大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 008・始まりの町は少し変

2024-08-17 09:59:12 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

008:始まりの町は少し変 




 峠の上から見た時は小さく見えたが、じっさいに近くまで来ると結構大きく、町というよりは街だ。

「お店も家も少し大きいような気がするわ。そうは思わない、アルテミス?」

「ああ、増築した感じの家もあるなあ」

「窓辺やベランダの鉢植えも手入れが行き届いている感じだわ」

「おっと、工事中だ」

 メインストリートが二股に分かれた先にギルドの看板が見えるので曲がろうとしたら道路工事中で、腰の曲がった警備員が指示棒を振って迂回路を示している。

「仕方がない、迂回するか……どうしたベロナ?」

 ベロナは工事の看板を熱心に読んでいる。

「ガス管を耐震仕様のに変えているんですって。行き届いていますねえ」

「へえ、あ、向こうでもやってるぞ」

 ギルド方面の道の向こうでもクレーン車が出て電柱の作業をしている。

「あれは、たぶん光ケーブルの工事ですね」

「始まりの町って、冒険の準備をするところだろ。いわばベースキャンプみたいまもんで、そんなにインフラとかは揃っていないもんだと思ってたけどな」

「キャ!」

 ドタドタドタドタ!

 五六人の子どもたちが、手に剣や杖を持ってベロナの脇をかすめる。

「ゴラあ、気を付けろガキども(ꐦ°᷄д°᷅) !」

「まあまあ、子どもの遊びじゃないですか。そんなに怒らなくても……まあ、可愛い。あの子たち冒険者ごっこをして遊んでいるのね」

「ん、なんだ、先着組になんか言われて……戻ってきやがるぞ」

「謝りに来たのかしら、だったら可哀そう……」

「……でもなさそうだ」

 子どもたちは二人の横をスゴスゴと通り過ぎていく。

「おい、おまえら」

「ちょ、アルテミス!」

「なんでしょぼくれてんだ?」

 年かさの勇者風の子どもが振り返った。

「なんだ、あんたら?」

「あ、ごめんなさい。さっき、ぶつかりかけたんだよ、あたしたち」

 魔法使い風の女の子が済まなさそうに、でも、勇者風の後ろに隠れて呟く。

「んだぁ、んなとこ突っ立てる方が悪いんだろが」

「んだとぉ」

「アルテミス! ううん、いいのよ、ちょっとかすっただけだし。でも、なんで元気なくなったの、あんなにやる気満々だったのに」

「冒険者保険と年金の掛け金払えって。あ、それと遅延金」

「ああ、なんだそれ?」

「ネエチャンたちも冒険者だろ?」

「そうだ」

「常識じゃねえか、冒険には危険が付き物だから保険があるし、引退後の生活のために年金かけるの」

「ああ、でも、二丁目の子たちが言うのは、ただの嫌がらせだし(^_^;)」

「そうだよ、もう三丁目だけで遊ぼうぜ!」

 アーチャー風の男の子が胸を張る。

「おお」

「そうね、午後からは引退ってことでお部屋で遊ぼ。さっきはごめんなさい。おねえちゃんたちもがんばってね」

「はい、ありがとうございます(^▽^)」

「ニイチャンも男なんだから、ネエチャン護ってやれよ!」

 ドタドタドタドタ!

「ニ、ニイチャン……だと?」

「アハハ(´∀`)、じゃ、行きましょうか」

「ああ、ギルドに行く前に、ちょっと町の様子を探ってみるか」

「ええ、わたしも、そう思ったところよ」

 二人は道を変えてバザールの方角に向かった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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馬鹿に付ける薬 007・ループ道

2024-08-13 16:27:50 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

007:ループ道 




「……聞いておけばよかったかもしれないわ」

「聞かなくても分かるさ、道はほとんど一本道。道しるべも立ってるし、町への道は脇道よりも太いから、よっぽどボンヤリしていなければ無事に着くさ」

「ええ、道に迷うことは無いと思うんだけど……」

「じゃあ、なんだ?」

「馬鹿に付ける薬のことよ」

「え、ああ……」

 思いがけず校長に出会っておはぎをご馳走になって、月と火星の宿命と使命について話し、桃栗三年ではケラケラ笑って、ずいぶん気楽になって旅の道に戻った二人だった。だが、肝心の『馬鹿に付ける薬』の話しは一つも無かった。

「楽しく話ができたから、校長も忘れてしまったんじゃないか? あの畑の道で出会ったのはたまたまだったんだし」

「ええ、それはそうなんだけれど。あそこで出会ったのは、校長先生のタク……」

「校長の?」

「タクマシイ計画だったんじゃないかしら。式場では言えなかったことを伝えるための」

「え、そうなのか?」

「おはぎの用意と言い湯呑の数と言いピッタリだったでしょ」

「あ、ああ……でも、畑はわざわざ用意したようには思えないだろ。桃や栗も昨日今日に植えたものには見えなかったぞ。申し渡し式で言えなかったからといって、簡単に準備できるものじゃないだろ」

「でも、一か月も有れば準備できる」

「あの、ヨタ話みたいなお茶会を一か月も前から準備していたって言うのかあ?」

「ええ、校長先生と話せたことで、ずいぶん気が楽になった。そうは思わないこと?」

「え、ああ……でも、そうやって準備したのなら、肝心の馬鹿に付ける薬のことに触れなかったのは、不自然すぎないか?」

「わたしたちが留年するって決めて、校長先生は気が付いたと思うのよ。使命の事を考えていることを。ふつうの留年じゃなくて旅に出したのも……」

「難しいことは分からねえけどな。オレたちの狙いと学校の方針が一致してラッキーだったってことでいいんじゃねえかぁ」

「あ、まあ、それはそうなんだけれどね。そうよね、馬鹿に付ける薬は想定外だったけど。薬を見つけてうまくいくんなら、とても幸運なことだものね」

「水や食料も足りなかったし、それを補充できただけでもラッキーだったってことでいいんじゃねえか」

「そうよね、ごめんなさいアルテミス。とりあえず、始まりの町に着くことだけを考えて進みましょ!」

「そうだな……あれ、またやっちまったかぁ?」

「あ、ああ……」


 気が付くとさっき通った時に見た道しるべが立っている。


「景色もいっしょみたいだぞ」

「ああ、アルテミスが癇癪起こして蹴とばした石がそのままだわ」

「え、同じだってなんでわかる?」

「三回目だったから、マジックインクでチェックしといたのです。ほら」

 示した石には三回目を現す『3』書かれていた。

「ああ、さっきはオレの方がグチってたんだっけ」

「そう、今度はわたしの方から振ってしまったようですね」

「歩いてるうちに忘れてしまって、交代でグチっては、ここに戻って来ていたんだな」

「今度こそは『始まりの町』に着くことだけを考えて行くことにしましょう!」

「よし!」

 そうやってループすること四回目にして始まりの町を見晴るかす峠に立つことができた月と火星の女神たちであった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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馬鹿に付ける薬 005・即席青空天井の茶店・2

2024-08-10 10:46:04 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

006:即席青空天井の茶店・2 




 二つ目のおはぎに迷ったベローナ、きなこモチに手を伸ばして気が付いた。

「先生、あの小さいのは桃ですか?」

 畑が少し高くなった灌木林との境目に、盆栽をそのまま植えたような幼木を見つけたのだ。

「え、となりは栗……と、柿か?」

 アルテミスも、その横に並んでいる幼木に気が付いた。

「うん、桃栗~三年、柿八年~」

 美味そうに番茶をすすって校長が節をつける。

「柚子は九年でなり盛り~~梨の馬鹿めは十八年~~(^▽^)♪」

「ほほう、よく知ってるねぇ」

「兄のマルスが機嫌がいいと歌うんです」

「ああ、そうだろうね。マルスは軍人だけど、根はのんびり屋だからねえ」

「戦士がのんびり屋でいいのか?」

 三つ目の粒あんもあっさり食べ終えてアルテミスも話に加わる。

「戦士や軍人が気が短いと戦争の絶え間が無くなる」

「ホホホ、それもそうですね」

「ん? 梨の隣にもなにか植えてあるみたいだけど?」

「リンゴだよ」

「え、梨の続きがあったんですかぁ?」

「林檎にこにこ二十五年という」

「へえ、気の長い順に並んでるんだ」

「フムフム……これは、教育者としての先生の戒めなんですねえ」

「アハハ、ボケ防止さ」

「「ボケ防止?」」

「桃栗三年とは、よく言うけどね。柿から次はめったに言わないだろう?」

「はい、りんごにこにこ二十五年は初めて聞きましたぁ」

「りんごの次もあるんだよ。女房の不作は六十年、亭主の不作はこれまた一生 ……ってね」

「「あはははは(^▽^)」」

「さすがに、女房と亭主は植えるわけにはいかないからね」

 わははははは(^▽^)(^〇^)(^▢^)/

 師弟三人の笑い声が響き、近くの木々に憩う小鳥たちがビックリして飛び立っていく。その小鳥たちを目で追いながら校長は真顔で続けた。

「君たちは、母星の運命を知ってるんだね?」

「うん」「はい」

「教育というのは、師弟の阿吽の呼吸だと思うんだ。役所のように、いちいち書類に記してハンコを捺くようなものじゃない。でも、これは大事なことだから、もういちど確かめておきたいんだよ。いいかな?」

「ああ」「はい」

 ベロナは――どちらから話す?――と目配せすし「じゃ、自分から」とあっさり言ってアルテミスが切り出した。

「月は、その昔、巨大な隕石が地球に衝突して、その時千切れ飛んだ地球の一部が丸まって地球の周りを周るようになってできたものだ。月と地球は互いに引き合っているが、月に働く遠心力をわずかに下回る。そのために、月は少しずつ地球から離れ、やがては互いの引力が及ばないほどに離れ。月は、いつか銀河の迷い星になって宇宙を彷徨うことになる。だから、それを食い止めて、地球との距離を昔に戻すことが自分の使命だ」

「そうだね、簡潔に述べてくれてありがとう、アルテミス」

「ええと……火星は、ですね、元々は地球の姉妹星です。姉の地球に比べると少しゆっくりしている火星は、地球の少し外側の軌道を回っています。むかしは地球のように海や湖があって、地球のように生物も文明もありました。でも、すこしゆっくりしすぎて水は極地方に氷となって残っているだけで、いずれは、それも無くなって永遠に死の星になってしまいます。わたしの……このベロナの役目は……火星を地球の軌道に組み込んで、地球と仲良しの双子星にして、ともに栄えることです。ガミラスとイスカンダル的な……みたいな」

「そうだね、ロマンチックに語ってくれてありがとう、ベロナ」

「…………」

「なにか、話してみると、とんでもないことを決心してしまったんですねぇ、わたしたち(^_^;)」

「ああ、でも、これで区切も踏ん切りもついた。そろそろ行くよ、校長先生」

「そうか、そうだね、戻ってくるころには梨もリンゴも大きな実をたくさんつけているだろうさ」

「ですね、このさき何代目の梨やリンゴになるかしれませんけれど(^_^;)」

「ひょっとしたら、リンゴのとなりに校長先生と奥さんがいたりしてな」

 アルテミスの真顔に、宮沢校長は「アハハハハ(^▽^)」と明るく笑って返した。

 そうして、ベロナとアルテミスは水を補充して元の道に上がって、こんどこそはほんとうの出発(たびだち)になった。

 仰ぐ異世界の空は、相変わらずの曇り空だが、山の向こうに少しだけ青空が覗いていたような気がする二人だった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

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馬鹿に付ける薬 005・即席青空天井の茶店・1

2024-08-05 15:12:54 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

005:即席青空天井の茶店・1 



「……校長先生?」


 思わず声をかけて――しまった!――と思うアルテミス。

 木の間隠れに見える校長は、思いのほかアタフタしてしまっているのだ。

 異世界の旅に出たところで怪しい土を掘る音が聞こえた。

 さては早くも魔物が現れたか!?

 ベロナをおいて見に来ると、さっき申し渡し式で舞台の脇に立っていた宮沢校長がザックザックと鍬を振るっているのだ、アルテミスはビックリした。

「どうかしたのぉ~?」

 ベロナものんびりした声を上げて、こちらにやってくる。

「あらあぁ、校長先生ではありませんかぁ」

「あはは、とんだところを見られてしまったねえ(^_^;)」

 手拭いでハタハタと土を落とす校長。正体を知っている学校関係者が見れば紛れもない宮沢賢治校長なのだが、知らない者が見れば、ただの初老のお百姓だ。

「いや、すまんねえ。畑のことが気になって、つい教頭先生に任せてしまった」

 校長とはそういうものだと思っている二人にこだわりはいないが、こんなところで畑仕事をしているのは不思議だ。

「裏の畑とは繋がっていてね……いや、なに、来年からは学生も増えそうだし、学食のメニューもね、もうちょっと品数を増やそうと思って、畑を増やしているんだ」

「それは、どうもごくろうさまです」

「校長先生も大変なんだな」

「あはは、いやいや、君たちに比べたら年寄の道楽だよ」

「わたしとアルテミスは、ただの落第生です」

「そうだそうだ、学食のおばさんにもらったおはぎがあるんだ。はなむけと言ってはなんだが食べて行きなさい。下の川でお茶も冷やしてるから」

「あ、あの川だな」

 校長の返事も聞かずに川に下りるアルテミス。校長は朴葉(ほうば)の葉っぱを切り株に敷いて即席の茶店のしつらえが整う。

「すみません、先生(^_^;)」

 ベロナは、こういう急な思い付きや展開は遅れるところがある。

「いやいや、生徒会長は、それぐらいドッシリとしていた方がいい」

「そっちの方はしばらく休むことに……」

「ああ、そうだったね。でも、今年度の予算も年間計画も立ててくれているし、大丈夫さ。真の指導者は、自分が不在でも回るようにしているもんさ」

「おそれいります(^_^;)。湯呑はこちらのでよろしいですか」

「ああ、自由に使ってくれたまえ」

 湯呑はちょうど三人分――先生、見越してらっしゃった?――と思わないでもないベロナだが、ちょうどアルテミスがヤカンを下げて来て、即席青空天井の茶会が始まった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 004・ブーツに保革油を塗る

2024-08-03 15:20:51 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

004:ブーツに保革油を塗る 




 ザクッ ザクッ ザザ ザ ザクッ ザザ ザクッ ザクッ

「これは荒れ野というよりは……荒れ地だなあ……」

「気を付けていないと……足を挫いてしまうかもしれないわ……」

 荒れ野の道は大小の石が混じっていて、学校の通路や中庭を歩くようなわけにはいかない。

「今のうちにブーツに油を塗った方がいいぞ」

「そうね、始まりの町に着くまでにブーツが破れちゃかなわないわね……保革油はあったかしら」

「……五回ほどスクロールすると出てくる、82番だ」

「あ、うん。あったわ」

 ゴシゴシ キュッキュ ゴシゴシ キュッキュ ゴシゴシ キュッキュ

 油を刷り込みながら振り向くと、荒れ野の灌木林の向こうに学校の屋根が見えている。

「まだ、いくらも来てないわね」

「早く気づいてよかった」

「アイテムは一杯あるけど、アドバイスやヒントとかはいっさい無いみたいねぇ」

「肉の保管袋がある……よし、油を塗ったらウサギでも狩っておこう」

「ウサギいるかしら、もう異世界でしょ?」

「学校の屋根が見えてるんだ、なにか居るだろ。いざとなったらスライムでも」

「スライムって、食べられるの?」

「干せばスルメみたいになる。醤油とワサビもあるみたいだし、刺身でもいけるかも」

「刺身にするなら、よっぽど洗わなくちゃいけないわ……水は、そんなには無いわよ」

「ああ……初心者用の50リットルだ。飲料と煮炊きに使って四日分ほどだな」

「……あ、一番下に予備の水袋があるわ。そっちは?」

「……こっちにもある。学校で入れてくるんだったなあ」

「戻って汲んでくる?」

「それはカッコ悪い」

「フフ、アルテミスらしい。わたしなら平気よ」

「ケジメだ、ケジメ」

「フフ、そうね。マップは無いのかしらぁ……」

「行ったところだけ解除されるシステムだな……この周辺のことしか分からないぞ」

「でも、地面に傾斜があって、これだけの木や草が茂ってるんだから、こっちの方に川か池が……」

 地面が傾斜している右側に注意を向ける。アルテミスは狩りの女神だけあってこういう時の感覚は鋭い。

 ザク ザク ザク ザク……

「誰か歩いてるの?」

「いいや、歩く音じゃない……土を掘っている音だ。見てくる」

「わたしも!」

「ベロナはそこに居ろ、二人で行ったら、元の場所が分からなくなる」

「あ、うん、分かったわ」

 念のため弓に矢をつがえ、身を低くして木の間を拾うアルテミス。

 え?

 直線で20メートル、高低差で4メートルほど行ったところでアルテミスは意外なものを見て、思わず声を上げてしまうところだった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
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馬鹿に付ける薬 003・旅の始まり

2024-08-02 13:45:07 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

003:旅の始まり 




「では、正門まで見送ろう」

 ベロナの兄であるマルスは、武人らしく妹に告げた。

「ありがとうございます、お兄さま」

 ベロナも良家の子女らしく、きちんと頭を下げる。

「留年の使命が冒険の旅だとは聞いたことも無い。だが、逆に言えば、それだけ期待されてのことであるだろうし、それに耐える力が二人にあると理事長も校長も判断されてのことなんだろう。厳しい旅になるだろうが、我々も陰ながら応援しているぞ」

「はい、お兄さま」

「ありきたりだが、頑張れベロナ」

 マルスは妹の細い肩に手を置き、愛おしそうに揺すった。

「そんなに揺すられては、旅に出る前に壊れてしまいます(^_^;)」

「せめて太陽系を出るところまではガードとして付いて行ってやりやいところだが、公転軌道の警備も揺るがせにはできん。アルテミス、どちらがどうと言うほどに力には差のない二人だろうが、どうかベロナをよろしく頼む」

「お、おう」

「ベロナも、なにごともアルテミスと相談し、力を合わせて進んでいきなさい。そして、この試練を乗り越えれば二人は、惑星と衛星という枠を超え、この太陽系に二つとない親友の星になれるだろう」

「はい、お兄さま」

「ありがとうマルス……ねえちゃんも、なんかねえの?」

「え、わたし?」

「姉妹なんだからさ、こういう時はなんかあるっしょ」

「あ……馬鹿に付ける薬って……なんだろうね」

「古来『馬鹿に付ける薬は無い』と言われてきたが、アマテラス殿が言われるんだ、必ずあるさ」

「そうだよ、まあ、がんばりなさい」

「おう……じゃ行くか」


 そっちじゃありませーん!


 四人が正門に進もうとすると、式の終わった講堂から飛び出してくる者がいる。

「あ、教頭先生」

 気づいたベロナがきちんと振り返って頭を下げる。一応の礼服に身を包み髪も黒々としたジョバンニ教頭、どこか少年の匂いを残しているが、近づいてくると目元や口元に隠せない年齢を感じさせる。

「北門から出てもらいます」

「北門?」

 マルスが眉を顰める。

「あ、不浄門とは言われていますが、始まりの町にはいちばん近いんです」

「「「「始まりの町?」」」」

 四人の声が揃う。

 始まりの町というのは異世界冒険もののゲームやラノベに出てくるお決まりの設定。ここで装備を整えギルドに登録し、チュートリアルを兼ねた初期ダンジョンの攻略があったりする。

「ということは、二人の旅は銀河宇宙を飛び回るスペースファンタジーではなく、異世界冒険RPGだと?」

「まあ、そういうことですね。初期装備と七日分の水と食料は二人の道具袋に入っているから後で確認しておきなさい」

「はい」

「おう」

「……えと、質問とか疑問とかは無いのかなぁ?」

「はい」

「質問して普通の留年になるんならするけど」

「あ、それは絶対無いから……」

 保護者二人をチラ見する教頭だが、保護者も生徒もここに至っては言葉も無い様子で目を合わそうとはしない。

「ええと……始まりの町で、学校の方から依頼したガードが待っているからね。予定では五日目には町につくから、ギルドに行って登録のついでに確認しなさい。名前や特徴は道具袋のメモ帳にあるから、間違わないで声をかけるように」

「それならば、登録番号で確認した方がいいだろう、ギルドに来るガードなんて似たり寄ったりだろうからな」

「あ、それもそうですね、将軍。なにぶん学校の仕事ばかりで冒険などしたことが無いもんですから(^_^;)」

 北門に着いて門扉が開かれると、それに連動していたんだろう、二人の制服は瞬間でアーチャーと魔法使いのものに切り替わった。

「アーチャーなのは、いいけど、ちょっとダサくない?」

「わたくしのも、ちょっと胸がきついような」

「初期装備だからね、まあ、二三個クエストやって気に入ったのを買えばいいよ」

 北門から出してしまえば任務終了なのだろう、教頭の言葉には熱が無い。

「初期装備には裁縫セットが入っているはずだ。あとで直すといい……ほら、ここだ」

 マルスは妹のインタフェイスを開いて示してやる。

「まあ、なんとかなるわよ、わたしの時もそうだったから」

――あんたは何もしないで月に帰ってきただけだけどね――

 辛辣な言葉が出そうになるが、さすがにアルテミスは飲み込んだ。

 門を数歩出ると、ロケーションは『始まりの荒れ野』の風情で、一陣の風が吹いて来て見送っていた教頭の髪の毛を吹き飛ばした。

 あ、ウイッグ!?

 教頭を慌てさせ、少しだけ笑ってアルテミスとベロナの冒険の旅が始まった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
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  • ジョバンニ          教頭
  
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馬鹿に付ける薬 002・原級留置告知式・2

2024-07-25 17:16:04 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

002:原級留置告知式・2 





――こ、これが講堂?――

 
 入学式以来久々の講堂に入ると、その内部は入学式の時よりもさらに広くなっていて、一階席も二階席も星々のスピリットでいっぱいだ。よく見ると入学式には無かったはずの三階席もうっすらと見えて、そこにも鈍く光るスピリットたちがひしめいている。

 壁や天井には銀河をモチーフにした壁紙や装飾があったはずなのだが、それはVRの3D映像のように立体的になっている。
 あたかも、講堂の内部が銀河宇宙の中に放り出されたように幻想的な広がりを持っているのだが、留年の申し渡しに呼ばれたと思っているアルテミスは悪い冗談としか思えなかった。

 同じ留年生のベロナが入学式の時と同じようなアルカイックスマイルで表情が読めないこともアルテミスをいら立たせる。

 舞台の上には入学式と同じ演壇が置かれて、少し後ろには演壇を挟むようにして審査員席のような裁判官席のような壇が設えられている。

 舞台の下には、四人分の椅子が置かれていて、真ん中の二つには『留年生席』、両脇の二つには『付き添い者席』の文字が点滅している。

 講堂の内扉から留年生席までの通路は銀河鉄道のホームの端から端ほどもあって両側は物見高い星々の、つまりは学校の生徒や教職員やPTAのスピリットたち。十字架こそは背負っていないが、まるでゴルゴダの丘に登るキリスト、とんださらし者だとアルテミスはさらに不機嫌になる。

 威風堂々?

 ベロナの呟きで、静かに流れているのが入学式の時と同じエルガーの行進曲だと気づくが、機嫌の悪いアルテミスには入学式から今までの学校生活をチャラにされたような気がして面白くも有難くもない。

 え?

 座ってから小さく驚いた。

 席は『留年生席』『付き添い者席』とあるだけで区別が無かった。それが、戸惑うことも迷うことも無く、左からカグヤ・アルテミスとベロナ・マルスと並んで座った。

 些細なことだが、こういう自分の意志以外の何かに導かれているのは面白くないアルテミスだ。

 スルスル

 子供向きアニメのような音がして舞台の端にマイクがせり上がってきた。司会者が出てくるのかと思ったら、さっきまで前を歩いていた宮沢校長だ。

 入学式じゃ、教頭のジョバンニが立って司会をしていた――ということは、演壇にはもっとエライやつがくるのか?――とアルテミスは思ってキョロキョロ。

「始まるわよ(^_^)」

「分かってる(-"- ) 」

 ベロナの一言はやっぱりムカつく。

「ただ今より、本年度昴学院高校の原級留置告知式を挙行いたします。一同、起立」

 ザザ

 何万人いるんだろうというぐらいの音がして会場の全員が起立。さすがに緊張する。

 いつの間にか演壇後ろの席には二年生担当の先生たちが神妙な顔で立っている。

「礼」

 ザワ

「着席」

 ザザ

「本年度原級留置を申し渡される者、月のアルテミス、火星のベロナ、起立」

 ザ

「それでは……あ……」

 演壇に振ろうとしたら、誰も居ないことに気付いて焦る校長。

 シャララ~~ン

 するとメルヘンなエフェクトをさせながら天女のような人が客席の後ろの方からシズシズと舞い降りてきた。

 胸ポケットからハンカチを出して汗を拭く校長。

 ギリギリまで畑仕事をしているからだと思うアルテミスだが、さすがに口にはしない。

 捻った首を戻す時に上を向いたベロナの顔を美しいと思う。瞬間ベロナと目が合って反射的にムッとしてしまう。ベロナはニコッとして、もう一つムッとしてしまうアルテミス。

「アマテラス理事長より原級留置の申し渡しとお言葉をいただきます」

 校長が紹介すると、それまでのにこやかな笑みを引っ込めて、理事長は無慈悲に宣告した。

「月のアルテミス……火星のベロナ……両名に本年度原級留置を申し渡します」

「「ハ、ハイ」」

 さすがに緊張して上ずった返事になる二人。

「ここからは座ってもらってかまいません……本校数百年ぶりの原級留置、簡単に言えば留年、落第です。従来ならば、新二年生の中に入って新たに二年生をやってもらうのですが、校長先生や学年の先生方とも協議して、本年度はやり方を変えます」

 え?

 ええ?

 意外の声は二人の留年生だけではなく、講堂の全員から起こった。

「昴学院建学の理念は、よりよい銀河宇宙の発展に寄与するスピリットの養成にあります。明日の銀河世界のために二人には特別の使命を帯びてもらいます」

 特別の使命……?

「月のアルテミス、火星のベロナ、あなたたちは母星の運命を知っていますね……どうですか?」

「「はい」」

 これには頷かざるを得ない。めったに聞くことも口にすることもないのだが、月と火星には運命がある。星としての誕生した時からの抗しがたい運命が。

「あなたたちの留年は、その運命に果敢にも抗うための志があってのことと、このアマテラスは理解しています。だからこそ使命を与えます」

 アルテミスは後悔した。ベロナに誘われて「もう一年気ままな二年生ができるなら」と留年したのだが、特別な使命があるなどとは思ってもいなかったのだ。

 参列の星々やスピリットたちも何事かと息を潜めている。

「バカにつける薬を探す旅に出てもらいます!」

 え…………?

 あまりに意外の使命に式場のほとんどのものが言葉を失ってしまった。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
 
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馬鹿に付ける薬 001・原級留置告知式・1

2024-07-23 13:55:24 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

001:原級留置告知式・1 






 下ノ畑ニ居リマス  賢治


 チ!


 小さな黒板に書かれたメモを見ると、舌打ち一つしてアルテミスは崖を駆け下りて行く。

 弓と箙(えびら)は瞬間のうちに姉のカグヤに投げられ、夕べ念入りに寝押しした制服のスカートは千切れんばかりにはためき、せっかく納得させたアルテミスの『恭順の意』は満開の桜を文字通りの花吹雪に変えながら消し飛んでいく。

 あ~~~~

 ため息をつくと、そんなカグヤをクスリと笑う者がいる。

「すみません、カグヤおねえさま」

「あ、ベロナちゃん」

「相変わらずですねアルテミス。でも、わたくし安心しましたのよ、こんなことになってしまって意気消沈してるんじゃないかって。やっぱりアルテミスは元気が一番です」

「ありがとう、持つべきものは友だちねぇ……」

「?」

「あ、ごめんなさい、つい(;'∀')」

「フフフ、大丈夫です。同じ留年生同士、しっかりやっていきますわ」

「えと、今日はベロナちゃんお一人で?」

「いえ、兄のマルスが付いて来てくれているんですが、黒板のメモを見て下の畑に行ってしまいました。軍神ですけど根は農耕神ですから人の農作業は気になるようです」

「そう、……」

「フフ、もうひとつ、気になりますよね」

 ニッコリと自分の顔を指さすベロナ。

「あ、いえ(^_^;)」

「なぜ、生徒会長のわたしが留年したのか」

「学年末テストはぜんぶ受けなかったとか……あ、ただの噂だけど」

「いえ、噂通りです。テストは一つも受けていませんのよ」

「え」

「自分でも全てが分かっているわけじゃないんですけど、このまま三年生になって卒業してはいけないような気になったんです。モラトリアムの言いわけかもしれませんけど……あ、来たみたいですよ」

 崖の下から三人の足音が上がってくる。

 二つは落ち着いた大人のそれだが、もう一つはまだまだ不機嫌なアルテミスだ。

「もう、さっさとやってよねえ! 狩猟期間はあと二週間しかないんだから!」

「アルテミス!」

「ああ、ごめんてば。ちょ、頭抑えんなよ」

「もうしわけありません校長先生、マルス将軍」

「いやいや、つい畑仕事に熱中してしまって」

「いや、わたしがあれこれ校長先生に質問したりご教示頂いたりしていたもので。申し訳なかったカグヤ殿」

「アルテミスもお詫びしなさい」

「え、ああ……さっきは生意気言ってすみませんでした……て、下の畑でも言ったんだけど」

「けじめよけじめ」

「さあ、では講堂の方にいきますか」

「え、講堂でやるんすか!?」

 てっきり、黒板のかかっている校長の小屋で行われるものと思っていたアルテミスだけでなく、校長以外の三人も驚きの色を隠せなかった。

 昴学院、本年度の原級留置告知式は、学院最大の施設である大講堂で行われようとしていた。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • 宮沢賢治           昴学院校長
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鳴かぬなら 信長転生記 192『転生の準備が整ったわよ』

2024-07-10 11:45:43 | ノベル2
ら 信長転生記
192『転生の準備が整ったわよ』信長 




 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ……!?

「はあ……また一杯になったぁ(;'∀')」

 ため息をつくと、ポケットからケースを取り出して二度目のSDカードを交換する孫権。

「ううん、三回目よ」

 ぶっきらぼうに腕組みし、ジト目で孫権の撮影に付き添う市。

「時間ならまだ大丈夫だからな」

 足元の打ち水は乾き始めているが、背後の茶室に人の気配はない。

 利休の配慮と信玄・謙信の阿吽の呼吸だ。

 呉王就任祝いの答礼に、新米国王の仲謀孫権みずからが学院に足を運んできているのだ。

「いやあ、扶桑見物をする絶好の機会ですから(^_^;)」

 単なる外交辞令かと思ったが、学院に着くや否や、一時間足らず、すでに三回もカードを入れ替えている。

「デジカメは取り過ぎちゃっていけませんねえ……いやあ、それにしても扶桑は魅力的すぎます!」

「皇帝になったら、そのデジカメも撮れなくなるんじゃないの?」

「いやなこと言わないでくださいよ、シイ……いや市さん(^_^;)」

「皇帝なんだから、もうちょっと貫録付けなきゃね」

「アハハ、そんなのもは戴冠式の時だけでいいんですよ。それまでは……それからでも、ボクはチュ-ボウです。呉王でもありません……ああ、御山を借景にした茶室もいいですねえ、ちょっと垣根の外からも撮ってきま~す」

 お付きのガードが慌てて配置を変える。お付きの者は大変だろうが、見ている分には面白い。

 大魔神になった曹操は武漢で潰え、茶姫、大橋、孔明は阿修羅といっしょに消えてしまった。

 劉備も孫策も三国志の皇帝になることは拒んだ。

 曹操に並んで三国志の英雄である劉備と孫策、そのどちらが三国志皇帝となっても、万里の長城以南はまとまらないだろう。元来が危うい均衡の上に共存していたんだ。

 だからこその天下三分の計。

 天下三分の計は三傑が揃っていてこそ成り立つ。

 劉備と孫策の共同提案で暫定的に仲謀孫権が皇帝位に就くことになった。

 三国志でも扶桑でも、孫権は陽気なカメラ小僧としてしか認識されていない。孫権が皇帝である限り、三国志で戦争は起こらないだろう。いわば、三国志はモラトリアムの時代に入る。

 三国志の安定はとりもなおさず扶桑の平和。

 応援しないわけにはいかない。

「ねえ、リュドミラさんと武蔵さんの写真は、どれがいいと思いますか!?」

 垣根の外に出ると、SDカードを一枚目に戻して二人の踊り子の写真を見せる孫権。傍には備忘録と検品長が真面目な顔で立っている。

「いやぁ、あの二人にせっつかれてるんですよ。戴冠記念のパンフとイベントに使う写真、ぜんぶボクが選ぶことにしちゃいましたからねぇ(^_^;)」

 リュドミラと武蔵は豊盃パサージュの専属ダンサーになり、周末にパサージュのステージで踊る他に市内各地でモデルをしたりダンスの指導にもあたっている。

 パサージュそのものも書籍範老夫婦が「大橋さんがお戻りになるまで」ということで経営にあたってくれ指南街の陳麗と明花がサポートしてくれている。

「陳麗も明花も将来は指南街の土地を買い戻して学校を作るっていってます(^▽^)」

「あそこは、ショッピングモールができたんじゃないの?」

「そうなんですけどもね『指南街は歴史的な文教地区、商業施設がいつまでも続くわけがない』って強気なんですよ(^▽^)」

 こいつ、二人を後押しする気満々だ(^_^;)。

「いろいろありますけど、最後は武漢決戦ですねえ(^◇^)/」

 あの激闘の写真は、ゴジラの最新作を偲ばせる迫力だ。

 阿修羅の写真がよく撮れている。憤怒の中の寂しさ愛おしさが滲み出て、孫権が阿修羅を単なるモンスターやラスボスとして捉えていないことがよく分かる。

「孫権」

「はい?」

「阿修羅のこと、気づいていたのか?」

 阿修羅の言葉は直接俺と市の心に響いてきたもので、周囲に居た人間には聞こえていないはずだ。

「あ……たんに表情からです。曹操の大魔神が成敗された後だったんで、余計にそう見えたのかも……でも、怪物だけど……この表情は残しておきたいと思ったんです」

「……ありがとう、ありがとう孫権」

 振り向くと市の目が真っ赤だ。

「市さん……」

「あ、茶室の方、聞いてくるね!」

 たまらずに市が駆けた先には利休が立っていて、何やら市に話している。「うんうん」と子どものように頷く市。

「みんなあ、お天気がいいから御山で野点(のだて)にしないかって!」

「おお、それはいいなあ!」

 俺も大きな声で応えてやると、子どもの頃のように泣き笑いでウンウンと大きく頷く。

 パシャパシャ

「いいお顔です」

「そうだろ、この信長の妹だからな」

「いいえ、信長さんもです」

「……で、あるか」

 もう一度振り返ると、信玄と謙信が馬を足掻かせ、二人の軍配と采配がキラリと輝き野点の車列と馬の列が動き始めた。


 御山が近づくと風の中、久々にあっちゃん(熱田大神)の声。


――転生の準備が整ったわよ――

「なに?」

――御山に着いたら天照さんの指示に従って――

「まだ転生はせぬぞ」

――え(OωO; ) !?――

「決めたことだ」

――え、え?……じゃあ(;'∀')!?――

「是非もなし」

――え……あ……ああ、もう、このバカ信長ぁ!――

 声は御山の方に消えていく。

 御山に着くと天照がめちゃくちゃ怖い顔をして現れて、目が合うと思い切り「イーーーダ(`皿´) !」をされてしまうが、ついでに持ってきたシフォンケーキのカップはしっかり持っていかれてしまう。

 見上げた空は子どもの頃、干し柿齧りながら見上げた尾張の空のように澄んでいたぞ。

 
           鳴かぬなら 信長転生記 完

 

 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主 
  



 

 




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鳴かぬなら 信長転生記 191『阿修羅の正体』

2024-07-07 11:03:45 | ノベル2
ら 信長転生記
191『阿修羅の正体』信長 




 敵か……味方か……


 血みどろの阿修羅は大魔神に深手を負わせた。ひょっとしたら討ち取ったのかもしれない。

 夥しい血が流れ、牛一頭分もありそうな片腕が落ちてきた。

 これだけのダメージを受けては、さしもの大魔神曹操も撤退せざるを得ないだろう。いや、あの深手では命を失っていても不思議ではない。

 それなのに、阿修羅は荒々しく肩で息をし、三対の双眼も炯炯と敵意をむき出しにしている。

 その訳の分からん敵意と怒りの圧に、武漢城に留まった者も、武漢市街に避難した者たちも寂として身じろぎもしない。

「阿修羅、おまえは何者なのだ!」

 無意識に市を庇いながら唯一残った悟空の如意棒を突きつける。

 グルグルグル! 

 三面が高速で回転し始め、三対の腕がブルンブルンと振るわれる!

 シャキーーン!

 三面の回転が停まり一面となり、三対の腕は一対に減じた……いや、まとまった。

「己(み)は淀である」

 淀……?

 静かな名乗りではあるが、その身に秘めた炎(ほむら)は収まった風も見えず、武漢城の者たちは、まだ息をのむばかりだ。

 その中にあって、俺の背中を掴む手だけがピクリと震えた。

「……茶々?……茶々なの?」

 掴む手が離れ、視界の端を市の横顔が占める。

「そうか、茶々なんだ」

「……そうよ、お母さん、あなたのために三回も落城の憂き目にあい、二度も父なる人を失って、最後は最愛の息子をさえ……なのに、あなたはノウノウと転生。前非を悔いることもなく……どうして、女のままの転生なのか、また元の市のままに生まれ変わって同じことを繰り返すつもりなのか……と思っていた」

「茶々……」

 辛うじて名前は呼ぶものの、俺の横に出るのが精いっぱいの市。

 グズグズするやつもグズグズした事態も嫌いだ。

「茶々」

「なに、伯父さん?」

「どうやら、曹操の大魔神をやっつけたのはおまえらしい。しかし、ウダウダいう奴は嫌いだ。この上俺や市に立ち向かうと言うなら俺が相手になるぞ」

 如意棒を正眼に構え直すが、茶々は構えようとはしない。

「フフフ、もうそんな力は残っていない。もう少し見ているつもりだったけど、曹操を倒すのに力も気持ちも使いすぎてしまった……」

 瞳の炎は消えかけの蝋燭のように細くなり、その体は端の方から茶褐色の湯気のように解けて霧消していく。

「茶々……」

「じゃあね……」

 完全に消えてしまうと、武漢の上に青空が戻ってきた。


 そして振り返ると、曹茶姫、諸葛茶孔明、大橋紅茶妃の三人の姿が消えていた。


 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主 
  
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鳴かぬなら 信長転生記 190『阿修羅!?』

2024-07-03 15:23:04 | ノベル2
ら 信長転生記
190『阿修羅!?』信長 




「桶狭間じゃないんだから、一人だけでかっこつけないでよね!」

「市……」

「違ったか、その敦盛は本能寺っぽい……兄ちゃん、死ぬよ」

「リュドミラの狙撃も通じず、武蔵の刀も折れた……最後の決着は俺がつける!」

「武蔵の刀は二刀流、それでも敵わなかった。あんたの刀だけじゃ間に合わないっしょ!」

「市……」

「市もいっしょにいく!」

 ゴロゴロゴロ……ゴロゴロゴロ……

 魔人と化した曹操の怒りか、兄妹二人の想いに感応したか、武漢の空に蟠った暗雲は急速に密度を増し、稲光が縦横に走る。

 ガラガラガラ……ピッシャーーーーン!!

 間近に落雷!

 キャーー! ウワーー! グワーー!!

 ほとんど灰燼に帰した武漢のあちこちから悲鳴が上がり、大魔神の曹操でさえ、片膝ついたまま右手で顔を庇う。

 ウォーーーーーーン ワォーーーーーーン ユォーーーーーーン

 叫ぶとも歌うともオノマトペともつかぬ倍音が頭上で響く。

 あれは!?

 顔を上げると、城壁の上、たった今まで茶姫・孔明・大橋が芭蕉扇を振るっていたところに三面六臂の魔人が立っている。

 身の丈は大魔神には及ばないが人の三倍は優にあるだろう。三面も、それぞれ祈るような堪えるような静かな怒りと決意が漲り、緩やかに回転し、曹操の魔人と向き合ったところで瞬間停止して睨みつける。
 一対の手で槍を構え、もう一対の手には弓と矢を、もう一対の手には武蔵を倣うように双剣を持している。

 シャリン……

 これを敵認定した大魔神が、これも虚空より両刃の大剣を取り出し正眼に構え、中空に浮揚、阿修羅を誘うように退りながら構えを開いた。

 その刹那!

 グゥギィーーーーン!!

 金属音のような叫びをあげて阿修羅が自身一発の弾丸になったように一直線に跳躍した! 

 チュィーン! ガキーン! シャリーン! グキーン! ゴキーン!

 宙を穿つように剣戟の音が響くが、その姿は残像として刹那目に留まるだけ。地上の我々は、その剣戟と残像を追うばかりで、この突然の戦いの訳を知ることすらできない。

 シャリーン! グキーン! ゴキーン! チュィーン! ガキーン! シャリーン! グキーン! ゴキーン! チュィーン! チュイーン! ガキーン! シャリーン! グキーン! ゴキーン! チュインチュイン! グガキーン……!

 え……止んだ。

 ボタボタボタボタ!!

 止んだと思ったとたん、広場の上空から夥しい血が滝のように流れ落ちてきた。

 ドチャ!!

 続いてクジラほどの血まみれ肉が落ちてきた。塊の先は五つに分かれてヒクついている……大魔神の腕だ!

 その凄惨さに、下界の者たちが怖気を振るっていると、阿修羅が暗雲の中から血みどろの姿で現れ、城壁に避難した俺たちに正対する高さまで降りて制止した……。



 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主 
 
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鳴かぬなら 信長転生記 189『決戦武漢城!』

2024-06-28 11:09:44 | ノベル2
ら 信長転生記
189『決戦武漢城!』信長 




 グイィィィィ~~~~ッ!

 琥珀浄瓶 (こはくじょうへい)の口に固く栓をする。

「猪八戒、芭蕉扇でこいつを宇宙のかなたまで吹き飛ばせ!」

 市の猪八戒に命じながら筋斗雲を急上昇させる。

「兄き、投げて!」

 猪八戒としてなのか妹としてなのか分からない声を上げて芭蕉扇を構える市。

 ゾワ

 芭蕉扇は取り出しただけで、一里四方の空気が騒ぐ。

 ん?

 琥珀浄瓶のくびれを握る手に嫌な振動が伝わる。

 ビリビリビリ……ビリビリビリ……

 瓶の中で曹操が暴れている、こいつ、まだ力があるのか!?

 急がなければ!

 トリャアアア!!

 ピシ!

 俺が投げるのと瓶にひびが入るのが同時だった!

 バッビュン!!

 続いて芭蕉扇が振るわれて、最初の風が衝撃波となって駆け上がって来る!

 巻き込まれる寸前に身を翻す! 

 回転する視界の中に信じがたいものが見えた……暴風の先駆けに身を震わせる琥珀浄瓶は、その瞬間に破裂して闇が現れ。その闇は瞬時にゴジラほどに巨大な魔神と化し、吹きつのる暴風を僅かに超える速度で地上に降りてくるではないか!

 ジリ……ジリ……ジリ……ジリジリ……

「芭蕉扇でも吹き飛ばせないブヒ!」

「加勢するッパ!」

 バビュン! バビュン! バビビユン! ババビユン!

 茶姫の沙悟浄も加わって芭蕉扇を扇ぐ姿は、猛烈な火災にホースを構える果敢な消防士のようだ。

「関羽! 張飛! 皆を遠ざけて!」

 孔明が叫ぶ。

「みなさん、あっちへ逃げて!」

 大橋も二人の横にあって退くことを知らない。

 この事態に至っても全体として崩れずにおれるのは、城壁に立つ三人の姿があればこそなのかもしれない。

 避難民が一町も下がると、大橋も芭蕉扇の柄を握り、微力ながらも力を振るう!

 ジリジリ……ジリジリ……ジリジリ……ジリジリ……ジリジリ……

 バビビユン! ババビユン! バビビユン! ババビユン!

 ジリジリ……ジリジリ……

 いかん、僅かではあるが大魔神の方が早いぞ、それに……瓦礫の陰に逃げ遅れた子どもたちの姿が!

 筋斗雲を踏む脚に力を入れた、その刹那。

 ドドキューーン! 

 銃声がしたかと思うと、大魔神の両眼が朱に染まった!

 シュキーン!

 金属音がしたかと思うと、地上にあと一歩というところで、大魔神は脚を停めて跪いた。

 見ると、武蔵が折れた太刀を持ってジグザグに駆け抜けていく。城壁の上には銃を構えたままのリュドミラが――今のうちに――という顔で筋斗雲の俺を見上げている。

「みんな、これに乗れ!」

「ありがとう、悟空のおにいちゃん!」

 年かさの男の子の礼だけ聞いて、残りのチビ三人を乗せる。

「おにいちゃんは!?」

「自分の脚がある」

 そう言って、筋斗雲の尻を叩く。

 リュドミラが瞳の真ん中を撃ち抜き、武蔵が太刀を下りながらも脚の腱を切り、しばらく大魔神は動けないと思った。

 ウォーーン!

 くそ、子どもたちを救助した僅か五六秒で大魔神は立ち直って、地上に足を付けた。

 ドドキューーン! チチン!

 リュドミラの二撃目は瞬時に現れたシールドに弾かれてしまう。

 こいつ、戦闘状況に合わせて進化している……!?

 
 是非に及ばず!


 敵わぬまでも、この信長が抗ってやるか。


 如意棒を構えると、それは生前使い慣れた薬研藤四郎の太刀に変わった。


 姿も元の信長に……と思ったが、悟空を解除した姿は転生学院の制服。

 この美少女姿にも磨きがかかってきた。この形で果てるのも面白いか。

 さて……

 尻を探ると、ちゃんとスパッツも履いている。生パンでくたばってはみっともないからな。


 人間五十年~ 下天のうちを比ぶれば~


 自然と幸若舞の敦盛が口を突いて出てくるぞ。


 夢幻の如くなり~ ひとたび生を受け~ 


 あと一節……


 スタ


 軽やかに音を立てて降りてくる者がある。

 それは……猪八戒の姿も解除した転生学園制服姿の市だった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

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鳴かぬなら 信長転生記 188『荒ぶる魔王曹操に打つ手なし!?』

2024-06-22 10:55:13 | ノベル2
ら 信長転生記
188『荒ぶる魔王曹操に打つ手なし!?』信長 




 これがスケボーならオリンピックの金メダル!


 そんなテクニックと見の軽さで筋斗雲を操り、大上段! 打ち込み! 薙ぎ払い! すり上げ! 受け返し! さらに突きからの胴払い!

 ビュン! ズサ! ジャキン! シャリン! ドスドス! ガキーーン!

 曹操は大魔人と化したが、その分動きが大きく、間近に迫り懐に入ってしまえばヒットを加えることは難しくない。

 しかし、その都度視覚化されるヒットポイントは一桁、良くて10とか12までだ!

 曹操の頭上のHPゲージは下が赤、上が金色の二本。

 赤はゲージは100万、金ゲージには数字も目盛りもない。

 ラスボス決戦のパターン、よくあるやつだ。

 赤ゲージを全壊させて、金ゲージはようやく1/3に減じ、再び赤ゲージが満杯になり、こちらも再び立ち向かって赤ゲージを削っていく。そういうことを三度繰り返さなければならんという鬼仕様!

 おそらく、曹操のHPは300万は超えるだろう。

 エイ! トォー! セイ! オリャー! 

 視界の端に猪八戒と沙悟浄の姿、敵わぬまでも健気に打ちかかっては遠ざかり、遠ざかっては打ちかかり……しかし、その効果は俺と同じ一桁、たまに10のヒットポイントでしかない。

 ドッゴーーン!!

 脇をすり抜け上空へ飛ぼうとした俺をぶち殺そうと、巨大な右腕が手刀となって擦り上げられ、内庭の城壁と楼門が一度に破壊される!

「止せ、猪八戒!」

 猪八戒の市が力任せに石垣の巨石を持ち上げる! しかし、こちらも動きが遅く、気づいた曹操が蹴りを食らわせようと腰を捻る!

 ブブーン!! ドゲシ!!

 八戒を載せたまま東の城壁の半分が吹き飛ぶ!

 ウワアアアアア! キャアアアアアア!

 東に逃げた避難民や町の者たちが悲鳴を上げる。もし、悲鳴に僅かなりと攻撃力が籠っていたら、僅かばかりでも大魔神のHPを削れただろうが、民衆の声や悲鳴に力があった例は三国志にも信長公記にもゲームの中にさえ無い。

 孔明はいち早く蠅タタキを振るい、心得た関羽と張飛が民衆を左右に逃がす。この危機においても孔明の避難指導に抜かりはない。

 ビョオオオオオオ!

 芭蕉扇を食らわせる沙悟浄! 

 烈風は北の宮殿と城壁を吹き飛ばす! 

 だが、曹操は冠を飛ばされ、髷が崩れただけで、かえって大魔神の禍々しさを際立たせてしまった!

――信長、これを使え!――

 三蔵が一言主の地声で秘密兵器を送って来る!

「これは!?」

――琥珀浄瓶 (こはくじょうへい)じゃ、名前を呼んで返事をすれば、どんなものでも吸い込んで融かしてしまう秘密兵器じゃ――

「こんなもの、どこで?」

――牛魔王の倉庫じゃ、自分の水筒と間違えて持ってきてしまった。ぶっそうだから水筒としてしか使うとらんかった――

 よし、これさえあれば。

 しかし、どうだろう。魔人になってからの曹操は言葉を喋っていないが?

 ええい、魔人の吼え声でも返事に違いはなかろう! 

 当たって砕けろ!

――八戒、沙悟浄、やつの注意を引け、ウキ!――

「「おお!」」

 俺の思念に応えて、八戒と沙悟浄が前から打ちかかる!

「曹操おおおおおおおおお!!」

 背後から筋斗雲ごと急降下して、奴の名前を呼ぶ!

 むろん琥珀浄瓶の口は寛げている。

「グオオオ!!」

 雄たけびを上げながら振り向く曹操!

 至近に迫る曹操の大口! 効き目が無ければ、俺は筋斗雲ごと呑み込まれてしまい、奴のウンコになり果てるだろう!

 南無三!

 ズボ!!

 掃除機が異物を吸い込むような音がして、振り返ると奴の姿は無かった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
   
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鳴かぬなら 信長転生記 187『魔王曹操』

2024-06-15 11:30:44 | ノベル2
ら 信長転生記
187『魔王曹操』信長 




 シャラン!

 三蔵法師姿の一言主が高々と数珠持つ手を振り上げた!

 同時に弟曹素の骸をかき抱く曹操の姿がブレて見え始める。機を見るに敏な俺には武漢城頭にとてつもない危機が迫って来ているのが分かったぞ!

 ゾワッ!!

 武漢城内の空気が騒めいたかと思うと、ブレた曹操は一つになって腕をクロス。表情を隠し横浜の動くガンダムほどの大きさになった!

 ガオーーー!!

 雄たけびと共にクロスした腕を解くと、その首は悪魔のように青黒く、双眼は炯炯として天下った魔王そのものだ!

 グガアアアア!!

 ガシュイィィィーーン!

 再び吼えたかと思うと、跳躍しながら佩剣を一閃! 背後の城壁上三分の一を切り込んでAMAZONのニヤリマークの如き傷をつけた!

 グゴオオオオ!!

 三度吼えると、城壁のニヤリマークはのたうつ蛇のように苦し気に歪み、思う間もなく、グワァラと音を立てて崩れた!

 キャアアアアアア!! 

 並外れた驚愕は、ようやく極大の恐れになって爆発する!

「四方に逃げよ!」

 諸葛茶孔明が蠅タタキを振りながら叫ぶ。

 万余の避難者と兵たちだが一方向に逃げれば、またたくうちに薙ぎ払われ踏み潰されるだろう。四方に逃げれば、一方は間に合わずとも、半ば以上は逃げられるかもしれない。さすがは孔明、当を得ている。

 関羽と張飛は軍師の声と共に左右に散って群衆たちを四方に走らせる。備忘録と検品長も二手に分かれて零れた群衆を励まし逃がしていき、大橋の部下たちもそれに倣う。

 キャアアアアアア ウワアアアアアアアア

 広場には驚愕と恐れの悲鳴が満ちる。

 それに感応したのか、黒雲が沸き起こり空気までがささくれ立ってくる。

 なんということだ!

 何の呪いか因果の果てか、今や曹操は魔王に変じてしまった!

 時に英雄の中には複数の人格が存在する。中には信玄・謙信のように一枚看板という者もいるがな、それは一時代前の英雄だ。だからこそ、この異世界に転生し、学院で磨きをかけている。

 この信長も、転生の始めこそは戸惑い、妹の市にばい菌のような目で見られたが、今では三国志に足を延ばし人を助け身を修めている。大橋や孔明とも誼を通じ連帯して事に臨んでいる。

 荒ぶる曹操は、おそらくは転生などは考えたことも無く、この三国志で野望を膨らまし続けてきたんだ。

 個別の人格は統合もされず昇華もされず、野放図に膨らんで、とうとう融合して化け物になった!

「信長! 我々で食い止めるぞッパ!」

 茶姫は一言叫ぶと、沙悟浄に身を変えて曹操に挑みかかる。

 人の姿であるよりはフェイクとは言え沙悟浄の方が身体能力が高い。

「わたしも! ブヒ!」

 市も猪八戒になって飛んでいく。

「よし、俺も、ウキ!」

 俺も孫悟空になってジャンプする、すかさず筋斗雲が俺を載せて魔王曹操の直上に位置を占める。

 一言主の三蔵は残った城壁に佇立して、ひたすら念仏を唱える。

「おお、三蔵法師さまが!」「主従共々に立ち向かって」「守ってくださるぞ!」

 群衆たちも、逃げまどいながらも、魔王に立ち向かう我々に勇気づけられている。

 腹の底から湧いてくる高揚感!

 桶狭間の奇襲、姉川の戦い、長篠の戦、比叡山の焼き討ち、伊勢長嶋の一向一揆征伐……全ての戦いの高揚感がない交ぜになり、太々と力を収斂してくれる!

 キエーーーーーー!!

 ルイス・フロイスをして怪鳥の如くと言わしめた叫びをあげ、筋斗雲もろとも魔王曹操の脳天に打ちかかった!



☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
   
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鳴かぬなら 信長転生記 186『一言主恐れる』

2024-06-09 12:08:39 | ノベル2
ら 信長転生記
186『一言主恐れる』一言主 




 少し喋り過ぎた。


 元々は八百万の神々の中でも寡黙で通してきた儂だ。

 その名も一言居士の一言主(ひとことぬし)じゃ。

 良きことも悪きことも一言で言い放つ。八幡や稲荷ほどではないが、各地に一言主神社があって――一言の願いならば聞き届けてやる――そういうコンセプトで神代の昔からやってきて、みんなからは一言さん(いちごんさん)と親しまれてきた。

 実のところはコミュ障ぎみでなぁ、多くを語ると自分でも訳が分からなくなって破綻してしまう。一時は役小角(えんのおずね)に打ち負かされて家来同然にされてしまったこともある。

 だから、御山の天照に引っ張り出された時には、正直ヤバイと思ったぞ。

「でもでも、コスプレに関しては右に出る者いないじゃん(^▽^)!」

 天照は人の弱いところをよう知っとる(-_-;)。

 そう、儂はコスプレの神でもあるんじゃ。

 雄略天皇が行列組んで葛城山にやってきたときは、雄略天皇に化けて出てやった。すると、さすがに天皇、畏れてコスを全部おいていきおった。儂の完ぺきなコスプレに脱帽っちゅうわけじゃ。

「すごいよ一言主! 仮装大明神の称号あげちゃう!」

 天照も喜んで、以来コスプレの神と祭り上げられたんじゃが、なかなか活躍の機会が無い。

 イベント一つもねえ日本死ね! 

 不穏なキャッチコピーも浮かんできたけど、さすがに止めた。

「喜べ一言主! イベント見つけてきてやったわよ!」

 なんか、吉本のマネージャーみたいにウキウキと話しかけてきおった。

「思金神(おもいかね)が、ちょうど契約切れた仕事があるんだけどね、なんかコスプレっぽいから向いてると思う、あんまりベシャリは無いみたいだしぃ(^〇^;)」

 天照は弟の素戔嗚に手を焼いてから、人あしらいが上手くなって要警戒だとは思っていたんだが「コスプレ!」「ベシャリ無し!」のキャッチフレーズに踊らされ……まあいい、最終的には自分で決めたんじゃからな。

 最初こそは木偶人形の三蔵法師で通していたが、信長たちが苦労している姿を見ていると、ついなあ……豊盃では三蔵法師として説法会っちゅう大イベントをやることになって、今度は三合の河原で豊盃のはハナクソかと思えるような超大説法会。

 折悪しく百年に一度あるかないかの大洪水に見舞われて、やっと武漢の街まで避難した。

 年甲斐もなくイベントで浮き立ってしまったが、これでも神、八百万グループの古株、知らず知らずのうちに影響を与えてしまう。

 水死したばかりの曹素が、その残留思念でおのが一生を振り返っているのは、その現れだろう。

 しかし……儂にも見えるぞ……曹操の姿がダブって……何人にも見える!

 親思いの息子  兄妹思いの兄  非情な王者  優れたデベロッパー  勇敢な将軍  権謀術数のサイコパス  孤独な為政者  キケロの如き弁論家

 ……アルターエゴ(別人格)か?

 だとしたら、こいつの主人格は?

 いくつものアルターエゴに目をやっているうちに、ゲームのキャラクリのように、それらが円を描き始める。

 素戔嗚が高天原にやってきた時のように、強く、深く、曹操を見てしまう。

 いや、儂だけではない、信長も、市も、茶姫も、大橋も、孔明も、ここにいる全ての者が曹操に目を奪われている。

――見てはならぬ!――

 天照の声が頭に響いた。

 天照は、キャピキャピギャルに自己韜晦されるのが常だが、この言葉には余裕が無い。

――逃げよおおおおお(˃̶͈̀ ロ ˂̶͈́)!!―― 

 続く言葉は、ほとんど悲鳴!

 だが、ここに居るのは神ならざる者たちばかり、聞こえた様子は無い。

 御山の天照とはいえ、この三国志では外国(とつくに)の神、神ならざる者に聞こえぬのはあたりまえか!?

 仕方がない、この不器用者の一言主が……

 数珠を持つ手を高々と挙げて、一言主一世一代のアラートを叫ぼうとしたとき、事態は飛躍した。

 ゾワッ!!

 一陣の突風がしたかと思うと、曹操のアルターエゴたちは一気に収れんされて魔人の姿に変貌した!


 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
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  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
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