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イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

袖振り合うも

2008-12-02 20:27:54 | 朝ドラマ

朝ドラ『だんだん』に関連して、“平凡な容姿の女優さんをモテ美女役にキャスティングしても、演出と演技次第で観客に納得させることはできる”と書いた23日の記事の続きと言うか、ちょっと傍証に入ってみます。

内容(容姿、技量実力、役柄や作品のメジャー性など)がさほどでなくても好感寄りの、かなりの高体温チヤホヤが保証されている物件ジャンルが、いまの日本には幾つかあります。

まずは“二世”。二世タレント、二世俳優、二世代議士・政治家など。“親が誰某である”を主力商品として世に売って出てくる物件ですな。最近は“お祖父(祖母)ちゃんが~”の三世も少なくない。

歌舞伎、古典落語、皇族など、構造そのものが世襲を前提としており“この世界に所属している人は、あらかたこの世界の誰かの子弟”“この世界の人の子弟なら、たいてい同じ世界に入る”業界もあります。

さすがに古典芸能になると、内容の評価に自信があまり持てないので詳述しませんが、“さほどでもないのにチヤホヤ”と言えば、真っ先に思い出すのが、大物歌舞伎俳優の次女で月9などゴールデンのドラマに何度も主演、歌手活動もされ有名作曲家にしてギタリストと結婚、いまもお父上とミュージカルでロングラン共演などご活躍中のあの女優さん。

はっきり申し上げてアバウトなルックスです。ハッと振り向くような正統派美人でもなく、かと言って目鼻立ちがキツめで隣のおネエちゃん的可愛さも薄い。血筋が血筋だけに日本人的プロポーションというか仮分数な体型で、スカウトやオーディションをくぐり抜けてきた若手女優群と比べると、くっきりはっきり“いま風の美形度”“おシャレさ”において見劣っていた。

しかし彼女が厳然と好感度を獲得し話題作の重要な役に次々起用され得たのは、「幸四郎の娘」という実に美味しくわかりやすい解釈の糸口を持っていたからです。

“解釈の糸口”は人が世の中に存在を主張する上で非常に重要です。芸能人知名人ならぬ、一般人が履歴書・お見合いのに書く学歴・出生地・家族構成などは、雇用や結婚のための能力証明の役にはほとんど立たず、専らこのためにあると言ってもいいくらい。人が他人を知り、好感に基づく信頼関係を探るためには、解釈の糸口がどうしても必要で、人は皆、人に会うたび必死に“糸口探し”をして日々を暮らしている。糸口を提示できないのは非常に不利、逆に、わかりやすい糸口を複数多数持っていることは、どんな社会でもきわめて有利です。

この女優さんの場合も、「幸四郎の娘だから(←もはやご本人の名を伏せる意味がなくなりましたが)、あまり適性がなさそうでも役がつくんだね」「何か新人らしからぬ度胸みたいな、初々しくなさが匂うのは、やっぱり幸四郎の娘だからだろうね」等々から始まって、実際にはそんなものが有るかどうか覚束ない“演技力”や“女優根性”、“服やグッズの趣味の良さ”“安いオトコは受けつけない誇り高さ、転じて清潔さ”などの願ってもない好材料まで「幸四郎の娘だから」という糸口の存在によって“有るかのように”皆が拡大解釈、錯覚してくれた。

二世三世は、たとえ演技も歌もトークも何もできなくても、「誰某の息子・娘」として出てきただけで、「お父さんに似てるね」「目元がそっくり」、或いは「お父さんにはあんまり似てないね、お母さん似かな」「あのコワモテお父さんじゃ似なくてよかったね」等と、“似てる似てない”のみでまずひと話題満たしてくれる。“さほどの内容は無いのにチヤホヤ”の動機にはじゅうぶん過ぎるほどです。世の大勢が父母or祖父母を見知ってくれている二世三世でなければ持ち得ない特権です。

二世の話が長くなってしまいましたが、チヤホヤ保証物件の第二は“宝塚出身女優”だと思います。

年に1回、4月下旬頃、『宝塚おとめ』という現役歌劇団全在籍生の、ナチュラルメイクに黒無地着物の顔写真が組別・学年順に掲載されたムックが刊行され、月河も毎年楽しみにしている愛読者ですが、冷静に見れば笑っちゃうくらい芸能人ぽくない、お地味で凡庸な容貌の子・お姉様たち揃いです。

ゴールデンのドラマや劇場映画で次々主役を張っているアノ人、好感度ランキング長年上位のアノ人から、単発ドラマの誰が演ってもいいようなゲストでたまに見かけるアノ人コノ人、聞いたことない会社のやたらOA頻度だけは高いCMで毎日熱弁をふるっているアノ人まで、“宝塚OG”と付いただけで“幼い頃からバレエに音楽のお稽古、毛並みのいいお嬢さま”“女の園で青春を過ごした神秘性”という糸口が自動的に賦与される。

卒業(退団)後も宝塚そのままに演技や立ち居、話し方が芝居がかっていたり、無駄に華のあるような人はかえって稀です。たいていはお地味な容姿、取りたててどうということのない佇まいに“宝塚出身だから”という糸口がまずありきで、そこから「育ちが良さそう」「(厳格な寮生活経験で)礼節をわきまえている」「TVズレしていない」「オトコ汚れしていない」などの、ほとんど“実体が無いかもしれない”好感度要素に延長拡大解釈してくれる。二世三世同様、“さほどでもないのにチヤホヤ”の特権を謳歌しているジャンルと言えます。

そして最後にぜひ挙げたいのがNHK朝ドラヒロイン女優”

人気絶頂時に有名俳優と結婚後、CMやルポ番組でたまにしか顔を見ないアノ人、やはり有名俳優と地味婚後、こちらは二児をなしてもいまだ現役で夫君よりも高い数字実績を誇るアノ人などが典型例。雑誌モデル経験も経ての女優進出だけにスタイルは水準以上ながら、お顔立ちや演技力は正直「はて…?」という段階で次々に大役がつき好感度ランキング急上昇、「同性がお手本にしたいおシャレな女優」の地位を不動にして行った過程は、まさにNHK朝の顔であったればこそ。

最近はあらかじめ有力芸能事務所に所属、すでに子役や脇役経験ありファンもついている若手の抜擢が多く、ズブのシロウトからのシンデレラストーリーはほぼ消滅しましたが、“数千人の応募者から選ばれた”という燦然たる解釈糸口が舞い込むわけです。しかも“選ぶ主体はNHKという花マル付き。“大勢の中で光るもの、埋もれない華がある”“老若男女に好かれる”“ハードスケジュールを苦にしない頑張り屋さんで心身健康”“私生活も堅実で清純な優等生”と、そこに居るだけでどんどん解釈内容が(根拠なく)上昇して行ってくれる。世に二つとない恵まれた“糸口持ち”でしょう。

出発点に戻りますが、現行放送中『だんだん』は、プロデューサー・制作陣の偏愛…と言って悪ければ度を越した肩入れのため“解釈糸口獲得のためのカード”をすでに“切ってしまった”、“切った結果首尾よく得点もした”後の女優さんを、またぞろヒロインに担ぎ上げたための苦戦、と言えるのではないでしょうか。“いつも笑顔”“努力家”“家族思い”“(色恋には)オクテで不器用”もう了解取りつけ済みの条項を、行ったり後戻りしたり迂回したりしつつ、なぞって見せているだけでお話が終始しているような閉塞感が拭えないのです。

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