大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・069『マーフォーク現る!』

2024-08-27 08:28:12 | カントリーロード
くもやかし物語 2
069『マーフォーク現る!』 



 あ……


 オリビアがきれいな横顔で驚いた。

 鼻筋もきれいで、顎から喉にかけてのラインがディズニーのプリンセスみたいに優雅。

「虹が掛かってるわ」

「フヘ?」

 もうかれこれ三十分もお湯に浸かっているのでふやけた返事になる。

「ほら」

 首をひねるとカルデラの上に『オーバーザレインボー』を歌いたくなるような、おあつらえ向きの虹が出ている。

「ああ、まだポンプが回ってるんだ」

 カルデラから引いたホースは、あちこち穴が開いていてミスト発生機みたいに水を噴き出し続けていたんだ。それに、太陽の角度がドンピシャで虹を描いてる。

『ポンプのスイッチはとっくに切ってあるぞよ』

「え……」「だってぇ……」

 虹に見惚れて、お風呂の湯気みたいにあいまいな返事をしてしまう。

『……おかしい!』

 ジャブ

 お風呂から跳びあがると、手袋に収まってポンプを見に行く御息所。

 ザッパーーーーン!!

 盛大に水が噴き上がったかと思うと、身の丈20メートルはあろうかという半魚人が空中に躍り出た!

「グゥワハッハッハ! 礼を言うぞ人間! 我は、この海に君臨し、このあたりを知ろしめていたマーフォークだ!」

 そう言うと、噴き上がっていた水の一部が凝り固まってでっかいフォークみたいに変わってマーフォークの手に収まった。

『な、なにを申しておる、ここは一面の野原とか林とかではないか!』

「ここは、元々は海だったのじゃ。それが、要らざる神が現われて海の水を大地の底に、このマーフォークと共に落とし込み、このカルデラに儂を封印したのだ」

「そのフォークさんが、どうして……」
「怪獣みたいに現れたのよ!?」

「ワハハハハハハ!!」

 チャプチャプ グラグラグラ

「「キャァ~~((>〇<))」」

 カルデラも地面も振動し、わたしはオリビアと鍋の中のゆで卵みたいに揺れてしまう。

『あ、ゆで卵みたいだなんて思うではない!』

 御息所の忠告は遅かった!

 ピキ ピキピキ ピキ!

 オリビアの体にひびが入った!

「オリビア!」

「あ、だめ、もうここに居られないわ(''◇'')」

 ヒビが全身にまわったかと思うと、割れ目からタマシイみたいなのが滲み出てすぐに消えて行ってしまった!

 学校の仲間は魔法の効果で助けに来てくれているんだけど、まだまだ未熟なので時間に制限があるんだ! マーフォークの出現にビックリして、それが早まってしまったんだ!

 くそ、せっかく裸の付き合いができたところだったのにぃ!

『やくも、あぶない!』

 御息所の声に振り仰ぐと、まさにマーフォークの化物フォークが振り下ろされるところだったよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人)
 
 
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やくもあやかし物語2・068『オリビアとお風呂に入る』

2024-08-23 14:55:25 | カントリーロード
くもやかし物語 2
068『オリビアとお風呂に入る』 




「……ということは、今のわたしたちはお酒のとっくりということね(^▽^)」

 お風呂のお湯が沸くのを待ちながら燗風呂の説明をしてあげると、子どものようにおもしろがるオリビア。燗風呂は元々はお酒をお燗するものだからね。
 
 お風呂の湯は「わらわの風呂だからわらわが沸かす」と御息所がいっしゅんで水をお湯にした。日本に居たころから好きな時にお風呂に入るため、自然に覚えた魔法らしい。

 で、お風呂が沸くと、三人でいっせいにお風呂に入る。

 女同士だけど、すっ裸は恥ずかしがるかと思ったんだけど、オリビアはこだわりはないようで、わたしより先にスッポンポンになる。

「ああ、木の香りがとてもいいですね。なんだか、森林浴とお風呂を同時にやってるみたいですぅ」

「プリンスエドワード島は木のお風呂だったの?」

「ううん、FRPというのかしら、プラスチックの一種だと思うわ。学校の『福の湯』もいいけれど、こういうお風呂も素敵よ。日本はいろんなお風呂があって羨ましいわ。ね、御息所さん……あら?」

 御息所は、わたしの肩に乗っかり首に寄りかかって居眠っている。

「まあ、かわいい。恋人たちの小道で出くわす妖精みたい」

 恋人たちの小道で思い出した!

「プリンスエドワード島って『赤毛のアン』の島じゃない?」

「え、ええそうよ。そうか、やくもは『赤毛のアン』を知ってる人なんだ!」

「うん、愛読書だったからね(^_^;)」

 他に『怪談奇談』とか『ゲゲゲの鬼太郎』とかあるんだけど、それは言わない。

「ということは孤児院から……」

 言いかけて失礼だと思って口をつぐんでしまう。

「アハハ、アン・シャーリーじゃないわ。でも……ちょっと似てるかなあ」

「どういうこと?」

 不躾だとは思いながら、つい身を乗り出してしまう。

「元々はトロント。でも、賑やかでごちゃごちゃしてるんで、お父さまが『大学に行くまでは静かで環境のいいところに住むべきだ』とおっしゃって、12歳の秋からプリンスエドワード島で暮らしているの」

「ひとりで?」

「ううん、家庭教師を兼ねたメイドさんがいっしょに、他にも交代で、島には、わたしの家の他にも会社の保養所があって。あ、もともと保養所があるんで、こっちの方がついでなのかもしれないわ」

「オリビアのお家って、会社を経営してるの?」

「あ、うん……」

 あんまり家の事には触れない方がいいみたい。

「あ、そんなことない」

「え?」

「あ……」

「オリビアって、人の心が読めたり……?」

「え、あ、いや、そ、それはね(#'∀'#)」

 あ、地雷を踏んでしまった?



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
 

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やくもあやかし物語2・067『ポンプで水を入れる』

2024-08-19 13:05:47 | カントリーロード
くもやかし物語 2
067『ポンプで水を入れる』 




『あっちに水があるーーー(>〇<)!』


 デラシネの手袋に入れて放り上げると、校舎の屋上ぐらいの高さで御息所が叫んだよ。

「行ってみましょうか(^▽^)!」

 オリビアが元気に前に出て、二人で御息所が指差したところに向かった。

 そこは、草むらが少し高くなっていて、丘というほどじゃないんだけど、遊園地の広場なんかで人工的に作られた山ぐらいの感じ。
 浅間山のカルデラを1/100ぐらいにしたら、こんな具合という感じで、カルデラの中にはきれいな水が漲っている。

「火山みたいだから濁っているかと思ったら」

「けっこうきれいですねぇ」

『ほれ、これを使って水を汲め』

 御息所が、キャンパス地の布バケツを放って寄こす。

「ありがたいけど、これだと何十回も往復して、お風呂入る前にくたびれてしまう」

『わたしも手伝うぞ!』

 えらそうに差し出したのは、デパ地下でジュースの試飲に使うような小さな紙コップ。

「お気持ちは嬉しいのですが(^_^;)」

 オリビアも笑顔のまま困ってるし。

『う~ん……じゃあ、あれはどうだ!』

 御息所の後をついていくと、カルデラの縁の草むらにポンプとホースが置いてある。

「看板になにか書いてありますわよ」

 オリビアが倒れた看板を起こすと――水を使う時は、これを使用してください――と書いてある。

「なかなか行き届いているわね。でも使い方は……」

「ええと……」

 オリビアが操作するとパイロットランプが数回点滅して、その横の赤ランプが緑に変わった。

 ブィーン

 ポンプが動き始めた!

『オリビア、慣れてるみたいだな』

「ええ、プリンスエドワード島に住んでいたころに、使ったことがあるの」

 プリンスエドワード島、どこかで聞いたことがある。

『あ、ダメだ、ホースに穴が開いていて水がダダモレだぞよ!』

「あらあら」
 
「ちょっと見てみる!」

 ホースを伸ばして、先の方からチョロチョロ出てくる水を確かめてみる。

『どうだぁ?』「どうかしらぁ?」

「うん、勢いは無いけど、いけるみたい。水もきれいなままだし」

「じゃあ、ちょっと時間はかかるけど、このままお風呂に入れてみましょうか」

「うん、そうだね。バケツで汲むよりはウンとましみたい」

 カルデラからホースを伸ばして風呂桶に先っぽを入れる。水の勢いでホースが暴れてはいけないので、しっかりと押さえたよ。

「ヤクモさんも、慣れてらっしゃるみたいですねぇ」

「あ、実家で庭掃除とお風呂掃除は、わたしの仕事だったし。オリビアは?」

「わたしもお風呂を沸かすのはやりましたけど、掃除や片づけは通いのメイドさんがしてくれましたので」

「あ、やっぱりオリビアはお嬢さまなんだぁ」

「いえいえ、父や母が心配性なだけで(^_^;)」

 いや、ぜったいお嬢さまだよ。でも、こういうことを深入りして聞くのは下品だからね。

 わたしも、中学を卒業して、今の学校に入って、ずいぶん賢くなったと思うよ。

『じゃあ、もっかい水を流すぞよぉ』

 御息所がスイッチを入れて、ホースが生き物のようにピクピクして水が流れ始める。

 プシューー

 数秒して水がやってきたけど、あちこち何十か所も水漏れ。

 でも、漏れた水は盛大なミストみたいになってクッキリと虹を映した。

 ウワァ!

 少しの間、三人で見とれてしまったよ。

 
 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
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やくもあやかし物語2・066『お風呂に入ろう!』

2024-08-15 14:12:50 | カントリーロード
くもやかし物語 2
066『お風呂に入ろう!』 



 せっかくだからお風呂に入ろうということになった。

『いくわよぉ……一の二の三(ヒのフのミ)!』

 メキメキメキ!

 御息所がデラシネからもらった手袋(036『交換手さんの提案』)を振ると、飯盒ほどの大きさだった燗風呂が立派なヒノキ造りのお風呂になった。

 おお(^〇^)(^◇^)!

『うん、今日は調子がいい。おまけよ!』

 ザザザザ!

 草原の草がひしめくように寄り集まって、脱衣所と囲いができる。

「あらあ、脱衣カゴにバスタオルもあるじゃありませんか(^▽^)」

『一通りはそろっておるぞよ』

「ほんとだ、洗い場にシャンプーとボディーソープもあるよ、御息所って、ここまでできたんだぁ!」

『うん、温泉の素とかもあるからなぁ……箱根の湯なんかどうだぁ?』

「すてき」

『ふふふ、看板も付けようか……それ!』

 囲いの上に『御息所温泉』の看板、入り口には『ゆ』のノレンまで付いた。

「さあ、あとはお水を入れて、お湯を沸かすだけですねえ」

「じゃあ、お湯を頼むよ、御息所」

『よし!…………それ!……えい!……やぁ!…………(;'∀')』

「どうしたぁ?」

『ま、魔力が切れた……(-_-;)』

「もう、肝心のお湯が無かったらなんにもならないじゃないよ!」

『し、仕方がないだろ、無いものは無いんだから(''◇'')』

「ここまでそろったのに、もったいないわ。近くに川とか池とかは無いのかしら?」

「そうだ、樺太の時みたいに空を飛んで探してみてよ」

『え、わらわがか!?』

「いくよぉ」

『ちょ、待っ……!!?』

 ビュン

 手袋に突っ込んで、空高く放り上げてやる。

 ウワアアアアアアアア!

 さすがデラシネの手袋、あっという間に空高く上がってしまったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
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やくもあやかし物語2・065『オリビアの御息所観』

2024-08-09 15:18:47 | カントリーロード
くもやかし物語 2
065『オリビアの御息所観』 




「ねえ、もうなにか魔物とか妖とか出たかしらぁ(^▽^)?」

 肝試しの順番が回ってきて、ちょうど戻ってきた友だちに聞くように目を輝かせるオリビア。

 聴講生の詩(ことは)さんと並ぶ清楚な子なので、いいところのお嬢さんと思って、あんまり話したことも無い。
 ハイジのルームメイトでもあるんだけど、あまりハイジに打ち解けた様子もないので、美人だけど堅物な子なんだと思っていたよ。

「アーデルハイド(ハイジの本名)はね、表面のわたしだけを見て、そう思ってるんだと思うわ。あんまり自分を前に出すのも気が引けて、日常のあいさつ程度にしか話せてはいないですからね。同じ部屋にいるんだもの、一年生の内にはお友だちになれると思っていてよ」

 ああ、この喋り方じゃダメだろうなぁと思う。あまり人のことは言えないけど。

 でも、とくにメゲてもいないし、悪口を言う感じでもないので、いい子なんだと思う。わたしも、自分から進んで友だちを作るタイプじゃないので、これはいい機会になるかもと思ったよ。

「うん、化物めいた感じじゃないんだけどね……」

 織姫に出会って、額田王(ぬかだのおおきみ)や間人皇女(はしひとのひめみこ)に出くわしたことを話したよ。むろん、日本の万葉集の人物なんで、簡単に時代背景の話しとかもしながらね。

「まあ、それは素敵! あ、ごめんなさい。実際に戦ったら大変だったんでしょうけど」

「ううん、ネル、コーネリアもがんばってくれたしね」

「あ、コーネリアのことはネルって呼んでるの?」

「あ、うん、ルームメイトだしね」

「あ、そうよね……」

 あ、オリビアはハイジとは打ち解けられてはいないんだった(^_^;)。

「でもでも」

 リカバーしようと思ったら、オリビアの方が身を乗り出してきたよ。

「そういうマンヨウシュウ系の妖が出てくるのは、やくもの知識とか才能に感応してのことじゃないかしら?」

「え、そうなのかなあ( ゚Д゚)?」

 こっちがビックリしたけど、ひょっとしたらそういうものなのかもしれないという気もしてきたよ。

「ええ、魔物の中には、その人の知識や思い出の力を借りて姿を現すのもあるというわよ」

「え、そうなの?」

「とんでもない魔物や妖が出るかと覚悟して来たけど、ちょっと楽しみになったかもしれないわ(^○^)」

『それは違うぞよ!』

「きゃ(>○<)!」

 ポケットからいきなり御息所が飛び出してきて、座ったまま跳びあがるオリビア。

「いきなり出てきちゃダメでしょうがぁ」

『そなたらが間違った認識をしておるからよヽ(`Д´)ノ』

「な、なになのかしら、この子は?」

「驚かしてごめんね。日本から付いてきた妖……」

『あやかしだってぇ!?』

 二人の顔の高さまで飛び出て文句を言うミヤスドコロ。

「あ、いや、実はねぇ、この子は六条の御息所って云って……」

 ちょっと込み入ってるけど、御息所の話しを源氏物語から説き起こして説明する。

「源氏物語なら少し知ってるわ。今年は大河ドラマにもなっているし、ドナルド・キーンさんの本も読んだわ」

「アヒルのドナルドなら知ってるんだけどぉ(^○^;)」

 学校のみんなが交代でサポートしに来てくれるのは嬉しいけど、ちょっとめんどくさいかもしれないと思ったよ。

「あ、いろんな人が言ってるんだけど、六条の御息所は寝ている間に鬼になって人を呪い殺すって……」

『ゆ、ゆうなあ(>△<)!』

「違うのよ。夕顔って可愛くて儚げな女の子を取り殺してしまうところがあるでしょ『廃院の怪』というくだり」

『わあーわあー、ゆうなあ(>▢<)!』

「あれって、物の怪が夕顔を殺して、その物の怪が六条の御息所と……」

『ゆうなあ(*◎皿◎*)!!』

「あれって、源氏の君が夕顔を廃院に連れ出して三日三晩……励んだ結果夕顔が突然死んでしまって、それを物の怪のせいにした……という話でしょ。もともと丈夫じゃなかった夕顔には無理だったのよ。それを六条の御息所のせいにして、それも、文中じゃあくまでも物の怪と書いて、読者は『ぜったい六条の御息所』が取り殺したと思うようにしてあるのよ」

『そ、そう思ってくれるのかぁ?』

「ええ、絶対そうよ!」

『オリビア、いいやつだなぁ、おまえ( ノД`)』

「サキュバスは、あんな殺し方はしないものよ」

『だからぁ、そういうサキュバスちがうしぃ!』

 ああ、やっぱりややこしくなる(^_^;)


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  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
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  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
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やくもあやかし物語2・064『ハンターとオリビア』

2024-08-05 11:16:01 | カントリーロード
くもやかし物語 2
064『ハンターとオリビア』 




 お別れの言葉も言えずに消えて行ったネルに、少しの間呆然としてしまう。

 分かってはいたけど、ワタワタして、そして寂しくなって。それでも、キーストーンを取り返す旅は続けなくちゃならない。

 よし!

 気合いを入れ直して、少しでも進んでおくことにする。

 う……(;'○')

 一歩ふみだそうとしたら、縁起の悪いことに靴ひもが切れてしまった。

 いっしゅん、ほんのいっしゅんだけど、靴ひもが切れたのを言いわけにして、こんな旅は止めてしまおうかと思ったよ。

 一面の野原の異世界。

 この異世界にいる普通の人間は自分一人だけなんだと思うと、無性に心細い。

 魔法特性が高いから、このキーストーン奪還の役目を仰せつかったんだけど。高いのは魔法特性だけで、それ以外は他の仲間と変わらないよ。歩いたらくたびれるし、お腹はへるし、眠くもなるし、汗もかくからお風呂にもはいりたいし、ときどきは「だいじょうぶ?」とか聞かれて「うん、だいじょうぶ(^_^;)」とか言ってみたいよ。

 こういう時、いつも憎まれ口を言う御息所は、くたびれたのか、ポケットで寝てるし。

 でも、仕方がない!

 ペシペシ

 ほっぺたを叩いて靴ひもを調べる……半分までならいけそう。

 靴の穴の下半分のところで靴ひもを結び直す。


 …………これ、結び直して立ち上がったら、ぜったいクラっとくるよ。


 用心してひもを結ぶ……やっと結び終えると、クラっときた!

 え、まだ立ち上がってないのに?

 と思ったら、目の前にハンター・ヤングとオリビア・トンプソンが現れた。

 クラっときたのは、二人の出現でいっしゅん空間がひずんだからなんだ。

 ハンターは脚を広げて尻餅をついているけど、オリビアはヘタりながらも、ちゃんとスカートの前を押えている。

 オリビアは良家の子女だから、こういうとっさの状況でもつつしみ深いんだ!

「あ、やっぱり二人で来られたわ。あ、こんにちはヤクモ」

「ごくろうさま! ネルが急に戻っちゃって、覚悟してたところだったから、嬉しいよ(#^▽^#)!」

 なんだか泣きそうになった。

「荷物多いし、女子を一人で行かせるのは心配だし、ダメもとで変換魔法を使ったんだ」

 変換魔法……そうだ、節分で豆まきするのに散らからないように、豆にかけた魔法だ(028『ソミア先生の変換魔法と豆まき』)。

「ほら、三日分の水と食料、他に小物いろいろ。それに、これだ」

「あ、それは!」

「聴講生の詩(ことは)さんが、これがあったら役に立つはずって、やくもの部屋から持ってきたんだ」

「あ」

 それは御息所用のお風呂だ。

 日本に居た時に、里見さんとこの八房がお礼にくれた(やくもあやかし物語128『八房のお礼』)やつ。ほんとはお酒の燗風呂なんだけど、魔法の燗風呂で、わたしでも使える。

「ほら、渡しとくよ……」

 荷物を差し出したところで、ハンターの体が消え始めた。

「あ、変換魔法かかってたからなあ……ごめん、やくも……」

 そうだ、変換魔法は節分の豆が散らからないよう、時間が経てば消えるように設定された魔法なんだった!

 ということは……?

「だいじょうぶ、消えたら元の世界に戻るだけだってソミア先生が言ってたわ」

「そ、そうなんだ」

 女子ふたりで、ちょっと心細い……とは言わなかったよ(^_^;)。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
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やくもあやかし物語2・063『荒ぶる間人皇女』

2024-08-01 14:36:53 | カントリーロード
くもやかし物語 2
063『荒ぶる間人皇女』 




「わたしのことは詮索しないで欲しいんだけど……」

 間人皇女(はしひとのひめみこ)が薄く口を開けて言ったよ。

 ズチャ

 アニメで戦士が身構えるようなエフェクトをさせてネルが前に出る。

「こいつ、なにか詠唱している!」

「あ、べつにゾルトラークって言ってるわけじゃないから」

「そうなのか(;'∀')?」

 わたしの言うことだから疑っているわけじゃないんだろうけど、間人さんから放射される気は禍々しくて、ネルは警戒の姿勢を一ミリも緩めないよ。

「ぞ、ぞるとらーくって何よ!?」

 間人さんもネルの威圧に圧されて、言葉が尖がっている。

「あ、最近流行の一般攻撃魔法。だいじょうぶ、なんにもしないから」

「でも、あなたたちは、わたしのことを間人皇女と分かって警戒してるんでしょ!」

「あ、ちょっと怖いけど、戦おうとかは思ってないし」

「でも、そちらの耳長は敵意剥き出しだしぃ」

「もう、ネル!」

「あ、ああ、すまん」

「わ、わたしはね、孝徳天皇の皇后なのよ。中大兄は実のお兄ちゃんだし、あなたたちが考えているようなことは、いっさい無いんだからね!」

「え、あ、そうだよね(^_^;)」

「そりやぁ、お兄ちゃんはずいぶん心配してくれたし面倒も見てくれたわよ。叔父さんと結婚する時も……」

「叔父と結婚したのか( ゚Д゚)!?」

「そんなの普通ヨ!」

「あ、ネルは黙ってて、話は最後まで聞こうよ」

「すまん」

「叔父さんはね、わたしを皇后に迎えるにあたって都を難波の宮に移してくれて、分かる難波の宮? 近鉄もJRも無い時代に生駒山の向こう側に都を移したのよ。大兄のお兄さんも察してくれたし、分かってくれたし!」

「そ、そうなんだ」

「すまん、そうなんだな。いや、わたしの両親も周囲に喜んでもらえない結婚をしたんでな、つい自分と重ねてしまって」

「ちょ、なにを聞いてるの、わたしはね、そんなんじゃないんだから! お兄ちゃんはあくまでもお兄ちゃんで! 叔父さんはわたしの夫で! だから皇后で、ぜんぜん、全くノープロブレムでぇ(゙◇゙) 」

 間人皇女は顔を真っ赤にし、唇を震わせ、手をブンブン振って抗議する。

 しかし、言えば言うほど彼女の体から黒い煤のようなのが噴き出て、煤はあちこちで渦を巻いて、やがてつり上がった目と口の煤お化けになった!

「間人さん、しゃべっちゃダメよ!」

「え……えええ( ゚Д゚)!?」

「こいつは退治しなきゃ!」

 言うが早いか、ネルは杖を構えて煤に討ちかかっていった。わたしも敵わぬながらもミチビキ鉛筆を構えたよ!

「こ、これはわたしじゃない! わたしじゃないから! 知らないから!」

 グルンと回ったかと思うと、間人さんは竜巻のようになって草原の向こうに行ってしまった。

「やくも、こっちのは来るぞ!」

 煤お化けが一斉にかかって来て、ネルとわたしも負けじとお化けどもに討ちかかっていった!

 セイ! セイ! トリャー! ビシ! バシ! ズコ! 

 オリャー! トォ! キエーー!

 ドゲシ! ズコン! バキ! グチャ!

 ズガガガ! ピュイーーン! ズキューーン!

 ボキャ貧で、掛け声と擬音でしか表現できないけど、ネルと二人で煤お化けたちをブチノメシていく!

 入学以来あちこちで戦ってきたので、わりとカッコよく片づけられているような気がするよ。

 ネルは杖で打撃を加えるだけじゃなくて、「嵐の一撃!」とか「稲妻の閃光!」とか短い詠唱も加えて魔法でも煤お化けどもを退治していく!

 ズビッシュ!

 二人で左右同時に突きかかって最後の一匹を成敗!

 ハーハー ゼーゼー

 野原の真ん中で盛大に息をつく。

 こないだ退治した食わせものや、義手義足のお化けよりも厳しかったかもしれないよ。

 二三分ネルといしょにゼーゼー言って気が付いた……御息所が額田王からもらった花ごとポケットから消えている。

「あれ、どこに行っちゃたんだろ? 落したのかなあ!?」

「あ、頭の上!」

「ええ?」

 ゴチン

 見上げたとたんに御息所が落ちてきてオデコに当ってから膝の上に乗った。

「ごめん、こっちもちょっと大変だった」

「もう、どこに行ってたのよ!」

「間人も我を忘れてトチ狂ってたから、ちょっと意見してきた」

「意見だけぇ? ちょっと手を見せて」

「な、なにをする!」

 御息所の目は、ちょっと血走ってるし、開かせた手は真っ赤だし。

「ちょっと、乱暴にしたんじゃないのぉ?」

「少しはね……なによ、ブチギレた女を諌めるのよ、多少のことはあるわよ(-_-;)」

 御息所は正しくは六条の御息所だ。源氏物語じゃ生霊になっていっぱい人を殺して茨木童子の腕に封印された鬼だよ。

「気が付いたら、あいつの首を絞めてたんだけどね……」

「やっぱり」

「でもね、額田王がくれた花がパッと散ると、わらわも間人も冷静になって、少し話ができたのよ」

 膝の上でそっくり返っていたのが、しおらしく立膝に座って話を続ける。

「孝徳天皇は間人皇女を皇后にしたけど、指一本触れなかったらしい……」

「え、それって……」

「真人を皇后にしてしまえば、さすがの中大兄も手が出せない。天皇の皇子の有間皇子は小足姫(おたらしひめ)の子だしね。叔父さんが不肖の甥と姪の尻ぬぐいをしたというところじゃないかしら……もうくたびれた、すこし眠るぞよ……」

 ポケットに潜り込み、今度はミチビキ鉛筆を支えにして寝てしまった。

「やっぱり、望まれぬ結婚というのは、いろいろ禍根を残すんだなぁ……」

「そうだね、でも、事情はいろいろだし、悪いことだらけというわけでもないと思うわよ」

「そうか、あたしのルームメイトは優しいなあ(^・^)」

「あれ、ネル、ちょっと影が薄くなってきてない?」

「あ……どうやら交代の時間みたいだな」

「うん、ありがとう、キーストーンは必ず取り返してくるからね」

「ごめん、最後まで付き合えなくて、また順番が回ってきたらがんば……」

 最後までは言えずにネルは消えてしまって、野原を名残りの風が吹いていったよ……。


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
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やくもあやかし物語2・062『野分の果て』

2024-07-26 12:08:03 | カントリーロード
くもやかし物語 2
062『野分の果て』 




「これは野分じゃ!」

 織姫さんからもらった花を傘にして、ポケットから目だけを出した御息所が警告するよ。

「ノワキとはなんだあああああああああああ((((;゚Д゚))))」

 プルプルプルプルプルプル

 強い風に長い耳がはためき、その振動で語尾を振るわせながらネルが質問する。

 わたしも分かってないけど(^_^;)。

「た、台風とかストームのことじゃ! 風が野原の草を吹き分けるように吹きすさぶから野分と言うんじゃ!」

「な、な、なるほどなななななななな((((^△^;))))」

「ネル、耳を押えよ、声が震えて聞き取りにくいぞよ」

「ご、ごごごごめんんんん(耳を押える)……こんどは聞こえにくくなった(^_^;)」

「ねえ、風が道を隠してしまったよ」

 野分で倒された草が細い道を隠してしまい、別の道が風に吹き分けられて現れてきたよ。

「なにか妖に誘われているのかもしれぬ、心してまいれ」

「なんだか、古典的な喋り方になっていないか、御息所?」

「あ、この野原の妖気のせいかもしれぬ。しばらく寝るぞよ」

 ポケットの中に引っ込み、花でふたをしてしまったよ。

「わたしが前を行くから、やくもは飛ばされないようにして付いてこい」

「う、うん、ありがとう」

 ビョォーーービュゥーーーーーブゥォーーーーー

 めちゃめちゃに風が吹く中、その風の向きが変わる度に道も変わって、それでもネルが盾になってくれて、風が弱まるところまでたどり着けた。風が止んで定まった道は二股に分かれた三叉路だよ。

「うう、なんとかなったな……でも、道はこれでいいのか、風の吹くままに進んできただけだぞ」

「ど、どうだろ(;'∀')?」

「二股に分かれてる、どっちに行けばいいんだぁ?」

 野分が吹きすさんでいるうちは果敢に進んでたネルだけど、穏やかに道が定まってしまうと、わたしといっしょに立ちすくんでしまう。

 ネルのいいところは、逆境に陥っても果敢に進める勇気と力だけども、こういうAかBかという選択を迫られることには弱いみたい。

 いや、いっしょにビビってるわたしも人のことは言えないんだけどね。

 シャララ~~ン

 魔法少女が出現するようなエフェクトがしたかと思うと、三叉路の股のところに古代服の少女が現れた!

 額田王を少し若くして、ちょっぴりコケティッシュにした感じに、間人皇女(はしひとのひめみこ)に違いないと思ったよ!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
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やくもあやかし物語2・061『間人皇女の秘密を知って草原に』

2024-07-22 13:58:58 | カントリーロード
くもやかし物語 2
061『間人皇女の秘密を知って草原に』 




「これが織姫さまよ」

 しゃがんで手を合わせるわたし、ネルは片膝ついて手を組んで祈ってくれる。

 同じように祈っても、わたしは傘地蔵に手を合わせる村娘みたい。ネルは流浪の姫騎士が額づいているようでカッコいい。

 御息所もわたしの膝小僧の上で手を合わせて、なんだか、ここからワンクール13回の異世界アニメが始まるみたいだよ。

「さあ、行きますか」

 キーストーンを取り返す旅は、やっと天の川を超えたところだ。

 ネルをうながして、先に進む。

「花がじゃまにならない?」

 織姫さんからもらった花をポケットにさしているので、御息所には邪魔じゃないかしらと声をかける。

「ううん、とっても穏やかな気持ちになれて、いいぞよ」

「なんだか寝てしまいそうな顔をしているぞ……て、もう寝てるし」

「フフ、これから役に立ってもらうこともあるだろうから寝かせておこう(^_^;)」

 すこし歩くとお花畑の丘のてっぺん。

「ここが鞍部だな」

「あんぶ?」

「あ、てっぺんのことだ。馬の鞍ほどに高くなったところで、山というほどには高くないところを指すんだ」

 長身長の美少女エルフが含蓄っぽく言うとメチャクチャかっこいい。

 御息所は花の茎にダッコするようにして寝ている。こいつも大人しく寝ているとフィギュアみたいでかわいいよ。

「しばらくは草原だね」

「ああ、彼方は霞んで見えないけど、気を引き締めていこう」

「おお(^〇^)!」

 わたしは腕を挙げ、ネルは耳をピンと立てて意気軒昂さ!

「もぉぉ、声大きい……」

「ごめん、起こしちゃったぁ?」

「…………」

「あ、また寝たぁ」

「起きてるわよ……」

「額田さんがな、花園の向こうは草原になっているけど、草原を抜けるまでは何と出会ってもやっつけてはいけないって言ってたぞ」

「え、なんでぇ?」

「それ以上は言ってくれなかった、なにか差しさわりがあるという感じだったぞ」

 それは……言霊(ことだま)ということかもしれない。日本にいる時も、神さまやあやかしをハッキリ言わないのがあったよ。アレとかソレとか、かの者とかその者とか。いちばん強敵だった二丁目断層も思えば変な名前、ほんとうはあやかしのボスとして別の名前があったのかもしれない。

 そう言えば、ポケットの御息所だって『六条の御息所』って言うだけで名前は知らないよ。交換手さんだって、ただ交換手さんだし。

「やくも、あんた大化の改新っていうのは知ってるわよね」

 御息所が変な質問をする。

「え、ああ、中大兄皇子が藤原のナントカさんといっしょに蘇我のクジラ……じゃなくてイルカをやっつけたの。ムシゴハンだから……645年かな」

「よしよし。その中大兄皇子が後の天智天皇だというのも知っているだろう」

「もちよ!」

 実は忘れてたけど。

「日本の古代のクーデターだろ!」

「おお、ネルえらい!」

「アニメで見た」

 おお、アニメは偉大だよ。

「その中大兄皇子が天皇になるのは大化の改新の二十三年後なのさ」

「「ええ、23年後!?」」

「資格がありながら位に就かないのを称制っていうんだけど、歴史上二例しかないのよ。二十三年も位に就かなかったのは中大兄皇子一人だけだし」

「なぜだ?」

 ネルは、自分のお父さんが人間と結婚して王位につけなかったんで気になるんだね。

 ザワ

 いっしゅん風が吹いて草原の草がざわめいた。

「天智天皇の妃は間人皇女(はしひとのひめみこ)というのは知ってるだろ」

「うん」

「あれは、天智天皇の妹なのよ」

「え!?」

 ネルが目を剥く。

「あ、でもさ、あの時代って、腹違いの兄妹とかは結婚できたとかじゃなかったっけ」

「そうよ、伯父(あるいは叔父)と姪の結婚も珍しくなかったしね」

「だったら……」

「天智天皇と間人皇女は同腹の兄妹なのよ」

「「ええ( ゚Д゚)!?」」

 ザワザワザワ……

「さすがに、みんなドン引きしたわ。だから間人皇女が亡くなるまでは天皇にはならなかった、なれなかった……」

 ザワザワザワ……ザワザワザワ……ザワザワザワ……!

 いっそう草原のざわめきが激しくなってきたよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
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  • カーナボン卿     校長先生
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やくもあやかし物語2・060『織姫』

2024-07-19 10:43:19 | カントリーロード
くもやかし物語 2
060『織姫』 




 あ、ちょ……ヤバイかも……


 視界が開けると、とたんにネルはしゃがみ込んでしまったよ。

「転移魔法、やっぱハンパないわ……ちょっと手を握ってくれる。このままだと消えてしまいそうだし……」

「う、うん。無理させてごめんね」

「まだ天の川を渡ったところだからな、ここで戻るわけにはいかないさ」

「ネルはわたしに任せろ、やくもは織姫に花を」

「え、あ、でも……」

「大丈夫、こうしているから」

 御息所はネルの手の平に寝そべって、両腕で親指にしがみついて頬っぺたをスリスリしている。ネルの顔も穏やかだし、わたしは織姫を探したよ。

 やわらかく起伏したお花畑を少し行くと、花々に埋もれるようにしてしゃがんでいる織姫を見つけた。

「織姫さんですね?」

「あなたは?」

「はい、斎藤やくもって言います。川向うの蒲生野で額田王さんにお花を頼まれまして、届けに参りました」

「そう、額田王さんから……どうもありがとう斎藤さん」

「どういたしまして(^_^;)、あ、やくもでいいです」

「そう。ではやくもさん。こちらには、どうやって……彦星さんでも年に一度しか渡ることができないのに」

「はい、連れの者が転移魔法で運んでくれました」

「まあ、転移魔法!?」

「あ、ちょっと無理な魔法だったんで向こうで休ませてます」

「そう……ひょっとして、向こう岸で役人たちと言い合っていた?」

「え、あ、見ていたんですか(^〇^;)」

「うん、でもすごいわね。転移魔法ってとっても難しい魔法だし、一度は行ったところでなきゃ転移できないはずよ」

「向こう岸から見えていたし、それに、ずいぶん無理をしたんだと思います」

「そう、嬉しいわ……このお花、すごい恋の想いが籠ってるわ」

「ああ……」

「「あかねさす~紫野行き標野行き~野守は見ずや君が袖振るぅ~」」

 おもわず二人でハモッてしまった。

「返歌は、こうよ。紫の~にほえる妹を~憎く有らば~人妻ゆえに我恋ひめやも~」

「え……それって……」

 古典は苦手なわたしだけど、おおよその意味は分かるよ。

 君のことは大好きだけども、人妻だから好きになっちゃいけないんだ(-_-;)

 そんな感じの歌だよ。

「そうねぇ、おまけに恋敵は実の兄だし」

「そうですね、お兄さんは天智天皇、弟は天武天皇ですね」

「そうよ、二人で恋のさや当て。ちょっと危なかったと思うわ」

「天皇さまのお身内で、こんな恋のトラブルなんて大丈夫だったんですか?」

「フフ、まあ、この二つの歌は兄の天智天皇が正式に額田さんを妃にした後、宴会の席で詠まれた歌だからね」

「アハハ、でも、ちょっと際どいような(^_^;)」

「そうね、結婚式で新婦が『デートの時に、弟があなたに分からないように手を振ったのよぉ!』ってバクロして、新郎の弟も『オレ、実は兄ちゃんの嫁さん好きだったんだぜぇ!』って宣言してるんだもんね」

「そうなんだ」

「ちょっと違うわ『今でも好きだぜぇ!』だもの」

「あ、そうか、めちゃヤバイ!」

「「アハハハハ」」

 織姫さんは人の恋にも詳しいみたいだよ。

 額田王さんも、こうやって川向うの同類さんを励ましてるんだね。

「でもね……」

 飛んできたチョウチョを肩に憩わせながら話を続ける織姫さん。

「でも?」

「ほんとのほんとは、お兄さんであり旦那である天智天皇への警告というかあてこすりというか」

「あてこすりですか?」

「実は、天智天皇にはもう一人いたの、間人皇女(はしひとのひめみこ)というお妃が」

「ハシヒトノヒメミコ?」

「ええ……あ、そうか……額田さんは、これをわたしに託したんだ」

「え?」

「この先、間人皇女が立ちふさがるかも……意地悪をされるかもしれないけど、けして……その、やっつけ斃してしまおうとはしないでね」

「あ、えと……」

 今まで、妖にしろ悪霊にしろ滅ぼしたことはないけど、まだまだ知らないのがいっぱいいるから、言い切れない。

「そうだ、お礼を兼ねて、この花を上げるわ」

 プチ

 足元の白い花を摘んで手渡してくれる。

 え?

 よく見ると、その花は織姫さんの足首から生えている。

 ううん、織姫さんの体のあちこちから茎や根が伸びて地面に繋がってる。

「そろそろ時間ね。わたし、彦星さんと逢ったら花になって一年を過ごすの。いただいたお花も紫色に変わってきたし……わたしって白一色の花だから、とっても素敵よ。どうか気を付けて旅を続けてくださいな……」

 そこまで言うと、織姫さんは目を閉じて白い花に変わっていったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
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やくもあやかし物語2・059『マイナカードから転移魔法へ』

2024-07-16 09:40:37 | カントリーロード
くもやかし物語 2
059『マイナカードから転移魔法へ』 




 フフフフフ(*`艸´)


 御息所が嫌味な含み笑いをしたかと思うと、みるみるうちに1/12サイズからリアルサイズに変わった!

「役人どもよ、わらわたちを勉強不足のJKやら1/12サイズのフィギュアと見くびるではないぞよ」

「あ、あなたさまは!?」

「源氏物語『夕顔の巻』に燦然とその名を輝かす六条の御息所とは妾の事じゃ。畏れ多くも先の東宮の妃であるぞよ」

 ヘヘーーー(-_-;)!!

 さすが御息所、居並ぶ役人たちは、みんな平伏したよ(^_^;)

「古事記ではカササギが彦星を渡すとある。舟が現れるという説もあれば、牽牛の牛が背中に乗せて渡ると言う中華の説、月が渡し船になったり、川の中に島ができるとか、様々な方法が有るはずじゃ。いずれの方法でも良い、疾く妾たちを向こう岸に渡すが良いぞ」

 おお、いつもと違う! 

 なんか自信たっぷりで、普段のアニメ風じゃない!

「お、お言葉ではありますが、それは七月七日の夜限定でありまして……」

「ならぬと申すか?」

「ハ、畏れながら……」

「わ、妾は先の東宮妃、六条の御息所なるぞ!」

「そう仰せられても……なあ」

 役人が部下たちに目配せをすると、若い役人がおずおずと手を上げる。

「なんじゃ、良い考えがあるなら申せ、直答を許すぞよ」

「はい、マイナンバーカードをお作りいただき、そのマイナカードでクレジットをお作りになってヘリコプターをチャーターなされば」

「おお、それは良い。疾くマイナカードを作るぞよ!」

 さっそく役人はデジカメで写真を撮って書類に貼って御息所に差し出したよ。

「では、必要事項をお書きくださいませ」

「容易き事よ……サラサラサラ……これでよいであろう」

 一分足らずで書き終え、鼻の穴を膨らませて役人に下げ渡す御息所。

「ハハア、お預かりいたし……あ……あの……」

「なんじゃ、なにか故障があるのか?」

「はい、御芳名をお書き頂きたいのですが」

「名なら書いておろうが」

「はい、六条の御息所とはございますが」

「そうじゃ、それでは不都合があると申すのかや?」

「ここは、戸籍名と申しますか、住民票などに書かれているお名を頂戴いたしたいのですが」

「ま、真名とな……(;'∀')」

 ちょっとまずいよ、御息所は『六条の御息所』とあるだけで、名前なんか無かったはずだよ。

 役人どもは恐れ入りながらも――勝った――って顔をしている。

「そこ、通名でもいけるはずですよぉ」

 旅人の一人が発言する。

 余計なことをという顔をする役人もいるが、年かさの役人が顔を上げる。

「ハイ、通名でもむろん構いませんが、住民票に届けられたものと同一である必要がございます」

 それは無理だよ。御息所に住民票なんて無いし。

「本の目次や登場人物相関図とかではダメなのかや?」

「はい、申しわけございませんが……」

「そ、そうか……」

 御息所は、たちまち1/12サイズになってポケットに戻ってきてしまった。


「転移魔法を使おう!」


 それまで黙っていたネルが手を挙げたよ。

「転移魔法って、最上級魔法だよ!」

「あたしもエルフだ、やってやれないことはないだろう!」

『そうか、なら、それで行こう!』

 御息所が元のアニメ声で賛成する。

「全知全能なるエルフの神よ。わが名はコーネリア・ナサニエル、わが身は芽ぐむまじき言の葉の種。 御身に比すれば鴻毛より芥子粒よりも軽ろき身なれば、我とその友、小泉やくもと六条の御息所を天の川の彼岸に渡らせ賜えぇぇぇ!」

 ネルが念を籠めると目の前がゆっくりと白くなっていったよ。



☆彡主な登場人物 
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やくもあやかし物語2・058『シュール天の川』

2024-07-13 16:08:55 | カントリーロード
くもやかし物語 2
058『シュール天の川』 




 天の川の川岸では二群れの人だかりがにらみ合っていた。


 川を渡ろうとする旅人や村人たち、それと、それを拒む役人の人たち。

「ああ、なんかヤバイ感じ……」

「そう見えるだろ」

 頭の上でネルが反対を言う。

「え、ちがうの?」

「ああ、額田王が言っていた。本気で川を渡りたい者は数えるほどしかいないって」

「え、そうなの!?」

「ああ、額田の姐さんに言われなきゃ、あたしでも気が付かないとこだけど。あらかじめ知っていたら、そうなんだって気がする」

「そうなの?」

「旅人たちのリュックやポーチ、大きさの割には重そうに見えないだろ」

「え……ああ」

「フフ、わたしは聞いていないけども、わかったわよ」

「え、御息所も?」

「地元の者には困惑が無いし、旅人たちの目には覚悟の光が無い」

「旅をするのに覚悟がいるの?」

「要るわよ、娘が斎宮になって伊勢に付いて行くとき、どれだけの覚悟が要ったことか」

 わたしは、ギュっと胸に抱えた花かごを抱きしめたよ。

 額田王は――花かごを見せれば渡れるから――と言っていたんだけど、この河原の雰囲気には、ちょっと腰が引けてしまうよ。

 河を渡す渡さないで揉めているんだったら、ま、それはそれで怖いけど、水戸黄門の印籠みたいに花かごを見せてサッサと渡る。

 みんなが渡れないでイジイジ焦れてるとこをサッサと渡っちゃうのは気が引けるけど、こっちにも奪われたキーストーンを取り返すと言う崇高で恥じることのない理由があるんだからね。渡ってしまえば、きっと平気になれる。

 それどころか、川の向こうにお役所があるなら「他の渡りたい人たちも通してあげるべきですよ!」くらいは苦情を言ってあげる。

「出先機関の我々に言われても困る!」とか言い訳言ったら「じゃあ、帰りにもう一度ここに寄って上の方に掛け合ってあげる!」くらいは言う。

 でもね、村人や旅人には――どうしても渡りたい!――って気迫を感じないし、お役人たちにも――どうしても渡さない!――って職業的な義務感を感じない。

 両方とも――あ、昔からこうやってるからやってますから――みたいな感じ。あるいは、この川岸では『渡りたい旅人たちと村人たちVS渡さない役人たち』っていうシーンを撮っている最中。ここにいるみんながエキストラだから、本当に渡っちゃう人間が出てきたら何もかもぶち壊しで、どこかでこのシーンを撮っている監督が「カットおおおお!」なんて怒るような気がしてる。

「グズグズしてたら、そのうち、やくもにも子供や孫ができて――なんで川を渡ろうとしてるんだ――って、ううん――なんで不思議がってるんだって佇むことになるかもしれないわよ」

 御息所がシュールなことを言う。

 ペシペシ

「さっさと渡ろう!」

 ネルがホッペを叩いて宣言する。

「すみません、この花を向こう岸の織姫さんに届けに行きますから渡してください」

「え、なんだって……?」

 役人の代表が間抜けな驚き方をする。旅人や村人もザワザワしだすし。

「額田王のお許しも得ておるぞ」

「これが、そのお花だ」

 御息所とネルが押してくれて、役人は後ずさった。

「分かってもらえたかしら?」

「いや、確かに分かった。渡ってもらってもいいが、どうやって渡るつもりだ?」

 え(゚д゚)?

 天の川に橋も渡し舟も無いことに初めて気づいた……。

 
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  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王
 
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やくもあやかし物語2・057『額田王の頼み事』

2024-07-09 10:49:57 | カントリーロード
くもやかし物語 2
057『額田王の頼み事』 




「ねえ、あなたたち川の向こう側に行くんでしょ?」


 ただのきれいな人かと思っていたら、間近に見る額田王は少女のようにワクワクして目が輝いて、このままシャンプーとかのCMに使えそう。

「え、あ、はい?」

「だって、この丘を越えたら天の川。天の川を超えなければ次には進めない」

「あ、そうなんですか?」

「うん。わたしもそろそろ大津宮に戻る時間だし、わたしの代わりに届けてきてもらえないかしら」

「乙姫さんにですか?」

「うん」

「あ、でも七夕は二日前に……」

「そうね。でも、年に一度のデートでしょ、三日ぐらいは気持ちが残って川のこちら側を見てため息ついていらっしゃるわ」

「え、そうなんですか!?」

「そうよ、そういうものよ!」

 御息所が顔の上半分だけ出して主張する。

「あら、あなたは六条の……」

「しまった!」

「フフフ、あなたなら分かるでしょ、こじらせた恋は災いのもと……」

「ウウ……(-_-;)」

「それから耳長さん」

「え、わたしか?」

「はい、それだけお耳が長ければいろんなことが聞こえると思うの」

「え、あ、まあな」

「ちょっとお耳を拝借」

 額田王はわたしと変わらない背丈なので、ネルは膝に手を付けて耳を貸す。

「ヒソヒソ……」

「……う、うん、分かった」

「それでは。このクエストを達成すれば道が開けると思いますよ。川沿いには無粋な役人たちがいるかもしれませんが、逆らわなければ邪魔をされることもないと思います(^○^)」

「ありがとうございます」

「あ、それから、耳長さんは少しお耳をお隠しになった方がよろしいかしら」

「あ、うん」

 シュポン

 耳を引っ込めるネル。初めて会った時のイメージになって懐かしい(004『ルームメイトはネル』)

「では、お気をつけて(´∀`)」

 傾げた小首の横で小さく手を振って侍女のところに戻って丘の向こうに消えていく額田王。

「……なんか、素敵な人だな。アドバイスとかもしてくれたし」

「それはね、二人の恋人の将来にたちこめる暗雲もあるからよ。少しでも善根を積んで回避したい気持ちがあるからでしょ」

「え、そうなのか?」

「そうよぉ、壬申の乱の原因の一つは……イテ!」

「もう、不吉なことばっかり言うんじゃないわよ!」

「デコピンすることはないでしょ!」

 預かった花かごを持って花畑の丘を越えたよ……。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王
 
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やくもあやかし物語2・056『始まりの野原に額田王がいて』

2024-07-06 11:44:30 | カントリーロード
くもやかし物語 2
056『始まりの野原に額田王がいて』 




 ひょっとしたら罠かもしれない。


 いっしゅんだけど、そう思ったのは、わたしが臆病だからかもしれない。

 夏の大三角が入り口だなんてね。

 せめて最初はロマンチックのオブラートに包まれて、苦くて怖い魔界に立ち向かいたい……的な?

 夏の大三角は、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガを結んだもので、ベガは織姫、アルタイルは彦星だからね。

 季節はちょうど七夕だしね。

 中一の春にお母さんの実家、お爺ちゃんお婆ちゃんの家にひっこして、一丁目の家から三丁目の学校に通っていた。その間には二丁目の崖があって、ちょっと怖かった。

 崖のキワにはお屋敷が並んでいて、その前の坂道を百メートル以上も下って崖の下に出る。そこから折り返しの坂道になっていて、そこをさらに百メートル以上下って、学校への一本道。

 そこで、いろんな怪異があって、じっさいペコリお化けとか妖がいた。

 実は、この崖道には二丁目断層というのが走っていて、断層そのものが、そこらへん一帯のボスだった。こらしめてやったり、仲良くしたり、妥協したり、けっこう大変だったからね(^_^;)

 そんな思い出があるから、せめて、キーストーン奪還の旅、その最初ぐらいは穏やかでロマンチックがいいかなあ……と思って、そこに付け込まれた?

 でもね、オンラインRPGとかだったら、最初は『始まりの町』とかだったりするじゃない。ギルドとか酒場とかバザールとかがあって、そこにいる限りは安全みたいな。

 でも、闇が開けてふんわり着地したのは一面の、ちょっと起伏のある野原だよ。遠くに蒼い山並み、そこここに花が咲いていて小鳥がさえずり、ちょうちょが花から花に飛んでいたりする。

「え……ここでいいのか?」

 ネルもキョトンとして突っ立ったまま。

「あ……うん、そうだと思うけど」

「油断は禁物だな」

「ちょっと、しゃがもうか」

 見晴らしのいい野原なんだけど、逆に言えば敵もよく見えるということなんで、油断はできない。ネルは身長が180センチもあるしね。

「蒲生野のよう……」

 ポケットから顔を出して御息所が呟く。

「「ガモウノ?」」

「うん、滋賀県の大津に都があったころにね、東近江市のあたりにあった薬猟場……まあ、薬草を採ることを名目にしてピクニックとかするとこよ」

「ということは、ここは日本なのか?」

「イメージね……ここの印象だけで決めてはダメなんだろうけど……」

「お……誰かいるぞ」

 長い耳をピンと立てるネル。

「あっちだ」

 首を向けると天女みたいな古代衣装の美人さんが侍女に籠を持たせてお花摘みをしている。

「あれは……額田王!」

「「ヌカダノオオキミ?」」

 御息所は説明するかわりに歌を詠んだ。

「あかねさす~紫野行き標野行き~野守は見ずや君が袖振るぅ~」

「あ、聞いたことあるかも!」

「うう、ネルは分からん(^_^;)」

「あの人は、額田王って云って、天智天皇のお妃なのよ」

「おお、テンノウと言えば日本のエンペラーではないか!」

「うん、千何百年前のね」

「その妃かぁ、美人なわけだなあ」

「あ、向こうの方に男の人が……」

「なんか、手を振ってるぞ、テンノウか?」

「あ……大海人皇子(おおあまのおうじ)って云って、天智天皇の弟宮」

「あの人が『君が袖振る~』の君?」

「うん、そうよ」

「いいのか、弟はいえ、テンノウの妃に親し気に手なんか振って?」

「フフフ、昔は兄弟で彼女の取り合いしてたのよ( *´艸`)」

「そうなのか!?」

「ダメだよ、首出しちゃ!」

「あ、ごめん(;'∀')」

「だからね『野原の管理人とか人に見られちゃ困るでしょ』って詠ったわけよ」

「なるほど」

「そうか、これくらいにアッケラカンと袖振った方が明るくサバサバしてるってことなのね」

「そうそう、万葉集の世界だからね、明るくノビノビしてるのよ」

 大海人皇子は袖は振るけど、それ以上近づくこともなく、額田王と侍女がクスリと笑うのを見届けると、向こうに行ってしまった。

 なるほど……二人とも大人の態度だ。

 変にシカトしたり、デレデレしたりもしないで、この蒲生野の花たちのように明るくしている。ちょっと勉強になったかも。

「フフフ、やくもも少しは大人になったかぁ?」

「もう、御息所ったらぁ」

「ミヤスドコロ」

「なんじゃエルフ?」

「あんた、ちょっと声がハッキリしてきていないか?」

「え、そうか?」

「あ、そうだよ。いつもだったらカギカッコついてるよ」

「フム、ここの空気があっておるのかもしれぬのう」

 御息所の空気が合うというのは、ちょっと怖い気がしないでもないけど、言霊ってことがあるから、ネルと二人、笑ってごまかしておくよ。

「「アハハハ……」」

「ちょ、声大きい」

 御息所の注意は遅かった、今度は額田王がこっちに手を振ってるし(;'∀')。


――ねえ、ちょっとあなたたちぃ(^▽^)/――


 やばい、手を振りながらこっちくるしぃ(;'▢')!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王
 
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やくもあやかし物語2・055『キーストーン奪還の旅立ち』

2024-07-02 10:01:41 | カントリーロード
くもやかし物語 2
055『キーストーン奪還の旅立ち』 




 最初のお供はネル(コーネリア・ナサニエル)だ。


 魔法特性と魔法耐性が高いこともあるんだけど、本人が強く希望して「強い意志も特性と耐性を補完してくれるだろう」とソフィー先生が判断して決まった。

 ハイジも行きたがったんだけど、くわせものの影響が抜け切れていないので外された。

「ウウ……ネルの次はハイジだからなッ!」

 涙目になって強がりを言うハイジ。

『王女さまや学校のみんなも見送りたがっていたんだが、派手なことをやると敵に悟られてしまうからな』

 ソフィー先生が御息所の口を借りて事情を説明してくれる。

 御息所は樺太の時と同様、手袋の防護服を着てポケットに収まっている。

『やくものミチビキ鉛筆でも飛べるが、同伴者と合わせなければならないので魔石を使ってくれ』

「これだ」

 ネルが左手で襟をまくってペンダントの魔石を見せてくれる。右手の魔石を受け取って首に掛ける。

 うわ?

 首に掛けたとたん体が浮いてビックリする。

『少し飛べば慣れる。必要なものは日に一度魔石を通して送ってやる、では、気を付けて行け』

「「はい」」

『定時連絡を忘れんようにな』

「き、気を付けて行ってこいよなぁ(#°△°;#) 」

 声を震わせるハイジ。

 いっしょに付いていけない悔しさと友情が滲み出ている。

「もういい、我慢してないでトイレ行ってこい」

「ウ……ごめーーーん(>Д<)!!」

 お尻を押えながらトイレにダッシュするハイジを見送って裏庭に出る。

『もうすぐ月が隠れる…………今だ!』

 セイ

 ネルと小さく掛け声を揃えて地面を蹴る。

 あらかじめ見当をつけていた夏の大三角(ベガ、デネブ、アルタイル)の真ん中を目指して飛んで行ったよ、キーストーン奪還の旅にね。


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精)  プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖)
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