霧の音
「角川シネマ有楽町」で往年の大映映画を集めて上映している。
羅生門や雨月物語に地獄門は何度も観た。装置・美術・衣装・撮影は断然素晴しい。だが話そのものは外国人にはいいかもしれないが、言わんとするところが幼く、如何なものか。特に終わり方が冗漫である。
観たかった映画は「霧の音」だった。
劇作家・北条秀司が新国劇のために書いた名作舞台劇を、清水宏監督が80分の白黒映画にした。
主演は当時のトップスターだった上原謙と小暮実千代である。
半世紀前に観たとき、いたく感動し、その後時々思い出し、また観たかった「名作」である。
今度観てみると、記憶とは少し違っていた。他の映画の記憶が重なっていたようだ。
しかし「名作」であることは間違いない。しみじみとした情感があり、筋は実によくできている。
難点は上原謙が単なる美男子で教授に見えないこと、立派な美貌と体格の小暮実千代に儚さが感じられなかったこと、東京から高原にやって来た若者たちの優等生ぶりが嘘っぽかったことくらいか。
しかし宿の老婆浦辺粂子や、陽気な婆さん芸者浪花千栄子、地元の人を演じた俳優たちが抜群に上手かった。
音楽は名高い伊福部昭。いい音楽だが、半世紀前は演奏者が少ないためか音に厚みがなく、録音も悪い。
撮影がいい。上高地のもの寂びた風景が、特に焼岳から霧が降りてくる風景が美しかった。
清水宏監督の「按摩の恋」を、新しい技術で完全になぞった「山のあなたに」は格段に面白い映画になった。
だから「霧の音」も、新技術と俳優で完全に複製して欲しいものだ。それだけの価値はある作品だ。
溝口健二の「山椒太夫」も観たかったが、夜遅くなるので今回は諦めた。
源氏鶏太原作、村山誠治監督、新珠三千代主演の「初恋物語」も、もう一度観たい森生の「名作」である。
こちらは東宝映画だったかも。
121217