ライトノベルベスト・エタニティー症候群・3
[麗の部活探し]
※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。
あの日から麗は人が変わった。
クラスメートとも気軽に話すようになったし、冗談も言うようになった。
授業中も以前なら先生が間違えたりごまかしたりすると、容赦なく責め立てた。特に社会科の授業で日本の批判をするような教師には「根拠を示してください」とか「現代の道徳観で過去の歴史を見れば、全ての時代が暗黒の時代になります。同時代の他国との比較の上に論じなければ意味がありません」などとやり、誤魔化そうとしようものなら高校生とは思えない知識と論理で徹底的に論破した。
それが、このごろは、そういうことをしなくなった。今日の二時間目などはAKBの『心のプラカード』を口ずさんで叱られ、赤い顔をして俯いたりした。
麗は入学以来クラブに入ったことは無かったが、なんと二年の二学期になって、クラブの見学に行くようになった。
「すみません、見学させてください」
二年の見学などめったにいないのだが、学年でも飛び切りの美人(けして可愛いという範疇ではない)が来るのだから男子部員はホクホクと鼻の下を延ばした。
「あたしもやっていいですか?」
と、剣道部で言った。
「じゃ、防具つけて。美奈穂手伝ってやれ」
と、部長が言い終わったころには、身支度を済ませて竹刀を構え蹲踞していた。
「早いな……じゃ、美奈穂。素振りから胴と面うちを……」
「試合させてください」
「え……じゃ、美奈穂、怪我させないように」
と、四人いる女子部員で、引退前の三年生の美奈穂に指示した。
「じゃ、立花さん、正眼に構え……」
麗は、すでに隙のない正眼に構えていた。
一発で胴を決めた。むろん麗の勝ちである。
しつこく勧誘されたが、剣道部で自分より強い者はいないと見きって、断った。柔道部もチラリと覗いたが、剣道部以上に下手なので、見学もしないで、スルーした。
一応茶道部に入ってみた。ただ月に数回の部活なので、まだまだ余裕である。
「あなたの手って、表千家ね」
と、お茶の先生に言われたのが動機だ。自分がお茶の作法を知っていたのも驚きだったが、なんだか心が落ち着くので、月に何度かお茶をたしなむのもいいかと思ったのだ。
そんなある日、グラウンドと校舎の間の段差に座って意気消沈している二人の女生徒と一人の男子生徒に気づいた。そのうちの一人は剣道部の美奈穂であった。
「どうかしたんですか、美奈穂さん?」
「あ、あなた立花さん!?」
意気消沈しているのは、演劇部だった。正規の部員はたったの二人で、美奈穂はギターの腕を見込まれて、この秋にやる芝居の生演奏で協力していたのである。
「へえ、美奈穂さんて多才なんだ!」
麗は素直に感心した。
「ありがとう、でもね……主役の子が入院しちゃって、本番間に合わないのよ。で、どうしようかって考えてるとこ」
「コンクールの申し込み24日、もう一週間しかない……」
部長らしい女生徒が盛大なため息をついた。
「どんな台本?」
「これ……」
渡された台本は『すみれの花さくころ』とあった。戯曲集から直接コピーされたもので余白が少なく書き込みに不便そうだが、活字そのままなので読みやすかった。
「どの役が入院したのかしら?」
「あ、その咲花かおるって役」
斜め読みだが、麗は五分で読んだ。そして信じられないことを口走った。
「あたしで良けりゃ、やらせてもらえないかしら」
[麗の部活探し]
※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。
あの日から麗は人が変わった。
クラスメートとも気軽に話すようになったし、冗談も言うようになった。
授業中も以前なら先生が間違えたりごまかしたりすると、容赦なく責め立てた。特に社会科の授業で日本の批判をするような教師には「根拠を示してください」とか「現代の道徳観で過去の歴史を見れば、全ての時代が暗黒の時代になります。同時代の他国との比較の上に論じなければ意味がありません」などとやり、誤魔化そうとしようものなら高校生とは思えない知識と論理で徹底的に論破した。
それが、このごろは、そういうことをしなくなった。今日の二時間目などはAKBの『心のプラカード』を口ずさんで叱られ、赤い顔をして俯いたりした。
麗は入学以来クラブに入ったことは無かったが、なんと二年の二学期になって、クラブの見学に行くようになった。
「すみません、見学させてください」
二年の見学などめったにいないのだが、学年でも飛び切りの美人(けして可愛いという範疇ではない)が来るのだから男子部員はホクホクと鼻の下を延ばした。
「あたしもやっていいですか?」
と、剣道部で言った。
「じゃ、防具つけて。美奈穂手伝ってやれ」
と、部長が言い終わったころには、身支度を済ませて竹刀を構え蹲踞していた。
「早いな……じゃ、美奈穂。素振りから胴と面うちを……」
「試合させてください」
「え……じゃ、美奈穂、怪我させないように」
と、四人いる女子部員で、引退前の三年生の美奈穂に指示した。
「じゃ、立花さん、正眼に構え……」
麗は、すでに隙のない正眼に構えていた。
一発で胴を決めた。むろん麗の勝ちである。
しつこく勧誘されたが、剣道部で自分より強い者はいないと見きって、断った。柔道部もチラリと覗いたが、剣道部以上に下手なので、見学もしないで、スルーした。
一応茶道部に入ってみた。ただ月に数回の部活なので、まだまだ余裕である。
「あなたの手って、表千家ね」
と、お茶の先生に言われたのが動機だ。自分がお茶の作法を知っていたのも驚きだったが、なんだか心が落ち着くので、月に何度かお茶をたしなむのもいいかと思ったのだ。
そんなある日、グラウンドと校舎の間の段差に座って意気消沈している二人の女生徒と一人の男子生徒に気づいた。そのうちの一人は剣道部の美奈穂であった。
「どうかしたんですか、美奈穂さん?」
「あ、あなた立花さん!?」
意気消沈しているのは、演劇部だった。正規の部員はたったの二人で、美奈穂はギターの腕を見込まれて、この秋にやる芝居の生演奏で協力していたのである。
「へえ、美奈穂さんて多才なんだ!」
麗は素直に感心した。
「ありがとう、でもね……主役の子が入院しちゃって、本番間に合わないのよ。で、どうしようかって考えてるとこ」
「コンクールの申し込み24日、もう一週間しかない……」
部長らしい女生徒が盛大なため息をついた。
「どんな台本?」
「これ……」
渡された台本は『すみれの花さくころ』とあった。戯曲集から直接コピーされたもので余白が少なく書き込みに不便そうだが、活字そのままなので読みやすかった。
「どの役が入院したのかしら?」
「あ、その咲花かおるって役」
斜め読みだが、麗は五分で読んだ。そして信じられないことを口走った。
「あたしで良けりゃ、やらせてもらえないかしら」