森生たち二人は池袋駅で待ち合わせ、鎌倉駅には約束時間前に到着し、他の三人より早く着いた、と思った。
電車が2本着いても三人は来ない。行き先の蕎麦屋に電話したが、まだ来ていないし日時に間違いはない、と。
二人でヤキモキし始めたとき、小柄なじいさんがやって来て、
「森生さんですか? ボクです」。
「ボク?」。
「............おぅ、あれまぁ、へーっ、驚いたなもぅ、やぁやぁやぁ............」
三人とも森生たちのすぐそばにいながら、森生たち二人がなかなか来ないので焦りはじめていたんだそうだ。
およそ半世紀振りの再会。同じ場所で長い間待っていたのに、互いに気付かなかったのである。
改めて挨拶してみれば、随分草臥れてはいても、確かに面影は残っていた。やれやれ。
召集した大先輩は88歳に。会津出身のもっさり紳士だったが、逗子に隠棲し湘南ボーイに大変身していた。
五人は連れ立って八幡様を通り抜け、西御門の蕎麦処「千花(ちはな)庵」に向かった。
店主は森生が新入社員だった時の直属上司で主任だった。その後有為転変。定年後鎌倉に移住し蕎麦屋を開店。向いていたようで商売は大成功である。
店主の気配りで先に二人が来ていた。実は頗る付きのウルサイ上司とヤな同輩だった。
しかし時が全てを洗い流した。がやがややっているうちに案外いい人になっていることに気付き、めでたく関係修復。
店の雰囲気をぶち壊す大声で語り合い、座は大いに盛り上がった。
考えてみると何を話したかを覚えていない。耳が遠くなったか、相手の話を聞いていなかったのかも。
冷酒と色とりどりの酒肴は実に美味く、仕上げの手打ち蕎麦は絶品だった。
帰り道も車を呼ばず、八幡様を徒歩で通り抜けた。
しかしながら、感謝と老後の健康を祈るために、高い石段の下から本殿を遥拝。神さま聞いてくれたかな。
小町通りでのお茶は、ここを馴染みにしている大先輩の奢りだった。
ああ、楽しかった。
興奮していて、記念写真を撮るまで、写真を撮るのを忘れていました。
110525