大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6[もうこのへんで……]

2017-07-27 17:11:08 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・6
[もうこのへんで……]



 秋分の日を前に、今年は10月下旬の涼しさになっている。

 それを承知で、神野は特盛のアイスクリームを2つ持ち、一つを麗に渡した。
「立花さんの脳みそと心は原子炉並だ。少し冷やした方がいい」
「そうかもね……」
 二人は、並の人ならアイスクリーム頭痛をおこしながら10分はかかるであろう、新宿GURAMのジャンボアイスを1分余りで食べつくした。
「神野さんも、相当熱い」
「いや、冷たいことに慣れすぎているのかもしれない……」
 東京の都心まで出てきたデートの最後の会話がこれだった。

 麗の人気は、ちょっとしたアイドル並になってしまった。それほど文化祭の成功は大きかった。野外ステージの反響も大きくYouTubeでのアクセスも、スポンサーが付くほどの数になった。また、校長先生と回ったご近所へのお詫びも大変好評で、これはSNSで、みんなが取り上げ、礼節、貞淑などとカビの生えたような賞賛まで飛び交った。麗は世代を超えて地域的な有名人になってしまった。
 で、神野とのデートも、わざわざ県外の東京にまで出てきたのだが、新宿GURAMの前で、テレビ局に掴まってしまった。

 麗自身はブログなどやっていなかったが、学校の生徒が、自分のブログに麗のことを載せ、そのアクセスがはねあがるという状態であった。

 そんな中、演劇部の『すみれの花さくころ』は予選を無事に最優秀で飾ったが、連盟が熱心に情宣をやらないので、会場は、なんとか万席程度で済ませることができた。
 問題は、県の中央大会(本選)であった。会場の県民文化ホールは、キャパが1200あまりしかない。そこに1万人を超える麗のファンが押し寄せた。連盟の実行委員の先生たちは頭を悩ませたが、地元の新聞社が救いの手を差し伸べた。
「本選終了後、私どものホールを提供いたします。2日にわたる無料公演を行いますので、整理券を……」
 そうネットで流した10分後には、ネットでの入場整理券は配布終了となり、その5分後に整理券は法外なプレミアが付いて、最高で1万円の値がついた。

 本番は、麗の学校の一つ前の御手毬高校の上演中から、観客席は麗目当ての一般観客が押し寄せ、御手毬高校は手前の審査員席でさえ台詞が聞こえない状態になった。
「ほんとうにごめんなさい」
 麗は心から御手毬高校に誤ったが、女子高生のツンツンは一度へそが曲がると容易には戻らない。そこには嫉妬の二文字がくっきり浮かんでいた。「感じわる~!」部長の宮里はむくれたが、麗はただ頭を下げるのみであった。

 演奏やダンスは、文化祭後仲良くなった茶道部・ダンス部・軽音楽部が参加してくれて、本編は、ほとんど宮里と麗の二人だった芝居が歌とダンスのシーンになると、まるでAKBの武道館のコンサートのようになり、緩急と迫力のある舞台になった。

 だが、審査結果は意外にも選外であった……。

 一見すごくて安心して観ていられるが、作品に血が通っていない。思考回路、行動原理が高校生のそれではない。それに数と技巧に頼りすぎている。

 観客席は一般客の大ブーイングになった。宮里も山崎も、美奈穂も悔し泣きに泣いたが、麗は氷のように冷静。マイクを借りて、こう言った。
「言語明瞭意味不明な審査ですが、甘んじてお受けいたします。もうS会館で、あたしたちの芝居を待ってくれている人たちが1万人待ってくださっています。それでは会場のみなさん、S会館の前でお待ちのみなさん、40分後に再演いたします。どうぞ、そちらにお移りください」
 そう言って、麗たちが、席を立つと一般客も雪崩を打ったように会場を出てしまい、後の講評と審査はお通夜のようなってしまった。

 麗たちは、都合二日にわたり、4ステージをこなした。ネットでもライブで流された。麗は期せずして、どこのプロダクションにも所属しない日本一のアイドルになってしまった。

「ちょっと風にあたってきます」

 麗は、そう言って楽屋を出でバルコニーに出た。常夜灯がほんのり点いたバルコニーに人影……予想はしていたが神野が立っていた。
「ちょっと、やりすぎてしまったね」
 神野は優しく寂しそうに言った。
「そうね、この一か月で十年分……いえ、それ以上に走っちゃった。楽しかったわ」
「じゃ、少し早いけど、次に行こうか……」
 麗としては全てが理解できたわけではなかったが、麗の中のべつのものが納得していた。
「じゃ、いくよ」
「ええ、いつでも」

 神野が指を鳴らすと、麗の姿はゆっくりと夕闇の中で、その実体を失っていった。宮里が探しに来た時は気の早い木枯らしが吹いているだけだった。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

 エタニティー症候群 完

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5[われ奇襲に成功せり!]

2017-07-27 06:20:15 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト・エタニティー症候群・5
[われ奇襲に成功せり!]



 文化祭は大成功だった。

 麗の学校は、地域との連携を取るために、文化祭の参観は、ほぼ自由だった。
 なんと、たった一日の文化祭に一万人を超える参観者が来た。その半分近くが演劇部茶道部合同のパフォーマンス目当てだった。
 
 YouTubeで流した毎日のメイキング映像が、予想以上に人を集めたのだ。

 本番までのアクセスは一万件に達した。麗は裏方のことにも詳しく、特に照明と音響が命であることを承知していたので、衣装を貸してくれた大学に掛け合い、オペレーターの人員付きで機材を貸してもらった。学生たちは演劇科の舞台技術の学生たちで、いい練習になるということで、セッティングの企画からオペまで任せることを条件にロハでやってもらった。

 前日のリハで、手伝いにきていた演技コースの学生が「面白そうだからMCやらせて!」ということで急きょ、ほとんど専門家と言っていい学生たちが、ディレクターとMCを引き受けてくれることに。
 そして、勢いとは恐ろしいもので、軽音とダンス部が羨ましがり、三つの出し物が一つのイベントのようになった。そのリハの日のメイキング映像は、これも面白がって付いてきた放送学科の学生たちが、本格的なカメラで撮り、本格的に編集してその場でYouTubeにアップロードされ、一晩だけでアクセスが八千件ほどになり、通算二万件のアクセスになり、その半分近くが動員人数になった。
 他の生徒たちは、自分たちの準備に忙しく、YouTubeなど見ている間が無く、これだけ盛況になるとは思ってもみなかった。なんせ、麗は以外は、当の演劇部自身も予想していなかった。

 戦争なら、敵は一番弱いところを全力で叩きにくる。イベントなら新鮮な面白さが感じられるところの人は集まる。麗は戦争と同じだと思っていた。

「あたしたち朝一の出番でいいわよ」
「ええ、麗ちゃん、朝一なんてお客ほとんどいないわよ」
 麗の申し入れにスケジュールの調整に苦労していた生徒会は喜び、宮里部長は不服そうだった。
「大丈夫だって、その代りお客が多くて、アンコールとかかかったら、空いた時間にやらせてくれる?」
「ああ、いいよ」
 生徒会長は、あり得ない話だろうとタカをくくってOKを出した。

 で、結果的には、その麗の予想をさえ超える観客が、朝から集まった。

「申し訳ありません、昼休み前に、もう一度やりますので、それまで他の企画をお楽しみください」
 と、生徒会長は答えざるを得なかった。
「じゃ、それまで模擬店でも回るか」
 と、大半のお客はたこ焼きやら、ウインナーなどの模擬店回りをやった。そのために食材が無くなり、模擬店はどこも昼前には店じまいの状態。喜んだのは学校周辺のお店だった。コンビニやファミレス、蕎麦屋などにお客が流れ始め、地域経済の振興にも一役買った。
 そして、噂は噂を呼び、昼前の第二回公演では、立ち見も含めて900人、それでもあぶれる人たちが出た。

 餅屋は餅屋という言葉がある。

「いっそ、野外でやろう!」
 大学生が張りきった。昼休みのうちに、校舎とグラウンドの間の段差をステージにしてしまい、あっという間に照明とPAの機材のセッティングを終えた。お客は、そのセッティングさえ珍しく、かつ面白いので、20分押した準備も気にはならなかった。
 観客はグラウンドの半分を占め、軽音・ダンス部・演劇部茶道部の合同チームは、MCの進行も良く。
「どう、いっそみんな一緒にやっちゃわない!」
 その提案に観客も大喜び。『会いたかった』『ヘビロテ』『フォーチュンクッキー』そして『お別れだけどさよならじゃない』は、最後は観客も交わり、大盛況のライブイベントになってしまった。

「奇襲大成功ってとこかな」

 麗は、そう呟いたが誰もきづかなかった。ただ急きょグランドでやったので、その騒音は近隣に鳴り響いたので、終了後、すぐにご近所にお詫びの戸別訪問をしなくちゃ。そう思った麗は道連れになる校長先生のバーコードが憐れに思えてくるのだった……。


※ エタニティー症候群:肉体は滅んでも、ごくまれに脳神経活動だけが残り、様々な姿に実体化して生き続けること。その実体は超常的な力を持つが、歳をとることができないため、おおよそ十年で全ての人間関係を捨て別人として生きていかなければならない。この症候群の歳古びた者を、人は時に「神」と呼ぶ。

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