大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・177『ひょっとして、なにか覚醒した?』

2025-02-02 11:09:29 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
177『ひょっとして、なにか覚醒した?』   




――くそ、くそ、くそ……妹尾死ね! 妹尾のクソ! 死んじまえ妹尾! おまえに関係ないだろ! 自宅謹慎だぞ! 追って連絡あるまで謹慎! 懲戒! 懲戒処分だぞ! 戒告か? 訓告か? 停職? まさか解雇? くそ! クソクソ!――

 十円男の予測通り、杉野先生の心には妹尾先生への憎しみと懲戒処分が下ることへの恐怖心が渦巻いてる。

 校長先生から、処分内容が決まるまでは自宅謹慎してろと申し渡されたんだ。

――金が要るんだ! 優子は専業主婦になることを条件に結婚したんだからな……お袋も体弱いし……学校の給料だけじゃ足りないんだ! 仕方がないんだ! 給料安いから! 外で働かなきゃしかたないんだ! それを……それなのに……――

 ああぁ、どす黒い憎しみと不満が渦巻いて、近づいたらスターウォーズだったかの暗黒面に取り込まれそうで……でも、蛇に睨まれた蛙みたいで、蛇に睨まれたら身動き取れないんだろうけど。違うんだ、この距離とペースを崩したら、先生が振り返って「覗いたなあ(◣д◢) 」って牙を剥きそうで、ペースを崩せない。

 けっきょく、駅の通路で先生が向かう上りを避けて下りのホームに向かうまで後ろについてしまった。

 ホームに上がると、ちょうど電車が入って来て乗ってしまう。

 家に帰るには、先生と同じ上りに乗らなきゃいけないんだけどね。

 不可抗力で大宮市駅まで来てしまう。


 電車を降りて上りのホームに戻ろうと階段を下りる。


――夕刊は無理だけど、朝刊には十分間に合う――

 先生のではない想念が伝わってきた!

――二回も自殺者を出して、今度は教師の不祥事だぁ、まったく宮之森はクソだ。徹底的に叩いてやらなきゃな……くたばれ、日教組!――

 ゲゲ!

 こいつ毎朝新聞の記者だ!

 学校の周辺で取材して、これから教育委員会でウラを取って三面記事のトップに載せる気なんだ。

 杉野先生は自業自得だ。だけど、学校が新聞に書かれるのはイヤだ!

 これ以上、学校のみんなの心を掻き乱されるのはごめんだ!!

 ピシャーーン!

 なにかが弾けた……わたしの中でなにかが弾けた……クラっときて、思わず階段の手すりを掴む。

 胸がドキドキ、視野の端っこが白く光って……立ち眩み?
 
 いや、立ち眩みでドキドキはしないし、あれは目の前が暗くなる……なんだか、自分の中のエネルギーが鋭く放出されて、その余韻みたい。

 え……記者のオッサンも階段降りたところで立ちすくんでいる。

――え……オレ、なにをしようとしていたんだ?――

 あれ……記者の頭の中から杉野先生に関する情報が消え去っている。とうぜん、新聞社に戻って記事にしようという気持ちも消え去っている……。

 わたしがやった?

 湧き上がった疑問を咀嚼する間もなかった。

 イメージが湧いてきた。

 O新聞とK新聞……それにY新聞……その三社も杉野先生のことを記事にする気でいる。

 Y新聞は駅の近くだ!

 階段を一段飛ばしで降りて、改札もダッシュで抜けてロータリーの向こう側にあるY新聞に向かった。

 社会部の前に立つと、女性記者とデスクの姿が際立った。

 そうか、記事は書き上げられてデスクのところまで回っているんだ。

 ピッシャーーン!

 再び弾けて、二人の頭の中から杉野先生のことが消える。

 よし……エレベーターの前まで行って、まだ記事原稿が残っていることに気づいてイメージが湧く。

 念じると手の中に原稿、少し怒りがこみあげて――消去――と念ずる。

 ボ!

 一瞬の炎になって原稿は灰も残さずに消えてしまう。廊下をこっちに歩いて来ていた女性職員がビックリしている。ニッコリ笑っておくと、女性職員も少しぎこちないけど笑顔を返してくれて、まあ、なにかの錯覚だろうと思い直してくれる。

 次はK新聞! いや、近ければO新聞! 両方とも場所が曖昧。

 駅前に戻って『駅前付近の地図』で確認。

 K新聞が近い。

 ダッシュで二ブロック先のK新聞に向かって、さっきと同じように記者とデスクの記憶を消して記事原稿も……こんどは書かれた字だけ消す。

 さあ、残るはO新聞!

 グ……地方紙のO新聞は駅一つ向こうの谷口(やとぐち)だ。

 間に合わない!

 O新聞の社屋が頭に浮かぶ、続いて、社屋が爆発してボウボウ燃えるイメージ!

 だめだ、念じたらほんとうになってしまう!

 どうしよう……迷っていると、O新聞の正面玄関のイメージ。

 すると、念じたわけでもないのにO新聞の玄関前に移動している。

 テレポテーション?

 考えている暇はない、すぐに社会部に飛んで、それまでと同じように記憶と記事原稿を消去した。

 終わったぁ……(-_-;)

 谷口の駅に向かう、二つ向こうの通りに伊勢半配送センターが見える。

 ほんのひと月前なんだけど、なんか懐かしい。

 首を駅に向け直す……視野の端に人影。

 あ

 どこか見覚えのある外人女性……たぶんソ連人。

 ブル

 いっしゅん怖気を振るって、そいつは消えた。

 蒸発したわけじゃなく、たぶんテレポーテーションだ。


 時司巡    


 ひょっとして、なにか覚醒した?

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
コメント
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