海坊主がやって来た。現場監督だそうだ。
ガス管取替え工事の喧しい音が静かになり、ホットしたのも束の間。道路の次は宅地内でガス管入替工事だ、と。
・玄関口タイルの下にトンネルを通し、耐震用ガス管を入れる。
・そのために、工事の邪魔になる大切な椿や花木を引き抜く。
・穴を掘るので飛び石をどける。
・犬走りを掘るので、敷き詰めた小石(礫)をどける。
等の難工事を僅か1日で、明日やるから宜しく、と海坊主。
えーっっ、そんなことになるとは思っていなかったぞ。大いにメイワクだぁ。
わが猫額亭庭園は、傍からみれば単なる「ザツボク雑草園」である。しかし感情的には「修学院離宮」以上だからな。
後水尾天皇は幕府のお手当てと職人衆の力で離宮を造営した。
しかし森生は、出世を辞退し、乏しい小遣いを投資し、鉢巻地下足袋の一人親方に身をやつし、肉体労働をした。晩年に至りようやくもの寂びてきて、完成近くなった猫額亭裏庭園である。
・椿は苗木で3000円の「江戸絞り」だ。酷寒に植え替えたら凍死する。
・躑躅は内緒の話だが、ご近所の庭先から枝先を失敬し、挿木した曰く因縁付きだ。
・あーた方にとってはツマラヌ枯れ雑草も、都忘れ蛍袋ほか山野草の色々だっ。
冬眠中の根っ子をそのキタナイどた靴で踏みにじるのかぇ。
・小石だって20年がかりで荒れ土を、土と小石に選り分けた汗の結晶だぜ。
またゴチャゴチャに混ぜ返されるのは耐えられまっせんっ。
・飛び石は、コンクリ平板をやっとこさ持ち上げ、地面に這いつくばって水平に置いんだ。
角度を何度も検討して慎重に配置を決定したものだ。
・コンクリ平板の間の丸石は、河川法を犯してまで高麗川から何度も運んできたものだ。
・20年の苦労を一日でひっくり返され、また復元しなければならない。まるで地震被害と同じではないか。
海坊主監督の申し出に、血圧上がりましたね。それでも、
・今やらないとご近所に迷惑かけるかも。
・工事に乗り遅れると、工事料金取られるかも。
・水道下水雨水管を避けながらの突貫工事では、後日、不等沈下でタイル貼りにヒビが入るかも。
・土台が軟弱になり、ちょっとした地震で猫額亭が傾くかも。
かもかもかもかも.........。
「地震が来る前に、遅かれ早かれどうせ死ぬわぃ。工事なんかしなくていいよ」
とヤケクソ。海坊主は慌てて、工事は正月まで延期する、と妥協してくれた。やれやれ。
毎年、真冬の親方仕事は休業する。
しかしこの年末は北風が吹き付ける日陰で、先ず石を動かす労働を泣きながら始めました。
早速、腰が痛い。年賀状を作るヒマが無い。