逢魔が時・4
『べとべとさん・2』
あっちの世界と、こっちの世界、ほとんど違いはない。
でも、摩子には分かる。口ではうまく言えないが、分かる。
逢魔が時の横断歩道を渡ると……クラっときて、ひどい立ちくらみのように一瞬なにも見えなくなる。
見えるようになると、違和感……同じ街の逢魔が時、全てが黄昏色から闇に落ちようとしている。
だが微妙に違う……そう、気配がするのだ。
今も気配がしている。
ついさっきまでは、空中分解してしまったクラブのことで頭がいっぱいだった。
横断歩道を渡ったとたん、何者かの気配が闇の向こうから……大げさに言えば、纏わりついてくる。
最初は摩子のソックリだった。
ソックリは、本当なら横断歩道の無い二車線を横断しようとして、摩子が車に撥ねられ轢かれて死んでしまうことを見せてくれた。
三日後は、座敷童だった。摩子の家の座敷童だったようで、励ましてやると、父とともに幸せな家庭を取り戻してくれた。
「今度は誰なの……」
闇に向かってささやいてみたが、気配はそのままで、何も現れてはこない。
数分待った……なけなしの残照はすっかり無くなり、ボンヤリとした街灯だけが町の切れ端をシミのように浮き立たせている。
気配は、摩子の後ろにまわった。電柱一本分の背後……べと、べと、べと、音をさせて摩子に近づいてくる。
摩子は、振り返ることもできず、前に逃げた。
そいつは、摩子のすぐ後ろまで近づくと、歩調を摩子に合わせた。
べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと……。
走って逃げたい衝動に駆られたが、走れば、たちまち追いつかれそうな気がした。気がするだけでなく、追いつかれた時の自分が見えた。
追いつかれると、体中の穴という穴から侵入され、心も体も奪われてしまうような恐怖の予感。
摩子は声も立てず、ひたすら歩いた。
自分の家の前を二度通過した。違う道を歩いているのだけど、どうやらループしているようだ。
べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと……べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと……べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと……。
三度目に家の前を通過したとき、このままでは死ぬと思った。
そして苦しい息の中、考えが浮かんだ。
……道を譲ろう……でも、どうやって……あの気配の名前も分からないのに……。
べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと、べと!
とうとう、それが、すぐ背中までやってきたとき、声が出た。
「べとべとさん、どうぞお先に!」
それだけ叫ぶと、気力が尽き果て、摩子は立ち止まってしまった。
フッツリ……気配は足音と共に消えた。
街の気配が、あっちからこっちにもどった。
『ノラ バーチャルからの旅立ち』ノラ バーチャルからの旅立ち:クララ ハイジを待ちながら:星に願いを:すみれの花さくころの4編入り(税込1080円)
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』 (税込み799円=本体740円+税)
東京から転校してきた坂東はるかが苦難を乗り越えていっぱしの演劇部員になるまでをドラマにしました。店頭では売切れはじめています。ネット通販で少し残っています。タイトルをコピーして検索してください。また、星雲書房に直接注文していただくのが確実かと思います。
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『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説と戯曲集!
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青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351
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