曽野綾子の短編小説集「一条の光」(新潮文庫)をようやく読み終えた。
1977年、つまり42年前に発売された文庫本だから活字が小さくて読み辛い。
根気と体力不足のため、隣人から借りてから大分時間がかかったけれど、面白かった。
どれもが深い内容で、複雑微妙な小説なので、読み違いがあるかもしれません。
一条の光
盗癖がある元自衛隊員と内縁の幼稚園保母・その叔母・叔母を知る先歌舞伎役者・出所したおかま。
人情派気取りの刑務官と、夫に退屈した妻が軸になり、愛憎劇を繰り広げた結果..........。
人物の描き分けが巧み。心理と情景描写は鋭く簡潔。
底辺の人々の生活を書ききっている。
夜間標識
婚期が遅れた従妹。
誰もが祝福する挙式直前、相手が一晩所在不明。則、婚約を解消。
その晩彼は何をしていたか、破談された心境は、など彼の行動と心情にじじぃは共感した。
男はそういうものだ、若い娘には分からないだろうなぁ。
ナム・トク終点駅
老園丁一家が夜逃げ。戦中戦後の波乱万丈な体験談の嘘を暴かれ、解雇されたのだ。
懐旧談の嘘くらい見逃そう、本人の見果てぬ夢だったのだから、と別荘の有閑夫人。
じじぃも同感で、老園丁に同情する。
烏賊の旗
上昇志向が異常に強い従妹に対する、潔癖症な女の観察談である。
従妹は妻子ある大学の先生と略奪婚をしたが、相互にしたい放題。
不道徳だが二人は世間的な成功を重ねている。
女が気付いた結論を、じじぃには理解できるが、若かった曽野綾子がよく書いた、と感服。
ゴーギャン
ケチで退屈な亭主に愛想をつかした妻が、幼児を置いて出奔。
しかし、同棲した男も、つまらない男だった。
捨てられた亭主は少しも慌てず、故郷の幼馴染と再婚。めでたく普通に過ごしている。
家出する時唯一持ち出した、ゴーギャンの複製画に絡め、女の心象風景を活写。巧い。
妙見島夕景
水彩画のような、若い男女の淡い交際。
関係はなかなか発展せず、何やらとぼけていて愉快だ。
だが最後が、れれれれれ、肩透かし。いささか不満を感じた。
菊薫る
認知症気味の元小学校校長の感慨。黄昏夫婦ぶりが生々しい。
文化勲章を受章した教え子より、プロレス見物中に幼児を亡くした教え子が羨ましい。
老人は一人息子を亡くしていたのだ。この話は面白かったが、小説の構成には無理がある。
百済観音
わが高麗の里の裕福な寺と貧乏な寺。
台風一過、破れた貧乏寺から定朝様式の仏像が発見され人気沸騰。
裕福寺住職は嫉妬。煩悶の末に重大犯罪を犯すが事実は知られず、名僧として死去。
素材を良く調べてあり、意表を衝く展開が大変面白い。
この百済観音は11年前から気になっておりましたが、最近、隣人から借り、初めて読みました。
読まずに書いた、図々しい過去記事はこちらです。
最近、曽野綾子先生は、高齢者を叱咤激励する本を何冊も出版している。
広告を読み、高い所から偉そうにあれこれ指図する嫌味なばぁさまだ、と思っていた。
しかし昔はいい小説を書いていたんですね。見直した。
なお、この文庫本はamazonで1冊販売中です。
190412