逢魔が時・1
『ようこそ逢魔が時に』
……こんなところに横断歩道?
摩子はいぶかしんだ。
小学生のころから学校に通うのには、この二車線の道を渡ってきた、だから間違えようもない。道沿いに建つ家やお店、郵便ポストに自販機、電柱の位置まで頭の中にある。
むろん、この道にある三つの横断歩道を見間違うことはない。
電柱四つ分向こうの横断歩道には信号機が付いていて、赤信号で車が溜まっている。あそこまで歩いていったらタイミングがずれそうだ。
その横断歩道は、街灯に照らされて、とても白く浮き上がって見えた。
――そうか、新しい横断歩道なんだ。きっと学校に居る間にできあがったんだ――
そう納得して、摩子は肩に掛けた通学カバンをゆすりあげ、横断歩道に踏み出した。
黄色いセンターラインを越えたところで、一匹の猫が追い越していった。
この道沿いの野良猫や街猫じゃない……そう思った時、クラっときた。
一歩よろけただけで身を立て直し、横断歩道を渡り切る。
「アレ…………?」
黄昏時だというのに、道路に自分の影が伸びている。街灯は摩子の正面、太陽は、ちょっと前に西の空に沈んでいる。
影は、摩子の脚から離れ、伸びた路側帯の先でムクムクと立ち上がった。
数秒で影は姿かたちがはっきりした。
それは、もう影ではなく、摩子そのものであった。
突然の怪異に、摩子は言葉も出ない。
「とうとうやってきてしまったのね」
影……いや、もう一人の摩子は、黄昏色に微笑んで言った。
「あ、あなたは……?」
「御手洗摩子……あなたといっしょ」
「……どういうこと?」
「ちょっと車道を見て」
うながされて車道を見ると横断歩道が無くなっている。
脇道から、第三の摩子が現れた。学校で嫌なことがあった、そのままの顔で歩いて道の向こう側にやってきて、ろくに道の左右も見ずに渡り始めた。
黄色いセンターラインまで来たところで、北側から走ってきた車が摩子を撥ねた。
ボン、ドサ、グシャ……三つの音が続いた。車は摩子を撥ねたうえ、撥ね飛ばされた摩子を轢いていった。
異様にねじ曲がった摩子の体から血が流れ出て、見る見るうちに道路を赤黒く染めた。
「本当は、ああなっていたの」
「あ……あたしが」
「逢魔が時のこちら側には横断歩道があるの」
車道の摩子の死体が消えてゆき、再び横断歩道が現れた。
「な、なんなの、これは!?」
「ようこそ、逢魔が時の世界に。いろいろ起こるけど、少しづつ慣れていって。ね……」
もう一人の摩子は輪郭を失い、元の影にもどり、その影も横断歩道も数秒で消えてしまい、街は神秘と憂愁の中に沈もっていった。
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