大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)031・マシュー・オーエン

2024-05-15 06:54:17 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
031・マシュー・オーエン                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改名改稿したものです






 車いすの少女が寂しそうに部室棟を見つめている。

 震度5強の地震で倒壊の危険があるといっても、いきなりの立ち入り禁止はないだろうと思った。


 気づくと、ミリーはスマホを出して構えている。


 本当は断ってから写さないといけないのだろうが、そうすれば、少女の自然な寂しさが出ないとも思った。

 ま、撮ってから声を掛ければいいや。

 そう思ってシャッターを切ろうとすると、風がブロンドの髪をそよがせ、顔に掛かってしまって手許が狂った。

 パシャ

 車いすのステップに載った足だけが写り、画面の大半はトラロープで封鎖された部室棟だ。


――ああぁ……うん、ええ写真になった!――


 少女に声を掛けようとしたら、再び髪がそよいだ、今度は目と口にまとわりつく。

「もー、ペッペッペ!」

 髪を整え直した時には少女の姿は無かった。


――ま、足だけしか写ってないし……――


 写真はサイズを変えただけでSNSに投稿した。

 別に、これで世論を喚起しようなどと大それたことは考えていなかった。

――あの校舎を壊すっていうの!?――

――かわいそう!――

――あの足だけ写っている少女は!?――

 いろんなコメントが、主に母国アメリカから寄せられた。
 
 決め手は、伯父からの電話だった。

――あれはひいお祖父さんが日本で建てた記念碑的建築物だよ!――


 伯父は、その後に日本到着の日時と便名をメールで寄越してきた。


「もー、おっちゃんらは気ぜわしすぎ!」

 関空のゲートに現れた伯父夫婦に口を膨らませた。

「よう、元気そうじゃないか!」

「二年ぶりね、すっかり大人びちゃって!」

「おばちゃん、うち汗かいてるよって」

 ハグしてきた伯母に気を遣う。

「ハハ、なるほど、その髪はヒヤシチュウカを連想させるなあ!」

 啓介に言われて、最初はむかついたが、自分でも冷やし中華のファンになると、面白いのでSNSに載せていたのである。

「ひいお祖父ちゃんは、ここのところ見直されてきてね、円熟期の作品はいくつも残っているんだが、若いころの作品はアメリカにも残ってないんだよ。本物だったら大発見だ」

「車いすの少女もいいわね、彼女の細い足が、気持ちを十二分に現している。あの子がやっと見つけた居場所を奪っちゃいけないわ」


 ミリーからすればひいひいお祖父さんにあたるマシュー・オーエンは近年注目され出した建築家だ。


 ミリーはすっかり忘れていたが、自身建築家である伯父は、ミリーの投稿を見て矢も楯もたまらずに日本にやって来たのだ。

「今日は学校休みやから、明後日でも見に行く?」

 電車に乗ったころには、具体的な視察の話になっていた。

「大使館を通じて話はつけてあるよ、この足で見に行くよ」

「案内頼むわね」

「あ、あたし制服着てないし」

 休日でも生徒の登校は制服と生徒手帳に書いてある。ミリーは、こういうところは日本人の生徒よりも律儀なのだ。

「急な話なんだから、私服でもいいんじゃないか?」

「あら、わたしはミリーの制服姿見てみたいわ!」


 ミリーは下宿先に戻って着替えることになった……。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 鳴かぬなら 信長転生記 1... | トップ | 銀河太平記・221『溶接マ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説7」カテゴリの最新記事