大橋むつおのブログ

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・164『A町の神社に向かう』

2024-12-30 14:51:55 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
164『A町の神社に向かう』   




「埼玉と言うのは、東京の上に設えられた大屋根みたいなものでねえ」

 ハンドルを握りながら頼政さんが話す。たみ子と同じ埼玉が屋根っぽいという話みたい。

「それも、昔のかやぶき屋根、ほら、飛騨地方に合掌造りってあるでしょ」

 ああ、令和では世界的に有名になって、たしか世界遺産。オーバーツーリズムとかで、ちょっとパンクぎみだけど。

「合掌造りに限らず昔の茅葺屋根というのは養蚕をやったり、倉庫だったり作業場だったり、重要な役割が合ってね。埼玉もそうなんだ。国府こそは東京の府中市だけど、武蔵の国の中心は埼玉だった」

「フフ、伯父さんの埼玉王国論が始まった」

「王国というわけじゃないけど、東京は家康の開拓が始まるまでは海沿いの湿地帯だったからね。歴史も農業も埼玉の方が古い。その根っこにあるのが秩父の山や谷。武蔵の国の神々が坐す神社」

「言葉がむつかしいよ伯父さん」

「ああ、すまんすまん」

 文句を言うたみ子だけど、不満とかいうわけでは無くて、親しみの現れという感じ。甥っ子の高峰君は、微笑みながら静かに助手席に収まっている。親類付き合いがほとんどないわたしには、ちょっと羨ましい光景。

「まあ、わたしだけが言うんじゃなくて、町の人たちは、みんな同じように思っているんだ。だから、お祭りとか年末年始の行事は楽しみにしているし、大事に思ってくださってる」

「はいはい、だから、親友たちにも頼んで来てもらったんじゃない」

「ハハ、そうだな。ま、そう言うことだから時司さんよろしくね」

「あ、はい。わたしのことはメグリとか、グッチでいいです」

「ええ、そんな風に呼んでるのか? 秀夫は?」

「僕は時司さんだよ」

「そうだろそうだろ」

「あ、どっちでもいいですから(^_^;)」

「まあ、神主でもあるし、まあ、こんな感じでお願いするよ、時司さん」

「あ、はい」

「秩父の山に降った雨はね、幾つもの流れになって谷を削って扇状地を作って利根川を太らせる。その流れの一つが山を出たところに、うちのA町があるんだ。水は清いし、山が屏風になって風を防いでくれるし……」

「ああ、それを昔の人たちは神さまの恵と思ったんですね(^▽^)」

「うん。だけど、思ったんじゃなくて、神さまはほんとうにいらっしゃるんだよ」

「あ、あ、そうですよね(^_^;)」

 頼政さんは神主さんでもあるんだ「神さまと思った」は失礼だ。

「時司さんは、苗字から察すると、ちょっと由々し気な……」

「そうよ。伯父さん、グッチの家は昔々は朝廷の時間を管理するお役人だったんだよ」

「アハハ、ただの家系伝説ですよ」

「いやいや、時司は延喜式にも書かれている由緒正しい家系だ。いやあ、たみ子はいい友達を持っているなあ」

「そうだよぉ」

「いやあ、止してよ、伝説なんだからあ(^_^;)」

 まあ、魔法少女の家系だとまでは分かってない様子だから、いいとしよう。

「ああ……」

 高峰君が小さく感嘆の声を漏らす。

 小さな林を抜けると、秩父の山々を背負って一面の茶畑。茶畑には防霜扇の電柱が林立していて、その向こうには、それ自体が山々から流れ出て芽を吹いたような町が扇の形に広がっている。

 町が山に向かって窄まったところに大きな鳥居、あれが、たみ子の里の神社に違いない。

 なんか、華やかじゃないけども、雛壇のような床しさを感じさせる風景だ。

 道路が神社への一本道に入ると、ちょうど夕陽が谷の間から差して、町を茜に染めて、いかにも神さまの祝福を受けた町と神社に見える。

「朝は、真っ先に神社の鳥居が日に照らされてね、それもなかなかのもんだよ」

「あ、日の出を拝めっていうのは勘弁してね」

「ああ、今回はやらないよ。風邪でもひかれたら元も子もないからな」

 あ、そうだった。わたしらはインフルエンザで倒れた巫女さんたちのピンチヒッターだったんだ(^_^;)。

「のど飴あるけど、どう?」

 高峰君がのど飴を差し出してくれ、ありがたくいただくと、車は鳥居の前で左に曲がって神社の駐車場に向かうのだった。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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