大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・86『増田さんのお母さん』

2022-10-06 06:39:14 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

86『増田さんのお母さんオメガ 





 忘れ物を心理学的に説明すると、こうなるんだそうだ。

 忘れ物をした場所に、もう一度行ってみたいという気持ちの現れ……だそうだ。

 そう教えてくださったのは増田さんのお母さん。

 今日、一年生は球技大会で学年全部でスポーツ公園に出かけていて学校に居ない。

 なので、増田さんの母さんは、直接俺に電話をしてこられた。

「よかったわ、直接お会いできて」

 忘れ物のスマホを差し出しながらお母さん。

 ちなみに、俺はスマホを二つ持っている。正月に機種変したんだけど、前のスマホもメモ帳代わりに持っている。

 あまり使わないままバッグに入れてるんだけど、コスプレ衣装に着替える時に落としたようだ。

「汐がコスプレ衣装を着たのは初めてだったんですよ」

 エアコンの設定を変えながらお母さん。

 お邪魔した時にはキンキンに冷えていたが、汗が引いたタイミングで温度を下げられた。行き届いたお母さんだ。

「でも、とっても似合ってました。なんというのか、俺たちはいかにもコスプレでしたけど、増田さんはいかにも月島雫でした」

「親バカかもしれませんけど、あの子の才能だと思うんです」

「そうですね、あ、いや親バカじゃなくて増田さんの才能ですよ」

「見てください、あの子の衣装です」

 差し出されたのは、増田さんが着ていた雫のコスプレ衣装だ。

「……すごい」

 手に取って初めて分かった。

 俺たちが着ていたコスプレ衣装とはグレードが違う。セーラーの襟もしっかりしているし、打ち合わせの裏には『月島雫』と刺繍ネームまで入っている。

「一回解いて補整してから縫い直しているんです。それだけじゃなくて、雫は中学三年の設定なので……ほら」

「おーーーー!」

 お母さんが示したのは袖口だった。袖口は内側が軽く擦り切れている。

「軽石で擦って時間経過を出しているんです」

「すごいですね!」

「先月、食堂で火傷しましたでしょ」

「あ、はい」

 トレーを持った男子生徒とぶつかって、熱々のラーメンを三杯もかぶってしまい、小菊に命ぜられるまま保健室まで運んだのは俺だった。

「あの火傷、痕が残るって言われてたんです」

「え、そうだったんですか!」

 連休の御神楽大神神社(69回『御籠りの五日間・3・御神渡り』)のことを思い出した。

 風呂に裸のシグマと増田さんが入って来た。一瞬のことだったけど二人の姿は焼き付いている。

 あの時、増田さんの胸には火傷の痕なんかは無かった。

「雫もわたしも火傷なんか似合わない……そう念じて、あくる日には消えてましたから」

「え、根性で治したんですか!?」

「ハハ、たまたまでしょうけど、汐には、なにか人並み外れたものがあるみたいな。それが高校に入ってからはっきり現れてきたみたいな、あはは、親ばかでしょ(^_^;)」

「いえいえ……お母さんのおっしゃる通り、なにか持っている子だと思いますよ」

「まだまだ自分の力だけでは前に進めない子だけど、よろしくお願いします」

「あ、はい」

「忘れ物をするのは、そこに、もう一度は戻って来たい気持ちの現れって云いますから」

 お母さんは高校生の俺に深々と頭を下げるのだった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・85『このビルは増田さんちの?』

2022-10-05 06:53:33 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

85『このビルは増田さんちの?オメガ 





 アニメには詳しくない俺でも、それと分かるものが一杯だ。

 もののけ姫 千と千尋の神隠し 魔女の宅急便 となりのトトロ ラブライブ ラブライブサンシャイン 化物語 地獄少女 ラブプラス ドラえもん タイトルは分からないけど多分アメコミのキャラ そしてハリーポッター スターウォーズ えと……

 とある科学の電磁砲 はがない おれいも アルプスの少女ハイジ 魔法科高校の劣等生 アナザー トリニティーセブン ブラッド うる星やつら ペルソナ4 宇宙戦艦ヤマト あしたのジョー ガンダム トゥーハート……

 俺が詰まったのをシグマが引き受けてタイトルを言ってくれる。 

「すごいよ増田さん!」

 シグマでも詰まったところでノリスケが感嘆した。意識しているわけじゃないんだろうけど、感嘆するタイミングを心得ている。

「これ、涼宮ハルヒの北高なんだけど、このブレザーのは?」

「それは『涼宮ハルヒの消失』の別世界でハルヒが通っていた光陽園学園」

「あ、そっか、あそこはブレザーだった!」

「気づいたシグマさんもすごいです!」

 シグマと増田さんは相似形なのかもしれない。

「でも、これだけのコレクション、どうやって集めたの?」

「えと……ここは元々はコスプレ衣装の会社が入っていたんです、それが去年倒産して、溜まった家賃が払えないので置いて行ったんです」

「てことは、このビルは増田さんちの?」

「え、あ、はい」

「ビル一つ持ってるってすごいよ」

「えと……お祖父ちゃんが元気なころに建てたんです」

「お祖父ちゃん?」

「今は入院してます」

 ビル一つおっ建てるなんて、うちの祖父ちゃんよりもすごいぞ。

「ねえ、着てみてもいいかな(#
^_^#)?」

 シグマがノリノリの気分になった。

「あ、どうぞどうぞ、そのために来てもらったんです!」

 で、ファッションショーが始まった。

 いろいろ試した末に、俺は宇宙戦艦ヤマトの古代進に、ノリスケはルパン三世、風信子はアナと雪の女王のアナ、シグマはおれいもの高坂桐乃に変身した。

「じゃ、みなさーん、チーズです~」

 みんな並んで記念撮影、シャッターを押したのは増田さんだ。

 カシャ!

「ね、増田さんもコスプレして撮ろうよ!」

「あ、いえ、わたしは……」

 増田さんは身を縮めてイラナイイラナイをする。

「でも、せっかくだから」

「いえ……」

「ここのコスプレ衣装って、みんなタグとか仕付けが付いたままだけど、増田さんは……」

「見てるだけで十分なんです」

「あ、そうだ、みんなで『耳をすませば』の制服着て写真撮ろうよ!」

 シグマがいいことを思いついた。増田さんはノリスケに借りた図書館の本を拾ってもらい、自分を『耳をすませば』の月島雫に仮託することによってノリスケにアプローチできたんだ。これならイケる!

「じゃ、こんなとこかな」

 シグマは数が揃っている制服を、人数分見つくろった。

「あ、それじゃだめです」

「これ似てるけど」

「ぜんぜん違います、『耳をすませば』の制服はこちらです」

 奥の方から五人分の制服とパネルを持ってきた。パネルは月島雫と天沢誠二の立ち絵だ。

 俺たちはパネルと見比べながらコスプレし直した。

 増田さんは、奥で着替えていて、オズオズと出てきたときにはビックリした。

 ウィッグを付けてメイクまでした増田さんは月島雫そのものだった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・84『水道橋の増田さんの家』

2022-10-04 06:36:31 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

84『水道橋の増田さんの家オメガ 





 その片鱗は見えていた。

 彼女がノリスケにビビっときたのは、ジブリアニメ『耳をすませば』の主人公、月島雫に自分を仮託したからだ。

 ノリスケは彼女の想いを壊さないために付き合い始めた。

 ノリスケは、あれでなかなかのェミニストで、女の子にはずいぶん優しい。

―― ソデにしたら、あの子は不登校になるかもしれない ――

 最初は悩んでいた。増田さんが思ってくれているほどにはノリスケに気持ちは無い。

 でも、いろいろ気遣っているうちに、ノリスケの気持にも変化が現れてきたようだ。

「すこし積極性が出てきたみたいだ」

 彼女から「茶道部に入りました!」と報告された時は本当に嬉しそうにしていたからな。
 
 でも、増田さんが初めて茶道部の部活に来たのが、わがサブカル研の活動日だったのには驚いた。風信子のダブルブッキングのせいなんだけどな。

 さて、片鱗の話だ。

 増田さんは、かなりのアニメファンなのだ、正確にはアニメのコスプレファンだったのだ!

 だから、気絶から回復して、風信子が「夏コミにコスプレで参加しよう!」と宣言した時に、彼女のテンションは100倍になった!

 

 テスト明け最初の日曜日、俺たちは水道橋の坂道を歩いている。

 

「すみません、見てもらった方が早いと思いまして」

 水道橋駅の前で落ち合った増田さんは恐縮しっぱなしだ。

 彼女のコスプレコレクションは量が多いので、サンプルを持ってきてもらうよりも、俺たちが足を運んだ方が早いそうなのだ。

「東京ドームあたりにはよく来るけど、こっち側は初めてだなあ」

「うんうん」

「そうだねえ」

 神楽坂から水道橋は目と鼻の先なんだけど、生活圏は東京ドームのあたりまでで、その先は電車に乗った先の渋谷とかアキバになる。

 学校や中小の会社、それに新旧の住宅が混ざっているのが特徴のようで、神楽坂と比べて賑わいが無い、逆に言えば落ち着いている。

 増田さんは賑わいが無いと言う風に感じているようで、自分の責任でも何でもないのに、なんだか済まなさそうに見える。

「この角の向こうです」

 角を曲がって示された先にはビルに挟まれるようにして『テーラー増田』の二階建てが見えた。

「「「お邪魔します」」」

「どうも、みなさんいらっしゃい」

 お父さんらしい職人さんが店舗兼仕事場で出迎えてくださった。

「お休みの日にお邪魔してすみません」

「ハハ、うちは休みじゃないから。母さん、汐のお友だちが見えたよ!」

――はーい――

「あ、あいさつなんかいいから、あの、こっちです(;'∀')」

 増田さんは、ちょっと不機嫌そう。友だちを呼んだりすることには慣れていないようだ。

「どうもみなさん、うちの汐がお世話になってます」

「あ、いいからいいから」

 出てきたお母さんとの挨拶もそこそこに、作業場のドアの向こうに案内された。

 てっきり二階への階段を上がるのかと思ったら、増田さんは、もう一つのドアを開けた。

「こっちです」

 ドアの向こうは外だ。正確には裏のビルと増田さんの家の境目の路地。それを一列になって十メートルほど歩くとビルの裏口ドア。

 別のビルの中に入って三階へ、増田さんはポケットから鍵を取り出した。

「ここが、わたしの部屋です」

 入ってビックリした!

 教室ほどのフロアは、まるでアキバの専門店かっちゅうくらいコスプレ衣装で一杯だった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・83『気絶した増田さん!』

2022-10-03 06:16:04 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

83『気絶した増田さん!シグマ 






「「ヤバいよ!」」

 先輩二人は叫んだけど、わたしは声も出なかった。

 増田さんは気絶してしまった(^_^;)。

―― あ、みんな居たの?…… ――

 続いて風信子先輩がやってきて声を上げた。

 え!?

 風信子先輩は一発で状況を理解した。

「ごめん、ダブルブッキングだ! それよりも、増田さん、増田さん!」

 先輩は気絶している増田さんの肩をゆすった。

「その前に、モニターなんとかしなくちゃ!」

 オメガ先輩はパソコンのキーボードに手を伸ばした。

「待て!」

「だって、こんなHシーンが三つも並んでちゃ!」

「俺に考えがある」

 ノリスケ先輩がオメガ先輩を押しとどめ、キーボドをカチャカチャいじる。

「……よし、この場面で良いだろう、そっちも無難な場面に切り替えとけよ」

「そうか、増田さんの錯覚ってことにするんだな」

「分かりました」

 わたしもHシーンを似たような構図のCGに切り替えた。主人公が女の子と出合い頭にぶつかって、倒れた女の子の上に主人公が被さるシーン。もちろん服を着ていて、普通のアニメにもよく出てくるパターン。

「ほんとごめんなさいね、てっきり今日は茶道部の部活だと思い込んで」

 風信子先輩の思い込みは無理もない。茶道部が先輩一人になってからは、茶道部の活動日でも、あたしたちはお邪魔している。

 もちろん、エロゲをやる時は風信子先輩の許可を得る。だから茶道部の活動日にあたしたちが居ても不思議じゃないし、あたしたちが居てもエロゲをやっているとは思わない。

 ウ ウ~~~~ン

 増田さんの意識が戻って来た。

「大丈夫、増田さん?」

 空気を読んで、年下のあたしが声を掛ける。

「あ……え? あ……わたし?」

「ごめんね、薄暗い部屋でしょ、モニターの光で、フラッシュ効果になっちゃったんだよね」

 ほら、小さな子供がテレビ画面のフラッシュなんかで気分悪くなったり気絶したりするアレ。

「わたしがダブルブッキングしちゃって、びっくりしたわよね、ほんとごめんなさいね」

「あ、そのモニターに……あ、出会い頭にぶつかったところなんだ」

「そだよ、男の子が乗っかっちゃってるから一瞬ドキってするかもね(^_^;)」

「こっちのモニターは、ちょうどキラキラしていたしさ」

「あ…………そ、そうなんだ、あたしってばビックリしすぎ、ああ、恥ずかしいです!」

「ドンマイドンマイ、俺たちは、こうやって作法室間借りして、パソコンゲームとかの研究やってんだよ」

「ですよね、それをわたしは……」

 増田さんを落ち込ませてはいけないので話題を替えた。

「あのう、夏コミに参加するって話なんですけど……」

 あたしは、ペンタブを出してきて失敗した話をした。

「あ、そういう参加の仕方じゃなくって」

 風信子先輩が身を乗り出す。

「コスプレで参加できないかと思ったの」

「「「「ええ、コスプレ!?」」」」

 一人分声が多い。

 なんと、増田さんが、ビビッと目を輝かせて『星に願いを』って感じで手を胸の前に組んだのだった!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・82『ダブルブッキング』

2022-10-02 06:34:12 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

82『ダブルブッキングオメガ 




 心理学部に入れそうな体験をしたぞ、それも一日に二つも!

 羞恥心というのは、状況に寄って大きく変わる。これが一つ目。

 たとえ新品であっても生パンを人に見られるのは恥ずかしい、程度の差はあるけど男女ともにそうだろう。

 たとえ二年前に買ったものでも水着ならへっちゃら、これも程度の差はあるけども。

「腐れ童貞!」と妹に言われてもへっちゃらだが、「オメガ君童貞?」と女の子に聞かれたらアタフタしてしまうだろう。

 サブカル研は、エロゲをやるのが部活なので、部活中は際どいことでもヘッチャラだ。

「前から疑問だったんですけど、男の人ってこんなに出るんですか?」

 画面を指さしながらシグマが質問した。

 画面は、主人公の想いが成就して、ヒロインと初めての真っ最中。モザイクを掛けられたソレからはおびただしいナニがほとばしっている。

「デフォルメだよ、個人差はあるけど3CCから6CCくらいって言われてるなあ……」

 ノリスケがゲームの誤字脱字をチェックしながら答える。

「修正パッチ出てるのに、こんなにあるのかよ」

 ノリスケのメモには二十を超える言葉が書かれている。

「多少のミスは愛嬌ってか、キャラの個性にも思えて微笑ましいんだけど、こうも多くちゃ興ざめになるよなあ……」

「そうだな、ここのCGは劇場アニメ並なのに、こんなところで作画ミスされると凹むよな……シグマ、なにやってんの?」

 シグマはペットボトルのお茶をティースプーンに移してチビチビやっている。

「量を実感しようと思って、ティースプーン一杯が、だいたい3CCなんです……」

 こういうこだわり方は邪道だとは思うんだけど、エロゲの楽しみ方は人それぞれというのが正しいあり方なので、感想は言っても批判はしない。

「最初から潮吹くなんて、このあとの描写とかどうするつもりなんだろうね」

「わーー派手に吹いてる、これも不思議なんですよね、ほんとに潮なんて吹くものなんでしょうか?」

「男に聞くか~」

「潮吹きのメカニズムとか成分とかはよく分かってないらしいけど、昔のお女郎さんなんかはテクニックでやれたらしいぞ」

 うちは江戸時代からの置屋だったので、酔っぱらった祖父ちゃんから断片的には話を聞いている。

「いちど、それぞれが感動したHシーンの比較とかしてみませんか、あたし、名場面をUSBに残してるんです」

「すごいなあ、シグマは」

「探求心は大事だぞ」

 シグマのUSBをパソコンに繋いで品評会になった。

「やっぱ、八方備男は絵師として一押しだな」

「ポニーさんの技巧も捨てがたい」

「ネコしゃんのエロカワイさが好きです」

 モニター三台に次々と名場面を映して盛り上がる。

 人間の記憶はカテゴリーごとに別々になっていて、別々な記憶を統合するのはむつかしい。これが二つ目。

 風信子は茶道部の部長であり、サブカル研のメンバーでもある。

 もっとも、サブカル研は俺たちに作法室を使わせてくれるための方便で、風信子自身がサブカルの活動に参加することはなかった。

 だから、茶道部とサブカル研のことは、風信子の中では別のカテゴリーの中に入っていて、別々ゆえに、うっかり二つのスケジュールをダブルブッキングしてしまったのだ。

―― すみません、失礼しまーす ――

 声と同時に作法室の襖が開かれ、俺たち三人はサブカルモードと日常モードの切り替えも出来ずにパニックになった。

 え(꒪ཫ꒪; )ヤバイ!?

 襖を開けて入って来たのは、小菊のクラスメートであり、ノリスケの彼女である増田さんだった。

 俺は瞬時に理解した。

 茶道部に入ったばかりの増田さんは茶道部の部活と思ってやってきたのだ。

 風信子が二つの部活の活動日を間違って教えたのだ。

 で、そんなことは増田さんには関係ない。

 増田さんの目は、目の前の三つのモニターに釘付けになった。で……

 キャーーー!

 

 ……………オワッテシマッタヾ(๑╹ヮ╹๑)ノ”。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・81『久々にペンタブを出してみた』

2022-10-01 06:16:39 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

81『久々にペンタブを出してみたシグマ 





 久々にペンタブを出してみた。

 中三の春に出来心で買った中古品。動画サイトで、あたしくらいの女の子がスラスラ描いてるのを見て欲しくなった。
 そのままネットオークションにジャンプしたら、2000円で出ていたので、そのままクリックしたんだ。

 競り落としたブツが来るまでが華だった。ペンタブさえ手に入れば、いっぱしのクリエーターになれる気になっていた。

 いま思い出しても恥ずかしいんだけど、わたしは気持ちから入っていくタイプ。

 まず、机周りを、それまでのゲーマー仕様からクリエーター仕様に変更。

 プリンターは必需品になるので、インクの残量をチェック、イラストをプリントすると、インクの使用量がケタ違いになってくる。ところが、ブラックがほとんどエンプティー。

 お財布掴んで近所のホムセンへ、見つけたカートリッジの値段を見てビックリ。

 なんと、競り落としたペンタブよりも値段が高い。

 しかし、インクが無ければ話にならない……!

 思案すること十分余り。スカイツリーのテッペンから飛び降りる気持ちで買った。

 その三日後にペンタブが届いて準備万端おこたりなし!

 で、見るとやるとは大違いだった。

 

 ペンタブは、パソコンのモニターを見ながら、手元のペンタブに描く。

 つまりね、描いたペンタブには何も映らないで、描いたものはモニターに出てくるの。

 めちゃくちゃムズイ。

 たとえば目を描くとするでしょ、上目蓋の線を描いて、下目蓋に移ろうとすると下ろしたペン先が上目蓋の描きだし位置に合わない。

 とても手に負えるものじゃないわけ。

 改めて検索しなおすと、夏コミなんかの常連さんたちは『液タブ(液晶タブレット)』てのを使っている。

 つまりね、ペンタブが液晶のモニターになっていて、直接ペンで描いていけるってシロモノ。

 なるほど……感心はしたけど、液晶タブは十万円前後する。

 あたしは、大きなため息ついてペンタブをクローゼットにしまい込んだ。

 そのペンタブを二年ぶりに出して、USB端子をパソコンに繋ぐ。

 なにを描こう……えと……どうせ上手くなんか描けない。

 エイヤ! 

 ペンを走らせるとドラえもんになった。

 意外にいけるかも!

 今度はイメージを持って描く。ゲームでよく見る、いわゆるイケメンを描いてみる。

 オーシ、なかなかイケる!

 なんだか、ゲームの中の立ち絵みたいなのが描けた。

 元気が出てきたので、風信子先輩にメールの添付でイラストを送る。

 すぐに返事が返って来た。

―― なかなか上手いよ! やっぱ普段からよく見てるのね、ゆう君(オメガ)そっくり! ――

 え、えーーそんなつもりは……*!?$%#♡¥+*%$#(#'∀'#)!!!!!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・80『瑠璃波美美波瑠璃……どこで切るんだ?』

2022-09-30 06:26:30 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

80『瑠璃波美美波瑠璃……どこで切るんだ?小菊   





 読んでいるとは思わなかった。

『くたばれ腐れ童貞!』は25日発売のトッパ6月号に載るので、関係者以外で読んでいる人はいないはず。


「言葉が生きているわ、ただのツンデレの裏がえし兄妹愛じゃなくて、若者のことなかれに対する憎しみが心地よかった。ほら『女のここ一番に素通りかましやがって、そこに直れ! 使う気のない道具なんかちょん切ってやる!』って、ハサミ持って家中追い掛け回すじゃない、その時の家の描写がさ、昔の置屋の雰囲気と兄貴のヘタレぶりとか、荒ぶる神みたくなった佳乃(主人公)とが重層的で、なんか、初めてVRで観たときみたいな迫力だったわ!」

「え、なんで知ってるんですか?」

「わたし、すごいと思ったら、なにがなんでも自分で確認しなきゃ気が済まないの。そんなわたしのペンネームは瑠璃波美美波璃瑠(るりはびびばりる)よ」

 ええ( ゚Д゚)!?

 その上から読んでも下から読んでもみたいなビビットペンネームは、突破新人賞の最終選考に残って最優秀を競い合った女子高生!

 書類のペンネームでしか知らなかったけど、まさか同じ神楽坂高校の生徒だとは思わなかった。

「でも、なんで発表前の作品を知ってるんですか?」

「それは言えない。そういうことも含めて、わたしの力だと思って」

「そう……(^_^;)」

「そんな二人が一緒になれば、きっとすごい化学変化が起きると思わない?」

「えと……あたし部活とかで群れる気ないんで」

「あら……そう」

 瑠璃波美美波璃瑠さんの瞳孔がさらに小さくなった。

 すると、瑠璃波美美波璃瑠さんは両手でほっぺたをペシペシ叩いた。

 叩くと、それにつれて瞳は大きくなって、ちょうど三回叩いたところでレギュラーな大きさになり、そのせいか、ひどく柔和な顔つきになった。

 正直ホッとした。

 あのまま瞳孔が縮んでいったら蛇みたくなって、いや、ほんとに蛇とかになって、呼び出された校舎裏で呑み込まれてしまうんじゃないかとビビった。

「じゃ、またね。わたしのことは瑠璃波美美波璃瑠でも和田友子でも好きな方で読んでちょうだい。ほんじゃ!」

 瑠璃波美美波璃瑠さんは宇宙戦艦ヤマトのクルーみたいな敬礼をして回れ右をした。

 回れ右の勢いが強すぎて、スカートが大きく翻り、脚の付け根近くまで見えてしまった。あまりきれいな脚なんで、ドキリとしてしまう。

「そだ、明日から中間テスト、がんばってね。一年の一学期は先生たち締めてくるから、気を抜くと欠点だらけになっちゃうからね」

「あの……」

「なに? ひょっとして気が変わった!?」

「いえ、そうじゃなくて、瑠璃波美美波璃瑠さんのお名前って、どこで切ったらいいんですか? やっぱ真ん中?」

「好きなようにぶった切ってちょうだい、書くことにかけては敵同士なんだから」

「あ、はい、いえ……」

 それだけ言い残すと、瑠璃波美美波璃瑠、いや和田友子さんは、昇降口を出ていく友だちに「いっしょに帰ろ(^▽^)」と声を掛けてふつうに行ってしまった。

 スマホでググると、瑠璃波美美が苗字で、波璃瑠が名前の、キラキラペンネームだと分かった。

 

 瑠璃波美美波璃瑠さんの言葉通り初めての中間テストはムズイ。

 数一の答案用紙、下1/3が空白のままに一昨日の瑠璃波美美波璃瑠さんとの出会いを思い出しているあたし。

 そだ、瑠璃波美美波璃瑠じゃ舌を噛みそうなのでビハ……ビバさんと呼ぼう。数一のテスト時間で考え付いたベストの答えなのだった。

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
  • ビバさん(和田友子)     高校二年生 ペンネーム瑠璃波美美波璃瑠 菊乃の文学上のカタキ
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・79『イテ!』

2022-09-29 06:32:57 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

79『イテ!小松   






 ミリーさんからメールが来た。

 ほら、ミコちゃん……じゃわからないか、シグマちゃんのお祖母さま。

 春先に@ホームに来られてメイドカフェが気に入って、ハワイ@ホームを作っちゃって、わたしたちアキバ@ホームのメイドをインストラクターに呼んでくださった。

―― おかげさまで、ハワイ@ホームは順調です。月末にでも、みなさんいっしょに来ませんか? ワイキキの浜辺も待ってますよ! ――

 ハワイ@ホームのメイドさんたちの写真が添付されていて、一気に懐かしさがこみ上げてきた。

―― みんなと相談して、ぜひ伺います! ――

 返事を打ってルンルン気分。考えたらハワイ、湘南にいくようなわけにはいかないんだけど、お仲間はいっぱいいるし、ま、なんとかなるでしょ(^▽^)/。

 ワクワクして笑いがこみ上げてくるのは、青春真っ盛りの証拠です!

 ウフ フフフ フフフフ アハハハハハ…………イテ!

 激しく笑うと傷が痛む。今日のわたしは、退院後最初の通院なんだった(^_^;)。

 思わずわき腹を押える。ショーウィンドに映る姿が自分でも可哀そうなんだけど、ひどく三枚目じみて見えるのは、わたしの本性だからなのかもしれない。実際、ウィンド向こうの店員さんが笑いをこらえて俯いている。

 十時の予約だったのに、診察室に入れたのは十一時だ。

 お待たせして申し訳ありません。他の業種だったら、ぜったいお詫びの言葉から始まる。

 病院は、こういう場合でも涼しい顔で「84番の方どうぞ~」になる。

「失礼しま~す」

「え~と……あら、ずいぶん早く退院したのね」

 挨拶に返事も返さずに、この言葉。わたしは絶句しそうになったけど、きっちり言いました。

「先生が退院しろっておっしゃったんです」

 にこやかにしているけど、目が三角になりかける。

「あ、そうだ、わたし次の日から休暇だったんだ」

 な、なんだって!? 休暇に入るから在庫一掃整理したってか!

「あれから熱が出て、別のお医者様に診ていただいて、そしたら一週間安静の診断でした」

「そうですか、で、今は?」

「笑うと痛いです」

「でしょうね、笑うとか怒るとか、感情的になるのは、即痛みになります」

 言いたいのをぐっとこらえた。

 で、けっきょく五分足らずの問診だけで終わってしまい、診察を出ようとして、なにかを引っかけた。

 ブチ! 

 音がしたかと思うと、女医さんの悲鳴が続いた。

 キャッ、デ、データがああああ!!!!!

 確認も同情もしないで診察室を出たことは言うまでもありません。

 ああ、ワイキキの浜辺が待ち遠しい……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・78『その明くる朝』

2022-09-28 06:40:57 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

78『その明くる朝』小菊 




 好きなものを見ると人間の瞳孔は大きく開く、特に女子はね。

 赤ちゃんとか、恋人とか、大好きなスィーツとか見たら、女の子の瞳は、もうマンホールの穴かってくらいに開く。

「わー、すごいです! スゴイです! 凄いです!

 いろんなニュアンスでSUGOIDESUを連発している増田さんが、まさにそうだ。

 遠くからしか見たことないけど、ノリスケを見る時もこういう目をしてるんだろうなあと思う。

 ついこないだまでは、引きこもり寸前だった地味子の増田さんの両眼は緩みっぱなし。

「で、この太一というお兄さんは実在するんですか!?」

「え、あ……まあね」
 
 覚悟はしていたけど、あの腐れ童貞が実の兄貴だと言うことを認めなくてはならない。

 同じ神楽坂高校に通っていても、腐れ童貞は特徴のヘラヘラ顔からω(オメガ)で通っていて、本名の妻鹿で呼ばれることはほとんどない。

 もし聞かれたら――遠い親類――で通そうと思っていた。でも、そんな心配はいらなくって、いまだに真実を知っているのは学校では、ほんの僅か。

 今朝、増田さんは最初の信号の所で待ち伏せしていた。

「学校では、あんまりキャーキャー言えませんからね(^_^;)」

 それで、校門を潜るまで、瞳孔開きっぱなしのキラキラ眼(まなこ)であたしを眩しがってくれている。

 増田さんがこれなんだから、学校に行ったらさぞかしと覚悟はしていた。

 ……でも、意外に平穏。

 

 なぜか昇降口の所に担任の田中先生が居て「新人賞おめでとう」と小さな声で言ってくれただけ。

 教室に入るといつも通り、月曜日特有の倦怠感。

 中には週末に試合を控えた運動部とかで、やる気満々という人も居るんだけど、そういうポジティブな空気は、なるべく出さないようにしているところがある。増田さんが「学校じゃキャーキャー言えませんから」と言った、あの空気。

 何人かは、突破新人賞を知っている人が居て、瞳がオッキクなっている子がいる。

 でも、キャーキャーとはならない。日本人特有の『そっとしてあげよう』感。

 騒がれるのは苦手だから、ま、ありがたい空気。

「なあ、オメガが兄貴だって言っちゃだめか?」

 渡り廊下で会ったノリスケが聞いてくる。

「だめ! 自然に知れるのはともかく、バラされるのは絶対だめだからね!」

「いや、一般ピープルにじゃなくて、増田さんにさ。彼女、授賞式のトーク聞いててさ、がぜん腐れ童貞クンに興味を持っちまってさ」

「んーーーーやっぱだめ。まだ作品は発表されてないんだしさ、最低、やっぱ読んでからだよ」

「そっか、じゃ」

 そう言ってやり過ごしてから、再び声を掛けてきた。

「まだ用?」

「あんまりひどく書いてないよな?」

 親友だからの心配なんだろうけど、カチンと来た。

 でも、少し瞳孔が大きくなっていたので「出たら読んで」とだけ言って許してやった。

 放課後、昇降口で下足に履き替えようとしたら、柱の陰から声を掛けられた。

「突破新人賞おめでとう、妻鹿小菊さん」

 え(# ゚Д゚#)!?

 校内で初めての正面切ってのおめでとうだったので、正直びっくりした。

「わたし二年二組の和田友子、うちの学校から突破新人賞が出るなんてすごい。それに、こんなに可愛い一年生なんだもの、ほんとにすごいわ」

「あ、ども、あ、ありがとうございます」

 二年生なので、いちおう敬語でお礼を言う。

「ね、わたしとあなたで、学校にラノベ部つくらない?」
 
 にこやかに言う和田さんだけども、瞳孔は開いていない……どころかめちゃくちゃ小さくなってたんですけど(;'∀')。
 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・77『くたばれ腐れ童貞!』

2022-09-27 06:46:59 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

77『くたばれ腐れ童貞!』オメガ 





 起き抜けに点けたテレビに、いきなり妹のドアップが写って驚かない兄はいないだろう。

 ゲホッ! ゲホ! ゲホ! ゲホ! ゲホ!

 お茶が横っちょに入ってしまって、死ぬほどむせかえってしまった。

「あらあら、朝から不調ね」

 松ネエが背中をさすってくれる。松ネエもやっと落ち着いて、昨日からは屋内に限って普通に過ごしている。

 しかし、やっと回復期の松ネエに労わられるというのも申し訳なく、自分で水を飲んで喉の混乱を収める。

「やっと発表になったのね」

 小菊のドアップを見ても動じることのない松ネエは、小菊の姿に目を細めている。

「これって、いったいなんなんだ?」

 ストロボ焚かれまくりの中で、ニコニコとトロフィーを抱いている小菊は、ひどく現実離れしている。

 瞬間アップになったトロフィーには、こんな言葉が刻まれているのだ。

 ☆・第十七回突破文庫新人賞・☆

 時空が歪んで、パラレルワールドの、それも、とってもでんぐり返った異世界の出来事だと思った。

「家では、あんまり騒がないでって言われてたけど、受賞発表されたら、もう解禁ね!」

「おお、いよいよだったんだな!」

「付き添って行けばよかった!」

「今夜はお祝いだな!」

 アハハハハハハ( ´艸`)(^0^)(^Д^)(≧▽≦)

 いつの間にかリビングに収まった小菊の両親と祖父が盛り上がっている。

 両親と祖父ってのは、俺にとっても親父とお袋と祖父ちゃんになるんだけど、あまりのショックで違和感の有りまくりなんだ。

 小菊に文才が有るとは知らなかった、てか、小菊は作文も苦手なはずだ。

 それがラノベの登竜門として超有名な『突破文庫新人賞』を受賞、いや、応募したこと自体信じられない。

――わたしって、本当は臆病で自信のない子なんです。でも、突撃のスタッフさんたちが、ここ一番という時にきちっと応援してくださるので、なんとか受賞させていただいたんだと、とっても感謝してます――

――いや、女鹿さんに、いや小菊さんに、それだけの力があるからですよ。最終選考に残った時、初めて経歴を見ましたが、15歳の女子高校生なのにはビックリしました――

――あの時ポテチいっぱい下さったじゃないですか『とりあえずおめでとう賞』ってことで。スタッフさんたち凄いと思いました。春にはポテチ用のジャガイモが品薄になって、ポテチがすっごく喜ばれるって読んでたんですもんね、わたし、ポテチだけでもよかった! そう思ってましたもの(^▽^)――

 ましたもの……なんちゅう猫っかぶり! それに一人称も「わたし」になってやがるし!

 俺は、このあとの展開に、ひどく良くないものを予感していた。

 

 で、その予感を超えて、受賞発表は場外ホームランになってしまうのだ!

――小菊さんの凄いところは、ラノベに新しいステージを提示したことですよね――

――提示だなんて、わたしは、ただ届く範囲の想像力で書かせてもらっただけです――

――タイトルは『くたばれ腐れ童貞!』。凄いです、久々に突破力満点の作品が出てきたと括目してますよ!――

 そう、小菊のラノベネタは、こともあろうに、この俺だったのだ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・76『夏コミに行きたい!』

2022-09-26 06:53:58 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

76『夏コミに行きたい!』シグマ 





 これの三倍以上の人が来るんだ……

 そう思うとため息が出る。

 ウットリしてるんじゃない、す、すごいなあ(;'∀')……そう感じて尻込みしてしまう。


 気まぐれでテレビを点けたら後楽園球場の試合を映していた。

 ググってみると……後楽園球場は43000人ほど人が入る。

――満席の後楽園球場には定員いっぱい43000人、満杯の野球ファンで埋め尽くされております!――

 アナウンサーの言葉でリモコンを持つ手が止まった。

 画面の後楽園もすごいけど、かねがね行きたかったアソコは一日に17万人、三日で50万人以上の人が集まる。

 夏コミ 20✖✖!

 日本最大!……ってことは世界最大のオタクの祭典!

 中学の頃から行きたかったけど、動画サイトなどで見る混雑ぶりというか密度の高さで諦めていた。

 夏コミに行けば、限定アイテムや同人誌が手に入る。

 これが他府県なら諦めもつくけど、なんてったって東京ビッグサイトだ。始発に乗っても六時前には着ける。

 それに、今のあたしはボッチじゃない、サブカル研のみんなに声を掛ければいいんだ!

 …………でも迷ってしまう。

 オタクと言ってもいろいろなんだ。

 人生全てが二次元というようなガチな人から、数ある趣味の一つですという人まで。

 うちのサブカル研は、あたしが無理を言って、その無理に先輩たちが合わせてくれているところがある。

 そうなんだ、合わせてくれているんだ。

 ノリスケ先輩は元々二次元が好きみたい。パソコンでゲーム進行していても、とてもテンポがいい。

 ゲームで詰まっても「おもしれーじゃねーか」とセーブデータを見て「ここが分岐だったんだなあ(^▽^)」と適切に過去フラグに戻って、すぐにルートに戻ってくる。

 でも、オメガ先輩は途中で投げ出すゲームも多い。

 最初にやってもらった『君の名を』はツボにはまったみたいだけど、先月紹介した『時を掛ける妹』は止まっているみたいで、あまり興味はない様子だ。

 部活らしくやろうということで始めた『バトルフィールドラブ』で勝ったことが一度もない。エロゲなんで勝ちにこだわることもないんだけど、やっぱ、お付き合いでやらされてる感が漂っている。

 冷静に分析すれば、あたしの我がままに、人のいい先輩たちが着きあってくれているということなんだ。

 そこんとこ分かっているから、連休中も無理は言わなかった……言えなかった。

 それで、あたしは風信子先輩に相談してみることにした。

「へー、そういうのがあるんだ!」

 まず感心された。

 

 三日で50万人以上のイベントとはいえ、やっぱ社会的にはオタクの祭典。連日ニュースで取り上げられたたり、スポンサーがついて中継されるようなもんじゃない。情報に接していなければ知らなくて当たり前。

 そもそもオタクのイメージって「異性にモテない」「目を合わせて話さない」「服装がキモイ、あるいはダサい」「引きこもってゲームばっかりやってる」そんな感じ。

 そんなオタクが集まっても、世間は後楽園球場に集まった野球ファンのようには見てくれない。そうなんだよ、野球に関しては「野球オタク」とかは言わない。あくまでファンだよ。サッカーやラグビーとかは、熱狂したファンが発狂して事件を起こすことがあるよね、暴力沙汰になって、暴動めいたり、殺人事件になったり、興奮したファンを鎮めるために機動隊やら軍隊が出撃することも珍しくない。

 オタクが何十万人集まっても、機動隊やら軍隊が出動なんて無いよ。会場に行っても、スタッフが「並んでください」「走らないでください」という注意に見事なくらい従ってる。イベントが終わった時も自主的にゴミの回収とかもやるしね。

 でも、いくら大人しくても、秩序だってても、オタクはオタク。ファンのカテゴライズには勝てない。なんというか、イナゴの大群とかネズミの大群見る感じ。たとえネズミがきれいに一列に並んでも「えらい、キチンとしてるねえ」とは言われないよね。

 去年の夏コミの動画を見ていると、風信子先輩は意外なことを言った。

「ねえ、これって出展とかした方が面白いんじゃない?」

 絶句した、そういう発想は持ったことが無いから……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート


 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・75『スペメン食って食堂の窓を見上げる』

2022-09-25 06:43:55 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

75『スペメン食って食堂の窓を見上げる』オメガ 





 コンビニに寄って、もどったら駐車場に車が無くって焦ってしまう。

 こんなのもある。

 ドライブしていたら、無免許で運転していることに気づいて、口から心臓が飛び出すくらいにドキドキする。それからは、通行人や自動車の咎めるような視線を感じる。
 

 電車を乗り換えたら、ぜんぜん違う方向で目的地から遠ざかってしまう。焦っているうちに、どこへ行くんだったかも忘れてしまう。

 そこで目が覚める。

 そう、夢の話なんだ。

 あ、俺じゃなくて、増田さんが見る夢だ。

「あの子の心は臆病な心でがんじがらめなんだ」

 スペメン(全部載せうどん)を啜りながらノリスケが言う。

「いつぞやの電話でも言ってたよな」

「ああ、その臆病さから抜け出るために、アニメみたいな恋をしようと背伸びしている」

 そうなんだ、図書館の本を拾ったきっかけで付き合いだした二人だけど、ノリスケは、そこを心配している。

 増田さんは、ノリスケに恋をしているんじゃなくて、アニメのような恋に恋しているのだ。

 それが分かっていて断らないのがノリスケだ。

「断ったらさ、恋に恋することも止めてしまうだろ」

 

 ノリスケは付き合っている間に色々経験させてやって、できたら本当の彼ができるまで面倒を見てやる気でいる。

 だから、俺と小菊には写真を撮らせている。むろん増田さんも了解している。臆病なくせに写真はOKというのも変なんだけど、臆病の裏返しで、好ましいと思った者への傾斜は並の女子よりもきつい。

 しかし、あの気難しい小菊の懐に飛び込み、入学以来友だちでいてくれている。これは並の人間に出来る技じゃねえ。あの子の本性はヤンデレに染まりかけた天使なんじゃないかと思ってしまう。

 でも、特にアドバイスめいたことはやらない。時間はかかるが、増田さん自身が気づくように誘導している。

「あ、この表情イイね!」「この姿勢はステキだなあ!」

 そんな風に言ってやるのは、増田さんの作らない笑顔とか明るさが写ってるとこだ。むろん彼女が誉めて欲しいところでも褒めてやる。

 すると――こういうのもいいんだ――と気づいて自信が生まれる。そういう遠まわしがいいと、若いヒギンズ教授は思って、ピカリング大佐も付き合っているわけだ。

「でもなあ、けっきょくお前に気に入られようとしているという点では進歩ないんじゃないか」

 痛いところを突かれたようで、ヒギンズは曖昧な笑顔で目をそらせた。

 俺も「進歩が無い」とまでは言えるが、どうしたらいいかが言えないので、腕を組んで同じように食堂の窓を見上げた。

 やつとは何度かこういう話をしているが、同じ景色を見るのは――今日はここまで――の企まないサインでもある。

 窓の向こうは本館で、本館二階の廊下を歩いている風信子と目が合った。

 そっち行く! 

 口の形で告げるとセミロングなびかせながら階段を駆け下りてくる。

 なんだか、保育所時代のお転婆だったころの印象そのままなので、可笑しくなる。

「階段一段飛ばしで下りてきただろ」

 予想より数秒速い到着に、冷やかし半分で言ってやる。

「ううん、最後の四段は飛び降りちゃった!」

「そりゃ、さぞかし嬉しい話なんだろな」

「あのね、増田さん、茶道部に入れちゃったよ!」

「「え?」」

「あの子の世界広げてあげたかったんでしょ、あんたたちのタクラミぐらい分かってるって!」

 あの子が部活に入るなんて、最初から選択肢に無かった。実質帰宅部の俺たちが言っても説得力あるわけないし、そもそも部活に向く子でもない。サブカル研は活動の中身を考えると勧めるわけにもいかないしな。

「奥多摩に一緒に行ったのがよかったかもね、じゃ、さっそく放課後の部活の用意してくるわ」

「でもさ、茶道部って他に二人部員がいたろ、風信子はともかく、大丈夫なのか?」

 増田さんは並外れた人見知りだ。

「大丈夫、三日前に二人辞めて、わたし一人だから、アハハハ」

 風信子にも苦労はあるようだ……。 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・74『盗撮すんじゃないわよ!』

2022-09-24 06:53:38 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

74『盗撮すんじゃないわよ!』小菊 






 喋る前には空気を吸わなきゃならない。

 あたしは、一瞬遅れてしまった。


「先輩と食べてくる!」

「ア、アハハ……(#^▽^#)」

 フライングした増田さんの一言にはくすぐったい笑顔で返すしかなかった。

 今日の3・4時間目は初の調理実習で、クラスは緊張と期待でソワソワしている。

 なんせ、高校に入って初めての調理実習で、こういうイレギュラーな実習の時は、普段の成績や様子からでは推し量れない結果が出るものなんだよ。

 中学の時も、クラスでイジメラレ傾向にあったS君が仕込みの段階から美味しそうな匂いをさせてカレーを作った。玉ねぎのみじん切りも料理番組の先生みたいだったし。そのために女子たちから「S君の女子力すごいよ!」ということで俄然注目され、あっという間に人気者になってしまったことがある。

 高校にもなると、そこそこお料理の出来る子は結構いる。

 だから、S君のようにクラスのスターダムに昇るとこまではいかないけど、増田さんの中では会心の出来であった。

 おそらく、味見するまでは「先輩と食べてくる!」ということは考えていなかった。

 瞬間的に閃いたことなので、破壊力は抜群。

 あらかじめ考えていたら、引っ込み思案の増田さんは「先輩と食べてくる!」にはならない。

 入学二日目から、お昼はあたしといっしょ。その習慣を壊す勇気は増田さんには無い。

 で、先輩というのは、言うまでもなくノリスケよ!

 作品のちらしずしをタッパに詰めて教室に戻る道すがら、ひょっとしてと渡り廊下から目線を下ろしたところに二人は居た。

 中庭の藤棚の下、仲良くベンチに腰掛けて食べているよ~(n*´ω`*n)。

 ノリスケは誰に対しても垣根のないやつで、あのフレンドリーさに偽りはない。

 増田さんも、あたしには見せたことのない自然な親しさで接している。

 う~ん、でも微かな媚を感じるのは、あたしのヒガミ?

 いや、相手がノリスケでヒガムわけないんだけど、なんだろね、この感じ?

 月曜にこっそり教えてくれたけど、連休の後半は神社の風信子さんたちと一緒に奥多摩に行ってきたんだ。

 ま、うちの腐れ童貞とかシグマとかいっしょだったから、そうそう飛躍することってないと思うんだけど……。

 あたしはスマホを出して藤棚の二人を撮ることにした。

 カシャ! カシャカシャカシャ!

 シャッター音に驚いて柱を挟んだ隣を見る。

「な、なにやってんのよ!」

 なんと、あたしより先に腐れ童貞が二人の様子を連写しているじゃないの( ゚д゚ )。

「い、いつから、そこに居やがるんだ(;'∀')!?」

 質問には答えないで糾弾してきやがった。

「盗撮すんじゃないわよ!」

「なにが盗撮だ、お前だってスマホ構えて撮る気マンマンじゃねーか!」

「あたしとあんたとじゃ撮る意味が違うのよ!!」

「声デカ……」

「ウ……」

 兄妹仲良くしたくもないのに、柱の陰に密着して身を隠した。

「ノリスケに頼まれたんだよ、もっと増田さんを自由にしてやるためにな」

 え、なにそれ……?

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・73『松ネエの傷跡』

2022-09-23 06:41:20 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

73『松ネエの傷跡』小菊 





 松ネエはお医者さんに叱られた。

 叱られたと言っても病院のお医者さんじゃない、ホームドクターの薮中先生だ。

 腐れ童貞が付き添って退院して来た時には、もうヘロヘロだった。

「気が利かないわね、どうして病院で診てもらわなかったのよ!」

 松ネエに肩を貸しながら言ってやった。だって、この様子じゃ病院を出る時から不調だったに違いない。

「すまん」

 こういう時に言い訳しないのは認めてやるけど、どうして口が笑っているんだ!

 本当に笑っているわけじゃないことは分かってる。ω口が生まれついてのものだということも分かってる。

 でも腐れ童貞はショーモナイ奴だ、高校三年にもなったら自分の顔に責任持てよな。

 兄妹だから、あたしも似たような口元だけど、あたしのはチャームポイントになっている。悲しいときや腹立つ時は、ちゃんとそういう表情になる。ほんとうにショーモナイ男だ!

「わたしが無理を言ったからだよ……」

 こんな時にも松ネエは人を庇う。こんなにもいい松ネエが、こんなひどい目に遭うなんて……悔し涙がこぼれてくる。

 夕方に、お祖父ちゃんが車で薮中医院に連れて行った。

「無茶だよ、一週間は安静!」

 

 薮中先生は診察半ばで宣告した。

 それまでに「若いと言って過信しちゃだめだ」とか「術後で体が弱ってるんだから」とか、九十過ぎとは思えない馬力で叱っていた。

「コウちゃんも気を付けてやらないとな」

 コウちゃんとはお祖父ちゃんのこと。コウちゃんは、しきりに頭を掻いている。薮中先生にかかるとお祖父ちゃんも、まだまだハナタレ小僧だ。

 先生は、松ネエの背中と首筋を摩って薬を出した。

「このマッサージは、我が医院の秘伝でな、親父のころは宮さまにも施してさしあげたそうだ。緊張をほぐして五臓の機能を整えて血流をよくするんだ……よし、このくらいか……お風呂には入っていいけど半身浴、傷口を浴槽に浸けちゃダメだからね」

 家に帰って、松ネエは一晩眠った。先生が摩ったのが効いたのかもしれない。

 

 朝になっても松ネエは起きてこなかった。

 

 いちおう部屋を覗いて、穏やかに寝息を立てているのを確認。

 昼休みにはメールが来た。

―― いま目が覚めたとこ、熱も下がりました。昨日はありがとう ――

 ひと安心(^_^;)。

 増田さんと食後のお茶を飲んでいたら、またメール。

―― 今日は久々にお風呂に入りたいので、よかったらいっしょに入ってくれる? ――

 入院中はお風呂に入れない。お風呂に入りたい気持ちはよく分かる。

 夕食後、松ネエのお風呂に付き添う。

 いっしょに入るなんて小学校以来、ちょっと懐かしい。

 でも懐かしさなんて、服を脱ぐだけで辛そうな顔を見ていると吹っ飛んでしまう。

 身体を洗ってあげて、マジマジと見てしまった傷跡。赤いムカデが貼りついたように見えるのは縫った跡だ。

 この傷は一生残るんだろうなあ……そう思うと目が熱くなってきた。

「アハハ、菊ちゃんが泣くことないじゃない」

 笑顔は、もういつもの松ネエだった。

 とりあえずよかった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

 



 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・72『退院』

2022-09-22 07:11:13 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

72『退院』小松 





 もなかさんにしか言わなかった。

 本当はもなかさんにも伝えたくなかった。

 もなかさんは、自分のせいで刺されたんだと思って自分を責めている。だから毎日見舞いに来てくれるんだけど、@ホームの仕事や学校のこと、かなり無理しているのは確かだ。だから言っておかないと無駄足をさせてしまう。

「じゃ、手伝いに来るわ」

「いいわよ、下宿先から人が来てくれるし、もなかさん、水曜日ってシフトに入ってるでしょ」

「え、あ……」

 先週も水曜は休んでくれている。ま、刺された翌日だから仕方ないんだろうけど、二週連続はまずい。

 それに、もなかさんはメイドという仕事が、とても気に入っている。お店でのもなかさんは本当に二次元の世界から転送されてきたんじゃないかと思うくらいホワホワして、お店でもトップの人気。彼女の為にもお店の為にも、これ以上休ませるわけにはいかない。

 でも、下宿先から人が来るというのもウソ。

 叔父さんは仕事だし、叔母さんはパート。お祖父ちゃんはヒマってばヒマでけど、こんなに早く退院したらきっと心配する。

 妻鹿家は昔から女の子を大切にする。それについては文庫本一冊くらいの話があるんだけど、それは置いとく。

 場合によっては病院までやってきて、お医者さんと一悶着とかしかねない。

 今の医学は進んでいるんだ、先生の「退院してください」に嘘はないだろうけど、人に刺されて十日足らずで退院しては、お祖父ちゃんは納得しない。

 ちょっと、柊木さん!

 台車に荷物を載せてエレベーターまで押していると、ナースセンターから物部さん(わたし担当の看護師さん)が飛んできた。

「ひょっとして退院する気!?」

「はい、もう大丈夫そうなんで」

「先生の許可は出てるの?」

「えと、先生が『退院していいわよ』とおっしゃって」

 ちょっと脚色している、先生は「退院してください」と命令形だった。

 でも、こういう場合は柔らかく表現するのが当を得ている。

「ちょっと、確認してくる……」

 ナースセンターの前で待つハメになった。傷口がシクシクする。

 しっかりしろ! 声には出さないで自分を叱る。

 十分ほどあって物部さんが戻ってきて「やっぱ、退院だった」とため息。

 十分あれば、わたしの台車を押して退院者用の出口までサポートしてもらえたんだけど、物部さんは仲間の看護師さんに呼ばれて行ってしまった。
 
 エレベーターに乗る前と下りてからと二回休んでからタクシー会社に電話。

―― 混みあっていますので、ちょっと時間が掛かります ――

 ベンチに座ると疲労感。運転手さんに助けてもらわなきゃ乗れないかも。

 少しの間と思って、ベンチに横になる……やばい、起き上がれないかもしれない。
 
 すると目の前に人の気配。

「……だよね、松ネエ?」

 薄く目を開けると、神楽坂高校の制服……その上にはゆう君の首が載っている。

「えと……学校は?」

「休んだ、連休中は、ちっとも見舞いに来れなかったから」

「ダメじゃん、休んじゃ……」

「んなことより、退院したってナースセンターで、ビックリした」

「うん、大丈夫そうよ。主治医の先生の太鼓判なんだから」

「でも、ほんと大丈夫か?」

 返事をしようと思ったら、ちょうどタクシーがやって来た。

 持つべきものは従弟で、わたしをしっかりエスコートしてくれた。

 で、夜になって三十八度の熱が出てしまった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿幸一           祖父
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート



 

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