大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・034『アルルカンがやってきた』

2021-03-08 09:36:06 | 小説4

・034

『アルルカンがやってきた』ダッシュ   

 

 

 くそ、みんな集まって来やがった。

 

 ブリッジに集まると、船長が意外なことを言う。

「え、船長が非常呼集を……」

「後ろを見てみろ」

 え?

 振り返って驚いた。

 中デッキから上がってきたタラップの後ろに変な奴が立っている。

 タラップはブリッジの中央にあるので、俺たちは前の船長と後ろの変な奴に挟まれた格好になった。

「すまんな、わたしが船長の声で非常呼集をかけたんだ」

 そいつは、一見して女海賊だった。

 黒の上下に黒皮のブーツ、その要所要所には赤のアクセントがあって、とってもオシャレなんだけど、キングサイズのベッド用のシーツくらいの大きさのマントは、このジャングルジムみたいなファルコンZの中では動きにくいだろうというのが第一印象。

「心配してくれてありがとうよ、火星の坊や。ホログラムなんでな、そういうことは気に掛けなくていいんだよ」

 そいつは、俺たち乗客の真ん中を通って船長と並ぶ。

 キャ!

 避け損ねた未来が悲鳴を上げる。ホログラムと分かっていても、自分の体をすり抜けられるのは気持ちが悪いだろ。

 たしかに、そいつの姿はポリゴン抜けするように人やデッパリに被っても平気で歩いているぜ。

「こいつなは……」

「太陽系一番の賞金首、宇宙海賊のアルルカンだ」

 アルルカン!?

 そう名乗ると、そいつの髪とマントがきれいに翻る。ホログラムなんで、どんなエフェクトでもかけられるんだろう、なんともカッコいいんだけど、風下に立った船長がマントで見えなくなる。

「カッコつけるのはいいが、俺の船だ、俺の姿は隠さないでほしいな」

「これは失礼、では、マントだけは取るとしよう」

 パチン

 あ……!?

 アルルカンが指を鳴らすと、アルルカンは黒の下着姿になってしまった。

「あ……(#^_^#)」

 再び指を鳴らすと、ゴスロリ衣装になる。

「これじゃない……」

 パチン

 もう一度指を鳴らすとメイド服、次にセーラー服、戦隊ヒーロー、姫騎士と替わって、十回を超えたところでマントを外した女海賊のコスになった。

「ホログラムを更新したばかりなんで失敗した。今のは見なかったことにしてくれ」

「コスプレはいいから、さっさと用件を言え」

「森ノ宮親王殿下には、わたしの船にお移り願う」

「え、あなたの船にですか?」

「そうだ、こんなボロ船で火星にお迎えしては申し訳ないからな」

「要は、殿下をかっさらって身代金を要求するんだろうが」

「そういう下衆の勘ぐりをするから、いつまでも、こんなボロ船の船長なんじゃないか」

「うるさい」

「殿下が、わがアジトのカサギを目指しておられるのはとうに承知している」

「お申し越しは嬉しいのですが、わたしは、この身をマーク船長にお預けしたのです。アルルカンさんには火星でお目にかかりたいと思います」

「マークごときにも義理をおたてになるのには敬服するが、この先、天狗党の船が待ち構えている。やつらは、殿下を船ごと抹殺するするつもりだ。学園艦の最後もご覧になっただろう」

「親王ではありますが、この船に乗っている限りは船長の指示に従いたいと思います」

「ならば、この船ごと拿捕する」

「できるものならやってみろ」

「わたしに勝てると思っているのか、マーク?」

「俺も、昔のマークじゃない。コスプレ海賊の言うがままにはならねえぞ」

「昔のよしみで筋は通してやろうと思ったんだが。仕方がない、あの船で牽引することにする」

 アルルカンが指差すと、十キロほど先に赤い海賊船が現れた。

「我が艦隊の旗艦ヒンメルだ。ヒンメル、このボロ船を牽引しろ!」

 ヒンメルの艦尾に光が見えた。牽引ビームを作動させたんだ。

 一瞬、ガクンと衝撃があって、すぐにプスンという感じで船の束縛が解ける。

「どうした、牽引ビームが不発だぞ!」

 再び牽引ビーム……今度は衝撃すらやってこない。

『船長、牽引ビームがキャンセルされます』

「そんなバカな!?」

「すまんな、ファルコンZは。なんせボロ船、お前が乗っていたころとはスペックが丸で違うんだ」

「そうか、いっそうバカのレベルがあがったわけか……ヒンメル、ホログラム回収!」

『ラジャー』

 アルルカンは瞬間ボケたかと思うと、再びコスが目まぐるしく変化、そして一瞬スッポンポンになったかと思うと、おびただしいコスを残して消えてしまい、そのコスも数秒の後にポリゴンに分解して消えてしまった。

「コスモス、なんかやったか?」

「ちょっとエンジンが不調なのでチェックしに行っただけです、ほんとうですよ、船長」

「ま、そういうことにしておこう」

「天狗党の待ち伏せは本当らしいです、警戒しましょう」

 バルスが進言して、ファルコンZはマックスの対空警戒を維持したまま進んで行った。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ    扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ

 

 


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