永遠女子高生
《Etenal feemel highschool student》
あたしは、悔しくて心配だった。
死の淵に立った人間には、相応しくないほど生々しく強い感情だった。
あたしは、十七歳の若さで死んでいこうとしている。枕許には、両親と弟、そして、親友の三人がいる。
「あと、三日で誕生日だ、がんばれよ、結(ゆい)!」
お父さんが言った。そう、あたしは、三月三日生まれ、まもなく十八になれる。
「明日は卒業式なんだよ。がんばって、四人で卒業しようよ」
久美が言う。そう、明日は我が乃木坂学院の卒業式……せめて卒業証書を手にして死にたい。
「姉ちゃん、来月はプレステ2の発売だよ。いっしょにやるって言ったじゃないか……」
ベソをかきながら弟が言う。そう、ファイナルファンタジー・Ⅹをやるのが楽しみだった。
「そうよ、四日には先行予約したのが届くから、お母さんといっしょに……」
年甲斐もなくゲーマーのお母さんが、あたしの未練を刺激する。一月二十九日の発表には驚いた。きれいなグラフィック、シリーズ初めてのフルボイス。デモビデオのユウナが「できた……!」と言って気を失いかけ、階段を転げ落ちそうになったとき、ティーダが助けようとして、ガーディアンのキマリが抱き留める。あの時のユウナの顔は最高にいい。
あたしは、まだ人生で、あんな達成感に満ちた気持ちを味わったことがない。あたしもゲーマーだけど、それを超えて女の子として、あの達成感には羨望だ。
「結。ごめん……ごめん。だから死なないで!」
ありがたいけど、瑠璃葉に言われたくはない。あたしが今、死にかけているのは、瑠璃葉に原因がある。
前の年、夏休みに瑠璃葉の強引な計画と誘いで、湘南に四人で旅行に行った。
発展家の瑠璃葉の計画なので、危ないなあという気持ちはあった。
初日は、湘南の海で、他の海水浴客に混じって遊んでいるだけだったけど、二日目に飛躍した。
「ちょっと、離れたとこで泳いでみようよ!」
瑠璃葉の言葉に乗って、遊泳禁止区域ギリギリのところで泳いでいた。
そこに、あの男達が、カッコよくサーフボードを滑らせてやってきた。ヤバイと思ったけど、案外キチンとした話し方で、サーフボードの初歩を教えてくれたりした。
「どう、今夜ボクのコテージで焼き肉パーティーするんだけど、来ない?」
の誘惑に乗ってしまった。
コテージなどと言うよりは、立派な別荘だった。あたしたちも瑠璃葉の別荘に泊まっている。規模は同じぐらいだったけど、こちらの方が、趣味が良い。その雰囲気にも流されたのかも知れない。
三杯目のドリンクからアルコールが入っていることに気づいた。
あたしは気づかれないように、ソフトドリンクに替えた。だけど瑠璃葉、久美、美鈴の三人は知ってか知らでか、グラスを重ねた。
十一時を回った頃、部屋の照明がFDして、なんだか雰囲気が変わってきた。あたしの肩に男の腕が絡んできた。
「あたし、そういうことはしないの」
冷たく突っぱねて、庭に出た。本当は、そのまま帰ってしまいたかった。でも三人を残して帰るわけにもいかない。
何分たっただろう、男が庭にやってきた。
「なあ、おれ達も……いいじゃないか」
「あの三人になにをしてるの!?」
「尖るなよ。みんな、あの通りさ」
男が顎をしゃくった先のリビングは明かりが落ちて、二階の三つの部屋が薄明るくなっていた。
「リビングのソファーは、エキストラベッドにもなるんだ」
酒臭い息と共に絡みついてきた手に爪を立ててひっかいた。
「イテテ、なにするんだよ!?」
あたしは、フェンスを乗り越えて道に出た。男が欲望むき出しの荒い呼吸で追いかけてくる。で、海岸沿いの大通りまで飛び出した。
で、あたしは車に跳ねられて、頭を打った。脳内出血だった。
大手術で二か月入院した。瑠璃葉たちは乱暴され、男達は警察に捕まったが、瑠璃葉のお父さんが動いて、学校には知られずに済んだ。
瑠璃葉たちは、心身共に傷ついたが、目に付いた怪我はしていない。ただ、女の子が女になっただけ。時間と共に傷は癒されていった。
あたしは、そうはいかなかった。
秋には一時回復して学校に戻れたが、年末に頭の別の血管が破れて再入院。そして、今に至っている。正月には、もう右手と、首から上しか動かなくなった。そして、今は喋るのがやっと。
「お願い……が……あるの」
みんなの顔が寄ってきた。意識が切れかけているので、お医者さんが注射をしてくれた。僅かな時間だけど喋れるだろう。
「なんだい、結?」
「なんでも言って、ユイ!」
「……あたしのことで自分を責めたりしないでね……そして、みんな幸せになってね、亮介も」
弟は、ケナゲにも歯を食いしばって泣くまいとしている。
「お父さん、お母さん……なにも親孝行できなくて……ごめんなさい」
「結……!」
お母さんが、気丈な声で、あたしの魂を引き留めている。お父さんは、もうグズグズだ。
「あたし、みんなが……幸せに……なるまで……天国に行かないから……」
そこまで喋るのがやっとだった。
一瞬みんなの顔が見えなくなると、明るい光に包まれた……明かりの向こうからきれいな女の人が現れた。
「お疲れ様でした結さん。これからの、貴女のことを説明しにきました」
「あ、あなたは……?」
「そう……大天使ガブリエルとでも思ってちょうだい。人によっては観音さまにも見えるけど。貴女の知識ではガブリエルの方が分かり易い」
「ガブリエルって、受胎告知の……」
「そう、通信や伝達が主な担当」
「あたし、これから、どこへ?」
「天国……と言ってあげたいけど、貴女は誓いをたててしまった」
「誓い……?」
「みんなが、幸せになれるまでは、天国には行かないって……」
「あ、あれは……」
言葉の勢い……とは言えなかった。
「人間死ぬ前はピュアになって、クールな言葉を言いがち。そこらへんは、あたしたちも分かっている。だから、いちいち末期の言葉を証文のようにはしないわ」
「だったら……」
「日が悪かったわね、2000年2月29日。400年に一度のミレニアムの閏年。この日にたてた誓いは絶対なのよ」
「じゃあ……」
「みんなの幸せを見届け……言葉は正確に言いましょう。幸せになる手伝いをしてあげてください」
「死んじゃったのに?」
「その時、その時代に見合った体をレンタルします……あ、貴女って、まだ卒業証書もらってないんだ」
「あ、多分卒業式で名前呼んでもらえると思います」
「そういう演出じゃダメ。実質が伴わないとね……結さん。貴女にはEtenal feemel highschool studentになってもらいます」
「え、エターナル……?」
あたしは舌を噛みそうになった。
「永遠の女子高生っていう意味。せめてカッコヨク言わなきゃ。まあ、魂の修行だと思ってがんばって。わたしも力になりますから!」
そう言うと、ガブリエルは光に溶け込んでしまい、あたしは永遠の女子高生になってしまった。
ああ、Etenal feemel highschool student!
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
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あたしは、悔しくて心配だった。
死の淵に立った人間には、相応しくないほど生々しく強い感情だった。
あたしは、十七歳の若さで死んでいこうとしている。枕許には、両親と弟、そして、親友の三人がいる。
「あと、三日で誕生日だ、がんばれよ、結(ゆい)!」
お父さんが言った。そう、あたしは、三月三日生まれ、まもなく十八になれる。
「明日は卒業式なんだよ。がんばって、四人で卒業しようよ」
久美が言う。そう、明日は我が乃木坂学院の卒業式……せめて卒業証書を手にして死にたい。
「姉ちゃん、来月はプレステ2の発売だよ。いっしょにやるって言ったじゃないか……」
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あたしは、まだ人生で、あんな達成感に満ちた気持ちを味わったことがない。あたしもゲーマーだけど、それを超えて女の子として、あの達成感には羨望だ。
「結。ごめん……ごめん。だから死なないで!」
ありがたいけど、瑠璃葉に言われたくはない。あたしが今、死にかけているのは、瑠璃葉に原因がある。
前の年、夏休みに瑠璃葉の強引な計画と誘いで、湘南に四人で旅行に行った。
発展家の瑠璃葉の計画なので、危ないなあという気持ちはあった。
初日は、湘南の海で、他の海水浴客に混じって遊んでいるだけだったけど、二日目に飛躍した。
「ちょっと、離れたとこで泳いでみようよ!」
瑠璃葉の言葉に乗って、遊泳禁止区域ギリギリのところで泳いでいた。
そこに、あの男達が、カッコよくサーフボードを滑らせてやってきた。ヤバイと思ったけど、案外キチンとした話し方で、サーフボードの初歩を教えてくれたりした。
「どう、今夜ボクのコテージで焼き肉パーティーするんだけど、来ない?」
の誘惑に乗ってしまった。
コテージなどと言うよりは、立派な別荘だった。あたしたちも瑠璃葉の別荘に泊まっている。規模は同じぐらいだったけど、こちらの方が、趣味が良い。その雰囲気にも流されたのかも知れない。
三杯目のドリンクからアルコールが入っていることに気づいた。
あたしは気づかれないように、ソフトドリンクに替えた。だけど瑠璃葉、久美、美鈴の三人は知ってか知らでか、グラスを重ねた。
十一時を回った頃、部屋の照明がFDして、なんだか雰囲気が変わってきた。あたしの肩に男の腕が絡んできた。
「あたし、そういうことはしないの」
冷たく突っぱねて、庭に出た。本当は、そのまま帰ってしまいたかった。でも三人を残して帰るわけにもいかない。
何分たっただろう、男が庭にやってきた。
「なあ、おれ達も……いいじゃないか」
「あの三人になにをしてるの!?」
「尖るなよ。みんな、あの通りさ」
男が顎をしゃくった先のリビングは明かりが落ちて、二階の三つの部屋が薄明るくなっていた。
「リビングのソファーは、エキストラベッドにもなるんだ」
酒臭い息と共に絡みついてきた手に爪を立ててひっかいた。
「イテテ、なにするんだよ!?」
あたしは、フェンスを乗り越えて道に出た。男が欲望むき出しの荒い呼吸で追いかけてくる。で、海岸沿いの大通りまで飛び出した。
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大手術で二か月入院した。瑠璃葉たちは乱暴され、男達は警察に捕まったが、瑠璃葉のお父さんが動いて、学校には知られずに済んだ。
瑠璃葉たちは、心身共に傷ついたが、目に付いた怪我はしていない。ただ、女の子が女になっただけ。時間と共に傷は癒されていった。
あたしは、そうはいかなかった。
秋には一時回復して学校に戻れたが、年末に頭の別の血管が破れて再入院。そして、今に至っている。正月には、もう右手と、首から上しか動かなくなった。そして、今は喋るのがやっと。
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みんなの顔が寄ってきた。意識が切れかけているので、お医者さんが注射をしてくれた。僅かな時間だけど喋れるだろう。
「なんだい、結?」
「なんでも言って、ユイ!」
「……あたしのことで自分を責めたりしないでね……そして、みんな幸せになってね、亮介も」
弟は、ケナゲにも歯を食いしばって泣くまいとしている。
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「結……!」
お母さんが、気丈な声で、あたしの魂を引き留めている。お父さんは、もうグズグズだ。
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「ガブリエルって、受胎告知の……」
「そう、通信や伝達が主な担当」
「あたし、これから、どこへ?」
「天国……と言ってあげたいけど、貴女は誓いをたててしまった」
「誓い……?」
「みんなが、幸せになれるまでは、天国には行かないって……」
「あ、あれは……」
言葉の勢い……とは言えなかった。
「人間死ぬ前はピュアになって、クールな言葉を言いがち。そこらへんは、あたしたちも分かっている。だから、いちいち末期の言葉を証文のようにはしないわ」
「だったら……」
「日が悪かったわね、2000年2月29日。400年に一度のミレニアムの閏年。この日にたてた誓いは絶対なのよ」
「じゃあ……」
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「え、エターナル……?」
あたしは舌を噛みそうになった。
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