここから】======
どちらの親が子どもの世話をすべきかの判断は、子がそれまで生活を送っていた国の司法の場において、子の生活環境の関連情報や両親双方の主張を十分に考慮した上で、子どもの監護について判断を行うのが望ましいと考えられているため、まずは子どもを前居住地に戻した上で、必要であれば現地での裁判を促すという形をとる。
======【引用ここまで】======

国際的には、連れ去り後の状況をベースに考えるのではなく、子供を元の場所に戻した上で話し合い、あるいは裁判手続きというのが基本的な考え方です。

「連れ去り別居の後に継続した生活を重視し、連れ去り親を親権者に指定する」という日本政府・日本の裁判所の判断傾向が、別居開始時の実力行使、自力救済を推奨することとなり、「日本は政府が誘拐を助長・誘発している」という外国からの批判を招いています。

【連れ去り別居の推奨は人権侵害】

別居開始時の連れ去り行為は、刑法224条の未成年者略取・誘拐罪の構成要件に該当する行為であり、本来であれば犯罪となる可能性があるものです。ところが、日本政府や裁判所がこうした連れ去り別居を放置・黙認してきたことが、子供を連れ去られた親や元の居住地から連れ去られた子供への権利侵害に繋がっています。

憲法上の基本的人権を「個人 vs 政府」の権利問題に焦点を絞る考え方を、立憲主義と言います。

個人間での紛争について、外形的には同じ態様の一方の自力救済のみを容認し、他方の自力救済を政府が刑罰をもって禁止するのは、捜査権・司法権の恣意的な運用です。立憲主義の観点から人権侵害を厳格に考えた場合であっても、国民に対する政府の捜査権・司法権の恣意的な行使は人権侵害と言えましょう。

別居開始時の無理矢理連れ去る行為、あるいは騙して連れ去る行為は、本来であれば犯罪行為です。ところが、この犯罪後に自力で現状に戻そうとする行為のみを犯罪として処罰し、最初の連れ去りを黙認・追認しています。こうした政府の運用方法は、極めて恣意的なものと考えます。

連れ去り別居について民事不介入の立場から犯罪と扱わないのであれば、別居開始後の連れ戻しも同様に扱うべきです。逆に、別居開始後の連れ戻しについて逮捕、起訴するのであれば、連れ去り別居についても厳格に逮捕、起訴すべきです。一方にのみ自力救済を認め、他方には自力救済を認めない(=当事者に長期間の裁判手続きを強いる)現状は、とても公平とは思えません。

【人権擁護局はたまには仕事しろ】

さて。

法務省人権擁護局は憲法上の基本的人権を擁護していない、というのは、私が以前から主張しているところです。
(振り返ってみたら、2009年にも同じような事を書いていて、よく飽きずに繰り返せるなぁ、と思わずにいられません。)

法務省人権擁護局や、その通知に沿って動く全国の自治体の人権啓発部署は、
「みんな仲良く」
「誰にも優しく」
などといった個人間の道徳教育を「人権」と詐称する暇があるなら、こういった犯罪行為の横行を非難し、政府の恣意的な制度運用を非難する啓発活動を行うべきです。

「夫婦間の同意なく、別居時に無理矢理、あるいは騙して子どもを連れ去る行為は犯罪です」
「連れ去りを放置・優遇し、連れ戻しのみを逮捕・起訴する政府の運用は人権侵害です」

ってね。
これをきちんとしないから、海外から「日本は人権後進国だ」と言われるのです。

【参考】


○「ぼくは、父(母)親に絶対会いたくありません」~「連れ去り洗脳」という児童虐待

○当事者/サバルタンである子どもは日本の離婚システムでは語れない~思想、裁判所、弁護士、法学者、NPO

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