・雪になる布袋の臍を拝んだ日・
これは俳人・坪内稔典さんの俳句で、近著「モーロクのすすめ 10の指南」から転記しました。
この意味不明な句は「シュウチャク(変態)-嫌がられてみる」章の「雨になる?」に載っている。
そこでは、どうしてこういう句ができたのかを説明しているが、わけが分かりません。
数日続いた俄かな春るんるんの後、今朝は昨日から真冬の続きである。
西武線高麗駅では電車が入って来るたびに「秩雪です・飯能雪です」と繰り返しているほどの寒さだ。
腹なんかを露出している場合ではなく、暖かい猫額亭で稔典先生のモーロクおすすめ本を読んだ。
稔典さんは言う。「モーロク」は所謂「耄碌ではない」と。
耄碌は老いぼれること。年老いて頭や身体の働きが鈍くなることで、誰もが体験する自然現象であり、忌むべき現象である。
しかしモーロクとカタカナにすれば、耄碌を自然現象として受け止め、鈍くなった頭や体の働きを楽しめる。
へー、そうかぃな?と思うが、先へ進みます。
ここで稔典さんは、山口楸邨が80代で作ったヘンな俳句を紹介している。
・天の川わたるお多福豆一列・
若い日の楸邨は人間探求派と呼ばれる生真面目な俳人だったが、80代になり、こんな突拍子もない句を作った。
漫画のようなこの句に人生論はなく、お多福豆に笑いを誘われ、読者はほんの少し幸せな気分になれる。それで充分なのだ。
と絶賛している。これはまぁ分かりますね。
モーロクするために、稔典さんは10の指南をしている。
・ウソ(方便)-茶化してみる
・オイタ(悪戯)ー叱られてみる
・ソラ(宇宙)-覗いてみる
・ボヤキ(悲嘆)-溜息をついてみる
・ギョウシ(注目)-ひとりになってみる
・ラヴ(片思い)ーいい気になってみる
・シュウチャク(変態)-嫌がられてみる
・ウチ(我が家)-振り返ってみる
・ウロツキ(徘徊)-飛んでみる
・クフ(美食)-長生きしてやる!
それぞれの指南には短い随筆が付いていて、それぞれはとぼけた面白さがあるが、どうも朦朧として、またよく分からない。
しかし、発売は岩波書店だし、本体定価は1900円もした。なお更に稔典さんは、広い句界で一派を率いているエライ宗匠でもある。
森生が朦朧とするのは、耄碌しているからだろう。
甘納豆やアンパンや河馬が大好きな稔典さん自身も、代表作と自負するヘンな俳句を沢山載せている。例えば、
・三月の甘納豆のうふふふふ・
・桜散るあなたも河馬になりなさい・
・たんぽぽのぽのじのあたりが火事ですよ・
こんな俳句なら自分もできる、と誰もが思うはずだ。が、お互いマネできることではない。
なお、だんだんモーロクしてきたためなのか、徘徊と美食の章に分類した短い随筆はしみじみと、胸に響く名文だった。
そして全編にわたり、稔典さんご自身のの俳句論を忍びこませ、他人の短歌・俳句・詩をいろいろと紹介している。
軽く読める、雨や雪の日にぴったりの本です。
岩波書店・211頁・2052円
160310